第13話:ケモ度
「もうちょっと丁寧に扱ってくれないかしらん?みうはもう猫じゃないんだにゃん♡」
後ろ手に縄で縛られたまま製鉄所の床に座らされた黒猫の女性を、鬼頭・冴藤・田打・純多の四人で見張る。ちなみに、上半身は鬼頭が持ち合わせていた体操服を着せられている。
「さて、どうしてくれようか」
「どうしようも何も、みうは俎上の魚だにゃん。もう能力が使えないんだから、逃げることだってできないんだし」
頬を膨らませながら不満そうに口を開く。
「結局のところ、襲った理由は縄張りを荒らされたから、ということなんだろ?組織の意向でやったわけでもないんだし、俺たちにも責任があるってことですよね。だったら、組織に帰してあげればいいんじゃないんですか?」
さすがに、一切抵抗のできない人間を一方的に痛めつけるのは可哀そうだ。
純多が恩赦を提案するも、
「いや、それはできないね」
冴藤は首を横に振る。
「な、何ででしょうか……?」
仲間が傷つけられたことに対する復讐を、何としてでも敢行したいと言うのか。
恐る恐る田打が尋ねると、
「彼女が殺されてしまうからだ」
鬼頭は、こう答えた。
「異能力が使えなくなるということは、それ即ち、性欲・性癖を捨てたも同じ。仲間の所に戻ったって、みうは仲間に殺されちゃうんだにゃん」
茶化したような口調だが、言葉の端々から絶望感が滲み出ている。
「そういえば、君――」
「触爪美宇だにゃん」
「触爪さんは、何処に属しているんですか?」
「『どちらでもない派』・動物擬態性愛勢力に属しているにゃん。ま、馬が合わなかったから、組織から抜け出してみう独りで気ままに動いていたから、「一応」と付け加えて置いた方が正しいかもしれないけど」
「ケモナー勢力との関係はあるのか?」
「あなたって犬派でしょ?宿敵には教えないにゃん」
鬼頭の机の上に置かれている犬の置物を一瞥すると、ぷいっと顔を背ける触爪。どうやら、犬派である鬼頭のことが嫌いらしい。
「……お前の頭にあるすかすかの脳味噌を、私のスコップで掘り起こしてもいいんだぞ?」
今にもスコップで殴り掛かろうとする鬼頭を、手の空いている構成員たちが必死に宥めようとする。
「でも、そこの新人二人は将来有望そうだから教えてあげようかしらん。……これは、二人に対して言っているのであって、決してあんたに話しているわけじゃないにゃん♡」
んべー。と舌を出すと、純多と田打に目線を向ける
「みうたち動物フェチは、『動物を性的対象として見ている』という部分で根底は同じなのだけど、それぞれ、対象とするものが違うんだにゃん。動物擬態性愛は『動物の耳・尻尾などを生やした人間』・ケモナーは『人間に近い体型をしていて、言葉を話すことができる動物』。そして、動物性愛は、動物そのものを性的対象としているのよ。みうたちは、人間をベースにして、どれくらい獣に近くなっているのか、という段階を『ケモ度』って呼んでたりするけど、それは覚えていようがいなかろうがどっちでもいいにゃん」
例えば、メカ娘とロボ娘がある。
メカ娘が『機械を装着した女性』を性的対象とするのに対し、ロボ娘は『機械でできた女性』を性的対象とする。
それと同様に、性的対象のケモ度の高さによって、主として動物擬態性愛・ケモナー・動物性愛の三つに分化する。
決定的な違いとして、動物擬態性愛が動物の一部を有する人間、ケモナーが二足歩行で歩く・人語を話すなど人間のように動く動物を性的対象にするのに対し、動物性愛は『獣と性交すること』を性的対象とする。つまり、動物擬態性愛は、動物を性的対象としているわけではないのだ。|(※個人差あり)
