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第三十二走「出会ってはいけない二人を、引き合わせてしまったかもしれません」

○前回までのあらすじ

 グルタの危機を知ったコニーは、グルタの依頼を受けるため第四班との調査任務から抜ける事を決意する。コニーが不安の中調査を抜ける旨を第四班に打ち明けると、全員がコニーの意思を汲んで抜ける事を了承してくれる。その後早速グルタの依頼を受けたコニーは、グルタと協力してごろつき達を退ける作戦を決行する。作戦は見事に成功し、被害を一切出す事なくごろつき達は教会を去って行った。

 グルタさんの護衛依頼を終えた翌日、僕はヒリアさんが利用している宿まで来ていた。

「失礼します……」

「おはよう、コニー君」

「おはようございます!」

 部屋の扉を開けて中に入ると、ヒリアさんは朝食を片手に立っていた。調査前に用件を済ませようと思って朝早く来たけど、流石に早すぎたみたいだ。

「すいません、こんなに朝早くから……」

「構わないよ。……それより、聞きたいこととは何だい?」

 ヒリアさんは僕がいるにも関わらず、席について食事を始めた。僕に気を遣わせないためかもしれないけど、本当に遠慮する態度がなくて少し驚いた。昨日の内にお邪魔する事は伝えていたけど、この様子だと伝えてなくても良かったかもしれない。

「えっとですね……ヒリアさんは魔具に詳しいですよね?」

「そうだね……自分で魔具を開発するくらいには、魔具への見識はあるよ」

 以前にヒリアさんが魔術に関する研究、特に魔具の開発研究に対して積極的に取り組んでいると聞いた事があった。今日はそんな魔具に詳しいヒリアさんに、いくつか確認したいことがあって来ていた。

「離れた場所にいる人と情報交換する……そんな魔具はありませんか?」

「……それは、君が受けている依頼に関係しているのかな?」

「……っ!?」

 ヒリアさんに核心を突かれて、僕は驚きのあまり内心慌てふためいた。依頼については話の流れで伝えるつもりだったけど、ヒリアさんにはすでにお見通しだったみたいだ。

「……はい、実は……」

 すでにこちらの意図が透けている以上先延ばしにする意味もないので、僕は昨日あった事も含めてグルタさんの依頼の内容を説明した。あまり詳しく説明すると、グルタさんの個人的な話にも触れてしまいそうだったので、依頼内容に関してはある程度説明を省いた。

「……成程、そうでしたか」

 しばらく僕の話を黙って聞いていたヒリアさんは、僕の話が終わると何かを呟きながら席を立つ。

「概ね事情は把握しました。ただでさえ領内依頼というだけで受ける冒険者は少ないはずですのに、こんな依頼を受けるだなんてコニー君は本当に物好きですね」

「物好きだなんて……僕はただ、依頼を受けてもらえずに困っているのが見過ごせなかっただけですよ」

「それを物好きだというのですが……まぁ、その事はいいでしょう」

 ヒリアさんは呆れた様子で、机に置いてあった荷物から何かを取り出した。振り返るヒリアさんの手には、魔石らしき小さい石がいくつか握られていた。

「先ほどの質問の答えですが、コニー君の推察通り通信に用いられる魔具は存在します。ここにあるのはその一例で、『共鳴石(トランスルーン)』という単一性の機能を持つ通信魔石です」

 ヒリアさんは説明しながら、朝食の残りを脇にどけて魔石を机に広げる。よく見るとどの魔石も似通った魔石があり、まるで双子の様に揃っている。

共鳴石(トランスルーン)の多くは基本対になっていて、二つ一組で使用します。もっと高度な魔術が施された魔石であれば、多数の魔石同士での通信や複雑な情報交換を行えますが、組み込む魔術が複雑なほどより大きい魔石か質の高い魔石が必要になります。こちらにあるのはどれも携帯に適した大きさのもので、冒険者の中で最も流通しているものです」

 さらに説明を続けながら、ヒリアさんはおもむろに共鳴石(トランスルーン)を一つ拾い上げる。さらにヒリアさんが魔石に魔力を送ると、机に置かれた魔石の一つが激しく光り出した。さらにヒリアさんは次々に他の共鳴石(トランスルーン)を手に取って、順番に魔力を込めていく。すると対応する魔石が小さく震えたり、耳障りな音を響かせたりと、魔石毎に様々な反応を示していく。

