第二十二走「色々な不安の中、初めての任務が始まりました」
○前回までのあらすじ
Fランク冒険者となってから随分と経ち、難易度の上がった依頼を順調にこなせる様になったコニー。しかしまだ課題となる討伐依頼に踏み切れず、Eランクへの昇格は消極的に考えていた。そんな中突如ギルドから魔獣の討伐任務が言い渡させる。
ギルドからの招集を受けて、ギルドに所狭しと集められた冒険者達。同じく呼ばれていた僕は、他の冒険者達に埋もれる様にひっそりと冒険者の輪の片隅に紛れていた。
「ではこれより、『正体不明の魔獣討伐任務』の詳細について説明する!」
ギルドの奥に急ごしらえで建てられた壇上に立つのは、このギルドの支部長であるサイダラさんだ。サイダラさんが任務を公言すると、その場にいる冒険者達が各々ざわつき始める。この人達も僕と同じ様に、大した説明もなしに呼ばれて来たのだろうか。
「現在、この街フロンの周辺にて魔獣による被害が相次いでいる。今の所死傷者は出てないが、外界に設けた施設や街を巡行している行商に多大な被害が出ている」
「外界の施設って……もしかして!?」
サイダラさんの発言に引っ掛かりを感じた僕は、過去の記憶を遡る。そういえば少し前に、外界にあった兵団の基地を修繕する依頼を受けた事があるけど、今回の任務と関係しているのかもしれない。
「コニーも気付いたかい?」
「が、ガウンさん、それじゃあ……」
「あぁ……コニーが修繕した基地も、その魔獣の被害によるものだろうね」
僕の反応を横で見ていた熟練冒険者のガウンさんも、僕と同じ考えらしい。ガウンさんはよく外界を巡回しているので、外界で他の冒険者と交流する事が多く、僕が外界にある兵団基地の修繕依頼をしていた事も知っている。それにガウンさんなら、僕以外の冒険者が受けていた外界の依頼も知っているだろうから、他にも外界で破壊された施設の修繕依頼を受けていた冒険者がいた事を知っていて、今回の討伐任務も予想がついていたのだろう。
「こちらも対策として幾度となく冒険者の調査や兵団の巡回を行ったが、未だにその正体すら掴めず魔獣による被害は続いている。そこで我々ギルドフロン支部は正体不明の魔獣の調査及び討伐のため、優れた冒険者を他の街から募る事にした。今回は万が一の事態も想定して、腕利きの冒険者を多く抱えている大国にも協力を要請した」
「た、大国!?」
サイダラさんからとんでもない話を聞き、つい我を忘れて声を上げてしまう。大国といえば、この地に数多ある街や都市を束ねる、大陸屈指の規模を誇る国だ。まさかこんな国にも属さない街の要請に応えてくれるなんて、それほどにこの任務が重大な事案なのだろうか。
「ん……?」
「……チッ」
「……」
「あっ……す、すいません……」
派手な驚き方をしたせいで、周囲の注目が一挙にこちらに集まって来た。変に目立ってしまった恥ずかしさと申し訳なさ、数々の冒険者から受ける視線の重圧に、僕は縮こまりながら小さく平謝りするしたなかった。
「今回協力を仰いだのは、フロンから比較的近い距離に位置する、西の大国ディソンプと中央大国グランダルだ。他にも近隣の大国非加盟の街から要請に応えてくれた冒険者達もいるが、集まってくれた冒険者の大半は大国からの冒険者だ。よって今回の討伐任務は、大国の冒険者を中心に合同作戦を練らせてもらう」
「合同作戦……?」
またサイダラさんから聞き慣れない言葉が出て来て、僕は思わず疑問が口から出てしまう。
「これだけ色んな街や都市から冒険者が集まってるからね。こうした任務の場合、冒険者の間でいざこざがない様に、ギルド側が主導で作戦を立てるんだよ。ギルドが提示する合同作戦は、集まった冒険者達の中から役割や所属が均一に分けられる様に、ギルドが指定した臨時パーティで行う作戦だね。冒険者にパーティ構成を任せると、偏った構成で作戦に支障が出たり、各パーティの間で問題が発生する事もあるからね。それにパーティ毎に知り合いを散らしておけば、パーティ同士の交流や情報交換が円滑に進みやすくなるんだ」
「そうなんですね……」