ちなみに、これらの動物に対して性的嗜好を持つ者たちを一括りに『ケモナー』と呼ぶことがあるが、厳密な区分としては、『人間に近い体型をしていて、言葉を話すことができる動物』が好きな人間を指す言葉であり、実物の動物を愛好する者や、動物のパーツを付けたアニメキャラクター・コスプレイヤーなどに好感を抱いている者は『ケモナー』とは呼ばない。
「だから、みうたち動物擬態性愛のことを、ケモナーや動物性愛と一緒芥にしないことね。何処かで痛い目みるにゃん♡」
猫のように気ままな性格は元からなのか、触爪はウインクした。
☆★☆★☆
「話がずれた気がするから、少し内容を整理するぞ」
きゅっ、きゅっ。
鬼頭がホワイトボードの上に黒いマジックペンを走らせる。
「一つは、触爪が失踪したことを不審に思い、動物擬態性愛の連中が攻め込んでくる可能性があること。もう一つは、触爪の処分についてだ」
縄で縛られたまま椅子に座らされた触爪も一緒に参加する。
「まずはこちらについて解決しようか。触爪よ。君を探しに動物擬態性愛勢力の奴らが来る可能性はあると思うか?」
「犬派の女には絶対に言わないにゃん」
「ネ……、ネコカワイイナァ……」
「そんな引き攣った顔で言われても説得力ないにゃん?!気持ち悪い顔しないで欲しいわ?!」
溜め息を吐くと口を開く。
「結論から言うと、可能性は低いわね。みうは動物擬態性愛の組織そのものとは気が合わなくて、気ままに行動していたわけだし」
「だけど、扱いとしては失踪になっているわけですよね。だったら、触爪さんがいなくなったことで、殺されたと思って報復を考えるような人間はいるのではないでしょうか?」
「いないわよそんな奴。みうは、こっちに一人で来て、独りで生活しているにゃん♡」
「あの、少しいいでしょうか?」
静観していた純多が手を挙げる。
「独り暮らしをしているし、動物擬態性愛との関係性はない。……なら、家に帰しても仲間に命を狙われることはないんじゃないでしょうか?」
「優しいのね『『貧乳派』の救世主』さん。みうがいいことしてあげたいにゃん♡」
舌なめずりをしながら色っぽく目を細める。
「正直な話をすると、みうだって恨みを買うようなことを一つや二つはやってきたから、そいつらに家の前で待ち伏せされている可能性は、十二分にあるんだにゃん」
「と、なると、自宅に戻すのも危ないわけですか……。ちなみに、職業は何をしているんでしょうか?」
「職業?みうは働いてないにゃん」
「じゃあ……」
「拙者たちと同じでござるか?」
抱き枕と戯れていた初老の男性と、壁に張られたジュニアアイドルのポスターに、一体化しそうなほど顔を近づけていた中年太りの男性が、期待の眼差しを向けるが、
「みうは大学生だからね。ホームレスでもニートでもないんだよん♡」
その一言を聞いて、初老の男性と中年太りの男性が胸に何かを突き刺されたかのように顔を歪める。
そして、
「大学生……?」
ここにも苦い顔をする男が一人。
現役大学生・冴藤良也が苦い者を舐めたような顔をする。
SUPER BEAVERという音楽グループが歌っている曲に、「らしさ」というタイトルの曲があるんですが、その歌詞のワンフレーズである、「僕らは変わっていく 守りたいものが変わっていく 理解されない宝物から 理解されるための建前へ」という言葉が、いつも胸に刺さります。
藤井自身は、自分が持っている独特の世界観を形にして、皆さんに伝えたい、皆さんと共感したい、という思いを持って執筆しているのですが、なかなか思うように人気が出ないことを考えると、どうやら、そういうわけにもいかなくなってきたようです。
皆さんが大事にしているものは、「理解されない宝物」ですか?
それとも、「理解されるための建前」ですか?
藤井が持つ「理解されない宝物」に共感してくれる人は是非、感想・評価・応援・投げ銭を!!




