表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/48

第三十八走「決死の覚悟で、逃げてみせます」

〇前回までのあらすじ

 魔獣調査が進展した事で、大幅に調査方針を変えて外界に赴く魔獣調査パーティ第四班。しかし連日探索を繰り返すも目ぼしい成果が得られず、ギルドの定期報告会が目前まで迫っていた。そんなある日、兵団が正体不明の魔物の存在を探知し、第四班の調査区域を含む森の大規模な捜索を決行しようとしていた。ヒリアは魔獣を探す最後の機会と見て、兵団が動き出す前に可能な限り魔獣の調査を進める。それでも結局成果は得られず、兵団の魔物捜索が始まる前に撤退する事に。しかしその帰り際、コニーは幸か不幸か調査対象と思わしき魔獣と遭遇してしまい……。

 ついに調査対象と思われる魔獣を見つける事ができた。だけどそんな喜ばしい成果とは裏腹に、状況は最悪と言っても過言じゃなかった。魔獣の正体は身体の大きさを変えるウルフの特異種で、さらに身体の大きさに比例して魔力や身体能力も跳ね上がる。その強さは大型魔物の大きさとなれば、鉄壁と言えるガットツさんを真正面から一方的に蹂躙するほどの膂力だった。さらには隠形(ハイド)で気配を消しているはずの僕を、近距離とはいえ迷いなく捉えるほどに感覚が鋭い。僕が危険察知(アラート)で感知してから対面するまでの高い機動力も踏まえると、今の僕ではこのウルフに対して有効な手段が全く思いつかなかった。

「グルルルル……」

「あぁ……」

 じりじりと一歩ずつ迫って来るウルフに、僕は震える足で立ち尽くす。瞬く間に様々な出来事が起きたせいで、僕の頭が現実に思考が追いつかず混乱していた。

「グァッ!?」

 このままだとウルフに襲われると思った最中、ウルフの背後から槍が飛んで来た。槍はウルフの背中を掠めて、明後日の方へと飛んでいく。ウルフの気が逸れた事で、圧迫感が薄れた僕は何とか正気を取り戻す。

「……コニー……撤退、通達……」

「が、ガットツさん……っ!」

 槍を放り投げたガットツさんは、こちらに辛うじて聞こえるくらいの声を絞り出す。どうにかウルフの気を引こうと、唯一の武具である槍を捨ててまで力を振り絞ったみたいだ。

「グウウゥゥ……」

 一方のウルフは、槍で受けた傷自体はそこまで深くなさそうだったけど、それ以上に止めを刺したと思っていた人間からの不意打ちが気に障ったみたいだ。さっきまで僕に向けられていたはずの殺意が、瀕死寸前のガットツさんへ再び向けられる。

「くっ……うぅ……!」

 思惑通りウルフの注意を引いたガットツさんは、残された大盾を支えに立ち上がる。今なら僕だけ逃げて助かる可能性は高いけど、このままだとガットツさんは死んでしまう。先に送った警戒の信号からまだ時間が経ってないから、今にも倒れそうなガットツさんではヒリアさん達の応援が来るまで耐えるのも難しい。仮に応援が間に合ったとしても、ガットツさん以上の防御力を持つ人がいないから、全員が揃ったとしても被害は避けられない。

「……っ、ガットツさん!」

 この場は逃げる事が最善だと分かっていながらも、ガットツさんの事を諦めきれなかった僕は意を決して賭けに出る。僕は懐に大事にしまっていた物を取り出すと、勢いよく地面へと叩きつける。

「ギャウッ!?」

 叩きつけられた物が地面で破れて破裂すると、凄まじい閃光が辺りを包む。突然の事にウルフは対応が遅れて、閃光を浴びて目をくらませる。ギール君からお守り代わりに預かった物で、どんな物かは詳しく分からなかったけど、見た目の作りと僕に渡した意図から逃走に使える道具だとは思っていた。それにしてもまさかこんな強力な閃光弾だったなんて、いつの間にギール君はこんな物を用意していたのか知らないけど、おかげでガットツさんを救う事ができるかもしれない。

「……よし!」

 閃光が収まり、ウルフが怯んでいるのを確認すると、僕はウルフと適度な距離を取る。このままウルフが回復する前に僕は逃げられるだろうけど、それだとガットツさんを助ける事はできない。

