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第二十五走「突然始まった魔物討伐は、意外と悪くない結果でした」

〇前回までのあらすじ

 魔獣討伐に向けて、魔獣の被害を受けた兵団基地へ向かった魔獣調査パーティ第四班一行。案内役のコニーが基地周辺の森を先導していると、背後からシルバーウルフの群れが追って来ているのに気が付いた。パーティを指揮するヒリアが振り切るのは困難だと判断し、第四班は魔獣の群れを迎え撃つ事になる。

「それでは今から、即席でパーティの戦闘陣形を組みます。シルバーウルフが来るまであまり猶予がありませんので、指示の内容は手短に済ませます。細かい行動は各々の判断に任せますが、基本的にあまり無理はしない様に心掛けて下さい」

 あと少しで接触しようとしているシルバーウルフを前に、ヒリアさんは早口ながらも落ち着いた口調で話し始めた。

「前衛は正面に防御力の高いガットツさん、右側は遊撃役にレリダ君、左側は同じく遊撃役をジビター君にお願いします。後衛は中央に全体の指揮と魔術による補助役で私が、その後ろから弓による補助役にサヴィエさん、さらにその後ろから索敵役にコニー君がついて下さい。シルバーウルフは群れでの連携を活かした狩りをするので、出来る限り一人で複数を相手にせず、ウルフを分断させて戦う様にして下さい」

 ギルドからパーティの指揮を任されるだけあって、まるで即席とは思えないくらい的確な采配を迅速に決めてしまった。シルバーウルフはこの辺りでは強い部類の魔獣だけど、これだけの人員と戦略があれば何とかなりそうだ。

「それとコニー君は戦闘には一切参加しない様に。君はまだ討伐経験のないFランクですから、私とサヴィエさんから離れない様にして下さい」

「は、はい……」

 ヒリアさんから念を押される様に言われて、分かっていた事だけど我ながら情けないと思った。当然の事ではあるけど、僕の冒険者ランクよりも高い討伐ランクの魔物を相手にするのだから、僕はただの足手まといにしかならない。だからこそヒリアさんは、戦いに直接関わらない索敵を僕に任せたんだと思う。それでも役割を貰えるだけ、僕もパーティの一員として認めて貰えてるのだと思いたい。

「さて……作戦を立てている内に、あちらも大分接近していますね。この暗闇でも、シルバーウルフならそろそろ姿が見えてくる頃です」

 シルバーウルフ討伐作戦の話をしていると、ヒリアさんがシルバーウルフが来る方へと視線を向ける。その先の暗闇から、ぼうっと灰色っぽく煌めく影がちらつき始めた。この暗闇の中でこれだけ離れた距離から姿が見えるのは、この辺りだとシルバーウルフくらいしかいない。気配の強さからシルバーウルフだと確信していたけど、改めて姿を確認して間違いない事に少しだけ安心する。

「では手筈通り、まずはガットツさんからお願いします」

「了解した!」

 迫るシルバーウルフの群れに対して早速ヒリアさんが指示を出し、ガットツさんが一番前に出て背負っていた盾を構えてウルフを迎え撃つ。後ろから見ている僕からですら、ガットツさんの構えに隙が一切見当たらない。これが街を守る兵団を兼任している、ガットツさんの防御力なのか。

「レリダ君とジビター君も、左右に散って下さい。ただしあまり私達と距離は取らず、私達が視界に入る程度の距離で動いて下さい」

「おう、分かったぜ!」

「チッ、分かったよ……」

 続けてヒリアさんの指示を受けたレリダさんとジビターさんも、それぞれ持ち場についた。軽い足取りで楽しそうに持ち場に向かうレリダさんに対して、ジビターさんは相変わらずヒリアさんの指示を不機嫌そうに受け取って持ち場に向かった。

「サヴィエさんとコニー君は、なるべく私の傍から離れない様にお願いします。万が一ウルフが前衛を抜けてきた場合、私が魔術で防御に回る事になりますが、防御系の魔術は離れていると間に合わない場合がありますので」

「うん……分かった」

「は、はい!」

 ヒリアさんの忠告を受けて、先にヒリアさんの背後へついたサヴィエさんに続いて、僕も二人の邪魔にならない程度に背後に張り付いた。それとこちらの姿が見えるから気持ち程度の効力しか望めないと思うけど、隠密スキルの隠形(ハイド)でなるべくこちらが狙われない様にした。

