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第三十走「久しぶりに、出会う事になりました」

〇前回までのあらすじ

 ジビターと共に調査任務に臨む事になったコニー。自分を毛嫌いするジビターに対して、どう接したらいいか悩んでいたコニーだったが、魔物との戦闘を経てからジビターの態度に少し変化が現れる。しかしその後もジビターからは相変わらず悪態をつかれるコニーだったが、そんな中でもコニーの話を聞いてくれる程度にジビターは心を許してくれる様に。

 魔獣調査を始めてから一ヶ月ほど経ったある日、ヒリアさんから僕達全員でギルドに集まる様に言われた。ギルドに来てみると、他の冒険者達も沢山集まっていて、さらに僕の後からも続々と冒険者がギルドに入って来た。誰かいないかと辺りを見回すと、人混みの奥にヒリアさんの姿が見えた。

「ヒリアさん!」

「コニー君、時間通り来ましたね」

「あの……今日は何があるんですか?」

 明らかにいつもとは違うギルドの光景に目移りしながら、僕はヒリアさんに今日集まった理由を聞いた。おそらく他の冒険者が集まっている事が関係していそうだけど、これからギルドで何が始まるのだろう。

「直ぐに分かりますよ、そろそろ始まりますから……」

 ヒリアさんはそれ以上は説明せず正面に向き直る。僕がヒリアさんの視線を追うと、ギルドのカウンター付近に見覚えのある壇が見えた。確かあの壇は、魔獣討伐任務が言い渡された時にも見たけど、今日冒険者が集まっているのは魔獣討伐任務の件なのだろうか。

「……大体集まってるな。まぁ……そろそろ時間だし、いない奴の事は知らねぇが」

 僕が壇に注目していると、ギルド支部長のサイダラさんがだるそうに壇上に上がって来た。

「ではこれより、魔獣討伐任務における調査の定期報告会を行う!」

 サイダラさんが声を張り上げると、騒がしかった冒険者達が一斉に沈黙した。Cランク以上の冒険者もそれなりにいるはずだけど、そんな人達を一喝で静めてしまうサイダラさんの迫力は、流石ギルド支部長を務める実力者だ。

「全体の調査報告をまとめると、一言で言うなら……何もなし! これといって魔獣に繋がる情報がほとんどなく、このまま調査を続けても有益な情報を得られる可能性は低いとの事だ!」

 初めからあまり良くない報告を耳にして、僕以外の冒険者達も表情に曇りが出る。しかしそれほど落胆した様子はなさそうなので、どうやら僕達以外のパーティも魔獣がすでにここにいないと予測していたのかもしれない。

「そこで本日より調査方針を大幅に変更し、調査区域をフロン周辺から大きく拡大して、魔獣の足取りをより広い角度で追う方針とする。但し万が一、魔獣がフロン周辺に潜伏している可能性も考慮して、一部の冒険者には引き続きフロン周辺の調査をしてもらう。調査範囲を拡大する都合上、各々の負担が大きくなるが、すでにフロンでの調査は十分進んでいる。魔獣がフロンに潜伏している可能性も低いため、残った者達でも十分調査は完了出来るはずだ」

 調査方針の変更と聞いて色々と身構えたけど、調査方法はそのままみたいで安堵する。しかし調査範囲を拡大して冒険者を分けるとなると、今臨時で組まれているパーティも変わってしまうのだろうか。

「これからパーティ毎に新しい配置先を説明するから、呼ばれた連中は奥に来てくれ」

 最後にサイダラさんは気が抜けたのか、覇気のある声色から一転して面倒そうにそう口にしてから壇上を降りた。ヒリアさん達とは臨時でパーティになったけど、一ヶ月も一緒に調査を頑張って来たから、散り散りになってしまうと思うと寂しくなる。

「……僕達、どうなるんでしょう」

 気持ちが抑えきれなくなった僕は、聞いても仕方ないのに心の声を漏らしてしまう。

「初めからギルドの都合で組まれた臨時パーティでしたから、いずれは解散する事は分かり切っていた事ですよ。ギルドにいる以上こういった事は珍しくありませんから、コニー君も冒険者なら慣れておかないと」

