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第25話:『豊乳派』の諜報員

 宵闇が訪れた空の下、純多(じゅんた)は帰路に着く。


『貧乳派』としての活動を行うのは、いつも放課後や会社員の勤務時間が終わった時刻なので、必然的に家に帰る時間も遅くなる。と、言っても、市の条例により、未成年者は22時以降は外を出歩いてはいけないため、22時までには帰ることが出来るのだが。


 小さい子供がいるのか、一軒家の二階部分に明かりを灯す家が道沿いに多くなってきたところで、


「よぉ、純多。随分と遅い帰りじゃねぇかい?」


 街灯に照らされて仄明るくなった道路に、一人の男が立っているのを発見する。


勇気(ゆうき)か。お前こそ、どうしてこんなところにいるんだ?」

「いやぁ、最近は純多が一緒に帰ってくれなくなったから、どうしてなのか理由を聞こうと思ってな」

「ま、まぁ、いろいろあってな」


『貧乳派』としての活動内容を話すわけにはいかないため、お茶を濁す。


「どうしたってんだ?女でもできて、会いに行ってんのか?」

「あ、いや、その……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「っ!!」


 違う。


 ここにいるのは幼馴染みの籾時板(もみしだいた)勇気だが、バカなことばかりを言っている『あの』籾時板勇気ではない。


 一部の人間しか知り得ない情報が、想像もしていなかった人間の口から発せられたことで、一気に緊張感が増す。


「……話がある。少し来てもらおうか」

「……断ったらどうなるんだ?」


 籾時板が無言のまま目線を向ける。

 直後、純多の顔を何かが掠めていくのと同時に、ミシミシミシッ!!という音と共に背後の街灯の一つが「く」の字に折れ曲がり、派手な音を立てながら道路に横たわる。


「幼馴染みだからって容赦はしない。拒否権はないと思ってもらおうか」

「……分かったよ」


 家とは違う方向の道に肩を並べて歩き始める。



☆★☆★☆



 純多の家から私立地武差(ちぶさ)高校までは片道2kmくらいの道のりだ。

 その丁度中間にあたる、家から半径1kmくらい離れた場所、通学路から離れた場所にある人気のない公園のベンチに、二人で並んで腰を降ろす。


「単刀直入に聞くぜい。おっぱい饅頭に媚薬を仕込んだのは、お前ら『貧乳派』の仕業か?」


 媚薬。

 そして、その件で『貧乳派』に恨みを持つ組織。


 どうやら、籾時板は『豊乳派』の構成員のようだ。


「鬼頭さん、――支部長も心当たりがないって言っていたから、少なくとも俺たちの支部じゃねぇよ。……末端が勝手にやっているんだったら、さすがに知らんけどな」

「そうか」

「俺からも質問していいか?」


 何も言葉を発しないということは、肯定と取ってもいいだろう。話を続ける。


「昨日、俺たちの仲間が食べたおっぱい饅頭にも、媚薬が仕込まれていたんだ。俺たちを疑っておいて、結局は『豊乳派』の仕業でした、なんて展開はないだろうな?」

「なんだと……?」


 驚きを隠せない表情で、隣の純多を見つめる。


「それは本当なのか?!」

「俺の同期の田打(たうち)円広(まひろ)って娘が、その媚薬入りおっぱい饅頭を食べて被害に遭ったんだよ」

「報復に出るような輩もいるかもしれんが、オレたち『豊乳派』は、がさつな男ばかりでな。そんな器用なことができるやつ、いる気がしないぜい」

「お前の表情を見れば分かるよ。心当たりはないんだな?」

「あぁ」


 公園に灯る明かりには蛾やカナブンのような虫が集まり、不気味な羽音を立てながら飛び回る。


「つまり、『貧乳派』も『豊乳派』も、同じように媚薬が盛られてた、ってわけか。どちらも互いのことを認識していないってことは、第三者による可能性が濃厚、か」

「そういえば、田打が食ったおっぱい饅頭は、越谷屋で売られているものだったみたいだぞ。だったら、越谷屋(こしたにや)に行けば分かるんじゃないか」

「それには気づいていたから、オレたち()何個かおっぱい饅頭を購入させて、調べているところだぜい。店に行って、「媚薬が入っているかもしれないので、持ち帰って調べてもいいでしょうか」なんて言えないし、言ったところで、営業妨害とおっぱい饅頭の疑似的な独占になっちまうからな」

「でも、媚薬が入れられるなら、店で作っている時しかないだろ?」

「に、しては、オレたち『豊乳派』と『貧乳派』に、おっぱい饅頭が上手く行き渡り過ぎじゃないか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言い掛けて、籾時板は息を吸い込む。


「……いるじゃねぇかい。オレたちに選択的におっぱい饅頭を配っていた人物が」


 言われて、純多も同時に気づく。


 越谷屋のおっぱい饅頭を常に所持していて。

 その越谷屋のおっぱい饅頭を他人に配っていて。

 媚薬を混入させる時間的余裕と知識を持つ人物が。


 それは――、


「「()()()()()()()()()」」


 セイファス薬品の社長の娘・ポリンだった。

 2年後の4月。父親が定年を迎えます。


 と、いうことで、家庭の収入が社会人歴5年くらいの兄しかなくなるため、家族を養うために藤井も働かねばならなくなります。

 つまり、作家の卵として活動できる期間が、あと一年半くらいとなりました。


 まだ一年半ある、か。

 もう一年半しかない、か。


 甲斐性なしの藤井は後者です。いよいよ時間がなくなってまいりました。


 絶望の淵に落ちそうな藤井を助けたい人は是非、感想・評価・応援・投げ銭を!!

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