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第三十六走「緊急招集に、新たな対応が必要になりました」

〇前回までのあらすじ

 調査任務の一環で探知魔具の設置をした魔獣調査パーティ第四班。その後周辺調査に戻ったコニーは、同じく探知魔具を設置するため外界に出ていたギールと出会う。そこでコニーはギールが正式に兵団員になった事を知り、さらにギールが小隊の隊長に任命されていた事に驚愕する。同年代にして自分よりも躍進するギールを称賛すると共に、自分もいずれは同じくらい立派になろうとコニーは心に誓った。

 探知魔具の設置からしばらく経った頃、僕達はパーティ皆で揃ってギルドに来ていた。ギルドから召集を受けて来たけど、どうやら他にも召集をかけていたみたいで、沢山の冒険者が集まっている。顔ぶれからして僕達と同じ任務を受けている冒険者が集められているけど、もうすぐ定期報告会もあるのに何のために集めたんだろう。

「……いつもより集まりが悪いな。緊急で集めたし、多少は仕方ねぇか……」

 ギルドの思惑に考えを巡らせていると、ギルド支部長のサイダラさんが即席の壇上に上がっていた。

「あー……これから魔獣調査任務における緊急通達を行う。近くに定期報告会が控えているんだが、早急に伝えておきたい事があったんで、こうして緊急招集をする事になった」

 いつもの様に気だるそうな表情で話を始めたサイダラさんだけど、その顔から僅かに迷いというか困った様な雰囲気を感じた。それだけ今回の緊急招集をする事になった内容が大変なものなのだろうか。

「先日から魔獣調査の範囲を近隣の街まで広げた訳だが、その近隣の街のいくつかから魔獣に関する情報が入って来た。報告内容は、例の魔獣の爪痕に関するものだ。元々一年ほど前に中央大国付近で初めて発見報告に始まり、フロン周辺で魔獣の爪痕が発見されたのを皮切りに、ここまで調査が発展してしまった訳だが、どうやら想定以上に魔獣の被害報告があったそうだ。元々ここが中央大国と西の大国の間に位置するという事で、調査も中央から西の間にある街周辺に絞っていたんだが、報告されている場所がかなりばらけている。しかも場所によっては、フロンで魔獣調査を始めるよりも前から被害報告自体はあったらしい……」

 今になって報告が上がる魔獣の情報に、サイダラさんは渋い顔をして頭を抱えていた。それにしても、今までは中央大国とフロンでの被害しか聞いてなかったから、あちこち飛び回っているにしては大人しい魔獣だと思っていたけど、そんな事はなかったみたいだ。

「被害のあった場所の多くが辺境の街で、各ギルド間での情報共有もそれほど密に行ってなかったのと、他の街では大型魔獣の爪痕もさほど珍しくなかった事もあって、発見されていても特に問題ないと判断されていたそうだ。フロンから派遣された冒険者達が(くだん)の魔獣の爪痕に酷似した痕跡を発見してから、他の街でも同様の痕跡がいくつもあった事が発覚した」

 報告書らしき紙束を見下ろしながら、サイダラさんは苦い顔で話を続ける。これまで目ぼしい進展がなかっただけに、そんな近くの情報を見逃していた事実が悔しいのかもしれない。

「現状はその痕跡が、本当に(くだん)の魔獣のものなのか精査している最中だ。結果は定期報告会までにはある程度出るはずだが、発見者の報告を聞く限り魔獣の痕跡と見てまず間違いないだろう。それと他にも見逃していないか、まだ発見報告がない近隣の街でも調査を入念に進める様、今も各ギルドへ催促している。これらの結果も定期報告会までに何とか間に合わせようと思っている。……少し遠回りにはなったが、これで少しは進展が望めそうだ」

 しかし暗い表情はそう長くは続かず、次の瞬間にはサイダラさんの冷静な雰囲気が戻っていた。

「……で、ここでお前達を緊急招集した本題についてだが、今後は未調査の区域を中心に調査して魔獣の痕跡の発見を急いでくれ。さらにすでに発見されているものを含めて、魔獣の痕跡の情報を解析してもらう。まぁ解析とは言っても、魔獣の痕跡の状態を観察して詳細に報告してもらうだけだが……。詳しい内容については、各パーティの調査担当者か指揮者に説明する」

 サイダラさんは僕達への指令を終えると、壇上を降りて奥の部屋へと消えて行った。

「……さて、では行って来ますね」

「はい、行ってらっしゃい」

 パーティで指揮と調査内容のまとめをしているヒリアさんは、自分が行くしかないといった様子でサイダラさんの後を追った。今更だけど、僕達のパーティはヒリアさんの負担が物凄く大きい気がする。


