第二十八走「本格的な調査が、始まりました」
○前回までのあらすじ
数日の環境訓練を経て、ヒリア率いる魔獣調査パーティ第四班は暗闇の森を克服した。調査に向けて一段落した調査パーティは、一時の休息を取る事になる。その日コニーはヒリアの付き添いでギルドに向かったが、そこでコニーはヒリアの助力によって、自分がEランクに昇格していた事を知った。
ヒリアさんに昇格した事を教えてもらった次の日。休暇を経た僕達魔獣調査パーティ第四班は、指揮者のヒリアさんに連れられて、調査任務の担当区域である兵団基地の前まで来ていた。
「ではこれより、任務に向けて本格的な調査を行います」
全員揃っているのを確認すると、すぐさまヒリアさんが調査開始の号令を出す。
「今回は調査の効率を図るため、組み分けをして各組で分かれて行います。組み分けの内容は各々の能力から、私の判断で事前に選出しました」
ヒリアさんからこれからの調査に関して、詳しい内容が説明されていく。分かれて調査をすると聞いたけど、僕は誰と組む事になるんだろう。でも誰と組むとしても、僕は出来るだけ迷惑にならない様にしないと。
「組み分けは主にそれぞれ役割別で選定しています。それぞれ索敵、調査、戦闘の役割で二つの組を作りました。索敵は私とコニー君、調査はサヴィエさんとジビター君、戦闘はガットツさんとレリダ君に担当してもらいます。組み分けは私、ジビター君、レリダ君の組、コニー君、サヴィエさん、ガットツさんの組で分けます」
ヒリアさんは事前に考えていたという組み分けの内容を、あらかじめ練習していたと思うくらいに淀みなく説明した。僕はサヴィエさんとガットツさんと組む事になったけど、何だかうまく会話が出来るか不安になる組み合わせなのは気のせいだろうか。
「私達の組は私が指揮を執ります。コニー君達の組の指揮については、今回は調査が目的なのでサヴィエさんが適任でしょう」
「……分かった」
ヒリアさんに僕達の指揮を任されたサヴィエさんは、短く小さくだけどはっきりと返事をした。こんな独特の雰囲気のサヴィエさんだけど、どんな指揮をするのかと思うと何だか言葉に出来ない不安が込み上げてくる。
「では、次に各組の調査区域ですが……」
「……おい待て、何で俺が調査担当なんだ!?」
ヒリアさんが次の説明に入ろうとした所で、ジビターさんが不満を口にしながらヒリアさんに迫っていた。
「担当別での人選をした結果ですよ。私も調査の適任者は、サヴィエさんとコニー君が一番良いと思ったのですが、私以上の索敵能力があるコニー君を索敵に回さない訳にはいきませんでしたので。それに冒険者を生業としているレリダ君なら、調査依頼の一つや二つは経験していると思いますから、調査担当でも問題はないでしょう?」
「確かに外界の調査依頼なら受けた事はあるが、それで何で俺が調査に回されなきゃいけねぇんだ!?」
ヒリアさんが最もな理由を述べて論破するけど、レリダさんもまだ納得がいかないみたいで食い下がる。
「それならレリダ君は、兵団現役のガットツさんと剣術に秀でたレリダ君よりと比べて、戦闘に貢献出来る自信がありますか?」
「それは……」
再びヒリアさんに反論しようとしたジビターさんが、ここで言葉を詰まらせる。どうやらジビターさんも、戦闘担当になった二人の実力を分かっていて簡単に否定が出来ないのだろう。僕も以前から皆の戦闘を見ているけど、戦闘役になった二人の戦いは他の皆と比べても突出していると思う。
「私の魔術やコニー君のスキルの様な、広域索敵能力はありますか?」
「……」
さらにヒリアさんが追い打ちの様な言葉をジビターさんに浴びせる。ジビターさんもこれ以上返す言葉もないみたいで、ただヒリアさんの言葉を聞いて渋い顔をしている。
「何も考えなしに担当にの振り分けや組み分けをしている訳ではありません。それぞれの能力や長所、性格を考慮した上で最適だと思える選択をしているつもりです。このパーティの指揮を任されている以上、私は十二分にパーティの事を考えています」
「……チッ、分かったよ……」
ヒリアさんの言葉がようやく通じたのか、ジビターさんはそのまま踵を返してパーティの輪から外れて行った。でもジビターさんの様子からすると、言葉とは裏腹にあまり納得はしていなさそうだった。