「ガウウゥゥ……」

 間もなくウルフが立ち直り、何が起きたのかと辺りを見回す。そして一番に視界に入った僕を見て、僕の仕業だと察したウルフがこちらを睨む。これでまたウルフの注意がガットツさんから僕に移った。

「……っ!」

 ウルフがこちらに気づくと同時に、僕は背を向けて走り出した。さっきまでのウルフの行動を見た感じ、ウルフは瀕死のガットツさんよりも、謎の威嚇手段を持つ僕を狙うはずだ。本当はもう閃光玉はないけど、ウルフがその事実を知らない限り、もう戦えないだろうガットツさんより僕を優先したくなるはず。

「……グアアァァッ!」

 予想通り、ウルフは僕を追って駆け出した。ここからはなるべくガットツさんからウルフを引き離して、ウルフに追い付かれない様に逃げ回る。うまくいけばヒリアさん達が全員集まってから、ウルフを連れた僕と合流して対処してもらえるかもしれない。

「ガゥ!」

「うわっ!?」

 逃げながら今後の方針を考えていると、いつの間にか真後ろまで追いついたウルフが乱暴に爪を振り下ろす。周りの木々が邪魔をして直撃は免れたけど、前足を振り抜いた風圧だけで吹き飛びそうだった。

「くっ……おおぉぉっ!」

 僕はふらついた身体に気合を入れ直して、全力で逃げる事だけを考えて走り出す。ここで倒れたら、僕もガットツさんも共倒れになってしまう。

「グゥ、ウワゥ!」

「わっ……だっ……!」

 枝を折り木々に身体を擦りながら、ウルフはでたらめに飛び掛かって来る。僕は木の陰を利用して、どうにかウルフの真正面へ入らない様に蛇行しながら逃げる。それでもウルフが着地する度に起きる風圧に負けて、足が止まってしまいそうだ。

「ウウウゥゥ……」

「……ん?」

 何度も躱され続けて時間の無駄だと思ったのか、突然ウルフが足を止める。まだガットツさんとの距離が近かったので、僕はウルフの視界に入る程度で距離を離す。

「フウウゥゥ……」

 何をしているのかと見ていると、ウルフは深く息を吐いて怒気を抑えていた。本能のままに生きる魔物が、そんな理性のある行動をするなんて見た事なかったけど、それ以上に驚くべき事が起きていた。

「えっ……?」

 気を落ち着かせたウルフが、みるみる内に身体を縮めていく。そのままあっという間に、初めに見た中型ウルフの大きさまで縮んでしまった。身体の大きさを変えるのは、目の前で見ていたから分かってはいたけど、こんなにも自在に変化させるなんて思いもよらなかった。

「グアゥ!」

「痛っ!?」

 ウルフの変貌に驚いている隙に、ウルフが木々の合間を縫って飛び掛かる。襲われる寸前で反応して避けようとしたけど、ウルフの爪が肩を軽く引っ掻いた。

「ま、まずい……!」

 さっきまでは大型魔物と森の中という状況だったから、辛うじて無傷でウルフから逃げ回れたけど、今の大きさだとずっと逃げ回るのは難しい。大型の時ほどの破壊力はないけど、中型の大きさでは木を盾にしても簡単に回り込まれてしまう。

「ガゥ、ワゥッ!」

「うっ……いっ……!」

 何か打開策はないかと考えながら逃げるけど、絶え間なく襲い掛かるウルフに翻弄されて、思考もままならない。次第にウルフも僕が木を盾にする動きに慣れてきて、僕への攻撃が徐々に的確になっていく。

「う、おぉ……限界疾走(オーバースプリント)!!」

 このままだと消耗するばかりだと思った僕は、ひとまず距離を取ろうとスキルで走り抜ける。限界疾走(オーバースプリント)は多用すると動けなくなるけど、ここは出し惜しみしている場合じゃない。それに中型まで縮んだウルフの動きは、大型の時と比べて厄介ではあるけど身体能力自体は低くなって、最高速度はそこまで早くない。このまま距離を離せば、ウルフは追いつけないはずだ。

「グ……ガアアァァッ!」

「うがっ……!?」

 しかし距離を取ったと思ったのも束の間、一瞬にして巨大化したウルフが猛突進してきた。逃げるのに必死だった僕は避ける事ができず、突進の風圧で勢いよく吹っ飛ばされる。ウルフが直線上の木々を避けていたから直撃はしなかったものの、不意打ちで吹き飛ばされた僕は受け身を取り切れず、身体を何度も地面に打ち付けられる。