ふとした疑問にガウンさんが丁寧に答えてくれて、僕は関心しながら頷いた。これだけの人数が集まると、気の知れた仲で組むのがいいって訳でもないんだ。初めて合う人とパーティを組むのは少し怖いし緊張してしまいそうだ。
「……ん? パーティを組むって……僕もですか!?」
「そりゃ、そうだろう。コニーだって、この任務を受けるために呼ばれたんだろ?」
「そ、それは……」
何気なくガウンさんの話を聞いていて、パーティを組むという事自体への反応が遅れてしまった。今までパーティの足を引っ張る事を懸念して、パーティは組まないと心の内で決意していたのに、こんな形でパーティを組まないといけない状況になってしまうなんて。しかもパーティを組む相手が誰かも知らない人だなんて、余計に迷惑を掛けられない状況だというのに、一体どうしたらいいんだ。
「まぁ、コニーもそろそろ一人での依頼には限界が出てきただろう? これを機に、パーティの事を学んでおくといいよ」
「そ、そんな……」
気楽にそう語るガウンさんだけど、僕としてはパーティを組むならもう少し実力をつけて、討伐依頼が出来るくらいになってから考えたかった。一昨日ギルド受付嬢のクルシャさんが、Eランク昇格のために討伐依頼を受ける様に薦めていたけど、まさか僕が考えている事を分かっていたのだろうか。それとも討伐任務で僕が尻込みするから、肩慣らしに討伐依頼を薦めていただけなのか。どちらにしても、クルシャさんは僕の事をよく分かっていると思い知らされた気分だ。
「合同作戦のパーティ振り分けだが、基本的に中規模の六人パーティで組ませてもらう。案内役に周辺の地理に詳しい者を一人、探索と調査検分に長けた者を一人、魔物との交戦及び護衛を三人、以上の役割を最低限加えたパーティをこちらで組み合わせを決めて、臨時パーティとしてギルドに一時登録する。任務中はパーティ単位での行動を厳守し、調査結果は随時ギルドに報告する事。始めに討伐任務と言ったが、今回は目標となる魔獣に関する情報の調査と探索が主な目的だ。まだ魔獣に関する情報が不足している以上、例え魔獣と運良く遭遇してもその場で討伐しようと思うなよ」
「……」
「……?」
サイダラさんの最後の一言に、その場にいた冒険者達の空気が痛いほどにひりついた。冒険者の安全を思っての発言だと思うのだけど、何か気に障る部分でもあっただろうか。
「……では、任務に参加するパーティ編成をするから、全員この魔石に登録してくれ」
冒険者達の触れ難い空気を気にする事なく、サイダラさんは任務の説明を続けた。一瞬視線を浴びただけで動けなくなってしまった僕と違って、ギルド支部長のサイダラさんは冒険者の圧力なんてものともしていない。冒険者達も一切動じないサイダラさんにこれ以上の圧力は無駄だと思ったのか、全員が一斉に魔石の前に群がり、一人ずつ魔石にギルド証をかざして次々と登録を済ませていった。
「……よしっ!」
あらかた冒険者が登録を済ませた所で、僕も意を決して魔石の前へと歩いていく。正直まだ任務への覚悟とか、パーティを組む事への不安がなくなった訳じゃない。でもここで逃げていたら、立派な冒険者になるまでの道のりが遠のいてしまう気がする。僕も冒険者なのだから、こんな所で躓いている暇はないんだ。
「あっ……」
しかし気合いを入れ過ぎたせいで不注意になっていたのか、丁度同じ頃合いに魔石に近づいた冒険者と軽く肩がぶつかってしまう。
「す、すいません!」
また冒険者に迷惑を掛けてしまったと思い、すかさず後ろに一歩下がって道を譲った。
「……チッ、田舎モンかよ……」
僕が何度も頭を下げているのを見て、冒険者の方もそこまで腹を立てずに、魔石へと向かってくれた。危うく任務と無関係な所で失敗してしまったと思い、ついいつもの様に慌ててしまった。
「……よ、よし」
出鼻を挫かれてしまったけど、先に行った冒険者が登録を済ませるのを待ってから、周りに気を付けながら今度こそ魔石の前まで来てギルド証を魔石にかざす。まだ魔石の登録を済ませただけで実感が湧かないけど、これでも僕も任務に参加した事になったんだ。
