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第六走「兵団で待っていたのは、新しい友達でした」

〇前回のあらすじ

 冒険者の依頼で魔物に襲われ自身の無力さを痛感したコニーは、ギフトを使いこなすために副業登録していた兵団の訓練を受ける事に。しかし兵団の訓練長であるガイダールと、兵団候補生のギールによる熾烈な訓練模様を想像したコニーは一抹の不安を抱えていた。

 兵団基地で説明を受けた翌日、僕はまた兵団基地の前へと来ていた。ついに今日から兵団で訓練を受ける事になる。緊張が頭を支配する中、僕は基地へと足を踏み入れた。

「おっ、来たな」

「おはよう、ギール君」

 基地で最初に顔を合わせたのは、昨日訓練広場で会ったギール君だ。そしてその後ろには、どこかで見た覚えのある顔が見えた。

「……あぁ、そういやこいつらとは話した事はなかったな」

 僕が後ろにいた子達に視線を移した事に気付いたギール君が背後に振り返る。

「こいつらはお前が神成式をした日に、俺と一緒にいた連中だよ」

 ギール君の紹介で僕も思い出した。僕がギフトを授かった神成式の直後に僕は初めてギール君と出会ったのだが、その時ギール君と一緒にいた兵団候補生の子達だ。

「これから一緒に訓練するんだし、始まる前に紹介しとくか。こっちの丸いのがダルマ、あっちの細いのがカリー、このちっこいのがミナだ」

 ギール君が後ろの子達を順番に指差しながら簡潔に紹介してくれる。

「おい、初対面なのにそんな紹介の仕方はないだろ!?」

 ダルマと呼ばれたシルエットが丸い少年が激しい勢いで申し立てる。

「俺もそんな紹介のされ方はして欲しくないですよ」

 カリーと呼ばれた長身で身体の細い少年も遺憾だと言わんばかりに主張する。

「……私は、別に……」

 一方でミナと呼ばれた小柄な少女は特に否定はせず、こちらを気にしながらギール君の影に隠れてしまった。

「……それじゃ、自分で言うか?」

「最初からそのつもりだよ!」

「全く……勝手に紹介したのはギールだろうに」

「……分かった」

 ギール君の言動に皆は三者三様の反応を返す。散々場を乱したギール君は言われるまま引き下がり、そこに入れ替わる形で三人が僕の前に並んだ。

「俺はダルタルマだ。防御と体力には自信があるから、兵隊になったら前線で身体を張った最強の盾になるんだ!」

 そう言いながら、ダルタルマ君はその自信に見合った体躯を全面に突き出して胸を張る。

「次は俺ですね……名前はカールデテル。小さい頃から本や文献を読み漁るのが趣味で、この中では一番の頭脳を持っていると自負していますよ」

 そう語るカールデテル君は、眼鏡の奥から僕を見澄ました視線を覗かせている。

「私は……ミナ。見習い魔術師で……水系魔術を使う」

 途切れ途切れに短く自己紹介したミナちゃんはフードで顔を半分ほど隠したまま、たまにこちらに視線を向けて来る。

「こいつらとはほぼ同じ時期に兵団に入ってから、よく集まって話したりするんだ」

「そりゃ、ギルドで兵団登録したその場でギールがしつこく声を掛けたからだろ!」

「そうですよ、あの時のギール君の無礼な態度は忘れもしません」

「私は……友達出来て、嬉しい……」

「忘れもしないって、そんな昔の話じゃないだろ?」

「忘れないっていうなら、ギールが勝手につけた俺達の変な呼び方だよ!」

「ダルマの方が呼びやすいだろ? 何か丸っこい感じするし」

「それなら俺の呼び方はどうなんですか!? カールならまだ分かりますが……」

「カールだと太った感じするだろ? カリーならお前のイメージに合ってるし」

「「ギールの勝手なイメージで呼ぶんじゃ」」「ねぇ!」「ない!」

「それなら何でミナはそのままなんだよ!?」

