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第四十四走「この先も不安ですが、頑張りたいと思います」

◯前回までのあらすじ

 ごろつき捕縛作戦が成功し、ごろつき達を兵団に引き渡す事に成功したコニー。しかしまだ、ごろつき達の裏にいる黒幕については謎のままだった。そんな中、兵団のガイダールからごろつきに関する情報があると聞かされ、コニーとグルタは話を聞くため兵団基地へと向かう。

 ガイダールさんに言われて、僕とグルタさんは兵団基地の中までついて来た。

「……それで、ガイダールさん。ごろつき達の事について、何が分かったんですか?」

「あぁ、もうすぐ分かる」

 ここに来るまでにこうして何度か聞いてみたけど、ガイダールさんは特に何も教えてくれない。ここまで話さないとなると、余程外では話せない内容なのだろうか。

「待たせたな、連れて来たぞ」

「えっ……?」

 ガイダールさんは事務室の扉を開けて中に入ると、部屋の中に向かって話しかける。

「コニー君、お久しぶりですね」

「あっ!」

 誰なのかとガイダールさんの横から顔を出すと、部屋の奥に見覚えのある顔が見えて、わざわざ兵団基地まで連れて来られた意味を理解する。

「お久しぶりです、ブライアリさん。元気にしてましたか?」

 兵団で訓練していた時、座学でよくお世話になっていたブライアリさんとの再会に、僕はたまらずブライアリさんの下へ駆け寄る。兵団を離れてから顔を合わせてなかったから、会うのは三月ぶりくらいだろうか。

「私の方から出向きたかったのですが、何分忙しい身でして……。それもこれも、そこにいる奔放な上司のせいですが……」

 ブライアリさんは文句を言いながら、僕の後ろに視線を送る。当人のガイダールさんは、何の事かといった様子で、まるで反省の色が見えない。もしかして、これまでガイダールさんが請け負うって言ってた仕事って、全部ブライアリさんが処理してたんじゃないだろうか。

「……すいません」

 何となく僕もブライアリさんの負担になってるかもしれないと思い、申し訳なさに頭が下がる。

「気にしないでいいですよ。別にコニー君が悪い訳じゃないんですから……」

 それでも僕に責任はないと言ってくれるブライアリさんに、僕はさらに頭が上がらなくなる。

「それで、例のごろつき達の件ですが……。結果から言うと、連中は中央大国から来ている可能性が高いです」

「中央大国から……?」

「コニー君が以前、ごろつきから回収した武具の出所を確認した所、中央で流通している武具だと判明しました。流通量がそれなりに多い武具だったため、残念ながら何処から入手したかまでは特定できませんでした」

「そうですか……」

 それとなくフロンの人間と雰囲気が違うと思っていたけど、中央から来ていた人達だったんだ。でもそれなら、犯罪者ながら上等な武具を揃えたり、魔石の扱いを知っているのも頷ける。

「それと、指名手配されていた元冒険者のごろつきが、冒険者時代に中央を拠点としていて、手配の発行元が中央大国からというのも、連中が中央から来ている裏付けになってます。手配内容の詳細は、ギルド内外での素行の悪さ、及び依頼の達成申請に不備がある件が多数。そして最終的に、昇級の申請の際に虚偽の申告をしていた事が、ギルド追放と指名手配の決め手となったそうです」

「な、何というか……色々と悪い事してたんですね……」

 ブライアリさんから挙げられる悪行の数々に、僕はうまく言葉が出てこなかった。始めて見た時の印象から比べると、思ったほど悪い事をしてなくて少し驚いた。

「詳細な情報については、ギルドに報告書を投げておきます。元々、ギルド側で指名手配されていた人物ですからね。ですが結果として、分かった事は中央から来た事だけで、決定的な情報は得られませんでしたね。ギルドも中央各所の支部に通達はするかと思いますが、これだけの情報では連中の裏にいる人物まで調査が及ぶまで、しばらく時間がかかりそうですね」