「……では改めて、各組の調査区域を説明します」
ヒリアさんもジビターさんが納得していないのは分かったみたいだけど、これ以上声を掛けても無駄だと思ったのか、ジビターさんを他所に中断していた話に戻っていた。
◇◇◇◇◇◇
「では早速、調査を始めましょう。サヴィエさん、ちゃんと時間通りに戻って下さいね」
ヒリアさんが今回の調査方針を説明し終えると、ヒリアさんの組は颯爽と自分達の調査区域へと向かって行った。先ほどのやり取りを見た後だと、ヒリアさんの組がうまくいくか少し不安になる。
「……了解」
去って行くヒリアさんの組に、サヴィエさんは淡白な返事をしながら手を振った。サヴィエさんの素振りを見ていると、どうにも気が抜けるというか心を乱される感じがする。
「……じゃあ、私達も行こうか」
「は、はいっ……!」
サヴィエさんに声を掛けられたけど、僕に話しかけられたと気付くのが遅れてしまい慌てて返事をする。別に大したやり取りではないはずなのに、たったこれだけで不安がより募っていく。
「コニーは常に周辺警戒、魔物の接近は逐次私に報告。ガットツは基本コニーの傍で護衛、他の行動は私が合図する」
しかし僕の不安を払拭するかの如く、サヴィエさんは端的ではあるけど的確な指示を僕達にくれた。思えばサヴィエさんは狩人なのだから、集団での狩り等で仲間との連携を経験してないはずがなかった。そう思ったら、第四班の中で二番目に冒険者経歴の長いサヴィエさんが頼もしく思えてきた。
「うむ、心得た」
「りょ、了解です!」
サヴィエさんの優秀さにぼーっとしていると、ガットツさんが返事をしているのを聞いて我に返り、僕も続けて返事をする。
「先導は私がする、二人はついてきて」
「はいっ!」
さらにサヴィエさんが自ら森を突き進み、僕達はサヴィエさんの頼れる背中を追った。
「……ここはない、次」
すっかり森の暗闇に慣れていたサヴィエさんは、周囲を軽く見回すと別の場所と向かって行った。
「……ここもない、次」
さらにサヴィエさんは別の場所でも辺りを一瞥しただけで、また別の場所へと足を運んだ。
「……ここもダメ、次」
「あ、あの……」
またもやサヴィエさんが簡単に調査を終えて次に向かおうとしたので、僕はたまらず呼び止めた。
「……どうしたの?」
僕の声に振り返ったサヴィエさんは、まるで思い当たる節がない様に不思議な様子で首を傾げていた。
「あの……さっきから、何の調査をしているんですか?」
「……魔獣の調査」
「いや、それは僕も知ってるんですけど……」
僕の質問に対してサヴィエさんは真面目に答えてくれたみたいだけど、どうやら僕の質問の意図を汲み取ってもらえていない様だった。
「サヴィエさんはさっきから、何を見ているんですか?」
「……魔獣の痕跡」
繰り返し質問をすると、サヴィエさんはまた答えてくれるけど、どうにも要領を得ないというか、僕の理解力が足りないのか、結局何がしたいのかが僕には分からなかった。何だかサヴィエさんとの会話がやりにくいと感じたのは、良くも悪くも言葉が簡略化されているせいかもしれない。
「……痕跡って、どんなものを探しているんですか?」
それでも同じパーティの仲間のサヴィエさんとの距離を縮めたいと思った僕は、三度質問を繰り返す。もしかしたらサヴィエさんに嫌がられたり呆れられたりするかもしれないけど、このままやり過ごすのも良くない気がする。
「ヒリアの推測に該当する魔獣の痕跡……中型か大型の魔獣。元々ここにいる魔物は小型ばかりだから、中型以上の魔物の痕跡が任務対象の魔獣の可能性が高い」
「そうだったんですか……それであんなに早く調査が出来るんですね」
僕がしつこく質問を繰り返したおかげか、サヴィエさんが珍しく長く喋ってくれた。それにしても大雑把な調査をしていると思ったけど、ちゃんとした根拠の元で必要最低限の調査で済ませていたんだ。確かに中型以上の大きさの魔獣を探すのに目的を絞れば、調査で見るべき要点はそう多くはないし、痕跡もぱっと見で分かりやすいもののはずだ。
「調査が早いのは……スキルもあるから」
「スキルですか……?」
「感覚強化……視覚、聴覚、嗅覚とかの感覚を強化する」
