第十八走「次の一歩は、とても大きくなりそうでした」
〇前回までのあらすじ
ごろつき達の襲撃を退けたコニーは、グルタと共に束の間の休息を過ごしていた。そんな一時の中、コニーはグルタが元冒険者だった事を知る。さらに自分と同じ様な悩みを抱えて冒険者を辞めた事を知り、コニーはグルタを励ますためにも自分が立派な冒険者になると改めて誓った。
僕が冒険者の活動に復帰してから半月が経った。ギルドへの借金返済の期日が迫る中、僕は地道に採集や清掃の依頼をこなしつつ、教会との予定が会う日はグルタさんの護衛の依頼もこなしてきた。辛うじてごろつき達を退けられたあの日から、ごろつき達が教会に姿を現したという話は聞いてない。しかしグルタさんの話によれば一月近く来ない事もあったというので油断は出来ない。それでも毎度の様にごろつき達に襲われるよりはいいと思い、とりあえず来ない内は安心している。
「戻りました!」
そして僕は今、外界での採取依頼を終えて納品のためにギルドに立ち寄っていた。それなりに採取の回数をこなしてきたので、今では一日に三種類の依頼を受けても問題なくこなせるくらいには慣れてしまった。
「今日も元気ねぇ……」
冒険者窓口で受付をしているクルシャさんが気だるそうにカウンターに頬杖をつきながら、温かい視線で迎えてくれる。いつも話していて気になるのだけど、クルシャさんはたまに見た目の若さに似合わない言動が見られるけど、もしかして思ったより年が離れているのだろうか。
「……何考えてるんだい?」
「い、いえ! 何でもないです!」
少し失礼な事を考えていたのに気付いたのか、クルシャさんが鋭い視線をこちらに向けて来る。こちらの心を見透かされた気がして若干慌ててしまったけど、流石に何を考えているかまでは分からないだろうと一旦落ち着いて息をつく。
「そ、それじゃ……これ、お願いします!」
これ以上話題を引きずられてはいけないと、僕は早速依頼で採取して来た物が詰まった袋をカウンターに置いた。
「ほい、それじゃ確認するよ」
クルシャさんがカウンターの乗せられた袋を取り上げると、中身を手早く取り出しながら確認していく。この手捌きはいつ見ても見事なものだ。
「……うん、ちゃんと全部揃ってるね。それじゃ集計するよ」
全ての確認を終えたクルシャさんが出した物を袋に詰め直すと、カウンターの下に袋を下ろす。そのままカウンターの下から今回僕が受けた依頼書を取り出して、依頼の内容と報酬を確認する。
「……今回の報酬は合わせて2300リールね。元の依頼報酬が合わせて1700リールなのに、今回もまた随分と頑張ったわね」
「有難うございます!」
クルシャさんが関心しながら、勘定したお金を受け皿に乗せてカウンターに置く。金額を聞いて僕も嬉しくなりながら、ギルド証をクルシャさんに手渡して依頼完了の手続きをしてもらう。採取依頼は既定の採取量を超えた分は追加で報酬が出るので、いつも自分の限界ギリギリの採取量になるまで頑張っているのだけど、おかげでまだGランクにしてはそこそこの稼ぎを得られている。それでも借金返済はまだまだ遠いのだけど。
「それと……今日はあんたに朗報があるよ」
「朗報……ですか?」
いつもはここで次の依頼について確認するのだけど、今日は何やらクルシャさんから伝えたい事があるらしい。特に身に覚えがないけど、一体どんな話だろう。
「……まぁ、折角だし自分で確かめなよ」
クルシャさんは何か意味ありげな笑みを浮かべながら、手続きを終えたギルド証を差し出す。
「……? は、はい……」
何の事を言っているのか分からなかったけど、とりあえずギルド証を受け取った僕はギルド証に魔力を通してギルドの登録情報を確認する。いつもはこれでギルドの依頼で稼いだ情報を確認しているけど、何か新しい情報でも登録されているのだろうか。
「……えっ!?」