「……全員、登録は済ませたな。ではお前達のギルド登録情報を基に編成したパーティを一組ずつこちらに呼ぶ。呼ばれた者から順に、今回の調査区域と任務の詳細を説明する。それまで大人しく待機していろよ」
サイダラさんはそれだけ言った後、壇上から降りて奥にある扉へと消えて行った。
「そいじゃ、あたしに呼ばれた人から支部長がいる応接室に入ってねー」
そして応接室へ引っ込んだサイダラさんに代わって、魔石を抱えて壇上に上がったクルシャさんがその場の指揮を執る。クルシャさんが壇上に上がった瞬間、多くの冒険者が少しざわついた。何処か浮ついた感じの表情をしていた冒険者達だったけど、クルシャさんが間髪入れず魔石に浮かび上がる名前を読み上げ始めると、サイダラさんが壇上にいた時に感じたひりついた空気が嘘の様に、皆揃って大人しくクルシャさんに呼ばれるのを待っていた。あれだけ緊張感のあった空間をここまで緩めてしまうなんて、クルシャさんが何かしたのだろうか。
「えー……次、コニー」
「は、はいっ!」
しばらく任務やパーティの事を考えながら聞き慣れない名前や聞き馴染みのある名前を聞いていると、唐突にクルシャさんから名前を挙げられて反射的に返事をする。流石に初めての任務という事もあって、緊張しながら早足で壇上のクルシャさんの前を横切って、応接室の扉へと向かった。
「……初めての任務、頑張れよー」
「はい、有難うございます!」
クルシャさんの目の前を横切った直後、僕の背中に激励をくれたクルシャさんに、僕も振り返って礼を言いながら手を振った。
「っ……!?」
そのまま応接室の扉に手を掛けようとした所で、背後から突然殺気の様な気配を感じて身体が震える。あまりに唐突に向けられた殺気に危険察知で索敵しそうになったけど、確認するまでもなく殺気の元はその場に残っていた冒険者達からのものだ。何事かと振り返ろうと思ったけど、身体を貫かんばかりの殺気に振り返る勇気が出なかった。背後からの圧力も加わって、緊張で扉を開ける手に力が入りそうになるのを抑えながら、今一度心を落ち着けて応接室の扉を押し開く。扉の先では椅子に腰かけているサイダラさんと、先に呼ばれていた冒険者達が立っていた。
「……チッ、また田舎モンかよ」
「あっ……」
部屋に入って一番に目があった冒険者は、さっき僕とぶつかった人だ。腰に片手剣と背中に小盾を携えて、革製の胸当てや肩当て等の最低限の防具で機動力をある程度残した、冒険者ならではの剣士の装備をしている。顔つきや佇まいからしても、僕の十倍は腕の立つ冒険者に見える。
「あ、あの時はすいませんでした……」
「……チッ」
居心地の悪さを覚えた僕はひとまず頭を下げたけど、剣士の冒険者は僕を最初に見た時と変わらず虫の居所が悪いみたいだ。仕方ないので僕はそのまま冒険者達の横に並んで、サイダラさんの前に立った。
「……揃ったな。ではこれより、魔獣調査パーティ第四班の任務を伝える」
僕が並んだのを見たサイダラさんが、椅子から立ち上がって任務の説明を始めた。一体これから、どんな任務が与えられるのだろう。
「お前達第四班はここより南、以前魔獣の襲撃を受けた兵団基地の周辺の調査を命ずる」
「ここは……」
サイダラさんは手前のテーブルに広げられた、この街の周辺の地図のとある位置を指す。そこは丁度、僕が修繕依頼を受けた兵団基地のある場所だ。サイダラさんの発言からしても、やはりあの兵団基地を襲撃した魔物は今回の任務対象の魔獣みたいだ。
「この兵団基地は先日、そこにいるコニーが修繕依頼を受けていた実績がある。普段の活動域も近いから、調査の際はコニーが案内役になれ」
「は、はい、分かりました!」
とんとん拍子で話を進めるサイダラさんに、僕は慌てて返事をする。しかしこちらに聞く事もなく僕に案内役を任せるなんて、信頼してくれているのか強引なのかよく分からない。
「任務中のパーティ全体の指揮は、実力や功績を見てヒリアが適任だろう。調査の方針については一任するが、調査結果は当日中に必ず報告しろよ」
「はい、承りました」