「だってミナは呼びやすいし略す必要ないだろ?」

「えっと……ゴメン?」

「いや、ミナは謝る必要ないですよ……」

 自己紹介が済んだと思ったら、四人で騒がしくも楽しそうに話し始めた。しばらくその様子を見ていた僕は、その雰囲気に耐えきれず顔がほころんでしまう。

「……あぁ、そういやコニーの紹介がまだだったな」

 ふと僕の存在を思い出したギール君がこちらに振り返る。一斉に四人の注目を集めた僕は、自己紹介を迫られている緊張と責任感で硬直してしまう。

「あ、あの、えっと……コニーです。昨日冒険者になったばかりで、今日から兵団で訓練する事になりました。よ、よろしく……」

 あまり自己紹介をした事がない僕は、途中からこれで良いのか不安になりつつも何とか最後まで言い切った。

「お前……冒険者なのか!?」

「冒険者なのに兵団で訓練ですか……何故そんな事を?」

「コニー……よろしくね……?」

「えっ……えっ!?」

 一瞬の間の後、三人から一斉に話を振られて僕はどうしたらいいか分からず、三人の顔を順番に見回しながら困惑する。

「つーか、コニーって名前まんまかよ! ギールが最近よく話してたけど、何でコニーも略さないんだよ!?」

「だからミナもコニーも略すほど呼びにくくないだろ?」

「カールはまだしも、ダルタルマは呼びやすいだろうが!」

「俺もそれほど呼びにくい名前だとは思わないですが……」

「私は……何でもいいよ……」

 僕が答えに迷っている内に、また四人でワイワイと話し始めた。そうして止める間もなく騒がしくしている様子を、僕は笑顔で見守っていた。

「……お前ら、そろそろ集合時間だぞ」

 ふと僕の背後から低い声を響かせたのは、ガイダールさんだった。先ほどまで騒いでいた四人が、その一声でピタリと静かになり一瞬にして綺麗に横一列に並ぶ。

「その様子だと、新人の紹介は終わったみたいだな。とは言っても、一度は顔を合わせているから大して心配ないか。歳もほとんど同じだし、これから一緒に訓練する同士仲良くやれよ」

「あっ……は、はい!」

 僕が振り返ると、先ほど背中からほんの一瞬だけ感じた突き刺す様な鋭い気配が嘘の様に、そこには僕がよく見る豪快な笑顔のガイダールさんがいた。

「それじゃ、まずは訓練広場に出るぞ」

「「「「「はいっ!」」」」」

 僕達は声を揃えてガイダールさんの指示に従い、ガイダールさんに続いて順番に訓練広場へと向かった。


◇◇◇◇◇◇


 訓練広場へと来た僕達は、ガイダールさんの前に横一列で並んだ。辺りを見渡すと、少し離れた距離で自主的に訓練している兵団の人が何人か見えた。

「初めて訓練に参加する奴もいるから改めて説明する。俺は基本的に訓練の申請を受けた奴の面倒を見ているが、候補生を含めた新人は入ってからしばらくは嫌でも見る事になっている。一定の期間が過ぎるか、俺が兵団の一員として問題ないと判断するまでは必ず俺の指示の下で訓練を受ける事。それ以外での自主訓練に関しては特に口を出さないが、万が一にも俺の訓練を受ける事を忘れるなよ」

「「「「「はいっ!」」」」」

「では早速訓練に入る。まずは基礎体力の訓練だ。全員俺の後について走れ」

「「「「「はいっ!」」」」」

 ガイダールさんが号令を掛けて走リ出すと、僕達はそれを追って走り出した。ガイダールさんは余裕を持った走り方で訓練広場を駆けるのに対して、僕は少し離れた距離を辛うじてついて行くので精いっぱいだった。一方で僕の少し前を走るギール君はあまり余裕はなさそうだが、表情は決して苦しそうに見えないので僕よりは大丈夫そうだ。そして僕のすぐ後ろを走るカールデテル君とそれに続くダルタルマ君の表情はかなり険しく、さらに離れて後ろを走るミナちゃんはフードで表情が見えないが、フラフラと危なげに走る様子からして大丈夫ではなさそうだ。

