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第三十一走「勇気を持って、覚悟を決めました」

○前回までのあらすじ

 魔獣調査の任務が一区切りし、調査方針の変更に合わせて新たにパーティが再編成されることに。そこでサヴィエが第四班から抜けてしまうが、代わりにガウンが第四班に加わった。ガウンはその人当たりの良さで、第四班の仲間達とすぐに馴染んでしまった。そんな第四班の変化の中、コニーはガウンからギルドへ赴く様に言われる。コニーがギルドへ行くと、受付嬢のクルシャからとある依頼書を提示される。

 僕はカウンターに置かれた依頼書を見下ろして、何が起きているのかを何となく理解する。その依頼書に書かれていたのは、『教会の清掃作業及び護衛依頼』。僕が冒険者として再出発してから一月以上受け続けた、修道女見習いのグルタさんの領内依頼だ。

「あの、これは一体……」

 僕はクルシャさんがこの依頼書を見せたこと以上に、この依頼書が出されていることに驚いた。グルタさんは僕が任務に出てすぐ、僕以外に依頼を受ける人はいないだろうと依頼を取り下げたはずだ。それが今こうして依頼書が出ているということは、グルタさんや教会に何かあったとしか思えない。

「まぁ、詳しい事は本人に聞いてみたら? あたしもグルタがわざわざギルドに顔出してまで、あんたの名前を出してこの依頼書を出しに来たから、ただ事ではないとは思うけどね……」

「……っ!」

 グルタさんから依頼書のいきさつを聞いて、僕は胸の奥が締め付けられる様な不安と恐怖に襲われる。頭が真っ白になって思考がうまくまとまらなかったけど、気付いたら脇目も振らずに走り出していた。

「あっ……依頼はどうすんの!?」

「後でまた来ます!」

 依頼を受けるかどうかすら、今の僕には考える余裕がなかった。今はただ、一刻も早くグルタさんの元に行く事だけが、何事においても僕の頭の中で優先されていた。

「そっ……頑張ってねー」

 僕の必死な姿に呆れたのか、クルシャさんは去って行く僕を気の抜けた声援で送り出した。


◇◇◇◇◇◇


「グルタさんっ……!」

 全速力で教会に来た僕は、息も絶え絶えに教会の扉を勢いよく開け放つ。

「こ、コニーさん……!?」

 突然教会に入って来た僕に、グルタさんが驚いた顔で迎える。考えなしに教会に来たけど、グルタさんが教会にいる日で良かった。

「グルタさん……よ、良かった……」

「え、えっと……もしかして、ギルドの依頼を見たんですか?」

 その場で息を切らせている僕へ、グルタさんが心配そうに歩み寄る。まだ何があったかは分からないけど、とにかくグルタさんの無事が確認できて安心する。

「は、はい……何があったんですか……?」

「そ、そうですね……まずは落ち着いて話をしましょう。詳しい事は私から説明させて頂きます」

 息が整いつつある僕を見て、グルタさんも安心してくれた様子を見せる。そういえば依頼書の詳細はちゃんと見てなかったけど、もしかして大事な内容は伏せていたのだろうか。

「結論から言いますと、またあの連中が現れました」

「あの連中って……あの時のごろつき達が!?」

 まさかしばらく姿を見せなかったごろつき達が、今になってまた現れるなんて思わなかった。しばらく姿を見せなかったのも不思議だったけど、どうしてまた現れ始めたのだろう。

「はい……つい先日のことですが、また私が一人の時を狙い澄ましたかの様に教会に姿を現しました。ですがやることは以前と変わらず、教会内を荒らすなり私を脅すなりして、兵団が来る直前に姿をくらましました。幸いにも兵団の方々の到着が今まで以上に早くなったおかげで、教会の被害も最小限で済みました。後に兵団の方に話を聞きましたら、早く駆け付けられたのは、以前私達を助けて頂いた兵団の……ガイダールさんの助力によるものだと」

「ガイダールさんが、そんなことを……」

 初めてごろつき達に襲われた時、偶然居合わせた兵団訓練長のガイダールさんに助けてもらったけど、まさかそんな所にまで手を回してくれたなんて。今度ガイダールさんに会ったら、ちゃんとお礼を言わないと。