ヒリアと呼ばれた魔術師の冒険者は、静かに短く礼をした。魔術師のローブに身を包み、宝玉の様な魔石を付けた杖を手にしているヒリアさんは、サイダラさんが言った通りこのパーティの中で一番の実力者だと思わせる出で立ちをしている。
「分析に関してもヒリアが適任だろうが、一人でパーティの指揮と分析の両立は厳しいだろう。サヴィエが分析に関しての心得があるから、分析に関してはサヴィエが主導で行った方がいいだろう」
「……分かりました」
サヴィエと呼ばれた弓を背負った冒険者は、少し不愛想な感じで小さく返事した。塞ぎ込んでいて物静かなサヴィエさんは、遠距離から弓での狩りが基本みたいで重りになる防具を一切つけていない。
「レリダ、ガットツ、ジビターはこいつらの護衛及び戦闘要員だ。調査の邪魔になる魔物はお前達で対処する様に。普段この辺りにいる魔物なら、問題なく対処出来るはずだ」
「まっ、俺はそれで構いませんよ。調査なんてガラじゃないっすから」
レリダと呼ばれた長剣を背負った冒険者は、へらへらと笑いながら軽い返事をした。鉄製の手甲や胸当てに細身の長剣と、少し重めの装備からして戦闘や討伐が生業みたいだから、本人の言う通り調査分析の方はあまり得意じゃなさそうに見える。
「護るというのであれば、是非もない。私に任せておけ」
ガットツと呼ばれた鎧に身を包んだ冒険者は、小難しい言葉遣いで答えた。全身が重くて硬い鉄製の鎧で全身を固めているガットツさんは、背中に長槍と大楯を背負っており、戦闘よりも防衛や護衛が専門といった感じで、冒険者よりも兵団っぽい印象だ。
「……あぁ、分かったよ」
最後にため息をつきながら返事をしたのは、僕と会った時からずっと機嫌が悪そうにしていたジビターという人だ。先ほど見た時も思ったけど、ジビターさんがこのパーティの中では最も冒険者らしい格好をしている。
「……!」
僕がジビターさんの装備を眺めていると、一瞬だけお互いに目があった。
「……チッ」
何か声を掛けた方がいいかと思ったけど、直ぐにジビターさんの方が視線を逸らせてしまい、話しかける機会を逃してしまった。僕に対して何か腹を立てている様にも見えるけど、さっきぶつかったのがそんなに気に入らなかったのだろうか。
「ひとまずお前達のギルド情報から初動の方針を話したが、その後の方針は状況に応じてヒリアが調整しろ。判断次第では他の奴に指揮権を譲っても構わん。一応指揮権の変更や方針の大筋を変更をした場合も、忘れずギルドに報告する様に。多少の変更ならそこまで問題になる事はないだろうが、万が一任務中に想定外の事態が起きた場合、知らない間にパーティの事情が変わっているとギルドで対処しきれない場合があるかもしれないからな」
サイダラさんは一頻り話し終えると、話し疲れたのか気だるそうに再び椅子に勢いよく腰かける。すでに僕達以外のパーティにも同じ様な説明をしているだろうから、疲れているのも無理はない。
「それじゃ、後は各々よろしくな。調査任務用に冒険者の出入りを開放するのは明日からだから、今日はパーティの親睦を深めるなり作戦を練るなり、好きに過ごしてくれ」
サイダラさんは必要な事を全て伝え終えると、僕達が入った時とは反対側にある扉に視線を向ける。するとこちらの窺っていたのか、扉を開けてギルド受付嬢のネーリさんが入って来た。
「退出はこちらからお願いします」
ネーリさんはいつもの事務的な動作で、自分が入って来た扉から僕達をギルドの裏にある出口まで案内した。応接室に入った冒険者達が一向に出て来なかったので不思議に思っていたけど、こうして別の出口に案内されていたのか。
「……さて、早速ですがパーティを組んだ者同士、お互い自己紹介といきましょうか」
ギルドの裏の片隅で輪になって集合した僕達第四班は、パーティの指揮権を持ったヒリアさんから話し合いが始まった。周りを見るとギルドで見かけた冒険者達が、僕達と同じ様にパーティで輪を作って話し合いをしているのが見える。どうやら臨時パーティを組んだら、こうして直ぐに話し合うのが定石みたいだ。