「そう、ですか……」

 僕でも分かるくらい気が遠くなる話に、ブライアリさんと同じ様に肩を落とす。

「……コニーさん、あまり気を落とさないで下さい」

「グルタさん……」

 一番がっかりしているはずのグルタよさんに励まされて、僕は余計に気分が落ち込んでしまう。こんな事じゃ、グルタさんが安心できる未来なんて、一生訪れないかもしれない。

「あの……グルタさんを狙う人達の事って、今後新しい情報は入るんでしょうか?」

「そうですね……望みは薄いですが、中央の支部ギルドも調査の手を回すでしょうから、中央でならいずれは情報が得られるかもしれません」

「そうですか……」

 ブライアリさんのあまりはっきりしない言い回しからして、本当に情報が得られる可能性は低いんだろう。他に手掛かりでもあればいいと思ったけど、これ以上はどうにもならないのかもしれない。

「……分かりました、有難うございます」

 少ないながらも貴重な情報を教えてくれたブライアリさんにお礼を言ってから、僕は部屋を出て兵団基地を後にした。


◇◇◇◇◇◇


 ブライアリさんからの報告を受けてから、数日が経った。長かった任務が全て片付いて、グルタさんの護衛も一段落ついて、僕はしばらくぶりの日常に戻っていた。いつもの様に外界での依頼を終えた僕は、ギルドの受付に足を運ぶ。

「お早うございます」

「おっ、お疲れー」

 受付にいるクルシャさんに挨拶すると、クルシャさんは軽い調子で返事をする。

「今日も早いねー。それじゃ、今日の成果はどんなもんかな?」

「はい、お願いします!」

 クルシャさんに促されるままに、僕は採取してきた物が詰まった袋をカウンターに置いた。

「うん……今日も悪くない成果だね。……おっ、藍団子(あいだんご)じゃん。よく見つけたねー」

 今までずっと見つからなかった藍団子(あいだんご)を目にして、クルシャさんが珍しく素直にほめてくれる。

「はい! ……まぁ、たまたまなんですけど」

「そんなのいいじゃん、見つけられたんだから。確か、藍団子(あいだんご)の依頼はまだ残ってたはずだから、後で依頼完了の処理しとくわね」

「お願いします!」

 未受領だった藍団子(あいだんご)の依頼も含めて、クルシャさんはテキパキと採取物の鑑定と選別を進める。普段は真面目とは程遠いくらいの態度だけど、仕事をしている時は本当に手際がいい。

「……終わりっと。ざっと、7000リールくらいかな。やってる事は初心者と変わらないのに、稼ぎはすっかり一人前になって……」

「あの……それ、誉めてるんですか?」

 クルシャさんは感慨深そうに呟いているけど、聞きようによっては、初心者向けの依頼しかこなせないと聞こえる。

「そんなの、どっちだっていいじゃん。それじゃ、ちゃんと精算するわね」

 それとなく誤魔化されてしまったけど、クルシャさんの冗談だと分かり切っていたので、それ以上追求しようとは思わなかった。

「……はい、これが今日の報酬」

「有難うございます!」

 受け皿に乗せられた硬貨を確認して、僕は受け皿から報酬を丁寧に拾い上げる。

「……それと、もう一つ」

 僕が報酬を全て受け取るのを見届けてから、クルシャさんはカウンターから身を乗り出してこちらに寄って来る。

「な、何ですか……?」

 クルシャさんの思わせぶりな表情を見て、またからかおうとしているんじゃないかと思った僕は、半信半疑で聞き返す。

「……昇格、おめでとう」

「……っ!?」

 なんて言われるかと身構えていた所に、思いもよらない報せを受けた僕は、驚きと戸惑いでどう反応したらいいのか分からなくなってしまった。

「……どうしたの、嬉しくない?」

 しばらく呆けていると、クルシャさんが不満そうにこちらを睨みつける。

「えっ!? あっ、いや……!」

「全く……これが聞きたくて、最近は昼までに依頼を終えてたんでしょ?」

「き、気づいてたんですか……?」

 クルシャさんに図星をつかれて、僕は驚きを隠せなかった。昇格が決まったとギルドから報告を受けてから、実際に昇格したランクを確定させるには手続きが色々と必要で、大体半日くらいはかかる。昇格の報告を受ける日が近づいてからは、その日にランクを確定させられる様に、ここ数日は昼前にギルドへ顔を出していたんだけど、クルシャさんには僕の意図が筒抜けだったみたいだ。