「ですが教会に被害が出てしまったのは事実なので、被害を抑えるために駄目元ですが、ギルドに依頼を出すことにしました。コニーさんに直接お伝えするか考えましたが、ギルドの任務がまだ終わってないと聞きましたので、クルシャさんにコニーさんへそれとなく伝えてくれないかと頼みました」

「そうだったんですね……でも、そんな大事なことをクルシャさんにお願いして良かったんですか?」

 僕は失礼を承知で、伝言役をクルシャさんにした疑問を聞いてみた。クルシャさんは優秀な人だとは思ってるけど、伝言みたいな秘密裏のやり取りに向いた人とは思えなかった。

「大丈夫ですよ、彼女は見た目の印象よりも真面目な所がありますから。素行の悪さを差し引いても、余りあるくらいには優秀な方だと思っています」

「そ、そうなんですね……」

 まるでクルシャさんの事をよく知ってる口振りだけど、そういえばグルタさんも元は冒険者だった。今の僕よりも高いランクだから、多分クルシャさんとの付き合いも僕より長いのだろう。

「とりあえず今は兵団の方々の見回り強化をお願いしていますが、彼らも前回の件で慎重になっているのか、私が一人の時でも中々姿を現しません。ですので今まで以上に手詰まりとなってしまいました」

 グルタさんは説明しながら、次第に沈んだ表情で俯いてしまった。また以前の時みたいに何もできない現状が心苦しいみたいだ。

「……そこで、コニーさんにお声掛けさせてもらいました」

 しかし次に顔を上げた時には、グルタさんの表情は決意に満ちていた。

「失礼を承知でお願いします、私を囮に彼らの捕縛に助力してくれませんか?」

「えっ……ええぇぇっ!?」

 グルタさんのとんでもない提案に、僕は驚きの声を教会中に響かせる。

「い、いや……色々と気になる事があるんですが……とりあえず、どうして僕にそんな事を頼むんですか? ごろつきを捕まえるなら、他にもっと適任がいると思いますが……」

「それについては、そもそもこんな依頼を受けて頂ける人がほとんどいないからです。兵団の方々は彼らに動向を読まれていて、捕縛はおろか接触すら困難です。ギルドで依頼するにしても、元冒険者の犯罪者という危険な相手の捕縛を受ける冒険者は、熟練の冒険者でもそうはいません。ですが彼らを退けられたことのあるコニーさんなら、捕縛の可能性があると思いました」

「い、いや……あの時は兵団の人達が間に合ったからで……」

「それだけ彼らを引き留められたのが凄いんですよ。コニーさんが粘ってくれたおかげで、兵団の方々が駆け付けられたのですから」

「そ、そうでしょうか……?」

 あまり活躍できた気がしなかったけど、グルタさんの言葉は不思議と素直に受け入れられた。それだけグルタさんが、僕を信じてくれているのが伝わるからだろうか。

「そこまで必死に私を救おうとしてくれたコニーさんにこんなことを頼むのは、私も心苦しいです。ですが今の所他に明確な対応策もありませんし、長引くと被害が増える一方です。ですからこの依頼は、コニーさんの意思で受けるか選んで下さい。ですがもし受けなかったとしても、コニーさんに一切非はありません」

「い、いや……でも……」

 グルタさんが正面から向けて来る真剣な眼差しに、僕は目を合わせられず顔を背ける。僕もグルタさんを守るためなら直ぐにでも受けたいけど、うまく踏ん切りがつかない。

「あの……今聞いた話だと、グルタさんはごろつき達に襲われる危険がありますよね? グルタさんは大丈夫なんですか?」

 自分の中でうまく決められないと思った僕は、正直に思っていた事を口にした。僕も依頼を受けるなら全力でグルタさんを守るけど、できるならグルタさんには危ない目に遭ってほしくない。それならまずはグルタさんの作戦で、どれだけグルタさんの安全が保障されているのかは気になってしまう。

「あ……はは。まさかとは思いましたが、私の身を案じて依頼を受けるか迷ってたんですか?」

 グルタさんは僕の返しが予想外だったのか、呆れた様子で笑う。僕がグルタさんを守り切れる自信がないのがバレて、失望させてしまっただろうか。

「普通はこんな危険しかない依頼に、利害が伴わないと切り捨ててもおかしくないのに……」

「そ、そんな事思いませんよ!? 僕が依頼を受けなかったら、グルタさんが困るじゃないですか!」

「……だから頼みたくなかったのに」

「えっ……?」

 僕がグルタさんの思い違いを必死に否定すると、今度はグルタさんが顔を背けてしまった。何か小声で呟いたみたいだけど、あまりに小さくて聞き取れなかった。

「……私の事なら、心配ありません。これでも元は冒険者ですから、自分の身を護る事くらいはできます。それに今までも彼らは私に一切危害を加えませんでしたから、私の身に危険が及ぶことはないはずです」