「私は中央大国グランダルからの要請を受けて、中央大国加盟都市マグナリアから来たヒリアです。見ての通り魔術師で、普段は魔術研究を主に行っています。冒険者稼業は研究に必要な素材の採集でやっていますが、それなりに戦闘経験はありますので、研究者兼冒険者と言って差し支えないでしょう。研究の方に時間を費やしているので参考程度にはなりますが、冒険者の経歴は八年ほどで冒険者ランクはCです」
ヒリアさんは初対面の僕達を前に、練習してきたんじゃないかと思うくらい流れる様に自己紹介をする。流石に指揮権を任されるだけあって、こうした状況にも慣れているのだろう。冒険者ランクがCというのも、実力や経歴として十分過ぎるくらいの能力を持っていると見て間違いない。しかもマグナリアと言えば、僕の妹が通っているマグナリア魔術学院がある魔術都市だ。大陸屈指の魔術都市の魔術師なら、魔術の実力も申し分ないはずだ。
「では……次はサヴィエさん、お願いします」
そのままヒリアさんは隣にいたサヴィエさんに次の自己紹介の振りをする。
「……サヴィエ。ここから少し離れた街出身で、この街から直接要請を受けて来た。弓での狩りが得意で、外界で狩りをするために冒険者をしてる。冒険者を始めて六年で、ランクはD」
冒険者の中でもさらに独特な雰囲気を持っているサヴィエさんは、何とも絶妙な間で自己紹介をした。あまりの絶妙な間に、ヒリアさんが作った流れが跡形もなく崩れて奇妙な空気が流れる。でもヒリアさんに近い経歴ではあるし、狩りは得意だと明言しているので、弓の腕は確かだと思いたい。それにサイダラさんが分析をヒリアさんと一緒に任せるくらいだから、見た目の雰囲気からは想像出来ない実力の持ち主なのかもしれない。
「んじゃ、次は俺ね!」
サヴィエさんの作り出した空気を物ともせず、レリダさんが元気よく話を切り出した。
「俺は中央大国加盟都市のエクスラビから来た、剣術士のレリダだ。戦いは俺に任せておけば、間違いねぇぜ。冒険者になったのは一年くらい前だが、戦いに関してはもっと前からやってるぜ。ちなみに冒険者ランクはDだ」
パーティの中で最も覇気を感じるレリダさんは、奇妙な空気感を吹き飛ばすくらいに陽気な雰囲気の人だ。そして全面に出ている明るい印象以上に、戦いへの渇望がレリダさんの内側からひしひしと感じられる。冒険者になってから一年でDランクと、短い期間での昇格だからかなりの実力者だと思うけど、冒険者になる前は一体何をしていたのだろう。
「……では、次は私から」
レリダさんの自己紹介から少し間を置いて、おもむろにガットツさんが口を開いた。
「私は西の大国より命を受けて参った、名をガットツと言う。五年ほど前より兵団に座していたが、より広く学びを得るために二年前より冒険者を兼任している。都市を離れての業務はさほど経験してないが、都市の防衛は常に最前線にいた故、皆の護りならば私を頼ってくれ。冒険者ランクはそれなりに融通が利く様に、Dランクまで上げている」
丁寧な言葉遣いで話すガットツさんは、何だか無骨というか不器用というか、とにかく色々と堅い印象だ。でもさらに堅そうなのは、そこに立っているだけで圧倒されそうなくらいの存在感から来る、鉄壁の様な防御力の高さだ。大抵の魔物であれば、ガットツさんに傷一つ負わせる事が出来なさそうだ。それと最初に見た時の印象通り、ガットツさんは兵団の人間だった。
「次は君が自己紹介するか?」
「……」
ガットツさんから振られたジビターさんは、まだ少し機嫌が悪そうにしているけど、軽くため息を吐くだけで自己紹介はしてくれるみたいだ。
「中央の要請で来た、ジビターだ。戦闘経験はそれなりにある。冒険者活動がメインで、討伐以外も多少の経験はある。活動期間は三年で、ランクはDだ」
簡潔かつ端的に自己紹介を済ませたジビターさんは、他の人達の様に専門分野に突出した感じや他業務と兼任といった感じではなく、冒険者が完全に生業で冒険者の経験が一番幅広い、生粋の冒険者といった感じだ。純粋に冒険者の経験や実績だけなら、この中で一番かもしれない。
「……」
「……?」
自己紹介はそこまで不機嫌な所は感じなかったけど、僕と目が合うとジビターさんはまた顔をしかめて視線を反らす。
「では、最後は君だね」