「ガウウゥゥ……!」

 こちらが戦闘準備を整えていると、ウルフもこちらに気付いて急接近してくる。木々の合間を縫って暗い森を駆けるウルフは、さながらこの森を統べる狩人の風格がある。

「ふむ……正面から突撃しないとは、想像以上に利口」

 ウルフ達は正面から待ち受けているガットツさんには目もくれず、阿吽の呼吸で左右へ均等に散ってこちらを取り囲んだ。僕達の周りを駆け回って退路を断ちながら、こちらの様子を窺いつつ距離を詰めていく様は、まさに狩りの動きそのものだ。

「結構速いねぇ……これじゃ、簡単に手が出せないな……っと!」

 ウルフの連携に関心しながら余裕の表情で構えていたレリダさんが、一番最初にウルフと接触する。ウルフはレリダさんの横から飛び掛かり、そのままの勢いで前足の爪を振り下ろしたけど、レリダさんはその動きを見切ったかの様に長剣で前足を受け止めた。しかしレリダさんもウルフの飛び掛かる勢いを殺し切れなかったのか、ウルフの勢いに逆らわず身体を逸らして避けながら攻撃を受け流した。そして着地した隙を狙って、レリダさんがお返しに長剣をウルフの背中に向けて振り抜いたけど、ウルフもまた素早い動きで飛び退いて躱した。

「こいつら……数は少ねぇのに、動きが速いから次々と来やがる……!」

 次にウルフの相手を始めたジビターさんは、立て続けに繰り出されるウルフ達の猛攻に、片手剣と小盾を駆使して辛うじて凌いでいた。見た所ジビターさんはウルフを二匹同時に相手しているみたいで、ウルフが交代で襲い掛かって来ていて、かなり苦戦している様に見える。

「こう動きが早くては……っ、こちらが攻勢に出るのは難儀……っ!」

 そして一度はウルフに避けられていたガットツさんも、ウルフ三匹を前に奮闘していた。しかし素早い動きと連携力を持ったウルフでも、ガットツさんの圧倒的な防御力を前に傷を負わせる事は出来なかった。ただしガットツさんの方もそれは同じで、隙を見て放たれる長槍の一振りは空を切るばかりだった。

「あ、あの……大丈夫なんですか? 皆結構苦戦しているみたいですけど……」

 三人が苦戦している様子に、心配になった僕は小声でヒリアさんの背中に話しかける。今の所誰も致命的な状況とまでは言わないけど、このまま戦いが長引けばどうなるか分からない。

「その辺りは想定済みです。狼系の魔獣は機敏ですから、正面からの近接戦闘だけでは厳しい。この場合に有効なのは、私の魔術やサヴィエさんの弓といった遠距離での攻撃です。ただし闇雲に攻撃しても簡単に躱されてしまいますから、前衛が近接戦闘で戦っている間に、私達後衛が隙を見て攻撃を仕掛けるのが重要になります。ですから私達は前衛の三人が戦う様子を窺いつつ、ウルフの動向に気を配っているのです」

「そ、そうなんですか……」

 ウルフを相手に誰も攻撃が通らず心配していたけど、ヒリアさんにはちゃんと考えがあっての事だったんだ。サヴィエさんもその事を聞く前から分かっていたみたいで、前衛の三人がそれぞれ戦っている様子を見ながら、弓を構えてウルフ達の動きを観察している。

「……そこ!」

 全体の様子を窺っていたサヴィエさんが、突然ジビターさんの方へ弓を構えて矢を放つ。放たれた矢は一直線にジビターさんの方へと向かい、やがてジビターさんに襲い掛かろうと飛び上がったウルフの後足に命中する。

「キャウウゥゥン!」

 思いがけない奇襲を受けたウルフは、空中でもがきながら不自然な姿勢で地面に激突する。そのままサヴィエさんの矢を受けたウルフは、激痛と混乱で地面をのたうち回る。

「す、凄い……!」

 一発でウルフを捕らえた弓捌きに、僕は息を呑んだ。サヴィエさんの矢はただウルフ目掛けて放たれたんじゃなく、ウルフの動きを予測して当たる様に放たれていた。しかも矢が当たる直前まで、矢はジビターさんの身体で隠れていたので、死角から突然現れた矢にウルフも相当驚いただろう。これが狩りをする冒険者の弓使いなんだ。