 真っ当な事を言うヒリアさんだったけど、その声色は何処か哀愁が感じられたのは気のせいだろうか。

「……次、第四班!」

 しばらくの沈黙の後、受付嬢のネーリさんから僕達のパーティが呼ばれた。黙ったまま僕とヒリアさんがネーリさんの元へ向かうと、他の場所にいたサヴィエさん達と合流して、そのまま全員で応接室へと入った。

「第四班は……全員集まってるな」

 応接室に入ると、サイダラさんはまず僕達を順に目で追っていた。サイダラさんが満足そうに頷いているのを見ると、先に入ったパーティの中には欠員があったパーティもいたみたいだ。

「第四班の配置だが……お前達には引き続きフロンでの調査を担当してもらう。第四班の調査は他パーティと比べて優秀だったからな、下手に他に移すよりもこのまま調査を続けてもらう方がいいとの判断だ」

 初めにフロンでの調査を続行されると聞いた僕は、心の中で少しだけほっとした。このままパーティがフロンでの調査を続けるとなったら、少なくとも全く違う人達とパーティを組む事にはならなそうだ。

「だがサヴィエには、サスタの街の調査を担当してもらう」

 しかし次にサイダラさんから聞かされた指示に、僕は心の奥が少し苦しくなる。そういえばサスタの街はサヴィエさんの出身地で、今回調査区域に新しく加えられた街の一つだった。僕の時みたいに地元の冒険者がいるなら、その人に調査を任せる方がいいのは確かだ。

「……うん、了解した」

 サヴィエさんはいつもの独特な間で返事をする。でも何だかいつもよりも返事までの間が長い気がする。

「サヴィエの欠員に関しては、別で解散する事になったパーティから補充する」

 サイダラさんからパーティの補填が伝えられると、奥の扉から誰かが入って来た。

「どうも、新たに第四班に加わる事になったガウンです」

 入って来たのは僕と同じフロンの冒険者であり、Dランクの熟練冒険者のガウンさんだった。

「ガウンさん!?」

「おぉ、コニーじゃないか。まさか第四班が君のいるパーティだったとは……」

 最早懐かしいくらいの見慣れた顔に、僕は驚きと共に言い表せない安心感が溢れて来る。

「いやぁ、私のパーティがあちこちの区域に飛ばされて解散する事になったんだけど……コニーと一緒のパーティになるなんて思わなかったよ」

「ぼ、僕もガウンさんが入ってくれるとは思いませんでした!」

 サヴィエさんが抜けて不安に思ったけど、ガウンさんが入ってくれるならとても心強い。

「顔見知りがいるなら、パーティの方は問題なさそうだな。それじゃ、次はお前達の調査担当区域を説明するぞ」

 僕達のやり取りを見届けたサイダラさんは、目の前のテーブルに地図を広げて立ち上がる。

「お前達第四班の担当区域は引き続き南部の兵団基地周辺に加えて、南東を担当してもらう」

「南東は私のパーティが元々担当していた区域だね」

 サイダラさんが地図を指し示した場所を見て、ガウンさんが納得した様に頷いた。解散したガウンさんのパーティの穴を、僕達のパーティが埋める形になるみたいだ。

「まだ未調査の区域もそれなりにあるが、まぁ気負わずにやってくれ」

 サイダラさんはその言葉を最後に、脇にいた受付嬢のクルシャさんを呼んで、僕達をギルドの外に案内させた。


◇◇◇◇◇◇


「それじゃ、改めて自己紹介といこう」

 ギルドを出た所で、ガウンさんが待ち望んだかの様に満を持して口を開く。

「先ほども紹介されたが、私はガウン。この街の冒険者で、基本的には街周辺の外界をよく巡回しているから、フロン周辺の事は良く知っている。調査任務に関しても何度か経験しているから、それなりに役に立てると思うよ。ちなみに冒険者ランクはDで高くはないけど、十五年以上は冒険者をやってるから知識と経験はこの中で一番あるかもね」

「じ、十五年も!?」

 ガウンさんの自己紹介に一番に反応したのは、意外にもジビターさんだった。あまり人と慣れ合わなさそうなジビターさんが興味を示すくらい、ガウンさんの経歴は凄いという事なのだろうか。