「は、はい!」
ジビターさんの様子が気になって見ていると、ヒリアさんに催促されて慌てて返事する。
「えっと……僕はこの街の冒険者のコニーです。普段は採集依頼をよくやっていて、魔物の討伐経験はまだないです。四月ほど前に冒険者になったばかりで、冒険者ランクはFです……」
不慣れな自己紹介に恐る恐る言葉を考えながら、間を置いて一言ずつ話す。他の人達の自己紹介を参考にしてみたけど、こんな自己紹介で良かっただろうか。
「Fランクだと!?」
自己紹介の仕方に不安を感じていると、ジビターさんが突然驚きの声を上げてこちらを睨みつける。
「しかも討伐経験がないって!? そんな奴が討伐任務に参加してんだよ!」
「えっ……あ、あの……」
物凄い勢いでこちらに怒号を浴びせるビジターさんに、僕は返す言葉が見つからずしどろもどろになってしまう。確かにジビターさんが言う事は最もだけど、僕にもどうして討伐任務に参加出来たのか自分でもよく分かってないので、何と言えばいいのだろう。
「ジビターさん、落ち着いて下さい」
「あぁ!?」
興奮気味にこちらに迫っていたジビターさんの肩に手を置いて、ヒリアさんが冷静に制止しようとする。対するジビターさんは余程興奮しているのか、少し息を荒げながらヒリアさんを睨みつける。
「コニー君はこの街の冒険者で、支部長から案内役にと指示を受けたでしょう。Fランクの彼はあくまで道案内の役割として同行するだけで、討伐や調査に関与させる事はないと言っていいでしょう」
「当たり前だ! こんな田舎モンが討伐任務に参加している事がおかしいんだ!」
「……」
ヒリアさんが割って入ってくれたおかげでジビターさんの追及は逃れたけど、ヒリアさんも遠回しに僕が役に立たないと明言している辺り、ヒリアさんも見た目の印象と違って言葉に遠慮がない。何か口を挟んだ方がいいかと思ったけど、またジビターさんに睨まれるのは怖いし、役に立たないのは事実なので口を噤んで成り行きを見守る事にした。
「私もコニー君を道案内以上の役割を期待していませんし、あなたにも護衛以上の仕事が出来るとは思っていませんよ」
「……何だと?」
「えっ……えっと……」
しかし僕の事で口論になっていると思っていたら、ヒリアさんの一言でジビターさんの目つきがさらに鋭い殺気を放つ。まさかここでジビターさんにまで矛先を向けるとは思わず、僕は慌ててどうにかしなければと言葉を探す。
「今回の任務は正体不明の魔物の討伐です。これが依頼であれば未踏破区域の出入りが許されるCランク以上の案件ですから、本来ならDランク以下の冒険者には荷が重い任務なんですよ。今回のパーティ編成が六人と調査にしては人数が多いのも、どのパーティにも最低一人はCランク以上の冒険者が配属される様にするためでしょう。ですが調査に人手は必要ですから、Cランク以上の冒険者を含めたパーティで手を打った、という所でしょうか」
「てめぇ……」
「……」
「……」
「……」
「あ……あ……」
僕が制止する言葉を探している内に、ヒリアさんがさらに火の手を上げてしまい、パーティ全員がヒリアさんへ視線を向ける。パーティ全体が一触即発の雰囲気となり、僕は思考が停止してどうする事も出来なくなってしまう。
「とはいえ、いくら何でも一人で調査から討伐までこなせる訳ではありませんからね。単独での調査や探索は見落としも多いですし、万が一目標と遭遇した場合の危険度は計り知れません。こうしてパーティを組んだのも、私一人では任務の達成が困難だからです。今回の探索範囲が全て探索済区域でDランク以下でも立ち入り可能で、現状の目的が魔獣の探索で戦力は最低限で済むから、こうしたパーティ編成が適していたのでしょう」
「……」
ジビターさんが恐ろしい形相で睨みつける中、ヒリアさんは一切言葉を途切れさせずに話し続けている。会話の内容だけ聞いたら特に全員を煽る気がある訳じゃなさそうだけど、ヒリアさんはもう少し言葉を選べなかったのだろうか。