「コニー……お前、本当に逃げスキル持ってるのか? こんくらいのスピードでへばってるなんて……」

 前を走っていたはずのギール君が、いつの間にか僕の横で合わせて走っていた。

「はぁっ……はぁっ……ぎ、ギール君は平気そうだね」

「そりゃまぁ、ギフトのおかげだな。兵団候補生で訓練長についてこれたのは俺くらいだって、訓練長もちょっと驚いてたからな」

「はぁっ……そ、そうなんだ……はぁっ……」

 以前からギール君は異様に足が速いと思っていたけど、まさかギフトによるものだとは思わなかった。

「……って事は……ギール君のギフトは、身体強化なの……?」

「いや、足が速いのはギフトとは別のスキルだよ。正確には、ギフトから派生した派生スキルで強化されてるんだ」

「は、派生スキル……もうそんなスキルを……」

 派生スキルというのは、一つのスキルを習熟させた時に習得出来るスキルだ。スキルに対する理解度や繰り返しの鍛錬でようやく発現するのだが、それを僕と変わらない年のギール君は一足先に習得しているというのだから、とんでもなくすごい事だ。

「とは言っても、元がギフトだから下位派生だけどな」

「下位派生でも、スキルの派生自体がすごいけど……」

 本来派生スキルというのは、派生元となるスキルからより強力なスキルが派生スキルとして発現するのだが、ギフトの場合は元となるスキルそのものが強力なので、派生で発現するスキルがギフトよりも劣ってしまうため、下位派生スキルと呼ばれる事もある。

「お前ら、随分と余裕そうだな……」

 ギール君の凄さに驚いていると、何処からか低く重苦しい声が聞こえた。余裕の表情で走っていたはずのギール君の顔が青ざめているのに気付いて僕は恐る恐る背後に振り返ると、いつから聞いていたのか恐ろしい笑みを浮かべたガイダールさんがそこにいた。

「それなら俺も少し本気で走るとするか……」

「く、訓練長待って……」

「あ、あの一体何を……」

 僕達の言葉に耳を貸さず、ガイダールさんは僕とギール君の間に入り二人の襟首を掴んだ。

「い、嫌だああぁぁ!」

「う、うわああぁぁ!?」

 そしてガイダールさんは僕達を捕まえたまま凄まじい脚力で走り出した。ガイダールさんに掴まれている僕達はそのまま引きずられる様な形で強制的に足を動かされている。

「ほら、足を動かさないと広場中を引きずり回すぞ!」

「はっ……ひっ……!」

 ギール君は必死の形相で情けない声を上げながら、それでも足はしっかりガイダールさんの速度について来ていた。

「はっ……あっ、あのっ……こ、これはっ……いった、いっ……!?」

 僕も辛うじて足がついて来てはいるものの、このまま全力で走っていたら直ぐに体力が尽きて走れなくなってしまう。何とかしないとまずいと思った僕は息を切らせながらも、どうにかガイダールさんに話しかけようとする。

「おぉ、コニーの方はまだ余裕があるのか。それならもう少しペースを上げるか」

「はっ……はっ……えっ……!?」

 走るのに必死だった僕は、ガイダールさんの言葉を直ぐには理解出来なかった。

「ひっ……ひぃっ……!」

 危険を察したギール君が、声を忘れて大きく首を横に振って涙を浮かべて懇願する。

「ひいいぁぁっ……!」

「ぅええぇぇっ!?」

 こちらの主張を完全に無視し、ガイダールさんは今まで以上の速度で僕達を引きずりながら走った。ギール君は半ば放心状態でただ足だけを動かし、僕は流れていく景色を最後にその後の記憶を失った。


◇◇◇◇◇◇


「よし、ひとまず体力強化の走り込みはこんなもんだろう」

 走り込みの訓練が終わり訓練広場の隅に集合した僕達だが、ガイダールさんを除いた全員が完全にダウンしていた。僕とギール君に至っては、意識がどこか別の所へと行ってしまっていた。