「ホント、あんたは分かりやすいわね」

「うぅ……」

 楽しそうにニヤニヤと笑いながらこちらを指差すクルシャさんに、返す言葉のない僕はただ俯いて恥ずかしさに耐えるしかなかった。

「……それじゃ、ギルド登録情報の更新するんでしょ?」

「は、はい……」

 クルシャさんも散々からかってようやく満足したのか、昇格完了のためのギルド登録情報の更新処理を始めてくれた。

「はい、まずはスキル鑑定ね。……つっても、最後に鑑定してからそんな経ってないから、あんま変わってなさそうだけど」

 クルシャさんはそう言いながらも、手順通りに更新処理を進めてくれる。僕は目を伏せたまま、カウンターに出された鑑定魔石に手を添える。

「……」

「……?」

 魔石の鑑定が始まってからしばらく経ったけど、クルシャさんは何も言ってくれない。そろそろ鑑定結果が出てるはずだけど、何か問題でも起きたのだろうか。

「……コニー。あんた……いつこんなスキル身につけたの?」

「……えっ?」

 クルシャさんのただならない声色に、僕は顔を上げ魔石に浮かび上がる文字を読む。いつもの見慣れたスキルの羅列をなぞっていると、一つだけ見慣れない内容のスキルが目に入る。

「……何、このスキル?」

 そこには『幻惑スキル』という、全く身に覚えのない謎のスキルが示されていた。

「……もしかしてあんた、このスキルの意味が分かんないの?」

「えっ……? それって、このげんわ……っ!?」

 状況が飲み込めず、クルシャさんに説明を求めようとしたら、何処からかけたたましい音がギルド中に響く。僕も周りにいる冒険者も、何が起きたのかと辺りを見回す。正面からの威圧的な視線を感じて向き直ると、クルシャさんが今までにないくらいの真剣な表情をしていた。

「コニー」

「は、はい……」

 声にも抑揚がなくなったクルシャさんから、恐怖すら感じてしまい、返事しようとしてうまく言葉が出なかった。

「……このスキルの事、軽々しく口にしない様に」

「す、すいません……」

 ここまでクルシャさんが厳格に注意するなんて、このスキルはかなり危ないものみたいだ。知らなかった事とはいえ、クルシャさんには申し訳ない事をしてしまった。

「それで……このスキル、何なんですか?」

「ホントに知らないんだ……。もうDランクにもなるのに、要注意のスキルを知らないなんて……」

 悩ましそうに呆れるクルシャさんに、その通りだと思った僕は返す言葉がなかった。

「……幻惑スキルってのは、スキルの中でも特に悪質なスキルが多い種類のスキルの一つで、犯罪なんかにもよく使われるスキルが多いの。幻惑スキルを持っているだけで、犯罪者予備軍とされるくらいにね」

「そっ!? ……そんなにですか?」

 クルシャさんの説明を聞いて、つい声を上げてしまいそうになる。周りに注目されてないか見回してから、クルシャさんに倣ってカウンターに寄って声を抑えて話す。

「スキルってさ、その人の才能次第で能力の伸びが違うでしょ。剣が得意なら剣のスキルを、魔術が得意なら魔術のスキルを、それぞれ得意なスキルを自然と覚えていくものだから……」

「幻惑スキルを覚えた人は、幻惑スキルの才能がある……」

 クルシャさんの話を聞いて、逃げる事が得意になった自分の事を思い返して、少し嫌な気持ちになりながらも納得してしまう。

「……とはいえ、幻惑スキルが全部曰く付きのスキルって訳でもないよ。でもギルドとしては、あまり面倒なスキルを抱えられても迷惑な訳だから、さっさと詳細な鑑定を受けていた方がいいね。あんたの幻惑スキルが有害なスキルじゃなければ、ギルドも下手な処罰はしないから」

「わ、分かりました……」

 クルシャさんの助言通り、更新処理が終わったらすぐにでも、大型鑑定魔石のある兵団基地に向かおう。それにしても、昇格を楽しみに早めに依頼を終わらせてたのに、新しく覚えたスキルに振り回される事になるなんて。ギルド情報の更新のために詳細鑑定もするつもりでいたけど、こんな形で受ける事になるなんて思わなかった。