「え、えっと……大丈夫ならいいですけど」

 結局、僕がグルタさんを守り抜く事はできないと思われてるみたいで少し落ち込むけど、グルタさんがそこまで胸を張って言い切るのなら、僕もそれを信じることにした。

「……分かりました、依頼は受けます。でも今直ぐにはできないですが、それでもいいですか?」

「私の方がお願いする立場ですから、コニーさんが受けられる時で構いません」

「有難うございます! それじゃ、次は依頼を受けてから来ますね!」

 最後にグルタさんの了承を得ると、駆け足で教会を後にした。そのまま僕は、最後の心残りを解消するために南の門へと向かった。


◇◇◇◇◇◇


 南の門から外界に出ると、街道の脇で集まっているヒリアさん達を見つけた。

「コニー、遅ぇぞ!」

「す、すいません……」

 ヒリアさん達の下へ駆け寄ると、ジビターさんに怒鳴られてしまった。ギルドだけじゃなく教会にも寄ったから、パーティの集合時間に間に合わなかったみたいだ。

「その様子だと、ギルドに行っていたのかな?」

「は、はい……有難うございました……」

「そんな礼を言われることをしたつもりはないんだけどね……」

 疲れて膝に手をついていると、ガウンさんが傍に寄って来た。ガウンさんは否定したけど、昨日ガウンさんがギルドの話を伝えてくれなかったらと思うと、ガウンさんの気遣いに感謝するしかない。

「では全員集まりましたので、本日の調査区域に行きましょう」

「あっ……」

 ヒリアさんが僕の到着を確認するや否や、皆に声を掛けて出発しようとする。僕はまだここで言いたい事があったけど、それをこの場で口にしていいものか悩んでしまう。僕にそんな身勝手な発言が許されるのかと思うと、どうしても言葉が出て来なかった。

「……コニー君、ギルドで何かあったかい? もし大事なことなら、今直ぐ話した方がいいよ?」

「っ……!」

 そんな僕の葛藤に気付いたガウンさんが、優しく声を掛けてくれる。そこで僕は自分の浅はかさを悔いた。もしここで僕が黙っていたら、困るのは僕じゃなくてグルタさんだ。そんなことは絶対にあってはならない。

「……有難うございます!」

「別に大したことをしたつもりはないんだけどね……」

 ガウンさんはそう言うけど、ガウンさんの言葉に勇気が湧いてきた。おかげでもう迷わずにいられる。

「……どうかしましたか?」

 その場で止まっていた僕達に気付いたヒリアさんが、こちらに振り返る。言うなら今しかない。

「……ヒリアさん、お願いがあります」

「何でしょうか?」

 僕は次に口にする言葉に、身体が震えて仕方なかった。でもそれ以上に、今の僕にはこのことを伝える方が重要だという固い意志があった。

「僕を調査から外してもらえませんか?」

「……理由をお聞かせ願えますか?」

 僕の言葉を聞いたヒリアさんが、熱を持たない声を返す。その声色からは怒気や威圧感は一切感じられず、ただ僕の意思を汲み取ろうという無機質で冷静な感情しかなかった。ただ怒りをぶつけられる以上に心を揺さぶられるヒリアさんの態度に、僕の確固たる意志が折れてしまいそうになる。もしガウンさんに勇気をもらってなかったら、踵を返して逃げ出していたかもしれない。

「……ギルドの依頼を受けたいんです。その依頼の内容が僕じゃないと難しくて、僕もそれを理解した上で依頼を受けるつもりです。ただ依頼が長期的なもので、調査任務と一緒にやるのが難しいんです。だから依頼を受けるには、調査任務からは外してもらうしかないと思って……」

「……」

 僕が拙い言葉で理由を説明している間、ヒリアさんはただ黙ってこちらを見つめていた。何の反応もないヒリアさんに、僕の中で固めていたはずの決意が負の感情で覆い尽くされそうになる。