「次は戦闘訓練だが、今日は新人もいるし簡単な模擬戦でもするか」

「はっ……!? 模擬戦か、やってやるぜ……」

 模擬戦という言葉を聞いて、ギール君はすっかり調子を取り戻した。

「それじゃ、ここにある模擬戦用の武具を使って互いに戦ってみるぞ」

 ガイダールさんが示した先には、木や革の簡素な作りの武具がいくつも並べられていた。

「まずはコニー、試しに一人ずつ相手にしてみろ」

「ぼ、僕ですか!?」

「コニーの戦闘適性も見てみたいし、他の奴の戦い方を体感するのも勉強になるぞ」

「は、はい……分かりました」

 正直模擬戦なんてピンと来ないので、一体どうしたらいいのか分からない。しかしガイダールさんの言う事も分かるので、とりあえずやってみる事にした。

「まずがダルタルマ、お前がやってやれ」

「分かりました!」

 ガイダールさんに呼ばれ、ダルタルマ君が大きく声を響かせる。ダルタルマ君は木で出来た大盾と短剣を手にしている。

「コニーも武具を選べ。武具適正もまだ分からんし、好きに選ぶといい」

「はい……」

 僕は並べられた武具からダルタルマ君の装備を参考に、扱いが簡単そうな片手剣と小盾を手に取った。

「これでやってみます!」

「無難な選択だが、悪くはないな。それじゃ、早速やってみろ」

「はいっ!」

 僕は慣れない武具を構えて、ダルタルマ君と向かい合った。ダルタルマ君の方は慣れているのか、構えが様になって見える。

「よし、どっからでも来い!」

 ダルタルマ君が声を張り上げて、大盾を前に構えてこちらを挑発してきた。

「よ、よしっ……やぁっ!」

 僕は意を決して、剣を振りかぶってダルタルマ君に向けて振り下ろす。ダルタルマ君はその剣筋を見て軽々と大盾で受け止める。

「えいっ、そりゃっ!」

 技術も戦略もなく、僕はただがむしゃらに剣を振った。しかし当然ながら、大盾を構えたダルタルマ君には一切通じなかった。

「はぁっ……はぁっ……」

「どうした、もう終わりか!?」

 力任せに何度も剣を振ったせいで、僕はすっかり消耗して肩で息をしていた。一方のダルタルマ君は、僕の動きに合わせて大盾を構えて剣を受け止めるだけだったので、ほとんど消耗していかなかった。

「……まぁ、コニーもスキルを使ってないみたいだし、最初はこんなもんか」

「ご、ゴメン……」

「いや、そんな謝る事ないだろ……」

 分かっていた事だったが、素人の僕では同じ年の候補生が相手でも全く歯が立たなかった。ギール君の時はギール君が特別強いのかもしれないと僅かに思ったが、そんな事が全く関係ないくらいに僕が弱いだけだ。

「ダルタルマ、もういいぞ! 次はカールがやってやれ」

「もう終わりかよ!」

「よし、俺の出番ですね……」

 ガイダールさんの指示を少し不服そうにしながらダルタルマ君が下がり、代わりにカールデテル君が槍を片手に意気揚々を僕の前に出てきた。

「コニー、武具を変えるか!?」

「えっ!? は、はい!」

 ガイダールさんが大声で呼び掛けたので、僕はあまり考えずに返事を返した。そのまま僕は再び並べられた武具の前に立ち、色々と考えた結果カールデテル君と同じ槍を手に取った。