◇◇◇◇◇◇


 緊急招集のあった翌日、僕達のパーティはいつも通り調査任務に乗り出すため南門に集合した。

「皆さん集まりましたね。前日の緊急招集でもあった通り、今日から魔獣の痕跡の探索を行います。ただ目的は変わりますが、やる事は今までとそう変わりません。但し今回からは、特に魔獣の爪痕を重点的に探す事になります」

「爪痕を探すって……どうやって探すんですか?」

「それついては、ギルドから共有された情報を利用します。ですが詳細を説明する前に、先に済ませておく事があります」

 ヒリアさんはそう言って僕の疑問に答える前に、僕達を連れて以前発見した魔獣の爪痕の前まで来た。

「先にこの爪痕の解析をしてから、ついでに爪痕の探索方法も説明します」

 ヒリアさんは話しながら、爪痕の状態を観察しながら書記を取り出して何かを書き始めた。

「現在確認されている魔獣の爪痕は、フロン周辺に六箇所、フロン近隣の街周辺でそれらしい痕跡が九箇所報告されています。ギルドの報告書では、その全ての場所に共通点があるそうです。爪痕の周辺は比較的開けた場所になっている点と、爪痕のある場所はそれぞれが一定以上離れている点です」

 ヒリアさんは説明を続けつつ、爪痕を触れたり凝視したりして、つぶさに観察内容を書き残している。

「十箇所以上もある場所にある共通点ですから、魔獣が何かしらの目的で爪痕を残している推察できますが、現状では明確な理由まで判別できません。ですが魔獣が目的を持って痕跡を残していますから、裏を返せば痕跡の条件に基づいて調査を進めれば、今まで以上に調査の速度や質も上がります。さらには魔獣の正体についても、新たな情報が得られる可能性が上がるはずです」

 説明を終えると同時に、ヒリアさんは爪痕の観察も終えてこちらに振り返る。

「ですのでこれからは、魔獣の爪痕が発見されている場所から離れた区域の調査を主に進めていきます。現在私達の調査範囲で発見されている魔獣の爪痕は、ここにあるものとここから西にある兵団基地にあったものの二箇所。ギルドの情報では、各爪痕の距離は最低でもおよそ400ローグ(※約400m)はあるそうです」

 ヒリアさんが今後の調査方針を説明をしながら、懐から丸められた地図を出して目の前に広げる。

「私達がすでに調査済みの区域と、魔獣の爪痕が発見されている周辺を除いた、残りの未調査区域が今最も優先される調査対象区域になります。ある程度開けた場所を調査対象に絞り込めば、定期報告会までの数日で十分確認できる範囲かと思います」

 ヒリアさんの言う通り、そもそも残っている未調査区域が半分もないので、魔獣の爪痕を探す事だけに集中すればあまり時間はかからなそうだ。

「では早速行きましょうか。組分けをして調査をした方が効率的ですが、今日は調査方針を改めて共有するために、全員揃って調査を進めましょう」


◇◇◇◇◇◇


 魔獣の爪痕探索を始めてしばらく経った。途中で何度か爪痕がありそうな場所を見たお陰で、僕にも爪痕探索で見るべき要点が少しずつ感覚で分かってきた。

「……コニー君」

「はい、何ですか?」

 次の爪痕がありそうな場所を探している途中で、ふとヒリアさんから話しかけられた。

「確か君は、兵団基地にあった魔獣の爪痕を見ていましたよね」

「は、はい……」

「魔獣の襲撃については、どの程度把握していますか?」

「え、えっと……簡単な事情くらいは……」

 突然ヒリアさんから飛んで来た質問に、僕は意図が読めず首を傾げる。

「それでは、魔獣の襲撃があった時期はいつ頃か分かりますか?」

「は、はい。確か今から大体、六月ほど前だったって聞きました」

「そうですか……」

 ヒリアさんはそれだけ聞くと、含みのある間の後で軽く頷いた。ヒリアさんの中で何があったのか気になるけど、あまりに思い悩んでいる感じがして聞くに聞けない。

「……コニー君、これはあくまで私の所見である事を前提で聞いて下さい」

 しかししばらくの沈黙を挟んでから、ヒリアさんの方から意を決した表情で話し始めた。

「コニー君の聞いた話では、魔獣が兵団基地を襲撃したのが半年ほど前ですので、少なくとも魔獣が初めてフロンに来たのは半年以上前になります。そして約一年前に始めて魔獣の存在が確認されたのが、ここから東に位置する中央大国です。つまり魔獣は一年前から半年以内に、中央大国から西側へ向かって移動しています。これだけの情報を見れば、魔獣はここから西側にある西の大国付近にいる可能性が高いのですが、先ほど確認した魔獣の爪痕で少し事情が変わりました……」