「正確には十六年くらいだったかな……私が冒険者を始めた頃は、まだ支部長が現役の冒険者だったから、十年以上前なのは確かなんだけどね。年のせいか、自分の年も曖昧なものでね……」

 色々と突っ込みたい所はあるけど、それ以上にサイダラさんが冒険者だった事に驚きを隠せなかった。でもサイダラさんが冒険者だったと聞くと、サイダラさんの凄みとか色々と納得してしまった。

「でもそんだけ冒険者続けてて、まだDランクなんすね」

 ガウンさんが苦笑いしている所に、レリダさんが挑発まがいの発言をかます。ガウンさん相手でも変わらず好戦的なレリダさんだけど、見ている僕は肝を冷やしてしまう。

「フロンではCランク以上への昇格が難しいからね。でも私はフロンの冒険者でいる事が誇りだから、Dランクでいるのも構わないんだ」

「……そうっすか」

 レリダさんの言葉に対して不敵な態度のガウンさんに、レリダさんも大人しく頷くしかなかった。レリダさんが調子を崩されるなんて、始めて見る気がする。

「私もランクには頓着しないものですが、Dランクでは何かと事足りない場合もありませんか?」

 ランクの話が出て来ると、今度はヒリアさんがガウンさんに質問を投げかける。確かにDランクとCランクでは、外界での行動範囲にかなりの差があるはずだ。

「私はただフロンの街を守りたいだけだから、Dランクで十分なんだ。未踏の地に興味がないという訳ではないけど、私がフロンを離れるなんて考えられないからね」

「成程……目的意識の高さ故に、Dランクである事を選んだのですね」

 ヒリアさんも自身のランクにそこまで興味がないからか、ガウンさんの考えをすんなり受け入れていた。それにランク以上の実力を持つ者同士という事もお互い感じたみたいで、二人の間にだけ分かる様な親近感も生まれている気がする。

「うむ……サヴィエ殿の損失は大きいと思われたが、これは想像以上に僥倖……」

 ガウンさん達の会話を聞いていた様子に、ガットツさんが感心した様子で頷いた。

「君は……見た所、兵団から冒険者に入ったのかな?」

 冒険者に似つかわしくない重装備で固めたガットツさんを見て、ガウンさんが少し驚きながらも興味のある視線を送る。

「装備の感じからして、西の方から来たみたいだね。遠征や任務でたまに見た事はあるけど、本当に装備にしては芸術的な造りだよ」

「先人達の英知の結晶だ。流線型の造形は美的意識のみならず、機能性による役割も重要」

 防具の話になってから、ガットツさんの口数が普段より少し多くなった。兵団に誇りを持っているから、兵団の装備を褒められて嬉しいのだろう。それにしても、装備を見ただけでガットツさんの職業と出身が分かるなんて、ガウンさんの観察眼は相変わらず鋭い。

「……そういえば、第四班から一人抜けるって聞いたけど……」

「私……」

 ガウンさんが思い出した様にパーティ変更の話を持ち出すと、サヴィエさんが間髪入れずに名乗り出た。

「おぉ、サヴィエちゃんか。そうか、君も第四班にいたんだね」

「……どうも、ご無沙汰です……」

「そうだね……最後にこっちに来たのって、そっちの魔物の群れが流れて来た討伐任務だったけ?」

「はい……」

 お互いに気の知れた仲の様に、ガウンさんとサヴィエさんが言葉を交わす。話の内容からして、会った事があるのは一度や二度ではなさそうだ。

「サヴィエちゃんが外れるのは……サスタに戻るからだね」

「そうです……」

「そうか……サヴィエちゃんは優秀だから、居てくれると助かるんだけどね」

「……これも、任務ですから……」

「うん、そうだね。それに万が一、サスタに魔獣が流れているかもと思ったら、サヴィエちゃんも心配でしょ?」

「……そんなに、心配してないです……。サスタにだって、私よりも腕の立つ人はいますから……」

 故郷の話を持ち出されたからか、サヴィエさんが珍しく分かりやすいくらいに動揺している。普段何を考えているか分からないサヴィエさんだけど、ガウンさんからしたらそんなサヴィエさんですら可愛い後輩みたいな存在なのかもしれない。