「同じ武具を選んだか……同じ武具同士だと単純に技量の差が勝負になるが、いいのか?」

「えっと……僕もよく分からないですけど、槍の相手は槍以外じゃ難しそうなので……」

「そうか……まぁ、色々試してみな」

 ガイダールさんの助言も最もだが、僕にとってはどの武具を使っても大して変わりないと思った。それなら同じ武具で戦った方が、より武具の事を理解出来そうな気がした。

「それじゃ、始め!」

「じゃあ、やりますか!」

「お、お願いします!」

 ガイダールさんの合図とともに、僕とカールデテル君はお互いに槍を構える。カールデテル君の構えを見ながら、自分もそれに倣って構え方をした。

「俺の動きを参考にしているんですか? 有難い事ではありますが、君には俺の戦い方は難しいですよ?」

「えっ……? うわっ!?」

 カールデテル君は忠告と共に、一瞬で僕との距離を詰めて槍を突き出した。僕は慌てて慣れない手つきで槍を振り回し、カールデテル君の突撃を辛うじていなした。

「よく躱せましたね……ですが、まだまだいきますよ」

「ちょ、ちょっと……うわっ!?」

 カールデテル君はさらに続けて槍を連続で突き立てる。僕はその猛撃を身体をひねって躱したり、槍で弾いて逸らしたりとどうにかやり過ごす。

「俺は長身なので槍の扱いが比較的簡単ですが、君はあまり身体が大きくないので槍の扱いは難しいでしょう? それに槍の長所である射程距離の長さも、同じ槍同士では長身の俺の方が有利ですよ!」

 カールデテル君の言う通り、僕の身長はミナちゃんほどではないがどちらかといえば低い方だ。そのせいで槍の扱いは振り回すどころか、むしろ槍に振り回されそうになっている。どうにか攻勢に出ようと槍を構えようとしても、うまく穂先を正面に向けて安定させられないし、カールデテル君の猛攻でそれどころではない。

「しかし動きはぎこちないですが、よく躱し続けていますね。コニーはどうやら、回避型の戦闘が得意みたいですね」

「そ、そんな事考えてない……うわっ!」

 カールデテル君は冷静に僕の動きを観察しながら分析しているみたいだけど、僕の方は攻撃を食らわない様にするのに必死でそれどころではない。

「回避型は白兵戦では強いですが、弱点はあるんですよ……」

「えっ……?」

 カールデテル君が不穏な発言と共に攻撃の手を止める。僕が何事かと問い詰める間もなく、カールデテル君は空高く飛び上がった。

「折角ですから、紹介がてら僕のギフトを見せましょう!」

「う、うわああぁぁ!?」

 太陽を背にしたカールデテル君が、槍を構えたまま僕に向かって突撃してきた。僕は咄嗟に避けようと後ろに飛び退いたが、カールデテル君は構わず地面へと槍を突き立てる。するとカールデテル君の突撃によって周囲に衝撃が走り、僕は飛び退いた勢いもあってそのまま吹き飛ばされる。

「どうですか? これが俺のギフト跳突(ハイサード)です。飛び降りる際に衝撃波を生み出すほどの強力な刺突攻撃が出来る槍術スキルです。直接相手に攻撃が当たらなくても、今みたいに衝撃波で周囲を吹き飛ばす事も出来る範囲スキルでもあるので、槍を回避するだけでは逃げ切れないでしょう?」

「……す、すごい」

 これが戦闘職のギフトの力なのか。こうして目の前で見て、さらにこの身で受けてみて、ギフトの持つ力の強大さを改めて感じ取った。

「……大丈夫?」

「えっ……? あっ……」

 突然声を掛けられて振り向くと、ミナちゃんがすぐ傍まで駆けつけていた。ミナちゃんに言われて見ると、腕を擦りむいていた。

「だ、大丈夫だよ、これくらい大した怪我じゃないから……」

「……駄目……ちゃんと、直す……」

 僕が心配させまいと思って平気な顔をしたが、ミナちゃんはそんな事はお構いなしに僕の怪我した腕を取る。するとミナちゃんの手から優しげな光が浮かび上がり、光はやがてほんのり温かな水へと変化して、傷ついた僕の腕を包み込んだ。