「勝手なのは承知です! 今直ぐにとは言いません! でもできるだけ早く、依頼を受けたいんです!」

 ヒリアさんの視線に耐えかねた僕は、決意が揺らぐ前に声を上げながら頭を下げる。これ以上は弱音が漏れそうだった僕は、ただじっとヒリアさんの反応を待つしかなかった。

「……お前さ、何か勘違いしてないか?」

 そこで突然横から声が掛かり、僕は顔を上げる。顔を上げた先で、ジビターさんがこちらを睨みつけていた。

「お前の言い分だと、『僕が抜けたら皆に迷惑かける』とか、『僕がいない間のパーティが心配だ』とか聞こえるんだよ。そもそもお前なんていなくても、調査に何の支障もねーんだよ!」

「……えっ?」

「『え』じゃねーよ。お前、いつから自分が必要とされてるなんて思ってたんだ? 最初から言ってんだろ、俺はお前みてぇな田舎モンは必要ないって」

 ジビターさんの容赦ない言葉に、僕は自分の愚かさを思い知らされた。僕はいつからか自分がパーティの役に立てていると思っていて、調査から抜ける事に後ろめたさを感じていたけど、それがそもそも間違いだったんだ。僕がお荷物になるなんて、パーティに入る前から自分でずっと思っていた事じゃないか。

「元々はただの案内役だったお前が、これ以上何の役に立つってんだ? それに今はガウンさんがいるんだから、お前には案内役ですらいらなくなってるんだよ」

 立て続けに突き付けられる現実に、僕は返す言葉が見つからなかった。とんだ思い違いをしていたのだから、ジビターさんが怒るのも当然だ。

「分かったか? このパーティにもうお前はいらねーんだよ。だからお前が抜けたいだとか、わざわざ聞く必要もねーんだよ」

「……えっ?」

「分かったら、さっさと行っちまいな。お前が抜けりゃ、足手まといが減って楽になるってもんだぜ!」

「……?」

 途中からジビターさんが何を言いたかったのか分からなくなり、僕はどうしたらいいのかと困惑する。

「……全く、もう少し分かりやすく伝えられないのでしょうか……」

 僕が首を捻っていると、去って行くジビターさんと入れ替わりでヒリアさんが僕の前に出る。

「ジビター君の言葉を私なりに解釈しますと、『俺らの事は気にせず早く依頼を受けてやれ』ですね。たったこれだけの事を伝えるのに……ジビター君はコニー君に対する接し方だけは、いつまでも不器用なままで頂けませんね……」

「……え、えっと……どういう事ですか?」

「まだ分かりませんか? そうですね……まずジビター君の言葉を訂正するなら、私達の中で君が役立たずだと思っている人はいないという事です。それはコニー君自身が、私達との任務を通じて感じているはずです」

「……っ!」

 ヒリアさんから大事なことを諭されて、僕は思い違いだと思っていたことそのものが間違いだったと気付かされる。そんな分かり切っていたことに疑問を持ってしまい、先ほど以上に自分の愚かさを責めてしまいたくなる。

「ジビター君はそんな見え透いた嘘を通してまで、コニー君がパーティに必要ないという話へと強引に持ち込み、調査を抜けるための免罪符を作ろうとしたのです。君が調査を離れる事を悩んでいた姿を見て、ジビター君なりに後押ししたかったのでしょう」

「そ、そうだったんですか……」

「……」

 僕がジビターさんの方へ振り向くと、ジビターさんは黙って背中を向けていた。否定する様子のないジビターさんを見て、僕でもヒリアさんの言うことが真実だと分かった。

「私もジビター君と同意見です。コニー君が抜ける穴は大きいですが、調査を行うだけならそこまで支障はないでしょう。ギルドからコニー君の動向について説明を求められる可能性はあるので、可能な範囲で依頼内容を説明して頂く必要はありますが……」