 ここからが本題とばかりに、ヒリアさんは大きく息を吸い込んだ。

「爪痕の状態を確認した所、比較的新しく付けられたものだと分かりました。正確な時期は詳しく調べないと分かりませんが、おおよそ一月以内に付けられたもののはずです」

「えっ……?」

 ヒリアさんから告げられた情報を理解はできなかったけど、良くない事実だという事は直感した。

「発見された痕跡が中央大国、フロン周辺の順だったので、私も今まではそこまで警戒していませんでしたが、もし魔獣がフロン周辺に二度現れていたとしたら、魔獣の現在位置が思いもよらない場所の可能性もあります」

「思いもよらない場所……ですか?」

「はい。極端な事を言ってしまえば、今この場に現れても不思議じゃないでしょう」

「えぇっ!?」

 ヒリアさんから突然とんでもない事を言われて、僕は咄嗟に周囲を見回した。

「……そう驚かなくてもいいですよ、あくまで可能性の話ですから。それに私達には探知スキルがありますから、もし近くに魔獣がいれば分かりますよ」

「そ、そうでした……」

「ですが、魔獣の現在位置や今後の行動を予想できない以上、早急に爪痕の探索を進めるべきですね」

「そうですね……」

 一度冗談を挟みながらも、ヒリアさんの表情は重苦しい雰囲気を漂わせていた。それだけ緊迫した状況だと僕にも分かるくらいだ。

「……あの、そんな大変な事が分かったんだったら、皆にも話した方がいいんじゃないですか?」

「えぇ、ちゃんと伝えるつもりです。ですが直ぐに伝える必要はないですから、今は調査に集中しましょう」

「そう、ですね……。でもそれなら、どうして僕に話したんですか?」

「兵団基地にあった、魔獣の爪痕について聞いたついで……というだけでもありませんね。万が一魔獣と遭遇する事を考えた時、索敵役のコニー君にも知っておいてもらった方が、遭遇した場合に何かと有利だと思いまして」

「そういう事ですか……」

 確かに僕が何も知らずに魔獣と遭遇してしまったら、うまく対処できる自信がない。ただ魔獣がいるかもしれないと分かっていても、僕にできる事があるとは思えないけど。

「……おっと、ここもそれなりに開けていますね。皆さん、あちらも探索しますよ」

 ヒリアさんがまた探索対象となる場所を探知して、皆を目的地に誘導する。何気なく話していたヒリアさんだけど、僕は何故か言い様のない不安に駆られていた。その後日が暮れるまで爪痕探索を行ったけど、その日は特に新しい成果は得られなかった。


◇◇◇◇◇◇


 調査方針を爪痕探索に切り替えた次の日、僕達はパーティで揃って再び爪痕探索のために外界へと出ていた。

「……さて、本日も爪痕の探索を始めましょう」

 ヒリアさんの少し気合いの入った挨拶から、魔獣の爪痕探索が始まった。

「今日は今までとは少し形を変えた陣形で、調査を進めようと思います。まずはお二人にこちらをお渡しします」

 早速調査に乗り出すかと思った所で、ヒリアさんが僕とガウンさんに小さな魔石を手渡した。

「これって……」

「はい、通信魔石です。今回の調査で重要な役割を持ちますので、肌身離さず持っていて下さい」

「は、はい……」

 今まで一度も扱った事のない魔石を受け取ったと自覚した瞬間、魔石を握る手に汗が滲む。

「昨日解散前に皆さんに説明した通り、現在魔獣の所在が不明な状況です。そのため今までの組分けでの調査では、少なからず危険が及ぶ可能性があります。ですので今後の調査は、魔石での情報共有を利用した陣形を組みます」

 ヒリアさんは説明を始めながら、周辺の地図を取り出して見せた。

「まず今後の調査方針は、こちらに記した順路に沿って進行します。そして調査の際の陣形ですが、組分けした三組を一定の間隔に配置した形を取ります」

 さらに説明を続けながら、ヒリアさんは陣形が描かれた紙を広げる。

「陣形の配置は、私を中心に左右へ展開させます。魔力による探知で周辺の地形を把握できる私が、探知範囲内の探索対象を絞り出し、左右には索敵能力のあるコニー君とガウンさんがそれぞれ私の探知範囲の端について、私の探知範囲外の索敵と目視での探索対象の確認をお願いします」