「ヘッ……一匹相手なら、ウルフに後れは取らねぇぞ!」

 先ほどまで二匹同時に相手していたジビターさんは、一匹が矢で動けなくなったのを見て、一転攻勢の構えを取る。

「ウウウゥゥ……」

 ウルフの方も連携の要である相棒を失ったせいか、軽快に動き回っていた時とは裏腹にジビターさんと距離を取って睨みつける。

「止め、刺してほしかったんだけど……。まだ敵いるし、仕方ないか……」

 ジビターさんが横で転がっているウルフを無視して、自分を睨むウルフにじりじりと迫っているのを見て、サヴィエさんがため息をつきながら次の矢をつがえて放つ。続いて放たれた矢は奇麗な放物線を描き、地面に転がるウルフの首元に命中した。

「ガウァ……アゥ……」

 止めの一撃を受けたウルフは小さく身体を震わせて、やがてぐったりと息絶えた。

「さぁ……行くぞ!」

「ガアアァァ!」

 ウルフが息絶えたと同時に、向かい合っていたジビターさんと残ったウルフが前に出る。先ほどは二匹を相手に防戦一方だったジビターさんだったけど、あの様子なら大丈夫そうだ。

「次は……こっち!」

 サヴィエさんは次の矢を取りながら振り返り、今度はレリダさんの方へと弓を構える。そして先ほどウルフを捉えた時と同じく、ウルフの動きに合わせて矢を放つ。レリダさんに向かって飛び掛かったウルフへと放たれた矢は、そのまま一直線にウルフへと向かって行った。しかしウルフの額を完全に捉えていたはずの矢は、レリダさんが振り下ろした長剣によって打ち落とされる。

「全く……今良い所なんだから、邪魔すんなよな!」

 レリダさんはこちらに振り返ると、この場に似つかわしくない文句をぶつけて来る。まさかレリダさんを補助するために放たれた矢が邪魔だなんて、一体どういう事だろう。

「折角ウルフ達との戦いを楽しんでんのに、わざわざ水を差すんじゃねーよ!」

「え……えぇ……?」

 続けてレリダさんから言われた文句に、僕は唖然としてうまく言葉が出なかった。確かに戦闘狂いだとは思っていたけど、自分の戦いに邪魔が入る事を嫌うほどまでとは、戦闘狂いの中でもかなり重症な部類だ。

「とは言ったが……ウルフが()()()()()()じゃ、まるで手応えがねぇな……」

 戦いの邪魔をされて腹を立てていたレリダさんがウルフの方に向き直ると、次はつまらなそうにウルフ達を見つめていた。まるで楽しいと期待していた事が、まるっきり楽しめずに落胆しているみたいだ。

「ガアアァァッ!」

 そんな様子のレリダさんを見て、ウルフ達が隙ありだと言わんばかりに一斉に襲い掛かる。一方レリダさんの目は明らかに覇気を失っているけど、その目はウルフ達をしっかり捉えていた。

「あ、危な……っ!?」

 僕がレリダさんの身が危ないと思ったのも束の間、レリダさんは僅かに身体を逸らせるだけでウルフ達の素早い突撃を躱してしまった。

「グウウゥゥ……」

 攻撃を完全に見切られたウルフ達は、今度は一匹が先に前に出て襲い掛かり、その後ろから二匹目がついて行った。先ほどジビターさんが苦戦していた、ウルフ達が得意とする連続攻撃の連携だ。

「またそれか……」

 ウルフ達の連携攻撃を見て、レリダさんはさらにつまらなそうにウルフに向けて長剣を構える。一匹目のウルフの前足が振り下ろされると、レリダさんは最初に襲われた時と同じ様に剣で受け止める。

「おらよっ!」

「グゥアッ!?」

 しかし今回は受け流さず、剣を振り抜いて力任せに押し返した。一匹目のウルフはレリダさんに力負けし、そのまま二匹目のウルフの目の前に弾き飛ばされる。続けて仕掛けようとしていた二匹目のウルフは、飛んで来たウルフに阻まれてしまい、仕方なく飛んで来たウルフを避ける様に後ろに飛び退いた。