「そ、そんなスキルがあったんですか……!?」
サヴィエさんから語られるスキルは、驚くべき内容だった。気配だけで魔物を感知したり、他の人より暗闇に慣れるのが早かったりと、異常に感覚に優れていると思っていたけど、まさかスキルのおかげだったとは思わなかった。それなら先に話しても良かったと思うけど、どうして今まで話してくれなかったんだろう。
「……でもスキルって事は、ギフトは別にあるんですか?」
サヴィエさんの事が気になった僕は、さらに余計な事まで聞いてしまった。ギフトについてはあまり言及しない方がいいものだと身を以て知っているはずなのに、つい知りたいと思った僕は自制するより先に言葉の方が口を出ていた。
「あっ、あの……」
「……うん、ギフトは凝視。視界にある物を全て認知出来る……」
口を滑らせてしまい慌てていると、サヴィエさんは特に嫌がる様子もなく自分のギフトを教えてくれた。サヴィエさんに悪い事をしてないか不安だったけど、ひとまず大丈夫そうで安心した。
「全て認知、ですか……何だか想像がつかないですけど、凄そうなギフトですね!」
「……そう……?」
僕が率直に思った事を伝えると、サヴィエさんは何だか不思議そうに聞き返す。僕も具体的にどう凄いのかは説明出来ないけど、色々と使い方のあるいいスキルだと思う。
「……あれ? でもサヴィエさんって、暗闇は見えてなかったんですか?」
「それは……あくまで目で見えるものを全て認知するから。遠視や注視は出来ても、透視や暗視は別……」
「そういうものなんですか……」
どうやら僕が思っていたほど色々見えるギフトという訳じゃなく、本当に凄く目がいいという感じらしい。それでも目が良いというだけでも、十分使い勝手が良いギフトだと思う。
「……兵団基地の痕跡、コニーは見たんでしょ?」
「えっ? は、はい……」
サヴィエさんのギフトに感心していると、今度はサヴィエさんの方から僕に話を振って来た。
「現物を見てるなら話が早い……今はそれに類似する痕跡の発見が目的。私もスキルでくまなく見てるけど、物陰とかで万が一にも見逃すかも。コニーも一応、索敵しながら周囲を観察して」
「は、はいっ……!」
続けてサヴィエさんから指示を受けた僕は、妙な緊張を抱えながら返事をする。ヒリアさんが指揮する時は厳格な感じで張り詰めた緊張感があったけど、サヴィエさんの指揮の下だと不思議な空気感で変に緊張してしまう。
「……でも、あまり期待はしない方がいい」
「えっ……?」
そのまま調査に戻るかと思ったら、サヴィエさんの口から思わぬ言葉が飛び出す。サヴィエさん自身も無意識で口にしていたらしく、僕が聞き返したのを見て微かに動揺した表情を浮かべていた。
「今回の調査対象の魔獣……外界の至る所で目撃されて、正体がほぼ不明。加えて兵団基地が被害を受けているのも異質。魔物が意図的に人工物を破壊する事はそうないはずだけど、被害状況からほぼ狙って基地を襲撃している。広大な外界を動き回っている所から見ても、明らかに特殊な能力と習性を持っている。そんな魔物が、一ヶ月の間同じ場所いる可能性の方が低い」
「そ、そうですね……そう言われるとそんな気がします」
さっき長々と説明してくれたからか、サヴィエさんは今までにないくらいの勢いで自分の思考を曝け出した。今まで無口な人だと思っていたけど、こうして話している姿を見ると案外会話が出来る人なのかもしれない。そう思うと、うまく交流出来るかと不安だった心が少し和らいだ気がする。
「あっ……」
サヴィエさんが親身に話してくれたのを見ていると、サヴィエさんが何故か顔を背けてしまった。
「……ゴメン、行こうか」
「ど、どうしたんですか!?」
何処か慌てた様子で調査に戻ろうとするサヴィエさんを見て、僕はたまらず再び呼び止めてしまう。サヴィエさんの方はこれ以上追及して欲しくなさそうだったけど、それよりも先に言葉が口をついて出てしまった。
「……私、口下手だから……会話、大変でしょ……」
「え、えっと……」