「となると……ここからサヴィエちゃんが抜けて、六人体制の中規模パーティの構成か。調査の範囲が増えるから心配してたけど、これだけの人材が揃ってるなら何とかなりそうだね」

 ガウンさんは会話を一区切りすると、僕達を一瞥して明るく笑った。普段から良くお世話になっているガウンさんが加わるのだから、こちらとしてもこれ以上ないくらいに頼もしい気分だ。

「でも初めて会う人も多いから、今日は食事でもして親睦を深めようと思うんだけど……君達はいいかい?」

「い、いいんですか……?」

 ガウンさんには僕も街で会う度に、よく食事に誘われては奢ってもらったり、冒険用の買い物で品物を選んでもらったりと世話になってたけど、まさかこの流れで全員に奢る気じゃないだろうか。いくら何でもガウンさん一人で持つには負担が大きいはずだ。

「コニー、そんな心配そうな顔しなくていいよ。私もそんな稼ぎ頭と言われるほどの冒険者ではないが、パーティ全員分の支払いくらいは十分出来る余裕はある。それに君達には魔物の脅威からフロンを守ってもらっているのだから、同じ冒険者としてこれくらいはさせて欲しい」

 まるで当然の事の様にそう言い切るガウンさんに、その場の誰も断るという選択が出来る訳がなかった。そして僕達はそのままガウンさんに連れられて、ガウンさんが行きつけだと言う酒場で奢られる事となった。


◇◇◇◇◇◇


 パーティからサヴィエさんが抜け、新たにガウンさんを迎え入れた翌日、僕達は早速パーティ全員で外界に出ていた。

「本当によろしいのですか? 私がパーティの指揮をしても……」

「昨日散々話し合って、君も納得したじゃないか。新参の私より、今までパーティを率いた君が続けるべきだって」

 珍しく不安そうに話すヒリアさんを、ガウンさんが自身たっぷりに笑い飛ばして元気付ける。昨日ヒリアさんとガウンさんの間で、どちらがパーティの指揮を執るかと二人で論争していた時の話だ。しかも普通なら自分が指揮をしたいと主張する所を、ヒリアさんとガウンさんは互いに相手が指揮するのが良いと確固として譲らなかった。どちらも相手がいかにパーティを指揮するのがいいかを主張していたけど、最終的にヒリアさんがガウンさんの熱量に負けて、ヒリアさんが引き続きパーティを指揮する事になった。しかしヒリアさんもここでまたその話を持ち出す所を見ると、ガウンさんがパーティの指揮を辞退した事をまだ気にしているみたいだ。

「……そうですね、分かりました。それでは……これより調査を開始します」

 ヒリアさんは少ししこりを抱えた表情だったけど、仕切り始めるとそんな不安を一切感じさせない凛とした表情に変わる。こういう姿を見ると、僕もヒリアさんが指揮を続けて良かったと思える。

「今回はパーティ編成が変わってから初めての調査という事で、陣形の変更や各々の連携の確認等を踏まえて、パーティ全員一丸となって調査します。まずは陣形ですが……」

 ヒリアさんが指揮をすると決まってからの進行は早く、ヒリアさんはいつも通り調査方針を説明していく。内容を聞き慣れた僕達はただ聞き入っていたけど、初めて聞くガウンさんは真剣な表情で聞き漏らすまいとしていた。

「……と、説明は以上となります。何か質問はありますか?」

 丁寧な説明の後、ヒリアさんは最後に必ず誰かからの意見を求める。始めの頃はたまに質問が飛ぶ事もあったけど、最近では特に誰も聞く事はなくなっていた。

「一ついいかな?」

「はい、何でしょう?」

 しかしそこでガウンさんの手が挙がる。昨日から入ったばかりだから、当然といえば当然かもしれない。

「私の配置だけど、君達の後方が良いと思うんだ」

「ガウンさんが後方に……そうなると、前衛四人で私達を囲む陣形になりますね。何故ガウンさんは後方に下がりたいと?」

「その方が後衛の安全度が高いというのもあるけど、一番は後方の警戒を私に任せてもらいたいんだ。それなりにここらでの戦闘には慣れているし、少しだけど索敵も出来るからね」