「グルルルル……」

 断続的に仕掛ける連携攻撃が失敗し、ウルフ達は再びレリダさんへ仕掛ける隙を窺って様子を見る。最初に見た時はウルフ達に一方的にやられている様に見えていたけど、改めて見るとレリダさんには焦りや緊張といった様子は見えないし、最初は立て続けに仕掛けていたウルフ達も今は様子見ばかりとなっている。もしかしたらレリダさんはウルフとの戦いを楽しむために、大した反撃をせずにウルフ達の攻撃を躱し続けていたのかもしれない。そしてウルフ達も何度も仕掛けているのに、全く歯が立たないレリダさんに対して、どうしたらいいのかと迷っているみたいだ。

「もう終わりか? それなら、さっさと終わらせるか……」

 ふと何かを小さく呟いたレリダさんは、剣を両手で握り深く腰を落とす。何をするのかと思っていたら、その場にいたはずのレリダさんの姿が一瞬で消えてしまった。

「ギャウッ!?」

 何処へ消えたのかと視線を移そうとする前に、耳障りな呻き声が聞こえた。何かと思って呻き声の主を見ると、二匹いるウルフの内の一匹が血飛沫(しぶき)を上げていた。そしてその先に、消えたと思っていたレリダさんが剣を振り抜いた格好で立っていた。まさかあの消えた一瞬で、ウルフの前まで踏み込んで斬り伏せたのか。

「一撃か……魔獣にしては、随分あっけねぇな」

 斬られたウルフが倒れ込むのを見ながら、レリダさんは剣の血を振り払う。本当にあの一瞬で、ウルフを一匹倒してしまったんだ。とんでもない早業に驚くと共に、どうしてそれを最初からやらなかったのかという疑問が出てしまう。

「それじゃ、さっさと終わらせるか……」

 レリダさんはウルフを倒した事を喜びもせず、再び剣を構えて次の獲物へと目標を定めた。狙われる立場となったウルフは戦う事も逃げる事も、レリダから一切目を離す事すら出来ずに立ち尽くしていた。

「あと残りは……」

 最後に残ったのは、三匹のウルフを相手に無傷で耐え抜いているガットツさんだ。他の二人の戦いが落ち着いた今も、ガットツさんはずっとウルフ達の凄まじい猛攻を凌ぎ続けていた。

「射線が通らない……これじゃ、援護は厳しい」

 サヴィエさんも助けようと弓を構えているけど、分厚い鎧に身を包んでその場からほとんど動かないガットツさんの戦い方では、サヴィエさんの死角からの射撃は難しいみたいだ。

「直線的な援護が難しければ、曲線での援護しかないでしょう」

 援護に踏み切れないサヴィエさんを見て、ここぞと言わんばかりにヒリアさんが杖を掲げる。ヒリアさんが掲げた杖の先で魔力が集中し、渦を巻いて周囲の空気を集めて圧縮していく。

風来刃(エアカッター)!」

 ヒリアさんの魔術によって平たく圧縮された空気の刃が、大きな弧を描いてガットツさんを襲うウルフ目掛けて回転しながら飛んでいく。空気の刃はそのままガットツさんの脇を通り過ぎ、二匹のウルフの身体を引き裂いた。

「ガウッ!?」

「ギュウッ!?」

 ヒリアさんの魔術を空中で受けたウルフ達は押し返されながらもしっかりと足で着地したけど、それ以上の余力はなかったみたいで、やがて静かにその場に倒れて力尽きた。

「グウウウゥゥ……」

 目の前で二匹もやられてしまい、残された最後のウルフは怒りからか恐怖からか、低い唸り声を上げる。

「残るは貴様のみ。ここは私の渾身の一振りで終結としよう」

「グアアァァ!」

 他のウルフ達がどうなっているか分からないはずだけど、これが最後の戦いだと分かっているかの様に、ウルフは今までで一番の速さで突っ込む。ガットツさんもそれに応える様に、盾を構えながら迎え撃つ。

「今までは守勢であったが、攻勢となった今のこの盾は武具!」

 またウルフの攻撃を受け止めるだけだと思っていた盾は、ウルフの攻撃を受ける直前でガットツさんが踏み込む事で、体当たりの要領でウルフの身体を跳ね飛ばす。予想外の出来事にウルフは一切受け身を取れず、体当たりの衝撃で宙に投げ出される。

「そして……この一撃で決着!」

 空中で隙だらけのウルフに向けて、ガットツさんが構えた長槍の突きが繰り出される。槍はウルフの腹部を貫き、背中を突き抜けて貫通する。ガットツさんが鋭くウルフを貫いた槍を素早く引き戻すと、絶命したウルフが地面に落下する。