サヴィエさん口から出たのは、思いがけない謝罪の言葉だった。サヴィエさんも初めから自覚していたみたいで、大分申し訳なさそうにしている。実際端的な言い回しで理解が難しかったり、いきなり饒舌になって色々と話したりで、会話しづらいと思ったのは本当だった。でも別にそれで困った事になった訳でもないし、僕の方も途中しつこく質問をしてしまったから、サヴィエさんを咎める気にはならなかった。
「べ、別に大丈夫だと思いますよ? それに僕だって話すのは得意じゃないですから、口下手なのは珍しい事じゃないと思います」
掛ける言葉に悩んだ結果、僕なりにサヴィエさんを励ます事にした。自虐を挟みながらなのは我ながら相変わらずだと思い、余計に自分を責め立ててしまいそうになるけど、今はそれよりもサヴィエさんの事の方が大事だ。
「……そう?」
僕なりの励ましを受けて、サヴィエさんも少しは気が紛れたみたいだけど、まだ不安そうにこちらの様子を窺っている。
「そうですよ! それにさっきの説明は色々話してくれたおかげで、凄くためになりましたよ!」
「い、いや……その方が聞き取りづらかったでしょ……?」
「えっ……?」
僕は初めの話し方が聞き取りづらいと思っていたけど、サヴィエさんは寧ろ後の方の話し方が聞き取りづらいと思っていたみたいだ。確かに若干早口だったけど、ちゃんと聞き耳を立てれば問題なく聞き取れたから、僕から見たら始めの端的な話し方の方が会話が難しいと思う。
「……別に大丈夫だと思いますよ。沢山話してもらう方が、僕も色々と分かって楽しかったですから」
「た、楽し……い……?」
素直に自分の気持ちを伝えただけのはずだけど、それを聞いたサヴィエさんは動揺を隠せない程に驚いていた。そんな驚くような事を言った気はしないけど、何か変な事でも言っただろうか。
「……そう……」
状況がよく分からないまましばらく沈黙が続くと、サヴィエさんは小さく呟いて後ろを向いてしまった。僕は訳が分からないままだったけど、サヴィエさんの中では会話は終わったみたいだ。
「……それじゃ、出発」
「えっ……は、はい……」
結局サヴィエさんはいつもの話し方に戻ってしまい、そのまま先に行ってしまった。でもサヴィエさんはさっきみたいに投げやりにではなく、何処か吹っ切れた様子の背中で向かったので、呼び止めようとは思わなかった。
「……少年、見事」
僕が何だったのかと首を捻っていると、背後からガットツさんが僕の肩を叩いてきた。
「えっ……? は、はぁ……」
一体何の事だか分からないけど、ガットツさんの様子からして僕を褒めてくれているみたいなので、訳も分からないまま中途半端に礼を返す。
「……まぁ、いいのかな?」
二人共何処か満足げに先に進む姿を後ろから見て、僕だけ完全に置いてきぼりになる。でも二人が満足そうにしているのならあまり気にしても仕方ないと思い、気持ちを切り替えて二人の後を追って行った。
◇◇◇◇◇◇
調査終了時間が迫って調査を切り上げた僕達は、事前にヒリアさんに指定された通り、調査対象でもある兵団基地へと戻って来た。兵団基地に到着すると、すでにヒリアさんの組は戻ってきていて、直ぐにお互いの調査状況を簡単に報告し合った。結局お互いに目ぼしい結果は得られず、今日の調査は徒労に終わる事となった。
「皆さん、お疲れ様でした。今日の調査はこれで終わりにします」
そしてお互いの情報交換が終わると、ヒリアさんが解散の宣言をした。
「サヴィエさんは調査状況等を詳しくお聞きしたいので、この後もお付き合いして下さい」
「……うん、分かった」
ヒリアさんがサヴィエさんに話しかけると、サヴィエさんはいつもの調子で小さく返事をする。あの時少しの間だけ饒舌に話してくれてから、サヴィエさんは元の寡黙な話し方に戻ってしまったけど、いつもより話し方に少しだけ弾みが出ているのは気のせいだろうか。
「……チッ、女共が揃って指揮を執る事になるなんてな……。あいつ、初めからこうなるのを企んでやがったんじゃねぇか……?」
二人が先にフロンの街へ戻っていくのを見ながら、ジビターさんが吐き捨てる様に文句を垂れ流す。
「別に女が指揮を執ったって、何の問題もないだろ? 実力や経歴を見れば、あの二人が指揮を執るのは当然だったんだから。俺もせめてもう一つランクが高ければ、経歴を無視して指揮を執れたかもしれねぇけど。全く……上がれるもんなら、さっさと昇格しちまいたいんだけどな」
