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第七走「スキルの習得は、言うほど簡単じゃありませんでした」

〇前回のあらすじ

 ついに兵団での訓練初日を迎えたコニーは、訓練を共にするギール、ダルタルマ、カールデテル、ミナとの交流を果たす。そしてガイダールの指揮の下での訓練を経て、コニーはギール達のギフトに触れてその凄まじさに打ち震える。そんな中、ギールがスキルの反動で動けなくなり、訓練は一時中断される。

「あ……がが……」

「全く……訓練でスキルを使うのは構わねぇが、こう何度も加減を間違えるんじゃねぇよ」

「本当……何度も、倒れて……迷惑……」

 訓練中にスキルの反動で動けなくなったギール君は、呆れ果てた様子のガイダールさんに訓練広場の隅まで引きずり運ばれた。ミナちゃんも不愛想にため息をつきながらも、懐からいくつも薬品を取り出して次々とギール君に服用させる。

「ぐあっ……ふぅ……」

 ミナちゃんの的確な処置によって、細かく震えていたギール君の身体が少しずつ落ち着きを取り戻す。

「終わり……回復、早くなってる……」

「スキルの反動に慣れたのか、ギフトが成長したのか……何にしても、これ以上こうなる事は控えてもらいたいがな」

「……ギール君って、そんなにしょっちゅうスキルで動けなくなるんですか?」

 ガイダールさんとミナちゃんの対応や反応からして、ギール君がスキルで動けなくなるのは一度や二度ではなさそうだ。しかもガイダールさんは、その状態があまり良くないと思っている節がある。

「まぁ、そうだ。ギールはスキルを扱う才能があるのか、基礎能力の成長を大きく上回る速さでスキルが成長しているみたいでな。それもギフトを中心に加速的にスキルが成長しているからか、身体がスキルに耐えられずにさっきみたいに動けなくなったりしてる。最近はスキルの制御も憶えてきたから倒れる事も少なくなってきたが、それでもたまに調子に乗ってやり過ぎる事がある」

「そうなんですか……」

 ガイダールさんは呆れた様子で頭を抱えているが、その表情の中には心配の様子も感じられた。やはりガイダールさんは、ギール君のスキルの使い過ぎを危惧している気がする。

「……ギール君は、大丈夫なんですか?」

 どうしても気になった僕は、気持ちを押し殺す事が出来ずにガイダールさんに尋ねてしまう。

「……魔術系統スキルを持つ人間で稀に起こる現象らしいが、自身の許容を大きく超えた規模の魔術スキルを行使しようとした人間が魔力暴走を起こして、魔力が逆流して自分の身に魔術が発動した事例があるそうだ。俺もギールの様子を見て調べて知った事だから詳しくは知らないが、それが原因で命を落とした奴もいるらしい。とはいえ、それはあくまで許容を超えた強力なスキルを使用しない限り起こらないし、ギールの場合はギフトの特性で身体に直接魔術を掛ける影響の方が大きい。訓練を積んでスキルの扱いと身体能力を鍛えていけば、自然と倒れる事もなくなるだろう」

 すっかり安定した様子のギール君を見守りながら、ガイダールさんは静かな口調で話した。ギール君の振る舞いからそんな片鱗は感じられなかったが、そんな万が一にも命の危険がある事があるだなんて思いもしなかった。しかしその話を聞いた上でガイダールさんの表情を改めて見ると、命の危険を感じている深刻さというより、この先の事を思いやる温かみのある気遣いを感じる眼差しをしている。話の内容から少し不安になっていた僕も、その表情を見て本当に大丈夫なんだと安心する。

「……んっ、あぁ~……」

 そんな風にギール君の事を心配していると、ギール君が目を覚まして伸びをしながらすっくと立ち上がる。その姿はついさっき倒れた事を感じさせないくらいに清々しく、まるで気持ちの良い寝覚めの様にすっきりした顔をしている。

「少し直るのが早くなったか? 問題なさそうだし、訓練の続きをしようぜ!」

「お前のせいで中断したんだろうが!」

「全く……迷惑をかけた自覚が欠片も感じられませんね」

「もう……倒れないで……」

 起き抜けの発言すら淀みがないギール君に、皆も心配していた事を忘れてすっかり元通りの騒がしさに戻っていた。

「……まぁ、ギールはああいう奴だから心配するだけ無駄だ。だからコニーもそんな顔すんな」

「ガイダールさん……はいっ!」

 ガイダールさんに肩を叩かれ、まだ完全に不安をぬぐい切れてなかった僕もギール君の元気な様子を見て、特に根拠がある訳じゃないけどギール君ならきっと大丈夫だと安心する。