「索敵を……それはとても有難いです! サヴィエさんが抜けて、索敵を任せられる方がいませんでしたので……」

 そういえばガウンさんはよく外界を巡回していて、索敵もそれなりに出来ると聞いた事がある。他にも普段使っている剣以外にも、扱える武具が複数あったりとガウンさんは色々と器用な所がある。

「ではガウンさんの提案を踏まえて、前方はガットツさん、右翼はジビター君、左翼はレリダ君、後方はガウンさんにしましょう」

 ヒリアさんがこんなにもすんなり他人の提案を受け入れるなんて、始めて見たかもしれない。しかも入ったばかりのガウンさんが相手というのだから、ガウンさんは本当に人とのやり取りが上手い。

「では他になければ、この方針で調査を開始しましょう」

 ヒリアさんが最後の確認を済ませると、僕達は新しくなった陣形を組んで森の中を進み始めた。

「……すでに調査が進んでいるからでしょうか、未だに魔物との接敵がありませんね」

 ある程度進んだ所で、索敵をしていたヒリアさんが不思議そうに僕へ話しかけた。同じく索敵していた僕も同意見で、ここまで周囲に魔物の気配がないのは結構珍しい事だった。

「あぁ、それは私のせいだね。以前のパーティでの調査に加えて日課の巡回もしていたから、この辺りはいつも以上に魔物の数は少なくなっているはずだよ」

「そ、そうだったんですか……」

 確かにガウンさんはいつも依頼とか任務に関係なく外界を巡回しているけど、任務の時間以外にも巡回で魔物の討伐をしているなんて、一体どれだけ働いているのだろうか。

「それは有難いです。これなら調査に注力出来そうです」

 ヒリアさんも少し驚いていたけど、それ以上にガウンさんに対する感謝の方が大きいみたいだ。

「すげぇ……流石ガウンさんだ!」

 そんな話をしていると、離れた位置にいたジビターさんが尊敬の目でガウンさんを見つめていた。昨日の食事会から、ジビターさんはガウンさんに対して冒険者の先輩として尊敬する人になったみたいで、事ある毎にガウンさんを称賛している。

「ですがガウンさんとの連携を確認する事を考えると、少しは魔物との戦闘もしておきたいですね……」

「それなら少し東に向かうかい? そっちの方は普段の巡回路から外れてるから、魔物も十分残っているはずだよ」

「そうですか……それではそちらに進路を移しましょう」

 またしてもガウンさんの進言が通り、ヒリアさんは予定していた進路を変更した。ここまでヒリアさんに意見を通せるなんて、流石ヒリアさん以上の経歴を持つガウンさんだ。

「……本当にいましたね」

 進路を変えてから少し間を置いて、僕とヒリアさんの索敵範囲に魔物の反応をいくつか確認した。ヒリアさんは僕に魔物の危険度を確認してから、連携の確認に適した相手を狙って接近する。

「……ではここから、攻めの陣形に変更します。前衛役の二人が敵を視認しましたら、合わせて仕掛けて下さい」

 魔物の目前まで接近した所で、ヒリアさんが作戦を小声で全員に伝える。ガウンさんは指示通りにガットツさんの横に並んで、僕とヒリアさんの盾となる前衛役に加わる。遊撃役のレリダさんとジビターさんが魔物の脇に回り込むのと同時に、前衛の二人が魔物へ向かって突撃する。

「……!? ガアアァァ!」

 突然現れた僕達に驚いた魔物達だったけど、すぐさま臨戦態勢を取る。相手は以前討伐した経験のあるシルバーウルフだけど、危険度を考えれば油断出来る相手ではない。

風来刃(エアカッター)!」

「ギャウッ!?」

 シルバーウルフがこちらに仕掛けようとする前に、ヒリアさんが魔術で牽制する。シルバーウルフもヒリアさんの速攻に驚いたのか、致命傷を受けてないにも関わらず全員動きが一瞬止まる。