「ほ、本当にいいんですか……?」

「構いませんよ。コニー君が倫理を欠いた言動に及ばないと、十分に信頼していますから」

「その目を見れば、熟考の末の結論だと理解。なれば、戦友の意思を汲むが条理」

「俺はどっちでも構わねーよ。コニーは戦わねぇから、俺の獲物が増える訳じゃねーからな」

「詳しい事情は分からないけど、コニー君が正しいと思う選択をするのが一番だと思うよ」

「チッ……どうすんのか、さっさと決めちまえよ。俺はお前がいない方が、断然いいけどな!」

 再三間違いがないかを聞いても、誰一人として僕の我儘を受け入れてくれる。こんな僕を思いやる皆と同じパーティになれて良かったと、心の底から思った。

「……っ、有難うございます!」

 僕は溢れ出しそうな思いを飲み込み、踵を返してギルドへと走って行った。


◇◇◇◇◇◇


 ギルドで早々に依頼を受理した僕は、その足で真っ直ぐ教会へと向かった。

「グルタさん!」

「わっ……こ、コニーさん!?」

 ついさっき顔を出したばかりの僕がまた来て、グルタさんは驚いて持っていた箒を落とした。

「ごろつきは……まだ来てませんよね!?」

「は、はい……。も、もしかして……もう依頼を受けて……?」

「はい……ついさっき、受けて来ました……」

 南門からほとんど走りっぱなしだった僕は、また教会の入り口で膝を折って肩で息をする。

「えっと……とりあえず、一旦落ち着きましょうか」

「は、はい……」

 グルタさんが気を利かせて、僕を近くの座席に座らせてくれる。身体を休めたおかげで冷静さを取り戻した僕は、今になって自分の軽率さに気づいた。

「……すいません、ごろつきが何処で見てるか分からないのに、何度も教会に出入りして……」

「大丈夫ですよ。今は兵団の方々が見回りをしている時間ですから、近くにはいないはずです」

「そ、そうですか……良かった……」

 グルタさんの話を聞いた僕は、念のため索敵スキルで周囲の気配を探った。グルタさんの言う通り、近くに怪しい動きをしている人がいないと分かり、僕も安心して座席に身体を預ける。

「……本当に有難うございます。そして……本当にごめんなさい。またコニーさんを巻き込む事になってしまって。それも以前よりも危険なことに……」

「グルタさんが気に病む必要はないですよ。僕がどこまでできるか分かりませんけど、ごろつき達が捕まるまで頑張りますから」

「……本当に、有難うございます……」

 不安を口にしてしまうほど弱気になっていたグルタさんだったけど、僕からの励ましのおかげか少し元気を取り戻してくれた。それでもグルタさんの表情には、まだ少しだけ陰りが残っていた。やはり僕がまだ頼りないせいだろう。

「……それで、具体的にはどうするんですか? ごろつき達が警戒しているって聞きましたけど、そんな状況でどうやって捕まえるんですか?」

「それについては問題ありません。彼らが警戒を強めているのは、兵団の方々の見回りを強化してもらっているからです。ですのでコニーさんが来て頂いている間は、あえて兵団の方々には教会付近の見回りを通常通りに戻してもらいます。完全に教会付近から兵団が引き上げてしまうと返って警戒されますし、周辺の治安の問題もありますので……」

「それでごろつき達が来るんですか……?」

「確実ではありませんが、可能性は十分に高いと思っています。ですが彼らも一度武具を取り上げられているので、その辺りは何か対策しているかもしれません」

「そうですか……」

「ですので申し訳ありませんが、ここから先はコニーさんに対策法を一任する事になります」

「えっ……?」

「勿論私も協力は惜しみませんので、必要があれば何でもおっしゃって下さい!」

「え、えっと……」

 僕が作戦を考える事になり困惑するけど、グルタさんの覚悟を決めた眼差しを前に断ることができなかった。僕にあのごろつき達を捕まえる方法があるとは到底思えなかったけど、せめて穏便にごろつき達を無力化する手段がないかと考えを巡らせる。

「……そういえば、ごろつき達はグルタさんが見つからなかった時、暴れずにグルタさんを探していましたね」

「そうですね……私を脅すのが目的ですから、私がいない間に教会を荒らしても意味がないと思ったのでしょう」

「……」

 僕はごろつき達の今までの行動と、僕にできることを振り返って作戦を考えた。もしあのごろつき達がただ暴れ散らかす連中でないのなら、僕でもごろつき達の行動を抑える方法はあるかもしれない。

「……グルタさん」

「はい、何でしょうか?」

「グルタさんって……足は速いですか?」

「あ、足ですか……? 冒険者をしていましたから、人並み以上には走れるかと……」

 僕の質問を聞いたグルタさんは、質問の意図が読み取れなかったらしく首を傾げていた。

「……それなら、思い切って逃げちゃいましょう!」

「……えっ?」


◇◇◇◇◇◇


 グルタさんの依頼を受けた翌日、僕は再び教会に来ていた。昨日考えたごろつき対策作戦を実践するためだ。グルタさんも昨日の内に兵団の人達に話して、通常通りの巡回に変更してもらっている。