「さて……コニーの実力は大体分かったし、一度見てみるか……」

「えっ……見てみるって?」

「さぁ、お前らも行くぞ!」

 ガイダールさんは僕の疑問には答えず、他の皆に声を掛ける。

「行くって、訓練じゃないんですか?」

「訓練を再開する前に、戦闘訓練場に行くぞ」

「戦闘訓練場……そっか、分かりました」

 ギール君はそれだけの会話でガイダールさんの考えを理解した様子で、先導するガイダールさんに他の皆と一緒について行く。

「ほら、コニーも行くぞ」

「あっ、うん!」

 完全に置いてけぼりになってしまった僕は、ギール君に呼び掛けられてようやく駆け足で後を追って行った。


◇◇◇◇◇◇


 ガイダールさんについて来た場所は、四方が頑丈そうな壁で囲まれた無機質で広々とした部屋だった。部屋の中央には大きな舞台があり、さながら室内闘技場の様な造りになっている。部屋の隅には見慣れない装置らしき物体があり、そこだけ見れば何かの実験場にも見える。

「新しくコニーが入って訓練する事だし、改めて全員の能力を確認する」

 ガイダールさんはそう言いながら、部屋の隅にある装置の中から一際大きな水晶体に手を触れる。昨日ガイダールさんに案内された時に説明されたので見た覚えはあるけど、あの時は完全に上の空だったので内容はほとんど覚えていなかった。

「それじゃ、まずは俺からいくぞ!」

 いの一番に声を上げたダルタルマ君が、水晶の前に立ち両手で水晶に触れる。すると水晶の中からぼんやりとした光が浮かび、少しずつ形を変えていく。やがて水晶の光は文字へと形を変えていき、ダルタルマ君の能力を浮かび上がらせた。どうやらこの水晶は鑑定魔石みたいだが、これまでの物と比べて表示される文字の量が多く見える。

「……一月前からあまり変化がないな。特に課題だった敏捷が上がってないぞ」

 水晶に写し出されたステータスを確認しながら、ガイダールさんが苦い顔をする。

「ちゃんと訓練してますよ! それに体力評価はEに上がってるじゃないですか!」

「確かに体力は重装兵には必要だが、お前の機動力は進軍速度に直結するんだ。そういう意味では、前線に必要なのはいざという時に走れる足だ」

「そ、それは……はい……」

 最初は声を張り上げて抵抗したダルタルマ君だったが、ガイダールさんの説教を受けて普段の勢いを完全に失ってしまう。

「ダルタルマは引き続き敏捷を上げる訓練を続ける事だ」

「……はい!」

「では、次は俺が行きますね……」

 ダルタルマ君が水晶の前から下がり、入れ替わりでカールデテル君が水晶の前に立ち両手で触れる。

「……相変わらず耐久が低すぎるな。槍術使いにはあまり必要ないとはいえ、もう少し何とかならないか?」

「それは難しい問題ですよ……元々打たれ弱い身体ですから、耐久を上げる訓練を受けすぎると他の訓練が出来ませんから」

「思い切って耐久は捨てて回避に専念するか、槍術を極めて攻撃に特化させる方法もあるが、兵団として防衛する事を考えると多少は耐久を上げてくれないと厳しいぞ」

「そうですね……善処します」

 ダルタルマ君の時とは対照的に、ガイダールさんとカールデテル君はステータスを冷静に分析して今後の方針をすり合わせる。

「それでは、次はミナがやって下さい」

「うん……」

 カールデテル君に譲られ、ミナちゃんが水晶に両手を合わせる。

「……何というか、お前は本当に魔術師が天職なんだな……」

 今まで的確な助言をしていたガイダールさんの様子が一転して、水晶に浮かび上がった文字を見て肩を落とす。僕も気になって水晶の文字を確認すると、表示されたステータスを見て驚愕する。力や耐久、体力や敏捷に至るまで身体能力に関する能力評価が僕以上に低いのも気にかかるが、それ以上に魔力や精神の能力評価が異常に高い。確かにガイダールさんの言う通り、魔術師を地で行く様なステータス評価だ。

