プロローグ
ー信じられないー
ミナミ・ハーネスは、もう立ち上がることさえ困難な体を懸命に起こしながら、そう思った。
目の前の光景が信じられず、彼女は自分の手が、土と血で汚れているのも忘れて、目を擦った。だが、彼女の視線の先には、先程と変わらないが映っていた。
白髪の少年が、右手に剣を握りしめ、その奥には、巨大な鉄巨人が腹部にぽっかりと穴が空いた状態で、森の木々に埋もて倒れていた。
少年は、自分みたいに、冒険者でもなく、騎士でもなく、魔導士でもなく、魔物でも、「天使」でもない。
ただの人間だった。そのはずだった。
ーありえないー
ただの少年が、5メートルはあるであろう巨大な鉄巨人を、一撃で倒したこともそうだが、ミナミが信じられなかったのは、彼の頭上にある、幾何学的な円のことだった。
一見歯車なように見えるそれは、昔、歴史書で見た、『天使の輪』のような、不気味な輝きを放っていた。
その光から目を離さないでいると、急に、ぐらりと揺れる感覚がした後、唐突に目線が下がり、気がつくと
体が地面に伏して、土を両手で掴んだ。
「…ッ!!」
その瞬間、左腕に、ねじ切れるような痛みが走った。
たまらず腕を庇うように地面に仰向けになる。
少年が、何か大声をあげてこちらに向かってきた。
緊迫した表情で、自分の顔を覗き込んだ。その頭上から、不可思議な円は、なぜか消えていた。
あの円は幻覚か否か、それを考える間もないうちに、ミナミの意識は途絶えた。
初投稿です。よろしくお願いします。