「うぅ……」

 何とか意識は失わず、まだ走れる体力も残っている。でもこれでもう、ウルフに対抗できるスキルがなくなってしまった。

「ガウウゥゥ……」

 僕と肉薄する距離まで近づいたウルフは、再び怒気を静めて身体を縮めていた。こんなにも柔軟に形態変化を駆使するウルフが相手じゃ、逃げ回って時間を稼ごうだなんてのが無謀だったのかもしれない。

「くっ……!」

 それでもせめてガットツさんの助かる可能性を少しでも上げようと、僕は一心不乱に駆け出した。ついさっき失敗したばかりの限界疾走(オーバースプリント)での逃走だけど、これでガットツさんとの距離を一歩でも多く離したい。

「グアゥッ!」

「うっ……!」

 しかしそんな僕の思惑を見透かしていたかの様に、ウルフは僕の走り出しの隙を狙って背後から襲う。

「うげっ!」

 思い切り不意を突かれた僕は、走り出しの勢いも相まって派手に突き飛ばされる。大した怪我はなかったけど、早く起き上がらないとまた直ぐに襲われる。

「ガウゥッ!」

「うわっ!」

 思った通りすぐさま飛び掛かって来たウルフを、身体を転がして紙一重で躱す。今のはうまく避けられたけど、次が来る前に態勢を立て直さないと。

「ガッ!」

「くぅ……っ!」

 立ち上がりこそはしたものの、今度の突進は避けきれずにウルフの爪が腹を掠めた。痛みに膝を崩してしまいそうになるのを堪えながら、今しかないと思った僕は脇目も降らずに走り出す。

「ガッ……ガゥ……!」

「うっ……ぐっ……」

 せめて直撃は避けようと木々の合間を縫って走るけど、ウルフは少しずつ確実に僕の体力を削っていく。僕の足が重くなっていくのにつれて、ウルフの攻撃の精度が上がり、さらに体力を消耗していく。やがてウルフとの距離を取るのもままならなくなった僕は、力尽きる様に地面を転がりながら倒れた。

「はぁ……はぁっ……」

「グウウゥゥ……!」

 打つ手がなくなり、体力も気力もほとんどなくなった僕は、巨大化していくウルフを茫然と見つめていた。逃げ切る事は叶わなかったけど、これでガットツさんが助かるのなら、少しは役に立てたと言えるだろうか。

「ッ……!」

「……?」

 最早抵抗の意思のない僕を見下ろしていたウルフが、突然明後日の方向へ視線を向ける。

「……っ!?」

 僕も気になって周囲の気配を確認すると、ガットツさんの近くに誰かがいる。何かと思いさらに集中して気配を探ると、気配の正体がジビターさんだと分かった。どうやら応援に向かっていたジビターさんが来て、倒れているガットツさんを見つけてくれたみたいだ。

「……っ!」

 思ったよりもガットツさんとの距離が稼げていなかったのか、ジビターさんが何かを叫んでるのが微かに聞こえる。この距離感だと、巨大化したウルフの視界にも入っているのかもしれない。

「ウウウゥゥ……」

 敵が増えたと思ったのか、ウルフがジビターさん達の方へと向き直る。これまでのウルフの思考なら、瀕死の僕よりもジビターさんを優先して襲いかねない。

「……っ!」

 このまま行かせたらガットツさんとジビターさんの身が危ないと思った僕は、咄嗟に採取用のナイフを引き抜いてウルフへ向かって放り投げる。

「ガゥッ!?」

 ガットツさんに受けた傷を思い出したのか、ウルフは思った以上に驚いた様子でこちらに振り返る。僕の投擲では傷一つつけられなかったけど、ウルフの注意は完全に僕へと戻っていた。

「……こ、来い! 僕が相手だ!」

 僕は弱弱しく立ち上がりながら、精一杯の見栄を張ってウルフの注意を僕へと向けた。ここは僕が何としてもウルフを引き付けないと、ガットツさんやジビターさんだけでなく、下手をしたら後から応援に来るパーティ全員の身が危ない。それなら僕一人が犠牲になる覚悟で、正面から戦うつもりで食らいついてやる。

「ガウッ!」

 今にも牙を剥きそうな僕の気迫に呼応したのか、ウルフが大振りな一撃を振り抜く。見るからに隙だらけな攻撃だったけど、攻撃手段のない僕はただ軽く身を翻して、ウルフの渾身の一撃を躱した。