「普通なら訓練すれば身体能力の評価はどれか一つでも上がるはずだが、ここまで訓練しても評価が上がらないのはお前が初めてだよ……」

「えっと……すいません……」

 ガイダールさんが大きくため息をついて頭を抱えているのに対して、ミナちゃんは感情の起伏を感じられない表情のまま謝罪する。

「……まぁ、何かの拍子に評価が上がるかもしれないし、魔術師でも体力とかはあった方がいいから訓練は続けてくれ」

「はい……分かりました……」

 ミナちゃんはそれだけ言うと、ガイダールさんに礼をしてから水晶の前から離れた。

「んじゃ、やっと俺の番だな」

 待ってましたと言わんばかりにギール君が水晶の前に出て両手を突き出す。今までと同様水晶に文字が浮かび上がるが、他の皆と比べて少し表示される文字が多い気がする。

「……お前、またスキルが増えてないか?」

「……あ、本当ですね」

 ガイダールさんが水晶を見るなり、信じられない様子で水晶に浮かび上がる文字を指でなぞる。ギール君もガイダールさんが指し示す文字を見て少し驚いた様子を見せる。

「スキルが増えたって、一体どういう……」

 二人の言葉の意味が分からず、僕は水晶の文字を凝視する。そこには今まで見てきた鑑定魔石には表示されなかった、スキルの名称がいくつも並んでいるのが見えた。ギルドの鑑定魔石ではスキルの内容までは表示されなかったが、これだけ大きな水晶だとここまで鑑定が出来るのか。

帯電(ボルテージ)……迅雷(ボルテンション)、この二つのスキルってさっき見たギール君のスキル? それに充電(チャージ)電撃(サンダーボルト)って……」

 派生スキルを持っていると聞いた時も驚いたけど、まさかこんなにスキルを習得しているなんて思いもしなかった。しかもそのどれもが魔術系統に属するスキルだから、もしかしてギール君はギフトを授かってからの僅かな期間でこれだけのスキルを習得したのだろうか。

充電(チャージ)は前に習得してたが、電撃(サンダーボルト)は今日初めて見るな。電撃(サンダーボルト)と言うと、雷系魔術の中でも基本的な攻撃魔術だな」

「……って事は、俺初めて攻撃魔術を習得したのか!?」

 ガイダールさんの言葉を聞き、ギール君は喜びに打ち震えている。

「これでようやく魔剣士に一歩近づいたな!」

 ギール君は喜びを全身で表現しながら、高らかに腕を振り上げて声を上げる。

「魔剣士……?」

「何だ、コニーは魔剣士を知らないのか? 魔剣士は魔術と剣術を習得した、近接と遠距離どっちの戦闘にも優れた戦闘職だよ。ギフトで魔術スキルを授かった時から、俺は魔剣士になる事が目標なんだ!」

 僕が疑問を呈すると、ギール君は嬉々として自分の夢を語る。そのあまりに嬉しそうな様子に、僕まで嬉しくて祝福したくなった。

「そうなんだ……すごいね!」

「あぁ……だけどまだ剣術はスキルを一つも習得出来てないから、これからは剣術も合わせて鍛えないと……」

 さらに夢へと目を滾らせるギール君の姿は、今まで見てきたどんな姿よりも僕の気持ちを前へと進めてくれる。僕もギール君みたいに、冒険者の夢を真っ直ぐに追える気がしてきた。

「ギール……残念だが、剣術はあまり期待しない方がいい」

 少しばつが悪そうな顔でガイダールさんが会話に入って来る。

「期待しない方がいいって、どういう事ですか!?」

 ギール君には珍しく、声を荒げてガイダールさんに突っかかる。それもそうだ、ギール君にとってはガイダールさんの発言は自分の夢を否定する事に他ならないのだから。

「今までギールは訓練に武具として剣を使用していたが、今日の時点で剣術スキルは一つも習得出来てない。剣術に少しでも適性があれば簡単な技のスキルくらいなら一つでも習得しているんだが、今日までで習得出来てないとするとギールには剣術の適性がないのかもしれない」