「片方の魔石に魔力を込める事で対となる魔石が反応し、光や音、振動などを発生させます。複雑な信号を送れる訳ではありませんので、使用方法は作戦開始の合図や緊急時の連絡などに限定されます」

 一通り共鳴石(トランスルーン)の反応を見せると、ヒリアさんは共鳴石(トランスルーン)を一組拾い上げて魔力を送り込む。

「さらに一度使用すると魔力を全て消費してしまうので、再度魔力を込め直す必要があります。使用回数も魔石の体積や質を変えれば増やせますが、実際の使用頻度がそう多くないという事もあり、基本的には一度だけの使い切りのものがほとんどです」

 全ての共鳴石(トランスルーン)に魔力を込め直すと、ヒリアさんは机に広げた全ての魔石を片付けた。

「コニー君から聞いた連中の行動、そして持っていた魔石の特徴からして、共鳴石(トランスルーン)の可能性は非常に高いですね」

「……やっぱり、そうですか」

 ヒリアさんの結論を聞き、僕の中にあった予想も確信へと変わった。今までごろつき達は兵団の動向を細かく把握していたけど、グルタさんの姿がなかった時は教会内を探し回っていた。だからごろつき達は索敵スキルがなくて、何か別の方法で兵団の動きを把握しているんじゃないかと思っていた。どんな方法かまでは分からなかったけど、ヒリアさんのおかげでようやく答えに辿り着けた。

「コニー君も魔石の存在に気付いたのでしたら、私に聞かずともおおよその検討はついていたはずです。どうしてわざわざ聞きに来たのですか?」

「それは……直接報告したかったのもあるんですけど、もう一つ疑問があったからなんです」

「疑問、ですか……それは連中が連絡をしている相手……裏で糸を引いている人物についてですか?」

「……はい」

 まだ何も言ってないのに、ヒリアさんはまるであらかじめ知っていたかの様に話を進める。察しが良すぎて少し怖いくらいだ。

「それは部外者の私には、とても計り知れませんね。平凡な修道女を狙う人間に心当たりはありませんし、兵団の内部に連中の協力者がいるかも見当がつきません。少なくとも、腕利きの犯罪者を手駒にできる点と、兵団の動向を事細かに把握する手段を持つ点から、それなりに権力を持つ人物であるのは確かですが」

「……いえ、それだけ聞けたら十分です」

 できる事なら黒幕についてもっと詳しく知りたかったけど、ついさっき事情を説明したばかりのヒリアさんにそれをお願いすることはできなかった。でもごろつき達以外にグルタさんを狙う人がいると分かれば、僕も少しは今後のための心構えができる。

「黒幕の正体については分かりませんが、ひとまずそのごろつき達をどうにかすればしばらくは大丈夫でしょう」

「えっ……どうしてですか?」

「そのごろつき達が二度の失態を演じながら、黒幕に利用され続けているからです。ごろつき達と黒幕の間にどんな取引が行われているかは分かりませんが、黒幕がごろつき達を利用する側なのは明白です。犯罪者を利用する点や、兵団を極力避ける点から見ても、黒幕にも立場があり派手に立ち回れない事が窺えます。つまり黒幕からすれば、ごろつき達は使い捨ての手駒に過ぎない。用済みになるか都合が悪くなれば、ごろつき達は切り捨てられるでしょう。にも関わらず、ごろつき達が失敗してもお咎めは一切なく、修道女を襲わせ続けている。これは黒幕には他に使える手駒がいないからだと思われます。ですので黒幕がごろつき達を失えば、黒幕が次の手を打つまでの間は安全となるでしょう」

 ついさっき話したばかりの情報だけで、ここまで緻密な推察ができるなんて、ヒリアさんの頭の中は一体どうなっているんだろう。でもごろつき達だけに集中すればいいと思うと、少し気持ちが軽くなった。