ざっとギルドの登録情報を流し読みで確認していると、途中で違和感を覚えて今度はじっくりと登録情報を一から確認する。そして気になった部分を改めて何度も見返して間違いないかを確認する。
「……ら、ランクがFになってる……」
今までGと表記されていたはずのランクの文字が、今はFになっている。夢か何かの間違いかと思って何度見返してみても、ランクの表記はFにしか見えない。こんな何の前触れもなくランクが変わっている事に、僕は驚きのあまりその場で茫然と立ち尽くす。
「この所ずっと依頼を頑張ってたからね。つい先日からギルドの評価が一定水準を超えてたし、上の奴も依頼の達成情報を見て昇格に値するって事で、あんたをFランクにしたんだと」
「そ……そうなんですか……」
以前クルシャさんから最初の内は自然とランクは上がると聞いていたけど、まさかこんな突然昇格するなんて思わなかった。でもこれで僕も少しは冒険者として認められ始めたという事だろうか。
「これで晴れてFランクになった訳だけど、明日の依頼はどうする?」
「明日の依頼……」
いつもは僕から明日の依頼を確認するのに、今日はクルシャさんからわざわざ気になる言い回しをしながら未受領の依頼書をカウンターに広げる。広げられた依頼書を見ながら、僕はクルシャさんの質問の意図をはっきりと理解する。そんな聞き方をされるまでもなく、僕は最初から昇格したのを聞いた瞬間からすでに次に受ける依頼は決めているのだから。
「勿論、Fランクの依頼を受けます!」
僕は広げられた依頼書の中から、Fランクの依頼書を抜き出して内容を確認する。その中にはGランクと同じ様な採取依頼もあるけど、どれも森の奥地や辺境と場所が遠い採取依頼ばかりで、確実にGランクの採取依頼よりも危険度が増している。それだけでもランクが上がった事を実感するけど、それ以上に他の依頼書に今までと毛色が異なる依頼をちらほら見かけると、駄目だと分かっていても嬉しさのあまりつい浮足立ってしまいそうになる。
「……ん?」
そうしてFランクの依頼を目移りしながら眺めていると、ふと一つの依頼書に目が留まった。Fランクの依頼書の中でも、さらに異色な内容だと一目見ただけで分かるくらいに気になる依頼だ。
「『駐屯基地跡の調査及び修繕』……?」
Gランク依頼でも街の周辺にある設備の清掃や整備の依頼はあったけど、この依頼は調査と修繕を同時に行う依頼となっている。しかも清掃や整備ではなく修繕とあるし、駐屯基地ではなくその跡と表記されているので、おそらく今は使われてない施設を調査して使える様に修繕して欲しいという依頼内容みたいだ。
「また妙な依頼に目を付けたね……。その駐屯基地は森の中で少し開けた場所にあったけど、少し前に魔物の襲撃を受けた時に手放してから放置しっ放しになってるんだって。多分今じゃ魔物や自然で荒れ放題になっているかもって事だから、現地に行って基地の状態を確かめて、可能なら再利用出来る様に修繕して欲しいってさ。流石に冒険者の中に建築スキルを持っている奴はいないだろうって事で、修繕自体は野営が出来るくらいで十分って聞いてるから、修繕はほとんど整備依頼と変わらないと思ってくれていいってさ」
「そうですか……」
クルシャさんから詳細な説明を受けながら、僕は依頼書を眺めて駐屯基地がどうなっているのかを想像する。基地を放棄したのがつい一月ほど前という事だから、そこまで酷い状態にはなってないとは思うけど、基地の整備となれば一日で終わらせるには規模が大きすぎるだろう。しかし報酬もそれを考慮して相当な金額が提示されいているし、整備の状態によっては追加報酬も出ると書かれているから、この依頼を受けても十分な稼ぎにはなると思う。
「……この駐屯基地って、兵団の所有ですよね?」
僕は依頼書にある依頼元の表記を指しながら、念のためクルシャさんに聞いてみる。依頼元は兵団としか表記がないため誰からの依頼かは分からないけど、個人の依頼じゃないなら所有は兵団全体の物だろう。