「剣術の適性が、ない……」

 ガイダールさんの宣告を受けて、ギール君は呆然とする。ガイダールさんの言う通り、スキルの習得には個人の適性によって得手不得手がある。同じ鍛錬をしても、適性がある人とない人では習得するまでに年単位で違いが出る事もある。場合によっては適性が全くなくて習得すら困難な事もあるので、ガイダールさんがギール君に剣術の習得を諦めさせる様に言うのは間違いではない。もしギール君に剣術の適性がない場合、このまま無理に剣術を鍛え続けてスキルが習得出来なければ、兵団として苦労する事になるかもしれない。使えるスキルがあるのとないのとでは、戦闘においては特に実力に直結してしまうので、スキルのない剣術では満足に戦えない。そうならないためにも、今ここで剣術スキルの習得を諦めて別の武具の適性を見るのが、ギール君にとっては良いのかもしれない。

「はぁ~……折角魔術師っぽくなれたと思ったのに、まさか剣術の方が駄目になるなんてなぁ……」

 落胆するかと思ったが思いのほかギール君のショックは薄く、おどけた様子で長々とため息を吐く。

「……ギール君、大丈夫?」

 それでも全く気にしてないなんて事はないと思った僕は、心配で声を掛けずにはいられなかった。

「ふっ……本当、コニーはよく人の心配をするな」

 やはり多少はショックを受けたらしく、ギール君はわざとらしい笑みを浮かべる。

「適正に関してはどうしようもない事だし、俺も兵団にいる以上は戦う術を身に着ける必要はあるからな。そこは割り切って適性のある武具を探す事にするよ。でもスキルがなくたって、剣術を鍛錬する事は無駄にはならないし、まだ魔剣士になる事を完全に諦めた訳じゃねぇからな」

 ギール君が語るその姿は、いつかギール君が僕に冒険者としての道を決意させてくれた時の事を思い起こさせる。僕がギフトの事で悩んだ時の様に、ギール君も剣術の適性がない事なんて関係なく先へと進む道を探す決意をしたんだ。

「……そうだね、ギール君なら何とかなるよ!」

 それなら僕も、ギール君が進みたいと思える道が見つかる様に応援したい。僕に出来る事なんてたかが知れてるかもしれないけど、僕の背中を押してくれたギール君には諦めずに突き進んで欲しい。

「……何だ、お前も言う様になったな」

「それはギール君のおかげだよ」

 僕達は互いに顔を見合わせて笑った。別にギール君が剣術スキルを使えない問題が解決した訳でもないし、この先どうするか思いついた訳でもないけど、やはりギール君なら大丈夫だと何故か思ってしまう。

「それじゃ、最後はコニーだな」

「うんっ!」

 ギール君が水晶の前から下がり、代わりに僕が水晶の前に立つ。ギフトの事があってから鑑定魔石に触れるのに少し怯えていたが、今日は不思議とすんなり水晶に両手を差し出した。

「……こうしてコニーのステータスを見るのは初めてだが……成程な。傾向としてはミナみたいに一部特化したステータスだな。だがただ単にギフトのために特化したステータスとはいえ、それ以外にも活躍が見込めるステータスかもな」

「活躍って、どんな事が出来るんですか?」

「それは自分でやりたい事を考えるもんだが……まぁ、例を挙げるなら敏捷を活かした役割だな。隠密能力を鍛えれば偵察や斥候が出来るし、さらに逃げスキルを活かすなら陽動とかも役割として十分使えるぞ」

 これまで以上に真剣な表情で水晶を眺めるガイダールさんは、さらに僕に有益になる具体的な助言をしてくれる。流石僕のギフトを聞いて冒険者を薦めるだけあって、ガイダールさんの中では僕が向いている事が手に取る様に分かるんだろう。

「逃走スキル……これがコニーのギフトか!?」

脱兎(ラビッシュ)……聞いたことのないスキルですね」

「面白いだろ? 俺もまだ使ってる所を見た事ないけどな」

「ウサギ……かわいい……」

「えっ……み、皆!?」

 皆の声が迫っているのが気になってふと振り返ると、僕の背後から水晶を覗こうとして全員が所狭しと詰め寄っていた。僕のステータスを始めてみるからなのか、各々が期待の眼差しで水晶を覗こうと押し合いへし合いになっている。あまり感情を見せないミナちゃんでさえ、僕のギフトを見る目に輝きが宿っているのが分かるくらいだ。

