第1話:分化された世界
「なぁ純多」
「ん?」
「もし、何でも願いが叶うアイテムがあるとしたら、お前は何を願いたい?」
「どうした藪から棒に?7個集めると願いが叶う珠でも発見したのか?」
季節は5月。
肌に当たればひんやりとする風が流れるが、陽光を遮る物がない学校の屋上は暑い。
鉄板のような熱さを持つ屋上の床の上、学校の購買で購入した焼きそばパンを食べ終わってぼんやりと空を眺めながら、小学校時代からの旧友・籾時板勇気が話し掛けてくる。
「そういうわけじゃないけどさ、いやぁ、オレだったらこう、Zカップの胸に埋もれて死んでみたいなぁ……。って、あ、勿論、そのたわわなおっぱいを両手で揉めるなら、それに越したことはないぜい!!」
「ぜっ!Zカップ?!」
IカップやJカップまでなら聞いたことがあったが、まさか、それほどまでのサイズがあるとは……。自分の知らない世界に驚愕し、思わず身を起こす棟倉純多。
「そうか……。純多は昔から小さい胸が好きだったから、知らなくても無理ないな!天然のものではなく、生理食塩水とかを入れた豊胸手術によるものらしいんだけど、大きさはバランスボールくらいになるらしいぜい!!」
「心臓とか肩への圧迫が凄そうだな……。で、願いが叶うんだったら、そのバランスボールに挟まれて死にたい、と」
「おっと、胸の話じゃなくて、願い事の話をしているんだったな!あぁ、そういうことだ!!」
まだ話し足りなさそうな雰囲気だったが、このまま放っておくと、昼休憩の終了を告げる予鈴まで話しそうだ。純多は強引に話の舵を切る。
「……俺だったら、まずは願い事の数を増やすかな」
「「願い事を増やす」とか、「誰かを殺したい」っていうのはナシだぜい。こうゆうのは大抵、お伽話やファンタジーの世界では禁止されているしな」
「それじゃあ……」
ゆっくりと立ち上がって歩くと、純多は欄干に体重を預けながら、屋上からの眺望を眺める。
「あの不毛な戦いを終わらせたいなぁ……」
腹の底から全身を揺さぶるような地響きに反応して、籾時板も慌てて起き上がると隣に並ぶ。
市街地のど真ん中であるというにも関わらず、巨人が出現していた。巨人は腕を振り回してマンションや鉄塔を薙ぎ倒し、構うことなく民家を踏み倒す。
純多たちがいる地武差市立高校から離れた場所で跋扈しているにも関わらず、その目線の高さは、屋上に立つ純多と同じくらいだ。こちらに背中を向けているから良かったものの、目が合っていたら、立ち竦んで動けなくなっていたかもしれない。
恐る恐る巨人を検める。
服装や体格から察するに女性なようだ。しかし、その周囲を羽虫のように何かが高速で飛び回っており、巨人は動く物体に翻弄されているように見える。
特筆すべきことがもう一つ。
『迎撃目標ヲ排除シマス』
がしょがしょんっ!!
無機質な音声とともに指の形を変形させ、マシンガンのようなものを指先から放ちながら飛行する少女の姿を何とか捉える。
姿は判然としないが、先ほどから幽かに聴こえてくる機械音声通りの性別であるのなら、恐らく女性だろう。背中からジェットを噴出しながら大空を自由に飛び回り、巨人と戦っている。
「巨大娘とロボ娘。『どちらでもない派』同士の戦いか……。こんな所で白昼堂々と戦うなっての」
「??」
籾時板が何か呟いたようだが、屋上に備え付けられたメガホンから流された避難勧告によって掻き消された。
☆★☆★☆
「ぶっちゃけ、性欲を満たせるのであれば、胸の大きさなんてどうでもいい」
平成37年、日本。
国会演説中に現職の内閣総理大臣が口にした、この一言が火種となり、世界は性癖によって『貧乳派』・『豊乳派』・『どちらでもない派』の三つの勢力に分断された。
この発言から三年の月日が経過した平成40年の現在でも、今もなお戦乱は収束する気配を見せず、今日も各々が自らの性癖を振り翳し、相容れぬ性癖を持つ者たちを駆逐・淘汰している――。
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