「そりゃそうよ。外界に出れるのはここらじゃ冒険者か兵団しかいないんだから、基地を外界に持ってるのなんて兵団くらいしかいないわよ」
「そ、そうですね……」
当たり前の事だとクルシャさんがため息をついて呆れるのを見て、僕は少し申し訳ない気持ちになりながら同意する。しかしこの依頼が兵団からだと確認出来た僕は、ようやく腹を決める事が出来た。
「……僕、この依頼を受ける事にします!」
この依頼を達成する事でどれだけ兵団に貢献出来るかは分からないけど、少しでもお世話になった恩を返す意味でもこの依頼はしっかりと誠意を尽くしたいと思った。
「そっか……もうFランクになったんだし、そんなに心配する事もないだろうけど……頑張ってね」
次の依頼へと意気込む僕を、クルシャさんは多くを語らず僕の帰りを見送った。これまで僕の事を見守ってくれたクルシャさんだからこそ、初めて挑むFランクの依頼でも大丈夫だと思ってくれいているのだろう。そんなクルシャさんの信頼に応えるためにも、僕は明日のFランク依頼を見事にこなそうと誓った。
◇◇◇◇◇◇
「さて……今日も頑張ろう!」
Fランク依頼を受けた翌日、僕は早速準備を済ませて外界に出ていた。今日はいつもよりも遠出をするので、少しだけ装備を多めに準備しておいた。特に今回は最初に駐屯基地跡の調査があるので、整備に使いそうな装備は一旦置いて、代わりに道中の魔物等の危険への対策の装備を重視した。そのため行きの時点でいつもより身体が少しだけ重く感じるけど、感覚的に本当にほんの少しなので特に支障はない程度の装備となっている。
「えっと……方角はこっちかな?」
僕は普段外界に出る時に使っている周辺の地図と、依頼にあった駐屯基地跡の位置が記された地図を見比べながら、目的地となる駐屯基地跡への道のりを確認する。一応基地までの道のりは以前まで使われていたので道らしき道はあるものの、一月も使われていなかったため草木が道に侵食していて進行の妨げになっている。今回は調査が主な目的なので道の整備は別の日にして、今回は採取によく使っているナイフで最低限通れる道を切り拓きながら進んでいく。
「くっ……思ったより遠いや……」
草木をかき分けたり邪魔な枝葉をナイフで取り除いて進んでいるので、少し進むだけでもかなりの時間と体力を消費している。それでも普段から採取や整備の依頼でそこら中を歩き回っていたおかげか、苦労の割にそれほど体力の消耗は酷くなかった。しかしこの調子では本当に基地跡の調査だけで今日は終わってしまいそうだ。
「う~ん……しょうがない」
どうしたものかと悪戦苦闘しながら考えた結果、なるべく早く基地跡に到着する方がいいと判断した僕は、ナイフを仕舞って戦闘用に持って来ていた短剣を抜いた。そのまま慣れた捌きで短剣を振るい、行く道を遮る草木を切り裂いていく。本来なら戦闘用に使う武具を別の用途で消耗するのは得策ではないけど、僕は元々そこまで正面からの戦闘はしないし、今の所周辺に魔物の気配もないので、依頼の進行を優先して短剣で道を切り拓く事にした。その甲斐もあって体力の消耗は少し早くなったけど、道を進む速度は飛躍的に上がった。この調子なら日が高い内に目的地に到着出来そうだ。
「ふぅ……」
しばらく短剣を振り回しながら進んでいると、流石に体力の限界が来た僕は一度足を止める。一旦身体を休めながら来た道を振り返ると、乱雑ながらもちゃんと人一人が進める道が切り拓かれていた。
「……よしっ!」
しっかりと自分の成果を確認した僕は気合を入れ直して、再び短剣を振り回して基地跡までの道を切り拓き続けた。
◇◇◇◇◇◇
「……つ、着いた~……」
途中で小休止を挟みつつ、地道に獣道まがいの道を切り拓いて来た僕は、天高く上った日が降り始める前に何とか基地跡まで辿り着いた。ずっと短剣を振り回しながら足元の不安定な道を歩んで来た僕は目的地を前に気が緩み、その場に膝をついて一つ大きく息を吐いた。これでひとまず今日の最低限の目的は達する事が出来た。