「シルバーウルフの討伐完了、といった所でしょうか」

「お、終わったぁ……」

 最後のウルフが倒れたのを確認して、ヒリアさんがウルフの討伐完了を告げた。僕も危険察知(アラート)で近くに魔物がいないのを確認してから、無事に討伐が終わった事にほっとして肩を落とす。僕は特に何もしてないけど、初めて本格的な討伐を目の前で見て、何かと驚く事が多くてどっと疲れてしまった。

「何だか、思った以上に楽勝だったなぁ……」

 結果的にはあっさり討伐してしまったレリダさんは、物足りなさそうな表情でこちらに戻って来た。戦いを楽しみたかったレリダさんにとっては、たったの一撃で倒せてしまう魔獣が相手では不満に思うのも仕方ないのかもしれない。

「Dランクの魔獣なんて、あんなもんだろ?」

 サヴィエさんの補助で何とかウルフを倒したジビターさんの方は、レリダさんとは対照的に討伐してやったといった様子だ。ジビターさんの感想からはそういった感じは一切読み取れないけど、戦いを終えた様子を見たら明らかに達成感とか充実感が見て取れる。

「私は中々に苦戦を強いられたが、確かにあの戦闘は少しばかり不自然」

 ガットツさんも戻って来るなり、何やら違和感のある様なむず痒い感じを見せる。ガットツさんまでそんな事を言うのなら、先ほどの戦闘は本当に何かがおかしかったのかもしれない。

「そうなんですよ……。私の想定では、前衛の三人が私達後衛を守りつつ隙を作り、後衛は援護をしつつ止めを決める算段でしたが、ウルフ達は何故かこちらへは一切仕掛けて来ませんでした。本来シルバーウルフほど狩りに長けた魔獣であれば、獲物として狩りやすい私達後衛を優先して狙うはずですが、そんな素振りは全く見せませんでしたから。ただそのお陰で、こちらは難なくウルフの隙をつく事が出来たのですが……」

「えっ……?」

 ヒリアさんがウルフの生態を解説しているのを聞き、僕は何処か引っ掛かりを感じる。まさかとは思うけど、ヒリアさんの話から考えられる原因が他に思い当たらなかった。

「あ、あの……もしかしたら、僕のせいかもしれません」

「「「えっ?」」」

「「はぁ?」」

 僕がそんな事を言うと思わなかったのか、皆が揃えて素っ頓狂な声を出す。確かにこの不可解な状況を僕が作り出したなんて、僕自身も信じられないくらいだ。

「コニー君……それは一体、どういう事ですか?」

「え、えっと……」

 いの一番にヒリアさんが聞き返し、他の皆も僕の方へと注目する。どういう事と聞かれても、僕自身もまだ憶測でしかないのに、うまく説明出来るか分からない。でもこれだけ注目を集めてしまった以上、黙ってやり過ごす事は出来なかった。

「実はウルフとの戦闘が始まる直前に、なるべく邪魔にならない様にと、隠密スキルを使ったんです。そこまで強力なスキルじゃないので、ほんの気持ち程度のつもりだったんですけど、もしかしたらこの隠密スキルでウルフが僕達を狙わなかったんじゃないかと……」

「隠密スキル、ですか……それでウルフがこちらを狙わなかったのでしたら、かなり強力なスキルのはずですが……」

 どうにか自分なりに精一杯伝えたつもりだけど、ヒリアさんはそれでは納得がいかないみたいだ。僕が原因だと言い出した以上、何かしら納得のいく説明をしないとヒリアさんも引いてくれなさそうだ。

「強力なスキルではないと言いましたが、どういったスキルですか?」

「えっと……僕の隠形(ハイド)は、自分を中心にごく狭い範囲を、周りから気付かれにくくするスキルです。目立つ行動をしたり直接目があったりすると効果はないですけど、隠れている時に見つかりにくくなるくらいの効果はあります」

「成程……認識阻害か、あるいは気配遮断をするスキルですね。確かに強力とは言い難いですが、今回はそれがうまく作用したのでしょう」

「えっ……そ、それはどういう事ですか?」

 スキルの説明を受けて何かを理解したヒリアさんだけど、今度は僕がヒリアさんの言葉を理解出来ない。まさか本当に、僕のスキルが原因だったのだろうか。

「確かに隠密スキルは姿を晒している場合はほとんど効果が見込めないですが、こと戦闘においては例外もあります。それが今回の様に前衛と後衛を完全に切り分けた陣形での戦闘です。前衛は敵の注意を引き付ける役もありますから、前衛が戦闘している間に後衛が隠密スキルを使用した場合、敵側は前衛に気を取られて後衛の位置を見失う事があります。特に先ほどの陣形は前衛と後衛が適度に距離を取っていましたから、ウルフ達はコニー君の隠密スキルでこちらを意識する事が出来なかったのでしょう」