◇◇◇◇◇◇


 ギルドで登録情報の更新を終えた僕は、その足で兵団基地を訪れていた。

「おっ、来たね」

 兵団基地の事務室に入ると、ブライアリさんが迎えてくれた。

「すいません、手間をかけさせてしまって……」

「構わないですよ。それに、ギルドから事情は聞いているからね。まさかコニー君に、あのスキルが発現したなんて……」

 幻惑スキルの事が広まらない様に、クルシャさんの計らいで鑑定の立会人は、信頼できる人に頼む事になった。ブライアリさんなら、僕も安心して鑑定の立会を任せられる。

「はい、僕も驚いてます。僕にそんな才能があるなんて、思いたくないですけど……」

「……とにかく、スキルの詳細を見ない事にはね」

「はい……」

 気が進まない僕を励ます様に、ブライアリさんは僕の背中を押して一緒に事務室を出る。少し前は鑑定に行くのが楽しみで仕方なかったのに、今日はどうしても足が重く感じる。 

「ガイダールさんには、ギルドと重要な会議があるって事にして、他の団員達と一緒に訓練広場で時間を潰してもらってるよ」

「そうですか……有難うございます」

 幻惑スキルの事を聞いて、鑑定の間は誰かに見られたりしない様、ブライアリさんが配慮してくれたみたいだ。ガイダールさんは兵団の訓練長で、色々とお世話になってるし頼りになる人だけど、連日酒場に入り浸りで酒癖が悪くて、おまけに口もそこまで固くない。こういう大事な秘密を話す相手としては、ガイダールさんはあまり頼りにならないので、ブライアリさんがいて本当に良かった。

「……さぁ、それじゃ見てみようか」

「はい……!」

 ブライアリさんと話している内に、大型鑑定魔石の前まで来た。ブライアリさんが見守る中、今までに感じた事のない緊張感に襲われながら、微かに震える手で鑑定魔石に触れた。

「……これは……」

 怖くて魔石から目を逸らしている僕の代わりに、ブライアリさんが魔石の鑑定結果を眺める。しかしブライアリさんの反応が薄く、どんな結果が出たのか分からなかった。

「……ど、どうですか?」

 僕は鑑定結果を見る前に、ブライアリさんの顔を窺いながら恐る恐る聞いてみた。

「……うん、取り敢えずは問題ないよ。恐らく、コニー君が考えている様な、危険なスキルは見当たらないよ」

「そ、そうですか……」

 ブライアリさんの見解を聞いて、肩の荷が降りた僕は大きく息をつく。

「……しかし、これはまた面白いものを覚えたね」

「えっ……?」

 安心したのも束の間、ブライアリさんの意味深な発言を聞いた僕は、反射的に鑑定結果の表示に目を通す。見慣れたスキルの詳細内容を読み飛ばしていると、ふと見た事のない内容が目に入った。他の内容は以前にも見た事があるから、これが幻惑スキルの正体みたいだ。

誘引(テンプティ)……? これが、幻惑スキルなんですか?」

「うん。私も情報としては知っていたけど、こうして目にするのは初めてだよ」

「ど、どういうスキルなんですか……?」

 見た感じは危ないスキルじゃなさそうだけど、それでも幻惑スキルの話を聞いたばかりの僕はまだ安心できなかった。

「そうだね……その前に、幻惑スキルについて少し詳しく話そうか」

「は、はい!」

 まるで僕の心情を察していたかの様に、ブライアリさんから解説してもらえる事になった。ブライアリさんから学ぶのは、いつぶりだろうか。

「幻惑スキルは、幻惑……つまるところ、相手を惑わす能力。相手の感覚を狂わせたり、存在しない幻を見せたりと、主な利用方法が相手を騙す事に繋がるから、幻惑スキルが危険視されてしまう原因になっているんだ。勿論、犯罪以外にも使い方はあるから、結局はスキルを持っている人次第ではあるけどね」

 最後の方の言葉は、何となくだけど僕の事を気にかけて出た様な気がする。確かに僕のギフトも、犯罪に利用できるスキルなのは始めから気づいていたからこそ、ギフトを授かった時に絶望したりもした。今でも他のギフトが欲しかったと思う時はあるけど、このギフトがあったからこその今の僕があると思ったら、このギフトの事が嫌だとは思わなくなった。

「そして幻惑スキルのほとんどは、大きく三つの使い方があるんだ。一つは、人を騙して犯罪に利用されるもの。もう一つは、魔物の討伐などの戦闘に利用されるもの。そして君の誘引(テンプティ)のスキルだけど、主な使い方は最後の利用方法になる訳だけど……」