「は、はいっ……!」

「了解!」

「そしてお二人は何かあった場合に、お渡しした通信魔石で連絡して下さい。通信魔石は三つありますが、青の魔石は招集、黄の魔石は危険通知、赤の魔石は撤退と使い分けて下さい。招集は主に探索対象等の発見や、緊急時以外で伝える事がある場合に。危険通知は魔物を探知または接敵した場合に。撤退は(くだん)の魔獣を含め対処が困難な状況に陥った場合に。それぞれ対応する魔石に魔力を流せば、私が持つ通信魔石に信号が送られます」

 ヒリアさんは対になる通信魔石を取り出して、二つほど手に握って魔力を流す。ヒリアさんが魔力を流した魔石がそれぞれ、僕とガウンさんが持つ魔石と結びつく様に淡い光で繋がった。

「この様に魔力を流せば、送信者の魔力が続く限り、お互いのいる方角が分かります。コニー君とガウンさん、どちらかが魔石で連絡をした時は、私の方からもう一方へ魔石で連絡します。私から連絡を受けた場合は、魔石の標を頼りに合流を優先して下さい。もしほぼ同時にお二人から連絡があった場合は、私からも同じ魔石に魔力を込めますと、通常よりも強い信号が送られますので、その時は私の方へ集合して下さい」

「強い信号……」

 ヒリアさんの説明を聞いた僕は、試しに光っている魔石に魔力を込める。すると魔力が込められた魔石の輝きが増して、握っている手から光が溢れ出した。ヒリアさんの手元にある二つの魔石を見比べると、その輝きの違いは明らかだった。

「魔石の使用法についてはこんな所でしょうか。後は陣形と各組の詳細ですが、先ほど説明した通り中心は私が務めます。左右の配置は右翼をガウンさん、左翼をコニー君にお願いしようかと思います。順路がおおよそ右周りになりますので、外周を索敵範囲の広いコニー君に任せたいのですが……できますか? 外周を担当する以上、魔物との遭遇率も高くなりますが……」

「……はい、勿論です!」

 ヒリアさんは僕の身を案じてわざわざ聞いてくれたけど、頼まれたのなら僕に断る理由なんてなかった。

「そうですか……有難うございます。続いてそれぞれ組んでもらう相手ですが、接敵の可能性が高い左右に戦力を集中させます。コニー君には念のため、戦闘に加えて護衛能力も高いガットツさんと組んでもらいます」

「は、はいっ!」

「承知……」

「よ、よろしくお願いします……」

「うむ」

 あまり話した事がないガットツさんと組む事になり、何だかむず痒い緊張感が走る。元々口数が少ないガットツさんだから仕方ない事だけど、ガットツさんと二人になるのは言いようのない不安があった。

「ガウンさんには、レリダ君と組んでもらいます」

「おう、よろしくなっ」

「あぁ、よろしくね」

 熟練冒険者を相手に軽い口調で挨拶するレリダさんに対して、ガウンさんは気にせずいつもの調子で返した。

「そしてジビター君は、私と組んでもらいます」

「チッ、また俺が最後かよ……」

 ヒリアさんと組む事になったジビターさんは、わざとらしいくらいに不機嫌な顔でそっぽを向いた。

「ちゃんと考えた上での人選ですよ。特にジビター君は、私が連絡を受けた際に先行して応援に行ってもらいますから、場合によっては責任重大な役割です。機動力の高いという点や、冒険者としてあらゆる状況下での経験がある点を踏まえて、ジビター君が適任だと判断した結果の配置です」

「……チッ、そうかよ」

 ヒリアさんに説き伏せられてしまい機嫌を損ねるジビターさんだったけど、それ以上悪態をつく事はなかったから、評価される事自体悪い気はしなかったみたいだ。

「……では、探索手順の説明も十分できましたので、早速陣形を組んで調査を始めましょう」

 ヒリアさんは探索の説明を終えると、僕とガウンさんに順路が記された地図の写しを渡して、皆をそれぞれ所定の位置へとつかせた。


◇◇◇◇◇◇


 ヒリアさんが考案した陣形での探索を始めてしばらく経った。今の所大きな問題はないけど、これといった成果もなく地道な探索が続いていた。

「ギャゥッ……!」

「……ふむ、これで五体目。爪痕から遠方まで来たからか、魔物との遭遇が顕著」

 探索を始めてから随分遠くまで来たからか、さっきから魔物出くわす様になって来た。しかし群れからはぐれたのか、単独で襲って来る魔物ばかりだったおかげで、ガットツさんが難なく討伐してくれている。