「敏捷高いな……俺にもこれくらいあったらなぁ!」

「回避も高いですね……道理であれだけ躱せるはずですよ」

「しっかし、本当にギフト以外のスキルはないんだな」

「ウサギ……」

「ちょ、ちょっと皆……」

 我先にと水晶にかじりつかん勢いで押されて、僕は水晶と皆に挟まれて身動きが取れなくなる。このままでは、僕が潰れるか水晶が割れてしまいそうだ。

「……お前ら、少し落ち着け」

「「「「は、はい……」」」」

 僕が押し潰されそうになっているのを見かねて、ガイダールさんが強い口調で皆を制止する。流石にガイダールさんに言われて皆も少し引き下がるが、どうしても気になるらしく今度は横から隙間を縫って覗き込む。

「逃走スキル……技能系統には珍しいものがたまにありますが、俺も初めて見ますね」

「あんま兵団に向いてるって感じのスキルじゃねぇけど、面白いスキルだな!」

「ウサギ……出るの……?」

「さぁ……俺もまだ見た事ないからな。コニーはまだスキルの使い方が分からないらしいし」

 僕を挟む形で皆がまた騒がしく話し合う。これまでは少し離れた場所から眺めていたものをこうしてすぐ傍で体感すると、ガイダールさんが怒気を込めて止める気持ちが少し分かった。とはいえ僕には止める術がないし、正直この騒がしい輪の中にいる事が嫌だとはあまり思わなかった。

「スキルが使えない、ですか……コニーはまだ技能起点(スキルポイント)を自覚していないのですか?」

「スキルポイント……?」

 突然カールデテル君から聞き慣れない単語を耳にして、僕は首を傾げる。

「スキルポイントというのは身体の何処かにある、スキルを発動するために使われる場所ですよ。スキルを使用する場合、必ずそのスキルポイントのある場所が活性化します。身体の何処にあるかは個人差がありますが、大体身体の中心に近い場所に多いらしいですよ。ちなみに俺は首の後ろ辺りにあります」

「俺は左の肩あたりだ!」

「私は……額の下……」

 それぞれがスキルポイントのある当たりを指差して、自慢気に見せつける。傍から見てもスキルポイントがあるなんて分からないから、実際は身体の内側にあるのだろう。

「俺は大体この辺り……だと思う。あんま意識してないから分かんねぇけど」

 ギール君だけ自信なさそうな表情に自信たっぷりのポーズで右胸に親指を突き立てる。

「それであれだけスキルが使えるんですから、不思議なもんですよ……。普通はスキルを使っていれば、嫌でもスキルポイントが活性する感覚があるはずなのに……」

 カールデテル君は突っ込むのを諦めて、ただ短くため息をついた。

「……まぁそういう事なので、もしスキルの発動を意識する時は身体の何処か一カ所に意識を集中してみたり、身体の中心あたりを重点的に意識すると成功しやすいですよ」

「そっか……有難う、何か出来そうな気がする!」

 明確な光明が得られた訳じゃないけど、全くの手探りでスキルの発現を目指すよりも方向性が絞れて、僕は少し靄が晴れた気がした。

「しかしまた珍しいですね……ギフトがうまく発現しないとは。『神より賜るギフトはその者の道標となる』と言われていて、スキルの詳細は神成式で開示されるので利用方法は分かりますし、ギフトを授かる際に自然と身体が使い方を理解するはずですが……」

「えっ……そ、そうなの!?」

 カールデテル君から告げられた衝撃の事実に、僕は過剰なほどの驚きを見せる。

「は、はい……実際俺も神成式の後、初めて槍を握ったはずなのにその場でギフトを使えました。まぁ俺の場合、ギフトの詳細が槍を使うとか跳ぶとかで分かりやすかったのもありますが」