「こ、これは……」

「私のギフト……清浄水(クリアクア)……ただの、綺麗な水……とりあえず、応急処置……」

 ミナちゃんが生み出した綺麗な水が僕の腕から流れ落ちると、傷の周りについていた砂埃が完全に取り除かれて、心なしか傷口も少し閉じていた。

「これで、いい……」

「あ、有難う……」

 傷口を洗い流した後、ミナちゃんは何処からか取り出した包帯を手早く腕に巻き付けた。ミナちゃんはただの水だと言っていたけど、使い方によってはとても役立つギフトだと思うし、習熟すればより良い使い道が生まれる良いギフトだと思う。

「応急処置は終わったか?」

「大丈夫……終わった……」

 いつの間にか寄って来ていたガイダールさんが、僕達の様子を上から見下ろしていた。

「ミナは衛生兵の勉強中だが、ギフトの応用も効くし支援職としての能力もあるからな。こうして訓練中に怪我をした奴を見かけては、率先して治療の練習をしてるんだ」

「そ、そうなんですか……」

 するとミナちゃんは僕の怪我をいち早く察知して、今みたいに即座に治療を施したのか。候補生の時点でここまで出来るのだから、ガイダールさんがこれほどの評価をするのは当然だ。

「さて……ダルタルマとカールとの模擬戦は十分だし、支援職のミナは一人じゃ模擬戦は出来ない。となると……最後にギールとやっとくか」

「ぎ、ギール君と!?」

 ギール君との模擬戦と言われると、つい昨日のギール君に追い回された時の事を思い出してしまう。今回は正面切っての模擬戦だから昨日とは状況が違うとはいえ、それでもギール君と戦うのはどうしても気が引けてしまう。

「やっと俺の出番か……やるぞ、コニー!」

「ぎ、ギール君……」

 やる気に満ち溢れたギール君を見て、僕は引き下がる選択を取る事が出来なかった。結局僕は再度武具を選び直すために広場の隅にガイダールさん達と一緒に歩いて行った。

「コニー、回避型なら軽い武具を選ぶといいですよ」

「軽い武具、か……」

 僕が武具選びに迷っていると、横からカールデテル君が助言をくれる。僕は助言を基に武具を一通り見た結果、短剣を一つだけ取ってギール君の下へと向かった。

「準備は出来たか? では……始め!」

「今回は模擬戦だからな……遠慮なくいくぞ!」

「う、うん!」

 ガイダールさんの合図とともに、僕達はお互いに踏み込んで距離を詰める。若干遠慮がちに突っ込む僕に対して、ギール君は迷いのない踏み込みで僕の懐に潜り込んだ。

「とりあえずは、小手調べってな!」

「うわっ!?」

 ギール君は片手剣を両手で握り、下から思い切り斬り上げてきた。僕はその素早い剣捌きに驚きつつも、迫って来る刃を眼前の所で身体を背後に逸らして躱す。

「ほら、どんどん行くぞっ!」

「くっ……!」

 ギール君はさらに流れる様な動きで剣を振り回し、僕は一つ一つの攻撃を紙一重で躱し続ける。僕はどうにか体勢を立て直そうと身を引くが、ギール君は僕との距離を離さずついて来る。

「カリーの時にも見たが、回避は中々やるな!」

「そう、だね……僕も、びっくり、だよっ……!」

 余裕の表情でこちらに一切の隙を与えてくれないギール君に、僕はただその場しのぎで攻撃を躱し続ける事しか出来ない。ただそれはギール君の方も僕に一撃も入れられないという事でもあるので、現状ではお互いに膠着状態となっている。

「このまま続けてもいいが、俺のギフトも見せてやるよ……」

 ギール君は僕への追撃を止めると、おもむろに剣を構え直した。僕はその隙にギール君との距離を開けて、次に来るギフトによる攻撃を警戒する。

「さぁ……これが俺のギフト、帯電(ボルテージ)だ!」

 ギール君の大きな叫びと共に、ギール君の身体を魔力の光が包み込む。魔力は少しずつギール君の身体を回り始め、その速度が増していくと魔力が閃光を放ち始める。そしてギール君の全身を取り巻く様に煌めく閃光が高速で走り続けている。