「そろそろ折り返し地点に入ります。この調子だと、今日は何も見つかりそうにないですね……」

 僕は地図の順路を確認しながら、それとなく話題を振ってみる。

「そうか……しかし成果は皆無であっても、外界では油断禁物」

「そ、そうですね……」

 ガットツさんの独特で端的な話し方に、僕は中々慣れる事ができないでいた。度々話しかける努力はしているつもりだけど、どうにも難解な言葉回しにうまく馴染める気がしない。今後もガットツさんと組む事を考えると、少しでもガットツさんとの会話に慣れたい所だけど、どうしたらガットツさんの話し方を受け入れられるだろう。

「……っ! ガットツさん!」

 僕が一人思い悩んでいると、危険察知(アラート)で大きな反応を感知して咄嗟に叫ぶ。

「詳細を伝達!」

「はいっ!」

 ガットツさんも僕の様子に感づいたのか、素早く臨戦態勢に入る。僕もガットツさんの緊張感に釣られて、一際集中力を高めて危険察知(アラート)の精度を上げる。

「……群れの数は十から二十程度、速度と脅威度からして恐らくネグペローの群れです。南側から真っ直ぐこちらに向かっています!」

「……ここは風上、獲物の匂いを察知したか。接敵の信号を送信!」

「はいっ!」

 僕が魔物の情報を伝えると、ガットツさんは状況から迎撃すると判断したので、僕は指示通り黄の魔石に魔力を込めてヒリアさんに連絡する。

「……は、速い。この分だと、魔物の方が先に僕達の方に来ますよ……!」

 絶えず魔物の状況に加えて、応援に来ているヒリアさん達も感知しているけど、思ったより状況は良くなかった。連絡を受けて先に向かっているジビターさんの方が距離は近いけど、ネグペローの方が犬種の魔物だけあって足が速い。僕が感知してから連絡するまでさほど時間が経ってないはずなのに、もう目と鼻の先くらいまで迫っていた。

「問題ない、私が防衛に専念すれば盤石。寧ろ兵団の私なれば、防衛こそ本懐」

 しかしガットツさんは一切の動揺を見せず、鉄壁の様な佇まいでひたすら魔物を待ち構えていた。

「来ます……!」

 間もなくペロー達が木々の合間を縫って、目の前のガットツさん目掛けて一斉に襲い掛かる。

「ガアアァァ!」

堅牢(ガートム)!」

 沢山のペロー達に飛び掛かられたガットツさんだけど、その身体は微動だにしなかった。それどころかペロー達の方が弾き飛ばされ、何が起きたか分からないペロー達は困惑していた。

「何者も通さぬ私のギフト……絶対的防御を前に、魔物の歯牙など無意味!」

 あれだけの数の魔物に囲まれながら、ガットツさんは全く動じず啖呵を切って威嚇する。

「グルゥゥゥ……グアアァァ!」

 一時は怯んでいたペロー達も、ガットツさんの挑発を受けて再び飛び掛かる。しかし結果は変わらず、ガットツさんの強固な防御は崩れる気配がなかった。

「す、凄い……!」

 ガットツさんの邪魔にならない様、隠形(ハイド)で気配を消しながらガットツさんの戦いぶりを見ているけど、十数匹もいるペローを物ともしない姿に凄まじい迫力を感じていた。

「チッ、もうやってんのかよ!?」

「ジビターさん!」

 ガットツさんが幾度となくペローの猛攻を防いでいると、一早く応援に駆け付けたジビターさんと合流した。その後はガットツさんの防衛線を主軸に、パーティの皆が次々と加わる度に戦況は好転していき、全員が集まる頃にはペロー達をほとんど制圧しきっていた。

「ちぇっ、俺も楽しみたかったのに……」

 最後に駆け付けたレリダさんが、魔物と一切交戦できずに一番不機嫌になっていた。

〇おまけ「人物ファイル:ガットツ」

種族:人間

職業:西国兵団防衛隊中隊長(副業:Dランク冒険者)

出身:要塞都市ディージュ(西大国ディソンプ属)

 忠義心に溢れた西国兵隊きっての傑物。兵団見習い当初よりその忠義心の高さから、実力以上の評価を受けるほど実直な性格。しかし愚直が故に口が回らず、他団員との関係は必ずしも良好だったとは言えなかった。それでも地道に実力を伸ばしていき、中隊を率いるまでの信頼と実績を得る。

 中隊長になった後も、相変わらず会話はうまくいかなかったのを見た他隊長達から、外の世界で経験を積ませようと冒険者を勧められ、兵団と兼任という形でギルドに冒険者登録をした。遠方であるフロンの任務を請け負ったのも、地元を離れて経験を積んで来いと他隊長に推されたのが理由。

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