「……有難うございました! それではまた……」

「……コニー君、待ちなさい」

「えっ? は、はい……」

 僕が扉に手をかけた所で、ヒリアさんは真剣な表情で僕を引き留める。つい気持ちが逸って出ていこうとしたから、何か言い忘れた事でもあったのかも。

「今から依頼の場所に行くのでしょう? 私も依頼に同行させてもらいます」

「……えっ?」

 ヒリアさんの突然の発言に、僕はその場で身体が固まってしまう。

「……で、でもヒリアさん達は任務が……」

「それについては問題ありません。昨日コニー君から話がある旨を聞いて直ぐに、調査パーティには今日は休養日にすると伝えています」

「う、嘘……」

 まさか僕が事前に相談があるという所から、ここまでの事を予測していたとでも言うのだろうか。

「それでは行きましょう。私もコニー君がどんな依頼をしているのか、一目見ておきたいですから」

「は、はい……」

 まさかヒリアさんを連れて教会に行く事になるなんて思わなかった。でも僕からヒリアさんの同行を断る理由もないから、このまま連れて行くしかなかった。


◇◇◇◇◇◇


「あっ……コニーさん!」

 僕が教会の扉を開けると、いつも通り箒を手にしたグルタさんがいた。笑顔でこちらに歩み寄るグルタさんに、僕はどんな表情を返したらいいか分からなかった。

「……コニーさん、そちらの方は……?」

 グルタさんが僕の背後にいるヒリアさんに気付くと、グルタさんの笑顔が一瞬にして消え失せ、顔から感情が一切感じ取れなくなった。今までに見た事のないグルタさんの反応に、僕はどう声をかけたらいいのか分からなくなってしまう。

「君がコニー君に依頼をしている方ですか?」

 僕が立ち尽くしていると、ヒリアさんが僕の前に出て来た。

「は、はい……こちらの教会で見習いをしています、修道女のグルタです」

「ご丁寧に有難うございます、私はヒリアと申します。コニー君とは、一月ほど前から同じパーティの一員としてギルドの任務を共にしています」

「そ、そうでしたか……私もコニーさんには、以前から依頼でお世話になってます」

「私の方こそ、コニー君の働きぶりには大変助けられています」

 グルタさんとヒリアさんはお互いに自己紹介をするけど、何故か自己紹介以上に僕の話が飛び交っている気がする。

「そんなコニー君が先日より、任務を抜けてまで依頼を受けることになりましたので、パーティを指揮する立場として依頼の様子をこの目で確かめようと、コニー君に同行した次第です」

「そうでしたか……。コニーさんがこちらに人を連れて来るのは初めてで驚きましたが、そういった事情でいらしたのですね」

「はい。ですのでよろしければ、グルタ君から依頼に関して説明して頂けませんか? 事前にコニー君から概ね伺っていますが、可能なら依頼主の君から詳しく聞いておきたいのです」

「……」

 ヒリアさんから依頼の説明を求められて、グルタさんは目を伏せて俯いた。どうやらヒリアさんはグルタさんの依頼に対して不審感があって、グルタさんもヒリアさんの真意に気付いているみたいだ。僕も初めて依頼を受ける時、ギルドの受付嬢であるクルシャさんから警告されたくらいだから、ヒリアさんがグルタさんを疑うのも無理もない。ヒリアさんも僕が知らず知らずのうちに騙されているかもしれないと思って、グルタさんに会って直接確かめようと思ったのかもしれない。

「……分かりました、お話ししましょう」

 しばらく黙り込んでいたグルタさんが、ゆっくりと顔を上げる。これまでごろつき達の件で疑いの目を向けられてきたグルタさんにとって、ヒリアさんから向けられる疑惑はとても辛い事だと思う。僕もどうにかヒリアさんの疑いを晴らしたかったけど、どうしたらヒリアさんを納得させられるか分からず割り込む事ができなかった。

「コニーさんから聞いているかと思いますが、私は見知らぬ犯罪者の方々に狙われています。ですが私には狙われる理由が分からず、私も対応に困っています。さらに兵団の目をかいくぐる手際の良さに加えて、ギルドの冒険者の方々も返り討ちにしてしまう手腕に、当時は打つ手なしとギルドへの依頼を取り下げる始末でした。ですがそんな中、偶然にもコニーさんがギルドから依頼を受けて、教会にいらっしゃいました」

「ギルドへの依頼は取り下げたのではないですか?」

「それについての詳細は不明ですが、どうやら教会の者が密かに依頼を出していた様です。そうした偶然も相まって、私はコニーさんに出会う事ができました。始めの頃は、今まで依頼で来て頂いた冒険者と同じ事になるかと思っていましたが、コニーさんの活躍ぶりを間近で見て来てコニーさんの事を知っていく内に、これほど頼りになる人はいないと感じ始めました」