「……い、一旦中を見ようか……」
とにかく突き進んで疲れていた僕は落ち着いて休もうと、草木が蔓延って青臭い基地跡の中へと入った。魔物の襲撃を受けた後なのか、所々に大きな傷跡や建付けの悪くなった部分が沢山見える。今にも倒れてきそうな傾きをした扉を引いて基地の中を見ると、長く放置されて溜まった埃が部屋中に舞う。
「こ、これを整備するの……?」
これまでは普段使われている施設の整備だったのでそこまで酷い状態ではなかったけど、この基地跡はかなり整備に時間が掛かりそうだ。とりあえず野営が出来る程度にまでの整備が必要だけど、何処から手を付けようか迷うくらいに何処もかしこも酷く荒れている。
「はぁ~……」
どうしたものかと思いながら、適当な場所に腰を落ち着けて休憩する。この惨状をどうにかしないといけないけど、今はとにかく身体を休めたかった。
「うわっ! ごほっ……」
座るとまた埃と土煙が周囲に舞い上がり、僕の身体を容赦なく覆い尽くす。疲れて気が回らなかった僕は思い切り吸い込んでしまい、息を切らせていた所に追い打ちをかけられる。これはさっさと作業を始めないと、あっという間に身体中が汚れてしまいそうだ。
「……ひとまず、清掃だけでも終わらせよっか」
身体に被った埃や土を払いながら、周辺の惨状を改めて見渡す。ここに来るまでにすでに消耗している以上、今日は作業内容をある程度割り切って考えないといけない。流石に今日だけで依頼に必要な条件を整えるのは無理だと思うので、まずは作業中に一番障害になりそうな所から手を付ける事にした。
「……よしっ!」
腰を下ろして軽く休憩を済ませた僕は、意を決して清掃を始めようと立ち上がった。まずは清掃に使えそうな物がないかと、基地全体の状況を把握するために奥の方へと足を踏み入れた。
「……何か、随分と急いでいたのかな」
一つ一つ部屋を確認していると、埃や草木に覆われた陰に色んな物が転がっているのが見えた。中には錆び付いた武具や傷だらけの防具といった兵団の装備、腐った飲食物や欠けた食器類等の生活用品、はたまた誰かの荷物が詰められているだろう袋や鞄の様な大事な私物まで見られた。どうやら魔物の襲撃は突然起きたみたいで、兵団も慌てて対処しようとしたけどそれが叶わず、止むなくそのまま基地を捨てて街まで逃げたのだろう。しかも私物すら持ち出す暇がなかった所から見ると、籠城して戦う余裕もなく蹂躙されたのかもしれない。それだけ兵団でも即撤退を余儀なくされるほどの魔物の襲撃があったと思うと、ここにいる事がこの上なく危険だと思い始めた。
「……だ、大丈夫……だよね?」
街を出てから常に警戒を怠らず、今も危険察知で索敵をしつつ魔物の気配がないのを確認しているけど、ふと不安に駆られてしまい背筋に悪寒が走る。周囲を見回して何もいないのを再確認しても、一度抱いてしまった恐怖心を中々拭えず、基地内の探索中はずっといないはずの魔物に怯えながら練り歩いた。
◇◇◇◇◇◇
「……さて、それじゃ始めよっか」
ひとまず基地内の安全確認と探索を終えた僕は、探索中に見つけた清掃道具を基地の入り口まで持って来ていた。もし清掃道具がなかった場合は掃除を諦めて、別の日に改めて清掃道具を持って来るしかなかったけど、他の物と一緒に清掃道具も残っていたので少しほっとした。
「とりあえず、埃を何とかしないと……」
清掃は兵団で訓練していた時や教会の依頼でよくやっていたから自信はあったけど、基地内を全て一人でやるとなると今までとは比にならない規模になる。もしかしたら掃き掃除すら今日中に全ての場所を回る事が出来ないかもしれないと思ったけど、今からそんな事を考えても仕方ないと思って早速箒を手に取って入口から清掃を始めた。
「ぐっ……すごい量だ」