「このまま一気に叩きます!」

 ヒリアさんの掛け声と共に、脇に控えていた遊撃役の二人も飛び出した。今回の相手は素早い動きと連携を得意とするシルバーウルフという事で、ヒリアさんは速攻で仕掛けて相手の初動を潰して、一気に倒してしまう作戦を取っていた。だからこそヒリアさんも自分が狙われてしまう危険を承知で、いきなり魔術を使って牽制したのだった。

「おらよっ!」

「おっと、こっちも通さないよ」

 ジビターさんとレリダさんもしっかり作戦通り、シルバーウルフの進路を阻む様に立ち塞がる。ヒリアさんの牽制の甲斐あって、前衛の四人でうまくウルフ達を取り囲む形となった。

「グウウゥゥ……」

 完全に動きを封じられたウルフ達はこちらを睨むが、持ち前の素早さを活かせずにその場で呻る。以前ウルフ達に追われた時とは、立場が逆転している。

「ではお三方、後はお願いします!」

 完全に包囲された事が確認できた所で、ヒリアさんがガウンさん、レリダさん、ジビターさんに声を掛ける。ここからは包囲された状態を維持しつつ、前衛三人が確実にウルフ達を倒していく手筈となっている。残った前衛のガットツさんが僕達の護衛をしつつ、ヒリアさんと共に全体的に補助をする役目で、僕は索敵で全体の状況をヒリアさんに伝える役だ。

「うらぁ!」

「ガウゥ!?」

「よっと……!」

「ギャイン!?」

 一度討伐しているからか、レリダさんもジビターさんも順調にウルフ達を翻弄している。レリダさんに至っては複数のウルフ相手にも関わらず余裕すら見える。

「そら……よっ!」

「キュウン!?」

 一方ガウンさんは、レリダさんの様に余裕を見せている訳じゃないけど、レリダさん以上に的確にウルフを無力化していた。どんな戦いになるかと思っていたけど、全く心配する必要はないみたいだ。

風来刃エアカッター!」

「ギャッ!?」

 そして包囲から逃れようとするウルフがいたら、ヒリアさんがすかさず魔術で足止めする。しかも動きを止めるために威力を抑える代わりに速く打って、止めがさせない分うまく当て方を工夫している。

「ふんっ!」

「グルァッ!」

 そこで全体を指揮するヒリアさんを狙おうとしても、ガットツさんが目の前で万全の状態で迎え撃っていて、向かって来るウルフを包囲の中へと押し返す。

「……ふぅ」

「討伐完了、だね」

 そのまま完全にウルフを制圧したガウンさん達は、数分もかからずに討伐してしまった。前線で戦ったジビターさんは息をついているけど、ガウンさんやレリダさんはまだ余裕がありそうだ。

「とてもいい討伐でした。始めから戦況が有利だったとはいえ、サヴィエさんが抜けた状態でここまで迅速に討伐出来るとは思えませんでした。この様子でしたら、即戦力として十分ですね」

 ガウンさんの戦いぶりを観察していたヒリアさんが称賛の声を上げる。これで戦力的にも不足ないと証明されて、ガウンさんも完全にパーティの一員として認められる事になった。

「ガウンさんの実力も十分理解出来ましたので、ここからは予定の巡回路に戻りましょう」

 討伐したウルフの片づけを終えると、僕達は元々の予定通りの調査区域へと戻る事にした。その後も事前にガウンさんが討伐したばかりの箇所を回る事になったので、調査自体は予定よりも早く進んでいった。


◇◇◇◇◇◇


「お疲れ様でした」

 ウルフを討伐してからは特に何も起きず、僕達は無事に調査を終えて街まで戻って来た。ヒリアさんが別れの挨拶をすると、皆は自然に一人ずつ解散していった。

「……コニー君」

「ガウンさん……どうしました?」

 皆が解散していくのを眺めていると、最後に残ったガウンさんから声を掛けられる。ガウンさんとは久しぶりに話すけど、一体何の用だろう。

「最近ギルドに顔出してるかい?」

「えっ……? えっと、最近はあまり行けてないですね」

 ガウンさんからギルドの話題が出て来て、僕の中でさらに疑問が膨らんでいく。言われて思い返すと、任務が始まってからは一人でギルドに足を運ぶ機会はほとんどなかったと思う。でも僕がギルドに来なくて問題が起きるとは思えないけど、ギルドで何かあったのだろうか。