「こっち終わりました!」

「有難うございます。では一度休憩にしましょう」

 ごろつき達が来るまでの間は今まで通り、グルタさんの手伝いをしてごろつき達を待っていた。掃き掃除を終えて、僕達は箒を片付けて祭壇近くの座席に腰かける。

「……あの、コニーさん」

「どうしました?」

「本当に大丈夫なんですか? 私も全力で協力するつもりですが、どうしてもコニーさんの作戦がうまくいくのか不安になってしまって……」

 あまり感情を表に出さないグルタさんでも、流石に不安が顔に出てしまっている。僕が提案した作戦だから、そうなってしまうのは無理もないと思う。

「あっ……別にコニーさんの作戦が駄目という訳じゃないんです! ですが……コニーさんの話では、必ずしも被害が出ないとは限らないと聞きましたから。万が一、今まで以上に被害が出る結果になってしまったらと思うと……」

 僕の心の内が顔に出ていたのか、グルタさんが慌てて言い直す。それでもグルタさんの中では、僕の作戦に不安が残っているのは間違いなさそうだ。僕自身も自分の作戦にそこまでうまくいく自信がないので、否定する言葉が見つからないのも確かだった。

「……そうなった時のことも、あらかじめ決めておいたじゃないですか。ですから一回だけでいいので、今回は僕の作戦に乗ってくれませんか?」

 しかし作戦の実行直前で不安を口にする訳にはいかないので、僕は言葉を絞り出してグルタさんを説得した。

「……そうですね。すいません、もうすぐ始まるかもしれないと思ったら、つい気持ちが抑えられなくなって……」

「大丈夫です、何かあってもグルタさんの事は絶対に守りますから!」

 まだ不安な気持ちが残るグルタさんに、僕はさらに思いつく限りの言葉で励ます。少し勢いに任せて発言してしまった気がするけど、必死になるあまり言葉を選ぶ余裕がなかった。

「いえ、コニーさんは自分の身を案じて頂ければ……」

「……っ!」

 グルタさんが話を続けようとした所で、索敵スキルに反応を確認した僕は反射的に立ち上がる。反応の様子と動きからして、間違いなく教会に向かっている。

「コニーさん……?」

「グルタさん、来ました!」

「っ! 作戦開始、ですね!?」

「はい、お願いします!」

 僕がごろつき達の接近を伝えると、手筈通りグルタさんと共に配置についた。グルタさんは教会の扉の前に、僕は教会前の様子が見えるステンドグラスの影に素早く移動する。

「……」

「……」

 ごろつき達が教会から目視できる位置まで近づくと、僕が手振りでグルタさんへと合図を送る。グルタさんが合図を受けて頷くと、教会の扉を勢いよく開け放つ。

「何だぁ!?」

「てめぇ……急に出て来やがって、どういうつもりだ!?」

「自らお出迎えとはなぁ……やっと覚悟が決まったかぁ!?」

 突然教会の扉を開けたグルタさんにごろつき達は一瞬驚くが、グルタさんの姿を見るとすかさず高圧的な態度に切り替わる。

「……っ!」

 しかしグルタさんはごろつき達に構う事なく、そのまま教会を飛び出した。

「ちょっ……てめぇ、何処行く気だぁ!?」

「このっ……待ちやがれっ!」

 走り去るグルタさんを追って、ごろつき達の内二人が走り出す。

「お前ら、分かってんだろうな!?」

「当たり前だ!」

(のろ)っちい兵団なんかに見つかるかよ!」

 その場を動かずに三人を見送ったごろつきが追い掛けるごろつき達へ注意を促すと、教会へと入って来た。僕はごろつきに悟られない様に隠形(ハイド)で気配を消して、気付かれない内に教会を出てから窓越しに中の様子を見る。これで作戦の第一段階は成功だ。