「ウウウゥゥ……」

 あまりに動じない僕を不思議に思ったのか、ウルフは一瞬僕を見て固まった。

「グアアゥゥッ!」

 しかし動きを止めたのは一瞬で、ウルフは続いて爪を横に振り抜く。流石に一歩も動かずに避けるのは無理があったので、今度は軽く後ろに飛び退いて逃れる。さらに振り抜かれた時の風圧を利用して、ウルフとの距離を開ける。

「ガウゥ……?」

「ほら、こっちだ!」

 大振りの一撃で僕を見失っていたウルフに、僕は手を叩いて自ら位置を知らせる。

「ガアアァァ!」

「そうそう、こっちだっ……よっ!」

 大きく飛び上がって襲い掛かるウルフに、僕も木を蹴って飛び回りながら逃げていく。時折、爪に掛かりそうになったり、牙に捕らわれそうになりながらも、全ての攻撃を寸での所で躱していく。

「ウウウゥゥ……」

 このままでは埒が明かないと思ったのか、ウルフは再び気を静めて身体を縮めていく。

「ガッ!」

「うわっ!?」

 中型まで身体を縮めてから、ウルフは再び僕へ向かって飛び掛かる。しかも今度のウルフは大型の時みたいに僕へ真っ直ぐ突っ込まず、しっかりと僕の後を追いながら攻撃の機会を窺っている。

「ガゥッ!」

 そして僕が気から飛び降りて着地した所で、ウルフは速度を上げて襲い掛かる。

「おわっ!?」

 しかし着地に失敗した僕が前へ転がり、ウルフの狙い澄ました一撃は空振りに終わる。

「あ、危な……かった……」

 着地に失敗した事で運良く助かった僕は、驚きのあまり息を呑みながら幸運に感謝した。

「ウゥゥ……グァッ!」

 完全に捉えたはずの攻撃が躱されたウルフは、怒りにその身を膨らませながら、僕へ幾度となく襲い掛かる。

「はっ、とっ……!」

 しかし大型の脅威に慣れてしまった僕にとって、中型状態のウルフの動きに対応するのは、今となってはそう難しい事ではなかった。

「ウウウゥゥ……」

「はぁ……はぁっ……」

 ただ一つ問題なのは、避けるだけで反撃の手段がない事だった。それにいくらウルフの動きを見切ったとはいえ、このままだと僕の体力が底をついてしまう。ウルフの方も疲れが見え始めているけど、向こうが仕掛ける側である以上、この場の主導権はウルフにある。時間が経てば経つほど、ウルフに有利な状況に傾いていく。それに可能なら、このままウルフを逃がさずに討伐までできないかと考えていた。そうなると僕に有効な攻撃手段はないから、どうにかウルフの気を引きつけ続けながら、ウルフへの攻撃手段を探さないと。

「ウアアァァァッ!」

 一際大きな咆哮を上げながら、ウルフが今までで一番の成長を見せる。あまりの大きさに、立っているだけで周りの木を掻き分ける様に身体を擦り付けている。

「ッガアアアアァァァーーッ!」

 ウルフは再び大きな怒号を上げて、僕に覆いかぶさる様に飛び上がる。

「くっ……!」

 僕が危険を感じて、ウルフの飛び上がりと同時に後ろへ大きく飛び退く。ウルフが豪快な着地すると共に、足元から周りに強烈な衝撃と風圧が広がる。こんな地面が割れそうな破壊力の攻撃じゃ、直撃はおろか衝撃でも一撃食らえばおしまいだ。幸いさっきの大型の時よりも動きが大雑把になっているから、動き出しを見極めれば回避は十分間に合いそうだ。

「ガウアアアアァァァーーッ!」

「うぉっ!?」

 次にウルフが爪を横に振り抜くのを、僕は身体を地に伏せて逃れる。背後で悲鳴の様な破壊音がして振り返ると、丈夫なはずの黒針樹(こくしんじゅ)が半分ほど抉れて、今にも倒れそうになっている。