「そ、そんな事が……」

 別にそんな深い事を考えていた訳じゃなかったから、気持ち程度の隠密スキルにここまでの効果があるなんて思わなかった。でも思わぬ形ではあるけど、少しでも討伐に貢献出来たのだとしたら良かった。

「しかし……想定外の戦闘が起きてしまいましたが、無事に乗り切れて何よりです。まだパーティ内での連携をしっかり練れていませんでしたが、私の想定以上に皆さんが優秀で助かりました」

「あれくらいなら大した事ねぇって。むしろあれじゃ足りないくらいだぜ」

「それは良いけど……私の矢を叩き落すのは、少し傷付いた」

「いやー、済まねぇな。邪魔が入ったと思って、つい反射的にやっちまったよ」

「私達の力量もそうだが、ヒリア殿の采配も中々に秀逸。おかげで私も実力を遺憾なく発揮出来た」

「いえいえ、そんな大層な作戦じゃありませんよ」

 一緒に戦いを乗り切ったおかげか、ヒリアさんの労いを皮切りに今までで一番良い雰囲気でヒリアさん達が言葉を交わす。最初の頃はお互いに険悪な雰囲気を漂わせていたけど、こうして一度目的意識を一致させてしまえば、意外と簡単に距離が縮まってしまうものなのかな。

「……フンッ!」

 一人だけ会話に混じらなかったジビターさんは、何処か気に入らない様子で明後日の方を向いていた。理由は分からないけど、どうしてもジビターさんはうまく馴染めないみたいだ。ただちらっと見えた横顔からは、まんざらでもないといった表情を浮かべていた。

「……あっ!」

 皆が楽しそうに話すのをつい嬉しくなって見ていた僕だけど、ふと大事な事を思い出して声を上げる。

「どうしました?」

「あの……そろそろ日が暮れるので、街に戻りましょう!」

「そうですか? 私にはさっぱり分かりませんが……」

 僕の慌てる様子に、ヒリアさんが不思議そうに思いながら懐にある時刻魔石(ローテルーン)を取り出して、現在時刻を確認する。

「た、確かに四時を回っていますね……。ずっと暗い森の中にいたせいか、時間間隔が少し曖昧になっていたみたいです」

「マジか……それじゃ、今日はもう撤収しちまうのか?」

 ヒリアさんが時刻魔石(ローテルーン)を見て驚くのに対して、レリダさんは時間がないのを聞いて残念そうにしている。おそらくレリダさんは先ほどのウルフとの戦闘だけでは物足りないから、また魔物と戦いたいのだろう。

「そうですね……まだ日が暮れるまでには少し時間がありますが、先ほど予想外の襲撃を受けたばかりですから、無用な危険は避けるべきですね。ここは地元の冒険者であるコニー君の指示を素直に受けましょう」

「チェッ、仕方ねぇか……」

 ヒリアさんが僕の警告を受け入れて戻ると決めると、レリダさんはがっくりと肩を落とした。そんなに戦い足りなかったのだろうか。

「そ、それじゃ帰りましょうか……」

 一人不貞腐れ気味のレリダさんの気持ちを引きずりながら、長い様で短い様な調査任務の初日はここで終了となった。振り返ってみれば、基地までの案内から始まって、基地周辺の森を色々と歩き回ったり、最後には自分のランクよりも高い魔物の討伐に参加したりと、それなりに身になる経験が多い充実した一日になったと思う。


◇◇◇◇◇◇


「と、到着しましたっ……!」

 シルバーウルフを討伐してから、僕の危険察知(アラート)とヒリアさんの魔術による探知で、僕達は安全に日が落ち切るまでに街まで帰って来れた。本当なら多少時間の猶予があったのだけど、僕が強い気配の魔物を探知する度に、レリダさんが魔物がいる方へ向かおうとするのを何度も宥めている内に、すっかり時間ギリギリの帰還になってしまった。

