第35話:開戦のホイッスル
「随分とゆっくりとした到着だな。おやつの値段を決めながら、遠足感覚で来たのか?」
「それはお前だろうが。遠足じゃないんだから、おやつや持ち物を僕に聞かないでくれよ」
周囲を田んぼに囲まれた高層ビルから少し離れた場所に、多理体・雨間里・籾時板の三人の少年が立っていた。
「……こちらは私が自ら来たというのに、『豊乳派』の基地局長は来ないのだな?」
鬼頭が不機嫌そうに口を開く。
「局長は自ら手を汚すのが、あまり好きではないようでな。あ、そうそう。「鉄破ちゃんがデートしてくれないなら、俺は行かないよ」っていう伝言をもらっているぜい?痴情の縺れってやつかい?」
「……あの野郎、やっぱり引きずり出して鉄拳制裁しないといけないようだな」
事情を知ってか知らずか、にやにやと笑いながら話す籾時板に若干苛立ったような様子を見せる。
「さぁてと!わちゃわちゃ井戸端会議をしに来たわけじゃねぇだろ?もっと大宴会で派手にやりにいこーぜ!!」
「どうする雨間里?やっぱり正面突破か?」
「綿密に裏経路やら何やらを調べたんですけどね、この馬鹿が、「そんなのつまらん!」とか言って紙屑にしてしまったので、誠に遺憾なことに正面からの強行突破作戦となりました」
疲弊の色を浮かべた声音を出しながら、『貧乳派』の三人へと振り向く。
「まず、確実に決着をつけるために、棟倉君には否が応でも『キメ〇ク派』のボスがいる場所まで辿り着いてもらいます。そのための布石を組まなければなりません」
「具体的にどうすればいいんだ?」
「君を守るための面子で固めればいいだけのことです。『貧乳派』は防御に特化した能力を持っているので、そこの女性二人がそのまま護衛に回れば問題ないでしょう。後は、『貧乳派』の三人に+αで、棟倉君と仲のいい籾時板君が付随する。そうすれば、棟倉君を疑似的な攻めとするならば攻め2・護衛2で、比較的バランスのいいパーティになるでしょう」
「それじゃあ、お前ら二人は、どうするんだよ」
「心配要りません」
両手に嵌めた軍手の調子を整えながら、雨間里は口を開く。
「僕らは、この高層ビルの中を走り回って敵襲の気を引き付ける、いわば遊撃隊の役割をします。僕たちに対処しようと混乱している間に、さっさと主将の首を取って来てください」
「と、なると、二人と四人に別れるってことだな?分かったぜい」
「なー。小難しい話はやめようぜ!身体がむずむずしてらぁ!!」
だむ。
だむ!
ダンッ!!
バスケットボールをつく音に、力が加わっていく。
「試合開始のホイッスルは、あの高級そうなガラス扉をぶっ壊す音でいいか?!」
『貧乳派』と『豊乳派』。
互いが互いを永遠に理解することがない二つの勢力が、『復讐』という鎹によって繋ぎ合わされる。
☆★☆★☆
「なぁ雨間里。どれくらい派手に暴れていいんだ?」
「建物を潰さない程度ですね。これだけの規模のオフィスビルを倒壊させたとなると、僕たち全員瓦礫に埋もれて死んでしまいます」
「ちぇっ。それじゃあ、肩慣らし程度にしかならないじゃねぇか」
オフィスビル内のロビーは広く造られていたが、誰よりも大きい胸を好む彼らには関係のないことだ。水が流れる精緻な噴水やモニュメントは、室内を縦横無尽に跳ねて転がる巨大バスケットボールに粉々に粉砕され、まるで、車が突っ込んだかのように雑然としていた。
「構うな!撃ち殺せ!!」
ぎりぎりのところでボールを躱し、不安定な体制ながらも拳銃を構える男たちが発砲するが、
「何か、僕の能力って『貧乳派』っぽくない?」
少年がスコップを突き立てたことにより突如床が盛り上がった。山のようになった遮蔽物に当たった弾は跳弾し、隣に並ぶ味方や床・天井に無差別に散弾する。
「……これで全部か?僕たち陽動作戦担当なのに、雑魚共は粗方片付けちゃいましたね?」
「ふんっ。張り合いがない奴らだな!それにしても、どうして能力を持っていない奴らばっかなんだ?」
「決まっているだろう?なるべく戦力を減らさないように、敢えて能力者を出動させていないのさ」
柱の陰から男の声がした。二人の視線がビルの中央を貫く柱に集まる。
「お互い被害は最小限の方がいいだろう?」
ゆっくりと、まるで舞台に上がるかのように、鷹揚とした足取りで男が姿を現す。
外見年齢からすると40代くらいだろうか。白衣に黒のズボンという医者のような出で立ちをしているが、聴診器などの医療器具の類は見受けられない。この場で出現することから考えると、医者というよりも、薬剤師と言った方が近いのかもしれない。
「誰だ?このおっさん?」
「『キメ〇ク派』日本代表・薬籠密、ですね?」
「ご名答。さすが、最大派閥の情報収集力は、素晴らしいものだね」
ぱちぱちと、歌劇を賞賛するように手を叩く。
「やはり、鉛玉如きで君たちは殺せないか、と、思ってね。この僕が直々に君たちを殺しに来たわけだ」
「こそこそ隠れて様子を窺っていた、の間違いではないですか?」
「君、いい子そうに見えて、なかなか無遠慮に物を言うね。戦場はいい子から死んでいく、なんていうけど、君は長生きできそうだ」
「褒めてくださるんですね。ありがとうございます」
「おいおいおいおい!!間怠っこいぞおい!!」
だんっ!!とバスケット競技のユニフォームを着た少年が一際強くボールをつくと、大理石でできた床に穴を穿つ。
「要は、てめぇをブチのめせばいいんだろ?どっちかが勝ってどっちかが負ける。スポーツみたいにはっきりさせようぜ!!」
「そうだな。僕だって、こんな所で君たちとのトークに花を咲かせる気は毛頭ないさ」
男は構えると、
「こんなに若い命を摘み取らなければならないのは口惜しいが、これも組織のためだ。君たちにはご退場願おうか」
冷酷に言い放った。
月刊誌で少女漫画などを連載している漫画家さんは、今の季節よりも何か月も先の分まで作品を描かなければいけないため、季節は冬なのに、漫画の中では夏や秋になっていて、季節感覚が狂いそうになる、という話を聞いたことがあります。
藤井も、本作品を書き始めたのが7月頃で、作中の季節設定を5月にしたのですが、結果作品を発表したのが12~1月。作中とは思いっ切り季節が逆転し、何処かちぐはぐな印象を読者に与えてしまったような気がします。
漫画家さんたちの季節逆転現象が、骨身に染みて分かった気がします。
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