「チッ、まさか教会から出るとはな……。だがどうせ、教会の事が気になって戻って来るに決まってる……」

 教会に残ったごろつきはグルタさんに逃げられたにしては、妙に落ち着いた様子で近くの座席に腰を下ろす。その後も何をするでもなく、ただグルタさんや他のごろつき達が戻るのを待つばかりで、教会を荒らす素振りを一向に見せなかった。どうやら僕が思った通り、ごろつき達の目的はあくまでグルタさんだから、わざわざグルタさんがいない教会を荒らす気はなさそうだ。しかもグルタさんが教会から出て行く姿を見せているから、教会内をくまなく探されたり癇癪を起こされて荒らされる心配もない。

「おう、どうだった?」

「駄目だ……あいつ、街中まで突っ走っちまいやがった」

「流石に兵団の目が多すぎたんで、一旦こっちに戻って来た」

「そうか……まぁ、そう焦る事もねぇ。戻って来るまでここでゆっくりしてようぜ」

 しばらく教会の様子を窺っていると、グルタさんを追いかけて行ったごろつき達が揃って教会内に入って行く。ごろつき達が揃っても教会を荒らす様子はなく、僕は自分の予想に間違いがなかったと安心する。これで作戦の第二段階が完了した。後はグルタさんがどうするかが問題だ。

「……っ!」

 ごろつき達が揃って間もなく、索敵スキルに教会へ近づく気配を確認する。すかさず反応のあった気配の元へ向かうと、そこにはグルタさんが不安そうな表情で待っていた。

「コニーさん……どうでしたか?」

「はい、僕の予想通りでした。ごろつき達は教会の中で、グルタさんが戻るのを大人しく待っています」

「そうですか……」

 僕が教会内の状況を伝えると、グルタさんは心の底から胸を撫で下ろす。昨日グルタさんに作戦を伝えた時は、ごろつき達が教会を荒らさないかは僕の予想でしかなかったから、グルタさんも結果を聞くまでは不安でいっぱいだったはずだ。しかしこれで被害を出さずに、グルタさんとごろつき達をうまく引き離す作戦は成功したと言えるだろう。今後も使えるかはごろつき達の対応次第だけど、この作戦ならグルタさんも安全なはずだ。

「それで……どうしますか? 僕は一人でもいいと思いますけど……」

「何を言ってるんですか、ちゃんと最後まで協力させて下さい」

 僕は作戦の最終段階に入る前に確認を取ると、グルタさんは迷う事なく同行の意思を見せる。すでにごろつき達に追われる危険を負わせてしまっているのに、ここでまた協力を仰ぐのは少し気が引けていたけど、グルタさんの目を見たら断る方が失礼にあたる気がしてしまった。

「……分かりました、それじゃ行きましょう」

「はいっ!」

 僕は同行を了承すると、グルタさんと一緒に教会へ戻った。再びステンドグラスから教会の様子を窺うと、最後に見た時と変わらずごろつき達がグルタさんの帰りを待っていた。後はここでごろつき達の様子を見ながら、捕まえるために使えそうな情報が出るまでひたすら待つだけだ。ここからはごろつき達の動向を余さず拾い上げるため、観察力と根気の勝負になる。

「……遅いな、そろそろ気になって戻って来るはずだが」

「まだ必死になって逃げてるんですかね。それともあちこち逃げ回って、迷子になってるとか……」

「それはないだろう。あれで元は冒険者……背後から追われる気配くらいは分かるだろうし、こんな田舎街程度で迷子になるはずがない」

「そういえばそうでしたね……」

 ごろつき達の会話から、グルタさんの素性をある程度知っているのは間違いない。だけどこれは以前の襲撃で分かっていることだし、ごろつきの一人が元冒険者だから知っていてもおかしくはない。それでも数いる冒険者の中でグルタさん個人のことを憶えているのは変だから、グルタさんを知った切っ掛けは他にもありそうだ。とにかくこれだけの情報じゃ、ごろつき達を追い詰めるにはまだ足りない。

「そろそろ兵団が来るかもしれねぇ……チッ、今日はもう無理か……」

 中々戻らないグルタさんに、元冒険者のごろつきは苛立ちを露わにし始めた。そういえばごろつき達は兵団の動向を細かく把握している節があったから、兵団の動向を知る術が何かあるはずだ。だけどごろつき達は今まで何か特別怪しい行動を見せてないし、どうやって兵団の接近に気付いているのだろう。もしかしたら兵団の動きだけを探知できる、特別なスキルでも持ってるのだろうか。