「これは……っ!」

 目の前の光景に嫌な予感がした僕は、考えるよりも先に足が動き出していた。今直ぐウルフから離れないと、逃げる機会を失ってしまうかもしれない。

「ガウオオォォォーーッ!」

 逃げ出した僕を追って、ウルフが黒針樹(こくしんじゅ)を力で押しのけながら強引に森を突き進む。周りの黒針樹(こくしんじゅ)がけたたましい音を上げながら、自重を支えきれずゆっくりと倒れていく。まさかとは思ったけど、大型の状態で黒針樹(こくしんじゅ)の森を無理矢理突っ切るなんて、出鱈目にもほどがある。一応黒針樹(こくしんじゅ)が邪魔をして速度は落ちているみたいだけど、それでも逃げる僕に追いすがる勢いで突っ込んで来る。

「くっ……!」

 悪い予感が当たってしまった僕は、逃げる判断が遅れた事を後悔していた。しかしウルフを怒らせてしまった以上、ウルフが落ち着くまではこのまま逃げ続けるしかない。

「ガアアウアァァァーーッ!」

「うわっ!」

 僕を射程範囲に捉えたウルフが、力任せに爪を振り回す。周りの木々を抉りながら放たれた攻撃に巻き込まれそうになった僕は、足を滑らせて体勢を大きく崩してしまう。

「あ、危ない……!」

 運良く窪んだ位置に転がり込んだので、ウルフの出鱈目な攻撃をやり過ごす事ができた。でもこんな攻撃を何度も撃たれたら、その内致命傷を負ってしまう。

「早く逃げないとっ……!」

 危機感を煽られた僕は飛び起きて、再びウルフとの距離を取る。ウルフをどうするかまだ決められてないけど、今は全力で逃げる事に徹してないと、また隙を付かれて襲われる。とりあえずこれ以上被害が出ない様に、街や外界にある施設には近づかない様にしないと。

「ガアアゥ、ガウオゥッ!」

「うっ……ぐっ……!」

 またウルフとの追いかけっこが始まり、全力で逃げる僕をウルフは暴れ狂いながら追う。ウルフは隙あらば僕へ向けて暴力的な歯牙を振るい、その度に僕は初動を見切って躱したり、木の陰で風圧ごとやり過ごしたりと、あらゆる手段で回避する。それでも全ての攻撃を完璧には回避しきれず、飛び散る木片や小石を何度も受け続けて、小さい傷を増やしながら徐々に消耗していった。

「グワアゥゥッ!」

「がはっ!」

 最後には疲労と傷の痛みによろめいた所で、ウルフの豪快な空振りの風圧を食らって吹き飛ばされた。地面に叩きつけられた衝撃で身体が動かなくなり、次第に意識も薄れ始める。

「う……あ……」

 焦点の合わないまま顔を上げ、目の前が光で包まれた次の瞬間、僕の意識は完全に途絶えた。


◇◇◇◇◇◇


「……」

 今までの出来事が嘘の様に、穏やかな暗闇の中に僕は身を預けていた。あれからどれだけの時間が経ったのか、今の僕には時間の感覚もよく分からない。それに身体中に痛みが走っていたはずなのに、今は気持ちの良い空間に身を包まれているみたいだった。

「……う……」

 あまりの心地良さに、今になって自分が気を失った事を思い出して、頭の靄が少しずつはっきりしていく。確か僕は、ウルフに追いかけられていて、その途中でウルフに吹き飛ばされて倒れたはず。

「……うぅ……」

 ついさっきまで生死を分ける状況にいたはずなのに、こんなにも気が休まるなんて。僕は一体、今何処にいるんだろう。

「コニーさん……!」

「……あ……」

 頭の中を疑問が渦巻き、意識が完全に戻って目を開けると、そこには心配そうに涙を浮かべるグルタさんの顔があった。

〇おまけ「魔物生態情報:アンガーウルフ」

危険度ランク:D以上

種類:不定型魔獣、ウルフ種(特異種)

主食:雑食(主に肉食)

 大陸全土に生息するアイソーウルフの特異種であり、感情の起伏により身体の大きさや身体能力、魔力までもを変質させる、珍しい変異能力を持つ魔物。能力の特性上、感情の制御が必要なためか、本能的な性質が強い魔獣でありながら、理性的な一面を持つ珍しい魔獣でもある。その怒りによって自らを鼓舞する様に戦う姿を聞いた話から、フロンのギルドからアンガーウルフと名付けられる。

 感情により魔力や身体能力が異なるため、アンガーウルフの正確な危険度の推定は難しいが、コニーと対峙したアンガーウルフは、激情に身を任せた事でBランク魔物並の魔力まで成長した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