ジビターさんの物言いに対して、レリダさんは真っ当な意見を口にした。しかししれっと昇格出来ると自負しているけど、レリダさんなら簡単に昇格してしまいそうだから怖い。もし昇格の基本条件に冒険者としての継続年数がなかったら、レリダさんは昇格していてもおかしくなさそうなのだから。
「私も同意見。性別など気にして、適切な人選を誤るなど愚行」
レリダさんに乗じて、ガットツさんも追い打ちの様な言葉を重ねる。僕も大体同じ様な事を思ったけど、これ以上僕の口から何かを言う気にはなれなかった。それと別に大した事じゃないけど、僕以外はヒリアさんが女性だった事を最初から知っていたみたいで、自分だけ知らなかった事に若干心を沈めていた。
「……チッ!」
ジビターさんも納得はしてないけど、二人の言う事も十分理解しているみたいで、それ以上反抗的な言葉は口にしなかった。それにしても初めの頃よりは減ったけど、この先も皆のこうした挑発的な発言はなくならないのだろうか。パーティの中で一番下っ端の僕は、乗る事も抗う事も反感を買いそうで、事ある毎に逃げ出したくなりそうなくらいに辛い。しかし僕には、せめて何事もなく明日からの調査任務をこなせる様に祈るしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
「……皆さん、集まりましたね。それでは今日も引き続き、組み分けをして各区域を分担して調査します」
初めて組み分けをして調査をした翌日、僕達は再び外界の兵団基地まで集まっていた。始めの頃は街の門の前で集まっていたけど、皆が森の環境に慣れて単独でも問題なく動ける様になってからは、こうして現地集合をする事も多くなっていた。
「それで組み分けですが、今回は組を三つに分けようかと思います」
「あぁ? 何でだよ?」
相変わらずヒリアさんに対して食ってかかる様な態度でジビターさんが質問をする。特に怒らせるような事を言った訳じゃないのに、どうしてジビターさんはすでに不機嫌そうにしているのだろう。
「調査効率の向上のためです。昨日までは魔獣との遭遇を考慮して戦力を分散させない様に組み分けをしましたが、サヴィエさんの見解では件の魔獣との遭遇率は極めて低いとの事です。加えてこの森に生息する魔物の多くは小型で平均討伐ランクが低く、少数でも対応は十分に可能な範囲です。以上の事から、より効率的に調査を進めるため、組み分けの数を増やして一組ずつの戦力を落としても、問題ないと判断しました」
「何でそんな事が言えんだ?」
「件の魔獣の数少ない情報から導き出した結論です。そもそも件の魔獣は各地で目撃されている事から、長期間同じ区域に滞在する習性を持たない魔物という点。さらに昨日の調査で手掛かりが一つも発見出来ない事を加味すると、件の魔獣がすでにこの地を離れている可能性が高いと思われるからです」
ジビターさんの疑問に対して、ヒリアさんは質問される事を予期していたかの如くスラスラと回答する。話の内容を聞いた感じからすると、僕が昨日サヴィエさんから聞いた時と同じ様な事を言っているみたいだ。
「それと今回組み分けを増やす事にした理由として、サヴィエさん自身についての事もあります。昨日彼女と今後の調査方針を話す中で、組み分けを増やす場合に索敵をどうするかという話をしていた際に、彼女から自分にも広域索敵能力を有していると話してくれました。そのため今回から索敵役には私とコニー君に加えて、新たにサヴィエさんにも索敵役に回ってもらう事で、調査の組み分けを三組にする事が可能になりました」
ヒリアさんがサヴィエさんの話をして、僕は昨日サヴィエさんから聞いた事を思い返す。確かにサヴィエさんの凝視は遠視も出来ると言っていたから、高い場所から周囲を見渡せば索敵も出来そうだ。加えて感覚強化を合わせれば、魔物の気配を見逃す事なく索敵が出来るはずだ。
「そんな索敵能力があんなら、何で最初から言わなかったんだ!?」
「……精度が低い、だから二人に任せてた……」
ジビターさんから浴びせられた疑問に、サヴィエさんは一切調子を崩さずに答える。そういえばサヴィエさんの凝視は、遠視は出来ても透視は出来ないと言っていた。それだと僕やヒリアさんみたいに感知する能力と比べて見落とす可能性があるから、サヴィエさんの判断は間違いではないと思う。