「そうか……それなら一度、ギルドに行くといいよ。私も事情はよく知らないし、詳しい事はギルドから聞いた方がいいと思う」

「そ、そうですか……」

 ガウンさんも何の事だか分からないみたいで、煮え切らない様子でギルドに行く事を薦めてきた。何だか良くない事でもあるのか分からないけど、何があるのか気になるからギルドには行っておきたい。

「分かりました、早速明日行ってみます」

 とりあえずここでいくら考えても分からないから、とにかくギルドに行く事にした。ただ今日はもう遅いので、明日の朝に改めてギルドに行く事にした。

「そうかい……そうだね、それがいいよ」

「はい、教えてくれて有難うございます。それじゃ!」

「うん、じゃあね」

 僕はガウンさんにお礼を言ってから、ガウンさんと別れて帰路に立つ。去り際のガウンさんの顔が曇って見えて少し不安になったけど、これ以上気にしても仕方ないと気持ちを振り切った。


◇◇◇◇◇◇


 翌朝、早起きした僕はパーティが集合する時間になる前に、ギルドへと赴いた。こんなに早い時間からギルドを利用するのは初めてだったけど、ギルドが早朝から開いていて良かった。

「おっ、コニーじゃん」

「おはようございます!」

 早足で冒険者窓口に行くと、受付嬢のクルシャさんがゆるく挨拶する。一見いつも通りに見えるけど、どうやら早朝で少し気だるいみたいだ。

「一人で来るなんて、何か久しぶりじゃん」

「そ、そうですね……」

 クルシャさんが怪しい笑みを浮かべてこちらを見て来て、僕は反射的に身体を退いた。この顔をしたクルシャさんは、いつも何か良くない事を企んでいる。

「そ、そういえば……今日はガウンさんから聞いて来たんですけど……」

「あのおっさんから……?」

 クルシャさんの気を逸らそうと、今日ギルドに顔を出すことになった経緯を話し始めると、クルシャさんは何の事かと一瞬不思議そうな表情を浮かべる。

「……あー、そういう事か……そういえば言ったなぁ」

 間もなくクルシャさんが何かを思い出した様に呻る。昨日は特に疑問に思わなかったけど、ギルドの情報についてガウンさんが知っているのは、ギルドの情報管理からしてあり得ないはずだ。それがどうやらクルシャさんから漏れたみたいだ。

「あの……色々と大丈夫なんですか?」

「あぁー、大丈夫。一応内容は伝えてないし、ただコニーに来て欲しい的な事をそれとなく言っただけだから」

「そ、そうですか……」

 クルシャさんの大丈夫がどれだけ信じられるかいまいち不安だけど、僕は問題ないと祈る事しか出来なかった。

「それで……何があったんですか?」

 ギルドの機密問題も気になるけど、それ以上に僕が呼ばれた理由の方が気になる。

「それなんだけどさ……」

 クルシャさんは話を始めると同時に、カウンターの下から見覚えのある依頼書を取り出した。

「つい最近、またこの依頼が来始めたんだよね」

「この依頼は……!」

 カウンターに置かれた依頼書を見て、僕は動揺を隠せなかった。忘れるはずもない、『教会の清掃作業及び護衛依頼』。教会の見習い修道女、グルタさんからの依頼だ。

〇おまけ「人物ファイル:ガウン」

種族:人間

職業:Dランク冒険者

出身:辺境の街フロン(国属なし)

 地元愛の強い熟練冒険者。フロンの街の安全のため、外界の巡回を日課としている。

 冒険者ランクはDだが、実力で言えばCランクは下らない程の大ベテランである。基本武具は剣だが、一般的な武具であれば一通り使える。また魔物の討伐以外にも、外界の調査や要人の護衛等、様々な依頼や任務を経験している。

 新人冒険者の育成にも積極的で、新人達の世話を焼いたり面倒を見たりと、親身になって新人の助けになっている。

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