「俺はギフトの説明を聞いても、どう使ったらいいかよく分からなかったぞ! 偶然手の上でスプーンを回した時に、やっとギフトの使い方が分かったくらいだからな!」

「私は……生まれつき、魔力が多くて……それで、直ぐに覚えた……」

 各々できっかけは違うけど、全員が一致して神成式を終えてからそう掛からない内にギフトを扱えているみたいだ。

「そういう意味では、どちらかというとギールはコニーと同じだったかもしれないですね」

「別に同じって訳じゃねぇだろ……まぁ、使えなかったと言えばそうなんだけど……」

「……えっ?」

 この中で一番スキルを使えるはずのギール君が僕と同じでギフトが使えなかったなんて、何かの冗談だろうか。しかしカールデテル君もギール君もそんなふざけた様子は微塵もなく、まるで昔の苦労を思い返す少し切ない表情をしている。

「ギールのギフト……帯電(ボルテージ)は、身体に雷を蓄えて放つというスキルです。しかしミナの清浄水(クリアクア)の様に自分が魔術を発動するのではなく、雷を身体に蓄える方法がなければスキルを使う事すら出来ません。そのためギフトを活用するために、ギールは兵団の特訓で一番に魔術スキルの習得を目指しました。その甲斐あってわずか半月で帯電(ボルテージ)の派生スキル、充電(チャージ)で体内に雷を発生させる事が出来る様になったんです。とはいえその時点でも、ただ身体に雷を流すだけが限界でしたけどね」

「うるせぇ、その後直ぐに迅雷(ボルテンション)を習得したし、今の俺は攻撃魔術も使えるからな!」

「そ、そうだったんだ……」

 才能あふれるギール君でも、それだけの苦労の上に今の強さがあるんだ。それも最初は、僕と同じでギフトが使えずにいただなんて。

「……僕、頑張るよ。頑張ってギール君に追いつくから」

 そう思うとギール君よりも才能がない僕なんて、より一層頑張らないといけない。ギール君の様に半月でスキルが使える様になるのは難しくても、以前ガイダールさんが言っていた一月でのスキル習得を目標に、これから先の訓練を頑張って乗り越えていこうと思う。

「……いいぞ、けど俺だってどんどん先に進むからな」

 ギール君が挑戦的な笑みを向けて宣戦布告をする。対する僕も眼差しに力を込めて迎え撃つ。互いに込められた強い意志を感じ取り、僕も不思議と笑みがこぼれる。

「これで当面の課題が出揃ったな。それじゃここからは各自課題の達成を目標に訓練しろ!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 ガイダールさんの号令と共に、課題の達成のために各々動き出した。僕はひとまずスキルの習得が目標になるが、一体どんな訓練をすればいいのだろう。

「ダルタルマ、お前は入団からずっと敏捷の伸びが悪い。今日は俺が直々に走り込みでみっちり鍛えてやる」

 僕が訓練方法に悩んで立ち尽くしていると、怪しい笑みを浮かべたガイダールさんが訓練広場へ向かおうとしたダルタルマ君の肩を掴んで呼び止める。

「ま、待って下さい! そんなの聞いてないです!」

 常に血色の良いダルタルマ君の顔が、見る見る内に青く染まっていく。一度ガイダールさんに引きずり回された今の僕なら、あの反応になるのは当然の事だと納得する。

「コニー、お前もこっちだ」

「……えっ、僕ですか!?」

 一瞬聞き間違いかと思ったが、ガイダールさんの視線が確実に僕に向いているのを確認して、僕は驚愕すると共に顔が恐怖の色で染まる。

「スキルの習得方法はいくつかあるが、コニーの場合一番能力の高い敏捷に関するスキルを習得が近道だろう。まずはスキルの習得のきっかけ作りに、ひたすら走り込みを繰り返すんだ」

「えっ……えっ、えええぇぇっ!?」

 完全に恐怖で固まってしまった僕とダルタルマ君を引っ張って、ガイダールさんは訓練広場へと向かった。拒否する権利も度量もない僕達がそのまま、気絶するまで何度もガイダールさんに引きずり回される事になるのは言うまでもない。

〇おまけ「ミナの支援装備」

 魔術師であり支援職でもあるミナは、鍛錬の一環として清浄水(クリアクア)で生成した水を使用して支援用の薬品を調合している。混じり気のない純粋な水で作られたミナの薬品は、未熟ながらも高い効果を持っている。そして普段着として使用しているフード付きマントや上着の裏に、作った薬品をいつでも使える様に仕込んでいる。そのため若干着膨れしている様な状態なので、実は見た目以上にさらに華奢で小柄。

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