「それは私も理解していますし、君と話し始めた時に十分伝わりました。それでコニー君に、依頼を続けてもらおうと嘆願したのですか?」

「……否定はしません。有難い事に、コニーさんには何度も依頼を受けて頂いていますから。ですがコニーさんには私の個人的な事情も含めて、依頼に関する詳細の一切を理解してもらった上で、コニーさん自身の意思で依頼を受けていると理解しています」

 グルタさんの話し方が変に感じるのは気のせいだろうか。具体的に違和感を表現できないけど、何だか言葉に棘がある様に感じられる。

「それはコニー君の事情も考慮しての事でしょうか?」

「……コニーさんとは、お互いに納得のいくまで相談した上で決めています。私からコニーさんへ依頼の強制をしたことは一切ありません」

「そうですか……同意の上ということは理解しました。ですが護衛依頼ともなれば、通常の依頼であればDランク以上の難易度です。領内依頼という事で難易度の設定はされていませんが、外界での依頼よりは難易度が下がる事を考慮しても、つい最近Eランクになったばかりのコニー君には荷が重い内容の依頼だと思わなかったのですか?」

「……ランク不相応なのは承知しています。ですがそれ以上に、コニーさんなら大丈夫だと信じています。コニーさんの事を知っているあなたなら、コニーさんの優秀さは知っているはずです」

「確かにコニー君の実力は私も十分に把握しています。しかしコニー君の実力を知っているからこそ、私にはコニー君が護衛依頼に不向きであるとしか思えません。君は本当にコニー君の事を知った上で、依頼を任せられると思ったのですか?」

「……それは程度によります。私もコニーさんの全てを理解しているとは言い切れませんから。ですがおそらくヒリアさんが懸念されている、コニーさんの戦闘力については知っています」

「それでいて尚、コニー君に護衛依頼を受ける事に不安はなかったのですか?」

「……少なくとも当初は、不安がなかった訳ではありません。他に頼れるものがなく、妥協したと言われても仕方ありません」

 ヒリアさんの的確な問い詰め方に、グルタさんは淡々と返していく。一見穏やかに見えるやり取りだけど、お互いの表情からは読み取れないくらい苛烈な話し合いなのが雰囲気で伝わってくる。

「そうですか……大体理解しました」

 ヒリアさんが話を一区切りすると、グルタさんとの距離をおもむろに縮めていく。あれだけ激しく討論したばかりだからか、グルタさんはあからさまに警戒した態度を取る。

「私の見解としては、コニー君にはこのまま依頼を続けて頂く訳にはいきません。そちらの事情は窺いかねますが、コニー君が利害を求めず親身になる必要はないはずです。それにコニー君は任務の最中です。見た所グルタ君の依頼はそこまで困窮した状況でもなさそうですから、今は任務の方を優先するべきです」

「ひ、ヒリアさん、それは……」

「コニー君、私は何も手放しで依頼を受ける事を承諾した覚えはありません。あくまでコニー君から聞いた話で、依頼が任務よりも優先度が高いと推察した上で、依頼を受けても構わないと判断したまでです。それが今、依頼内容を十分に把握した結果、任務より優先する必要がないと判断を改めた……ただそれだけです」

「うっ……」

 どうにかヒリアさんを止めようとしたけど、完全に逆効果になってしまった。このままだと、本当に僕はグルタさんの依頼を受けられなくなってしまう。でも僕にはこれ以上、ヒリアさんを止められる方法が思いつかない。

「こちらも一日コニー君が抜けた事で、予定よりも任務の進行に遅れが生じています。今のコニー君には、不向きな護衛依頼に時間を費やすよりも、任務に没頭してもらう方がずっと有意義なはずです」

「……」

 ヒリアさんが目の前まで迫って来ても、グルタさんは押し黙っていた。ついさっきまでヒリアさんと会話と続けていたのに、一体どうしたのだろう。

「コニー君とは一月ほど任務を共にしていますから、コニー君の事は十分に理解しているつもりです。それこそ、ただコニー君に頼り切りのグルタ君より、任務を共にしている私の方が……」

「っ……!」

 少し離れているからちゃんと聞き取れないけど、ヒリアさんが僕についての話を持ち出すと、黙っていたグルタさんが明らかな動揺を見せる。グルタさんが冷静さを欠くなんて、ヒリアさんは何を話しているのだろう。

「そうそう……グルタ君は知らないでしょうが、実はですね……」

 そしてヒリアさんはさらにグルタさんの横に回り込み耳打ちをする。ヒリアさんが何を言っているのか気になってグルタさんの様子を窺うと、初めは無表情で聞いていたグルタさんが奇妙な表情を浮かべる。