「それに支部長の人選を見る限り、役割の配分や個々の力量のバランスは十分に考えられています。各々が役割に徹していれば、今回の任務は問題ないでしょう。私も指揮を任された以上、任務はきちんと遂行するつもりですので」
最後に弁解らしい言葉を付け加えて締めくくったけど、パーティの間の空気はずっと窮屈なままだ。結局ヒリアさんは何がしたかったのだろう。
「……私は、構わない。リーダーに任せる……」
しばらく無言が続いた後、一番に口を開いたのは意外にも話すのが苦手そうなサヴィエさんだった。ヒリアさんの話を渋い顔で聞いていたけど、どうやらヒリアさんの意に沿うか悩んでいただけみたいだ。
「俺もいっかな。今日会ったばっかで誰もよく分かんねぇし、細かい事は考えるの苦手だからよ」
続いてレリダさんがため息交じりに同意の旨を伝える。途中からヒリアさんを訝しんでいた様子だったけど、あれこれ考えるのが面倒になったのかもしれない。
「私は総意であれば問題ない。だが貴殿が無能な指揮官であれば、ギルドへの報告も止むなしだと肝に銘じておけ」
ガットツさんは二人と違ってヒリアさんの指揮に不安な所があると思ったのか、軽い脅しみたいな売り言葉を掛ける。
「はい、その時はご自由に」
ヒリアさんもガットツさんの言葉を買って出る。どうして冒険者はこうお互いに言葉の売り買いが激しいのだろう。
「……任務だからてめぇの指示は受けてやるよ。だがな、てめぇの事を認めた訳じゃねぇからな!」
ジビターさんもヒリアさんが指揮を執るのは不服に思ったみたいだ。でも比較的良識的な話し方のガットツさんと違って、ジビターさんはヒリアさんへ全面的に押し売りの様な言葉を投げ掛ける。
「認めないのは構いませんよ。ただ、私がCランク冒険者という事は憶えておいて下さいね、Dランク冒険者のジビターさん?」
別に余計な事を言わなくてもいいのに、ヒリアさんもジビターさん以上の買い言葉で返す。
「……チッ!」
流石にジビターさんもその発言は効いたのか、それ以上の言葉は返せずそっぽを向いてしまう。
「……それで、コニー君の意見は?」
「えっ……?」
とてつもなく険悪な雰囲気の中、ヒリアさんから絶望的な振りを受けてしまう。こんな空気の中、一体何を話したらいいというのだろう。
「えっと……初めての任務ですし、とにかく頑張ります……」
特に気の利いた言葉が思いつかず、結局今の自分に出来そうな事をするとしか言えなかった。
「ハッ、頑張るか! ただの案内役だからって、任務を遠足と勘違いしてるんじゃないか!?」
「えっ、えっと……」
ここでジビターさんから口を挟まれると思わず、僕は返す言葉に迷ってしまう。やはりジビターさんは僕に対して何か起こっている気がする。
「全く……格下相手に威張るだなんて、随分程度が知れますね」
「チッ……」
僕が反応に困っていると、ヒリアさんから横槍が入り、ジビターさんがまた明後日の方を向いてしまう。冒険者は色々と癖の強い人が多いけど、外から来た冒険者は僕が見て来たフロンの冒険者とは比べ物にならないほどに癖の強い人達だった。初めてのパーティに初めての任務は、初日から幸先の悪い始まりとなってしまった。
〇おまけ「パーティ編成の規模について」
パーティの登録は正規、臨時問わず最大十二人までが登録可能である。また登録する人数によって、小規模、中規模、大規模パーティと区別される。
二人から四人の小規模パーティは、人数が少なく最も機動力の高いパーティ編成で、低ランク冒険者がよく組む規模のパーティである。その機動力の高さから、遠方の依頼や隠密行動を求められる依頼に適している。
五人から八人の中規模パーティは、あらゆる状況に幅広く対応が可能なバランスの良いパーティ編成で、上ランク冒険者がパーティを組むなら中規模が基本となる。その対応力の高さから大概の依頼をこなせる上、連日かかる依頼にも対応出来る。
九人から十二人から成る大規模パーティは、特殊な条件の依頼や大規模な作戦が必要な依頼の際に組まれる、非常に珍しい規模のパーティである。大人数のパーティのため、移動の遅さや消費の多さと欠点が多く、パーティ間の問題も起こりやすいため、特別な事情がない限り組まれる事は稀である。