風通しの良い入口でも、箒を軽く振っただけで部屋中が埃で埋め尽くされそうになる。しかしこれくらいなら兵団基地でもあったので、それほど怯む事なく箒を振るって埃を外へと掃き出した。
「……これ、今日中に終わりそうにないかも」
入口付近の掃き掃除が一段落した所で、僕は入口から頭だけ外に出て空を見上げる。まだ日は高いけど、すでに真上から下へと傾き始めている。街にある兵団基地と比べると、この基地の広さはその半分にも満たないけど、この広さを一人で片付けようと思ったら掃き掃除ですら半日で済むか怪しい。日が落ちる前に街に戻る事も踏まえると、今日は掃き掃除も途中で切り上げる事になりそうだ。
「……頑張ろう」
いつ終わりになるかと考えるのが嫌になりそうで、僕は黙々と箒を振りながら基地の奥へと足を進める事にした。もしかしたら、僕が思っていた以上にこの依頼は大変だったのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
基地跡の依頼の初日を終えた次の日、僕は先日に予定を組んでいたグルタさんの護衛依頼のために教会に来ていた。日没近くまで清掃をしながらごろつき達を待ち構えていたけど、結局今回も来る気配はなかった。そうして今日も清掃を一通り終えて、グルタさんと共に休憩を取っていた。
「……そうですか、そんな事がありましたか」
普段からあまり話題に富んでいなかった僕は、昨日の基地跡依頼について大まかな内容をグルタさんに話した。グルタさんにもこの手の依頼には覚えがあるらしく、少ししみじみとした様子で僕の話を聞いていた。
「はい……結局、僕一人ではあと数日は掛かると思います……」
昨日に引き続き清掃作業をした僕は若干意気消沈しながら、愚痴っぽく話しながら項垂れる。結局昨日は基地跡までの経路の確保と、基地内を半周と少しくらいを掃き掃除して回って切り上げた。自分の中では四、五日ほどで終わると思っていただけに、想像をはるかに上回る大変さにこの依頼を続けるのが不安になって来る。
「それでしたら、パーティは組まないんですか?」
「パーティですか……?」
グルタさんがその話題を持ち出すとは思わなかったけど、考えてみれば当然の事だ。元々僕が受けた依頼は一人で受ける事を想定している様な規模じゃないから、臨時でパーティを組むかすでに正規パーティがいる冒険者が受けるものだ。
「……僕と組んでくれる人がいればいいですけどね」
グルタさんも心配して言ってくれているだろうから濁したけど、今の所僕はパーティを組む気はなかった。逃げに特化した僕の能力では戦闘はおろか、通常の連携においても居場所はない。一応斥候の訓練はある程度積んでいるけど、通常の斥候でも最低限の戦闘能力は持っているものだから僕では下位互換にしかならない。そんな足手まといになるのが見えているのに、僕からパーティを組んで欲しいなんて言えるはずがなかった。
「コニーさんと組みたいと思ってもらえる人はいるはずですよ。私が冒険者だったら、コニーさんからお誘い頂いたら断る理由なんてありませんもの」
「あ、有難うございます……」
グルタさんからそこまで言ってもらえるとは思わず、返答に困った僕はひとまず礼を言った。しかし例え誰かから声が掛かったとしても、やはり今は一人で冒険者を頑張ろうと思う。逃げに特化した自分の能力を活かすのなら、一人でいる方が身軽で動きやすいし気も楽で良い。
「ですが……大丈夫なんですか? ギルドの借金の支払いは、残り半月足らずで最初の期日を迎えると仰っていましたが……」
さらに先ほど以上に心配そうな表情でグルタさんがこちらを見つめる。毎度休憩の度に話題に困ってギルドの借金についても話したけど、グルタさんにいらぬ心配を掛けてしまっているので余計な事を話してしまったと後悔している。しかしグルタさんの言う通り、僕には兵団での訓練の受講料の支払いが二月分残っていて、一月目の支払いをあと半月までに終わらせないと利子が発生してしまう。利子自体はそれほど厳しいものではないけど、出来れば利子が発生するまでに支払いを終わらせたいので、それまでにギルドの依頼をこなして稼ぐのが現在の最も優先すべき目標だ。