「体内に雷を溜めて、自在に放つ事が出来る雷系魔術だ。まだ攻撃に使える雷系魔術を習得してないし、体内に留めていられる雷の量もそんなに多くないけど、自分の魔力を雷に変えて体に流せば身体能力を上げる事が出来るんだぜ」

「雷で……身体強化を!?」

「魔術系統スキルはミナみたいに魔力を放出する使い方が基本らしいけど、俺のギフトは身体に直接影響する使い方の方が合ってるみたいでな。それで自分自身に雷を与える事で敏捷を上昇させる派生スキルがこの……迅雷ボルテンションだ!」

 ギール君の雄たけびと共に身体を覆う雷が激しさを増しながら収縮していく。そして身体中に纏わりつくだけだった雷が、ギール君の全身を薄い膜の様に隙間なく覆っている。これがさっき話していた、ギフトから派生した身体強化スキルなのか。魔術系統スキルを持っているだけでもすごいのに、それで身体強化が出来てしまうなんて尋常じゃない才能だ。

「これが俺の全力を出した状態の迅雷ボルテンションだ。制御しきれない分が身体の外に少し流れてるが、これでさっきまでより数段は早い動きが出来るぞ!」

「えっ……!?」

 ギール君がこちらに踏み込む姿勢になったのを見た瞬間、僕の視界からギール君の姿が消えた。僕が攻撃を仕掛けて来ると判断して身構える間もなく、ギール君は僕が手にしていた短剣を弾き飛ばした。気付いた頃にはギール君は僕の後ろで剣を振り切った後で、短剣は弾けた勢いで回転しながら高く飛び上がっていた。

「……い、いつの間に……」

 僕が唖然としていると、飛んでいた短剣がギール君の足元に転がり落ちた。

「す、すごいよギール君! 動きが全く見えなかった……」

「……」

 僕が感激のあまり声を上げてギール君の下に駆け寄るが、ギール君の方は剣を振り切った体勢のまま固まって動かない。

「……ギール君?」

 僕が不思議に思って横からギール君の顔を覗き込むと、ギール君は身体どころか表情すら固まっていて微動だにしていなかった。

「……あ……が」

「……ど、どうしたの?」

 ガタガタと顎を震わせながら、つたない口調でギール君が口を開く。何か言いたそうにしているが、傍で聞いている僕にも何を言っているか分からない。

「や……やりす、ぎた……ぐ、うご……けな、い……」

「う……動けないって、もしかしてスキルのせいで!?」

 ギール君は僕の質問に、首を上下にガクガクを震わせて同意する。そしてギリギリの姿勢で保たれていたギール君の身体が固まったままの姿勢で倒れ込んだ。

「ぎ、ギール君!?」

 全身が微振動したまま奇妙な格好で地面に倒れ込んだギール君は、その後駆けつけたミナちゃんとガイダールさんの介抱によって直ぐに訓練を再開出来る程度に回復された。

〇おまけ「ダルタルマのギフト」

「そういえば、ダルタルマ君のギフトは何?」

 ギール君の回復を待っている間、僕はふと気になったのでダルタルマ君に聞いてみた。

「あぁ、俺のギフトは軸回転(フルターン)だ! 身体のどっかを軸に高速回転が出来る技能スキルだ!」

 ダルタルマ君は自信満々に、模擬戦用の短剣を掌に乗せて高々と掲げて高速で回転させる。

「なんか……まるで大道芸だね」

 僕は他に思いつく言葉がなく、見たままの率直な感想を述べた。

「大道芸じゃねぇ、ギフトの力だ! この回転力を使えば、強力な攻撃や防御になるんだぞ!」

「そうか……ギフトの力で剣や盾を回転させるんだね」

 そう考えると、使い方次第でとても役に立つギフトだ。どんな武具でも回転出来るなら武具を選ばず戦う事だって出来るし、戦闘以外でも色々と使い道はありそうだ。

「……やっぱり、大道芸はやらないの?」

「やらねぇよ!」

 言われ慣れているのか、ダルタルマ君は食い気味で僕の提案を却下した。

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