「私もサヴィエさんから聞いた限りでは、索敵能力として不十分な点があるかと思いましたが、今回からの調査方針であればサヴィエさんの索敵能力でも十分だと判断しました」
サヴィエさんの簡潔な回答に、ヒリアさんが補足をしながら話の本筋に流れを戻した。
「ですが組み分けを増やす分、各々の仕事量も増えますので、昨日の様に役割を分担するのは難しいかと思いますので、索敵以外に関しては各組でそれぞれ協力し合って下さい」
ヒリアさんから念を押す様に注意を促されて、僕の中で身が引き締まる様な緊張感が走る。昨日はずっと索敵に集中しながら、たまに辺りを観察して調査の補助をする程度だったけど、今日はそれ以上に色んな事に頭を回さないといけなさそうだ。
「ではあらかた説明しましたので、今日の組み分け内容を発表しましょう。まずレリダ君ですが、昨日同じ組にいて改めて痛感しましたが、君は何かと自分勝手な行動が目立ちます。ですので監視も兼ねて、今日も私と組んで頂きます」
「げっ、マジかよ……」
ヒリアさんと再び組むと聞いて、レリダさんは明らかに拒絶の意思を見せる。昨日僕は二人とは別の組だったから知らないけど、二人の間で何かあったのだろうか。
「続いてガットツさんですが、今日はサヴィエさんと組んで下さい。彼女も索敵役ではありますが、まだ索敵能力に不安が残る上、彼女自身が弓使いで接近戦が苦手という事もあります。ですから一番防衛能力のあるガットツさんが、サヴィエさんをうまく補助してあげて下さい」
「うむ、承知」
続いてサヴィエさんと組む事になったガットツさんは、任されたと言わんばかりに胸を張る。昨日も僕を含めて一緒に組んでいた二人だけど、索敵に少し不安がありそうなサヴィエさんにガットツさんが付くなら安心だ。
「では最後にジビター君ですが、今日はコニー君と組んでもらいます」
「……えっ?」
「……は?」
そしてジビターさんが組む相手がヒリアさんから発表されるけど、僕は一瞬理解が追いつかず素っ頓狂な声を上げてしまう。ジビターさんも僕の声に重ねて、まるで意味が分からないといった反応を見せる。
「……どうかしましたか? まだ組み分けが済んでいないのは君達だけですから、君達が組むのは当然の事でしょう」
ヒリアさんは僕達の反応を見て、不思議そうにこちらを見返す。そういえばすでに他の皆は組み分けが決まっているから、残った僕とジビターさんが組むのは当然の事だけど、今の僕にはそれを理解する余裕がなかった。
「えっ……あ、あの……」
ジビターさんと組むと理解した瞬間、僕は頭の整理が追いつかないまま言葉にならない言葉を漏らす。
「……チッ」
僕が取り乱しているのを見下ろしながら、ジビターさんは今まで以上に不機嫌な表情を浮かべる。初めて会った時からずっと、何故か僕を目の敵みたいに嫌っているジビターさんと組むなんて、絶対にいい予感がしない。おそらくお互いに組む事を良しとしない組だけど、果たして無事に今日の調査を終えられるだろうか。
〇おまけ「人物ファイル:サヴィエ」
種族:人間
職業:Dランク冒険者(本業:狩人)
出身:狩猟の街サスタ(国属:西の大国ディソンプ)
狩猟を生業とする家族の元に生まれ、物心ついた頃より狩猟の鍛錬を受けていた、生粋の狩人。ギフトを授かった後も、そのギフトを活かしてより狩猟に磨きをかける。
成人してから間もなく、外界での本格的な狩猟のため冒険者登録をする。冒険者としての活動は、狩猟に必要な行動範囲を広げるために必要最低限の依頼のみ受けており、冒険者としての実質的な経験はあまりない。その代わり狩猟の腕は目を見張るものがあり、弓術は一般的な冒険者よりも頭一つ抜けている。
生まれてからずっと狩猟に人生を捧げているため、俗世や常識に疎い部分がある。また狩猟以外での人間関係は希薄な事もあり、会話等による意思疎通が苦手。但し狩猟に関する経験は豊富なため、その辺りの話は普段とは見違えるほどの饒舌ぶりを見せる事も。
今回の調査任務の参加については、ギルドからの要請に対して参加には消極的だったが、特に任務を拒否する理由もないため仕方なく受けた。