「大丈夫ですよ……多分」
僕は若干後ろめたい気持ちを押し殺そうと、最後の方だけ軽く目を逸らしながら小声で呟く。
「……本当に大丈夫なんですか?」
「は、はい……」
そんな僕の素振りを見逃さなかったグルタさんが、こちらへにじり寄りながら鋭い視線を向けて来る。気まずさと疚しい気持ちが相まって、僕の顔から血の気がみるみる引いていく。
「……次の支払いは30000リールと聞きましたが、今の持ち合わせは?」
「だ、大体22000リールです……」
「……今やっている依頼の報酬額は?」
「い、10000リールです……」
「ちゃんと残り半月以内に終わらせられますか?」
「モ、モチロン……デス……」
質問を繰り返す事に徐々に迫って来るグルタさんからの重圧に、僕は冷や汗を流しながら明後日の方向へと視線を彷徨わせる。最後の質問のだけは少し自信がなくて他の返答以上にどもってしまったけど、その不安がグルタさんに伝わらない事を祈りながら、緊張と恐怖に身体を強張らせてグルタさんの次の反応を待った。
「……はぁ……分かりました。コニーさんが大丈夫と仰るなら私も信じましょう。ですがしばらくはこちらの依頼は受けないで下さいね」
「えっ!? そ、そんな……大丈夫なんですか?」
ひとまず僕の不安は伝わらなかったけど、今度はグルタさんの護衛依頼を断られてしまった。最近はごろつき達も姿を見せてないけど、またいつ姿を現すのか分からない。護衛依頼は受けられる限りは出来るだけ入るつもりだったけど、何かグルタさんの事情があるのだろうか。
「私の事は構いません。兵団の方々に来て頂ければ彼らが現れる事はありませんし、ギルドへ依頼する際も相手側についての情報がありますから、以前より融通を利かせる事が出来るでしょう。それよりもコニーさんは、自分の事を考えて下さい。ただでさえ一人で大変な依頼を受けているのに、こちらの依頼に時間を割いている余裕はないはずですよ」
「そ、それは……はい……」
グルタさんに的確に痛い所を突かれてしまい、一切の反論の余地がなかった。それを言われてしまったら、僕もグルタさんの言う通り基地跡の依頼に集中するしかない。
「……分かったら、あと半月はそちらの依頼に集中して下さい。もし依頼を終える前にこちらに来たら、ギルドに叩き返しますからね」
「わ、分かりました……」
グルタさんから気合の入ったお叱りを受けて、僕は塩らしく同意するしかなかった。この様子だと、寄り道で教会に顔を出すだけでも本当に叩き出されてしまいそうだ。こうなったらまたグルタさんの護衛依頼に戻るためにも、基地跡の依頼を出来る限り早く終わらせなければ。
〇おまけ「ギルドのパーティについて」
ギルドでは個人で解決困難な事案や依頼等の解決策として、登録者同士でパーティを組んで協力する制度がある。パーティには正規パーティと臨時パーティがある。
正規パーティはギルドにパーティとして常時登録され、パーティの誰かが依頼や事案を受けた際に他のパーティの仲間も自由に参加出来る。またパーティの仲間のギルド登録情報の一部と受けている依頼の情報等、ギルド内で管理されている情報の一部を共有する事が出来る。報酬についてはパーティ全体に支払われる。
臨時パーティは一つの依頼や事案を受ける際、ギルドに仮登録して編成されるパーティである。パーティの編成には依頼や事案を受ける際に事前に申請して登録する必要がある。お互いの情報を開示する義務はなく、あくまでパーティを組む際に受けた依頼や事案の解決のために一時協力する関係となる。報酬はギルド側が依頼元から仮で受け取ってから、個別に割り振って支払う。