「少し早い時間とはなりますが、今日はこれで解散としましょう。明日も同じ時間と場所に集合でお願いします」

「うん、分かった……」

「おう、じゃあな!」

「うむ、了解」

「……あぁ」

 門をくぐって街の中に入ると、ヒリアさんから解散の声が掛かる。流石に初日という事もあってか、レリダさん以外の皆は少し疲れた様子でそれぞれの宿へと向かって行った。僕も今日は色々と慣れない体験をして頭が一杯だから、早く帰って明日に備えて休もう。

「……?」

 皆が解散していくのを見送ってから、何やら視線を感じて振り返ってみると、何故かヒリアさんだけ僕と一緒に門の前に残っていた。まるで何かを待ってたかの様に佇んでいるけど、何か忘れ物でもあったのだろうか。

「あ、あの……?」

 黙ってこちらを見ているヒリアさんに困惑したけど、何か僕に用があるみたいにも見えたので、とりあえず何か話しかけようと口を開く。

「コニー君、君の家は何処だい?」

「……へっ?」

 ヒリアさんから全く予想だにしない質問をされて、僕はさらに困惑する。そんな事を聞いて、一体どうするつもりなんだろう。

「いや、ちょっとね……今日は君の家にお邪魔しようかと思いまして」

「……えっ、ええぇぇっ!?」

 さらにヒリアさんから想像だにしない言葉が出て来て、人目を憚らず盛大に声を上げてしまう。

「明日も君に案内を頼む事になるのですが、パーティを指揮する者として明日の予定を確認しようかと。それに今後の方針を決める上でも、君の話も色々と聞いておきたいので」

「そ、それは……えっと……」

 ヒリアさんの最もな理由を理解しつつも、僕はヒリアさんを家に招いてもいいのか迷ってしまう。別段断る様な理由がある訳でもないけど、いきなり家に人を入れる事なんてなかったからどうにも迷いが出てしまう。

「……そ、それなら他の皆は呼ばないんですか?」

 どうしたものかと考えを巡らせている内に、僕はふと浮かんだ別の話題で切り返す。明日の事を話すなら、同じパーティの皆もいた方がいいはずだけど、どうしてヒリアさんは先に解散させてしまったのだろう。

「もう一人くらいなら大丈夫でしょうが、全員で話し合うのは難しいでしょう。いくらパーティを組んでいる間柄とはいえ、中には話の通じない相手もいますから」

「そ、そうですか……」

 ヒリアさんの意見は、僕も納得せざるを得なかった。確かに初日の顔合わせの段階から、今日までにパーティの中であった事を思い返せば、全員での話し合いなんて到底成り立たなさそうだ。ただヒリアさんにもその一因はあると思うけど、ヒリアさん本人はそこまで自覚がなさそうだ。

「コニー君は十分話が通じる相手だと思っていますから、私と二人なら問題なく話し合いが出来るでしょう。例えコニー君が話の通じない相手だとしても、パーティで唯一この地に精通する地元の冒険者である以上、こちらとしては協力してもらわないといけませんが」

「は、はぁ……」

 最後の方で何やら不穏な雰囲気を感じたけど、特に深くは追及せず適当に相槌を打つ。この様子だと、下手にヒリアさんを拒絶しようとするのは良くないかもしれない。

「……分かりました。それじゃ、今から僕の家に行きましょう」

「はい、お願いします」

 半ば雰囲気に飲まれる形で、僕はヒリアさんを家に招待する事になった。ヒリアさんを家に上げる事はあまり乗り気にはなれないけど、Cランク冒険者と話せる貴重な機会だと思うと、正直悪い気はしなかった。

〇おまけ「人物ファイル:ヒリア」

種族:人間

職業:魔術研究者兼魔術師(副業:Cランク冒険者)

出身:中央大国グランダル属都市マグナリア

 魔術都市マグナリアに住む、魔術研究に人生を捧ぐ研究者。豊富な魔術知識に加え、その行動力と判断力の高さから、自身が魔術師になってしまうほどの研究熱心。

 魔術研究の資材調達のために冒険者登録をし、その優秀さからあっという間にCランク冒険者となった。しかしそれ以上の昇格はせず、Cランク冒険者の外界立入特許を利用して、外界にある珍しい研究資料を見つけては魔術を追及する日々を送っている。魔獣討伐の任務に応じたのは、普段は踏み入れない環境で新しい研究目標が見つかるかもしれないという知的好奇心から。

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