「……っ!?」

 その後ヒリアさんに何か言われたのか、グルタさんの顔が次第に赤みを帯びていく。

「あっ……あなた、なんて事を言って……!?」

 さらに顔を真っ赤に染めたグルタさんがヒリアさんに向かって叫ぶ。しかしその直後、何故かグルタさんは僕を睨みながら詰め寄って来た。

「コニーさん、どういう事ですか!?」

「えっ……えっ? い、一体何のことですか?」

 ヒリアさんからどんな話を聞いたか分からないけど、グルタさんは今までに見た事がないくらいに取り乱していた。

「何の事って、それはあなたがその……むっ……!」

 しかし僕が理由を尋ねると、グルタさんは途中で口籠ってしまった。こんなにグルタさんが情緒不安定になるなんて、ヒリアさんはグルタさんに何を言ったんだろう。

「……とにかく、あなたがそんな人だったなんて思いませんでした! ……いえ、そもそも私はコニーさんの事をそこまで知っていた訳ではないですけど……。でもまさか、そんな非常識な事をしていたなんて……!」

 グルタさんは理由は語らず、ひたすら何かに葛藤していた。多分ヒリアさんから僕の話を聞いたのだろうけど、こんなにもグルタさんが動揺する様な事をした覚えがない。

「グルタ君、少し落ち着いて下さい」

「これが落ち着いていられますか!?」

 グルタさんの様子を見かねてか、ヒリアさんがグルタさんの肩を引いて僕から引き離す。グルタさんは不満そうにヒリアさんに引っ張られていくと、今度は二人共僕に背を向けて内緒話を始めた。何を話しているのか気になったけど、ここで僕が入ってしまうと余計にややこしい事になりそうだったので、話が終わるまで大人しくその場で待つ事にした。

「……」

 しばらく待っていると、話を終えたグルタさんが申し訳なさそうにこちらに歩み寄る。

「申し訳ありません、ついコニーさんを攻め立ててしまって……。どうやら私の勘違いだった様です」

「そ、そうだったんですか……大丈夫ですよ、そんな気にするほどの事は言われてませんから」

「そんな、コニーさんは何も悪くないのに……」

「それを言うなら、グルタさんだって何も悪い事はしてないですよ」

「そ、そうですか……有難うございます」

 結局何が起きていたのか分からなかったけど、グルタさんの誤解が解けた様で良かった。それにしてもヒリアさんが何を話したのか気になるけど、ここで掘り返すのはグルタさんに悪いと思って堪える事にした。

「コニー君……」

「ヒリアさん……!」

 グルタさんの誤解が解けたのも束の間、いつの間にかグルタさんの後ろにいたヒリアさんを見てはっとする。そういえば、ヒリアさんはまだ僕が依頼を受ける事を許してくれていない。どうにかヒリアさんを納得させないと。

「あ、あの、ヒリアさん……」

「お二人も和解できた様ですし、もう心配する事はなさそうですね。これなら私も安心して、コニー君を預ける事ができます」

「その……えっ?」

 ヒリアさんのまるで脈絡の読めない発言に、僕は首を傾げる。

「……コニーさん、どうやらヒリアさんは私を試していた様です」

「えっ……グルタさんを、試す……?」

「はい……私の依頼内容に違和感を持ったヒリアさんが、依頼の真意を確かめようと私に揺さぶりをかけたんです。ですからヒリアさんは、初めからコニーさんに依頼を辞めさせようとした訳ではないんです。最も、もし私が不徳な依頼主であったのなら、その限りではなかったでしょうけど」

「そ、そうだったんですか……」

 普段のヒリアさんからは想像できないくらいにグルタさんに詰め寄っていたけど、そういう理由があったなんて。ヒリアさんの静かに鬼気迫る勢いが凄過ぎて、そんな考えがあるとは微塵も感じられなかった。

「……まぁ、私にはあれが演技だったとは思えませんが……」

「えっ……?」

「何でもありませんよ」

 グルタさんが小声で気になる発言をするけど、聞き返そうとしたらはぐらかされてしまった。

「お二人には申し訳ない事をしたと思っています。ですが人の本心を確かめるなら、執拗に心を刺激する必要がありましたので。おかげで想定以上に、グルタ君の事を理解できました」