「……っと、流石に来やがったか」

 僕が色々を考え事をしていると、元冒険者のごろつきが懐から何かを取り出した。目を凝らして見ると、ごろつきの手の中でぼんやりと光る小さい魔石が見えた。よく見ると魔石はただ点滅しているだけじゃなく、微かに震えている様に見えた。

「退くぞ、さっさと準備しろ」

「もうですか?」

「チッ、また手ぶらで帰んのかよ……」

 元冒険者のごろつきが魔石を懐に戻すと、他のごろつき達を連れて教会を後にした。ごろつき達が立ち去るのを確認してから、僕はグルタさんと共に教会の中へ戻った。

「大丈夫ですか!?」

「は、はい……この通り、大丈夫です」

 ごろつき達が去って間もなく、グルタさんが教会を出る前に呼んでいた兵団の人達が来た。いつも教会に駆けつけてくれる人達だったので、ある程度の事情説明と通報から今までのいきさつを話したら、再び見回りの強化をすることで会話が決着した。

「……とりあえず、今日はもう大丈夫ですかね……?」

「はい、おそらくは……」

 兵団の人達が去って行くのを見送った後、僕とグルタさんはお互いに疲れた表情で見合わせる。しかし作戦がうまく運んだ事を自覚すると、次第に表情がほころんでいく。

「やりましたね! ずっとうまくいくか不安でしたけど、こんなに思った通りになるとは思いませんでした。これもグルタさんが協力してくれたおかげです!」

「何を言うんですか。コニーさんがここまで作戦を考えてくれたから……いえ、そもそもコニーさんが依頼を受けてくれなければ、この結果は生まれませんでした。おかげで全く被害を出さずに済みました……本当に有難うございます」

「そんな……僕はただ、少しでもグルタさんの助けになれればと思っただけで……。それに今回の作戦は、グルタさんの協力がなかったらできませんでしたから……」

 作戦がうまくいったのが嬉しすぎて、僕達はお互いに相手を褒め称えるのに躍起になってしまっていた。

「……それなら、今回は二人で勝ち取った勝利ですね」

「そ、そうですね!」

 しかし最後はグルタさんにうまく落としどころをつけらてれてしまい、僕は素直に頷くしかなかった。

「……ですが、これからが本番です。今日得られた情報から、ごろつき達を捕まえる方法を見つけ出さないと。それに今回の作戦がうまくいかなくなった時のために、他にも別の作戦も考えないと……」

 しかし今回の作戦がうまくいったからと言って、まだ楽観できる状況ではない。これからは引き続きごろつき達に関する情報を集めつつ、最終的にごろつき達を捕まえる方法を探っていかなくちゃならない。最終目標まではまだ遠く感じるけど、グルタさんのためにも必ず達成して見せる。

○おまけ「スキル:危険察知(アラート)

系統:技能 種類:能力強化 能力詳細:索敵

 自身の感覚を極限まで集中させて、周囲に存在する気配を持つもの(人や動物、魔物等)の大まかな位置と、その危険度を感知する感覚型の索敵スキル。能力の範囲や精度は、使用者の感覚の練度や精神状態によって変化する。意思を持たない植物や鉱物、人工物などは感知に引っ掛からない。

 危険察知(アラート)が感知する危険度とは、その気配が放つ敵意や警戒心などの周囲へ向けられた害意で、危険察知(アラート)はこの害意の種類と脅威度を感じ取り区別できる。

 害意の種類とはその向けられる範囲を指し、周囲への無差別な害意と定められた目標へ向ける害意の二種類に大別される。前者は主に周囲への警戒心が高い魔物に多く、後者は後ろ暗い目的を持つ人間に多く見られる。また後者の目標がある害意は、スキルの精度によって害意の向ける先の方向を感知する事も可能である。

 害意の脅威度とは文字通り、対象が持つ害意の強度を指す。脅威度が高いほど危険な思想を持っていたり、より害意のある行動に出る意思を持っている。害意を包み隠さない場合が多い魔物であれば、この脅威度の高さでおおよその危険度ランクを判別できる。

 コニーは上記の判別方法を用いて、外界では索敵範囲内の魔物の脅威度と個体数の情報から魔物の種類を特定したり、護衛依頼の際は範囲内で感知した気配から害意の種類と脅威度を割り出して警戒対象を絞り出すなど、索敵から得られる情報を様々な方面で活用している。

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