「……な、何ですか?」

 ここまで淀みなく説明を続けていたブライアリさんが、ここで言葉を悩ませる。安心して聞いていた僕も、迷いを見せるブライアリさんの様子に不安が蘇る。

「……歓楽、だよ」

「……え?」

 ブライアリさんの言葉の意味が分からず、僕は首を捻る。

「……平たく言うなら、性的な利用方法だよ。幻惑スキルには魅了や誘惑、他にも精神に干渉するスキルが多く存在して、その中に色事に適したスキルがあるらしい」

「へっ!!?」

 ブライアリさんの絞り出す様な説明に、今までのブライアリさんの反応に納得がいった。それと同時に、新たに発現したスキルが予想の斜め上の内容だった事に、これまでの不安が一気に吹き飛ぶと共に、身体が異様な熱を帯びていくのを感じた。

「……で、誘引(テンプティ)のスキルはその中でも、強力な誘惑の効果があるスキルなんだ。周囲の人物を興奮させて、自分に注目を集める事ができる……というスキルだよ」

「は、はぁ……」

 ブライアリさんが親切に説明を続けてくれるけど、自分のスキルの正体が衝撃的過ぎて、ちゃんと話が聞けている気がしない。

「……一応、主な使い方は色街に立ち寄った人を娼館に勧誘するくらいで、犯罪に利用される様なスキルではなさそうかな。誘引(テンプティ)の能力は、効果が周囲の人物全員に作用するからね。それにスキルの出力を抑えてあまり興奮させなければ、ただ周りから注目されるだけのスキルだから、色街以外の商人とかが客引きに利用する事もあるんだ」

「そ、そうなんですか……」

 色事以外の使い道があると聞いて、少し落ち着きを取り戻した。色事のスキルだと初めに聞いて驚いてしまったけど、大事なのはそのスキルをどう使うかなんだ。それでも、色事に使われるスキルを持っていると思ったら、どうしても恥ずかしい気持ちが抑えられなかった。

「とりあえず、今回の鑑定結果では特に問題がなくて良かったよ。今後、また新たに発現するスキルには注意しないといけないけど、コニー君なら大丈夫だと思っているよ。それにもしかしたら、コニー君なりの誘引(テンプティ)の使い方を見つけ出せるかもしれないね」

「は……はい、有難うございます……!」

 ブライアリさんの励ましのおかげで、幻惑スキルの発現を少しは前向きに受け入れられる気がした。

「それじゃ、鑑定内容は私からギルドに伝えておくから、コニー君はギルドで最後の手続きを忘れずにね」

「は、はい……」

 ギルドにも鑑定内容が伝わると聞いて、励まされていた気分が再び落ち込む。鑑定内容をギルドが把握するのは当然の事だけど、知られたくない秘密が広まる感じがして、悶々とした気持ちが湧き上がる。


◇◇◇◇◇◇


「はぁ……」

 兵団基地での詳細鑑定が終わり、僕はギルドへ向かっていた。幻惑スキルのゴタゴタは片付いたけど、思わぬスキルを習得した事で、今の僕は頭がいっぱいだった。どうして僕が覚えるスキルは、こう扱いに悩むものばかりなんだろう。

「お帰りー」

 精神的に疲弊した僕には、このクルシャさんの気の抜けた挨拶が身に染みる。

「……ブフッ!」

 しかし次の瞬間、クルシャさんは背を向けて盛大に吹き出した。一瞬何かと思ったけど、肩を震わせて笑いを堪えるクルシャさんを見て、すぐに理由を察してしまった。恐らく、ブライアリさんの報告で僕が覚えた幻惑スキルの詳細を聞いて、可笑しくて堪らないんだろう。

「……お、お疲れ……大変、だった……クッ、フフッ……!」

 労いの言葉とは裏腹に、クルシャさんは口元を抑えて涙を浮かべている。僕が歓楽スキルを覚えた事が、そんなに面白いのだろうか。

「じ、じゃあ……詳細鑑定も無事終わったし、これで晴れて正式にDランクに昇格したね……」

「は、はい……」

 少しずつ落ち着きを取り戻し始めたクルシャさんは、ギルドの魔石をカウンターに出した。僕はギルド証を魔石にかざして、ギルド証のギルド登録情報を書き換える。いつもならクルシャさんがやってくれるけど、今のクルシャさんは笑いを堪えるのに精一杯で、ギルド証の更新処理すらできそうにないらしい。大事なギルド証の更新を、冒険者本人がやるのはどうかと思うけど、僕も今のクルシャさんにはあまり任せたくないと思った。