「私にも依頼内容を曖昧にしていた非がありますから、ヒリアさんを責めるつもりはありません」

 どうやら僕とグルタさんの間でひと悶着あった以上に、グルタさんとヒリアさんの間でも様々なやり取りがあったのだろう。でもちゃんと話し合ったみたいで、仲違いする様な事にはならなさそうだ。

「……ですが、あの話だけは許せません。結果としては私の早とちりですが、明らかに嵌めるつもりの言い回しでしたよね?」

「……っ!?」

 しかしグルタさんが振り返ってヒリアさんの手を取ろうとすると、ヒリアさんは血相を変えて素早く飛び退いた。あんな必死な様子のヒリアさんは、外界でも見た事がない。

「……あら、魔術師の方でしたか。触れる前に気が付くなんて、相当な使い手の様ですね」

「ふっ……ははは。全く、とんでもない方ですね。本当に私の想定以上ですよ……」

「……?」

 完全にグルタさんに触れられる事を警戒している様子のヒリアさんだけど、僕には二人の間で何が起きているのか分からなかった。

「二度目はありませんからね。私も修道女ですから、人を傷つける事はしたくありませんが、卑劣な行為に目を瞑るほど寛容ではありませんので」

「肝に銘じておきますよ……君の怒りを買うのは、あまり賢明ではなさそうですから」

「あ、あの……?」

「あっ……だ、大丈夫ですよ!? 何でもありませんから……」

 僕が二人の会話を不思議そうに眺めていると、グルタさんが心配かけまいと笑顔で取り繕う。僕はただ二人の間に何が起きたのか気になっただけだったけど、気にしないでと言うのなら首を突っ込まない方が良さそうだ。

「さて……事情は概ね把握しましたが、折角ですからもっと詳しい話を伺ってもよろしいですか? 場合によっては、私もグルタ君の助けになれるかもしれません」

「よろしいのですか……?」

「コニー君が任務に戻れるのでしたら、依頼の早期解決はこちらとしても助かります。それにコニー君が任務を放棄してまで気に掛ける方を見過ごすほど、無神経ではいられませんので」

「そうですか……有難うございます!」

 お礼を言いながらヒリアさんに深々と頭を下げるグルタさんからは、感謝の気持ち以上に喜ばしさが溢れていた。

「それと依頼の件とは別に、コニー君についてもお聞きしてもよろしいですか? 私と出会う以前のコニー君がどんな人物だったのか、少し興味がありまして……」

「それでしたら、こちらも任務中のコニーさんの話を聞いてもいいでしょうか? 教会以外でコニーさんと出会う機会がありませんし、外界でのコニーさんの活躍も気になります!」

「えっ……えっ!?」

 二人の会話が思わぬ方向に進展していくのを聞いて、僕は黙っていられなくなっていた。どうしてあの会話の流れで、僕が話題に上がってしまうのだろうか。

「あ、あの……僕の事は別に……」

「パーティの仲間の情報を共有するのは、ごく自然な事かと思いますが?」

「いいじゃないですか。依頼の最中も色々お話は聞いていますが、コニーさん以外の方から聞く話も気になります!」

「は、はい……」

 何とか話題を変えられないかと思ったけど、とても二人の雰囲気を邪魔する気にはなれなかった。その後は二人で依頼に関する話を挟みつつ、僕についての話で大いに盛り上がっていた。話に入れず依頼で離れる訳にもいかなかった僕は、ひたすら二人の話を横で聞きながら恥ずかしさに悶えそうになるのを堪えていた。

〇おまけ「魔具について:魔石」

 魔石とは、魔力が結晶化した物体の総称で、主に魔力が充満した地域や魔物の体内に存在する。

 基本的な性質は一定量の魔力の吸収と蓄積、そして外部からの刺激による魔力の放出である。これらの性質を利用し、魔術による加工を施す事で魔具としての機能を果たす。一定周期で魔力を放出する魔術を施し、時間測定や時刻確認をする時刻魔石(ローテルーン)。特定の魔力を感知して、組み込まれた魔力反応を引き起こす魔術を施された共鳴石トランスルーン。他にも魔石を利用した魔具はいくつも存在するが、使用には最低限魔力の扱いが必要なため、利用するのは兵団や冒険者といった魔力の訓練を日常的に行っている人間に限られる。

 魔具には魔石を道具に組み込む物も存在するが、魔石に直接触れて魔力を込める方が効率がいい場合がほとんどなため、魔具と呼ばれる物の多くは魔石単体で運用されている。

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