「……それで、どこであんなスキル覚えたの?」

「えっ?」

 完全に笑い尽くしたクルシャさんが、突然カウンターに乗り出して小声で質問してきた。しかし僕自身も、いつあんなスキルを身につけたのか、全く身に覚えがない。

「幻惑スキルみたいな特殊技能スキルは、何かきっかけがないと覚えるのが難しいんだけど……。まさかコニー、あんた……」

 クルシャさんは質問を繰り返していると、途中ではっとなり乗り出していた身体を引っ込める。

「いつの間に、そんな……。ずっと初心(うぶ)で可愛い子だと思ってたのに、成人して間もない内にだなんて……。そんな気配、今まで全く感じなかったけど……。……もしかして、グルタとももう……」

「……何を考えてるんですか?」

 一人で勝手に想像を膨らませるクルシャさんに、呆れてどう声をかけたらいいのか分からなかった。でもグルタさんの名前が聞こえて、これ以上は黙って見てられなかった僕は、つい思ってた事が口に出てしまった。

「いや、ゴメンゴメン。あたしだって、コニーにそこまでの度胸があると思ってないし。……でもさ、どうやって習得したのかは気にならない?」

 大分失礼な事を言われた気がしたけど、それ以上にクルシャさんの質問が気になった。今まで幻惑スキルの事でいっぱいで、どうやって幻惑スキルを覚えたのかは考えてなかった。

「先月ギルド情報を更新してから、今までに変わった事といえば……グルタの依頼を終えたとか? そういや、任務の途中で魔物に追われて、危なかったりもしたんだって?」

「そ、そうですね……」

 最近ギルドに報告された内容とはいえ、クルシャさんの口から流れる様に僕が関わった出来事が出てくるなんて、やはり仕事に関してはしっかりしている人だ。

「そんな事があったんなら、きっかけとしては十分そうだけど……あんた、一体何してたの?」

 クルシャさんが何やら訝しそうな目でこちらを見ているけど、今度は何を考えているのだろうか。

「い、いや、別に何も……。ただ必死に逃げ回っただけで、特別な事は……」

 クルシャさんの疑いを晴らそうとした途中、当時の事を思い返してふと気がついた事があった。

「あの時……魔物から逃げてたのは、パーティの皆から引き離そうとして……。それにグルタさんの依頼では、ごろつき達を引き留めようとして……。どっちも、僕に注意を向けさせるために、わざと囮になって……」

「ふーん……確かに、注意を引くって意味じゃ(おんな)じね」

 僕の独り言を聞いたクルシャさんは、あまり釈然としない様子だった。僕も理屈は分かるけど、それがどうして幻惑スキルなんて形で発現してしまったのかは、正直納得できてない。

「スキルの性能は経験によるものが強いけど、スキルの本質的な部分は本人の才能によるものが大きかったりするから……。やっぱりコニーって……」

「それじゃ、今日は有難うございました!」

 これ以上クルシャさんの話を聞きたくなくて、僕は無理矢理話を遮って受付を離れた。僕だって始めから分かっていた事だけど、認めたくなくて考えない様にしてたのに。クルシャさんの話で余計に意識してしまって、恥ずかしさで僕は家に着くまで顔を上げる事ができなかった。

〇おまけ「スキルの分類について」

 全てのスキルは、系統、種類、能力の三項目で分類される。

 系統は、スキルを原理的な側面で大別された分類で、魔術系統や技術系統といった一般的に習得が可能なスキルの他に、特別な才能を必要とする特殊技術系統などがある。

 種類は、系統で分けられたスキルを形態別でより細分化した分類で、主な利用目的などで分けられる。生活スキルなどの一般的なスキルから、身体強化、炎系魔術、戦術などの専門的なスキルなど、様々な分類がされる。

 能力は、スキルがもたらす効果そのものを表す分類で、種類で分けられたスキルの利用方法そのものともいえる分類である。

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