第十走「魔力の才能は、意外な所にありました」
〇前回までのあらすじ
兵団で訓練を始めてから数日、厳しい訓練にも慣れ始めたコニー。今日も訓練に励もうと意気込んでいたコニーだったが、その日は何故か兵団基地の掃除をする事に。訓練をするものだと思っていたコニーは困惑するも、他の皆がスキルを活用して掃除をする姿を見て、スキルの新たな可能性を感じたのだった。
「ただいまぁ~……」
「お帰り、今日も大変だったね」
厳しい訓練を終えて倒れ込む様に家の扉を開けて入る。最初の頃は僕がくたくたで家に帰る度に驚いていたお母さんも、今では毎日訓練に励む僕を嬉しそうに出迎えてくれる。
「ほら、しっかり歩きなさい」
「うん、有難う……」
僕がいつも玄関で力尽きるので、お母さんが担ぎ上げて夕食の席に座らせてくれる事も珍しくない。ついには食事も手伝うかと先日お母さんに聞かれたけど、流石に疲労で身体が言う事を聞かなくても食事は自分で取ると、その日は震えそうな手を抑えて強がった。
「そういえば、コニーが訓練を始めてからそろそろ半月くらい経つわね」
「そうなんだ……」
「そうなんだって……コニーったら、憶えてないの?」
「うん、何か毎日があっという間に過ぎてる気がして……」
何気ない食事での会話だけど、僕はそんなに時間が過ぎていたのかとふと訓練の日々を思い返す。毎日ガイダールさんが出す訓練はとても厳しいもので、それだけに考える暇もなく瞬く間に一日が過ぎている感覚をいつも味わっている。それにたまにだけど、訓練の間の記憶がない時もあったりするので、余計に一日が短く感じる事もある。
「それで、そんなあっという間な今日は何をしたの?」
「今日は……筋力強化の鍛錬をやったよ。全体的に力が足りない人が多いからって、ガイダールさんが……」
こんな風にその日あった事をお母さんに報告するのも、自然と毎日やっている気がする。お母さんは僕の話を聞きながら一喜一憂するけど、最近は心配する事も少ないのか笑顔で聞いている事の方が多い。そうして楽しく談笑しながら夕食を済ませると、僕は僅かに回復した体力で身体を引きずりながら寝床へ向かい、倒れる様にそのまま眠りへとついた。
◇◇◇◇◇◇
「よし、今日はこれくらいにするか。しっかり休んどけよ!」
「「「「「は、はい……」」」」」
翌朝、今日も僕と兵団候補生の皆は毎朝恒例の走り込みを何とか乗り切った。相変わらずガイダールさんの背中は遠かったし、地面と向かい合っているミナちゃんを始め、僕を含めて皆で肩で息をしている。
「ミナ……起きろよ……」
「服が汚れますよ……」
「……」
ダルタルマ君とカール君が心配になってよろよろとミナちゃんに歩み寄っているけど、ミナちゃんは一切反応せず大きく呼吸を繰り返すだけだった。
「はぁ……コニー、また速くなったんじゃないか?」
いつも僕と並走しているギール君が膝に手を当てながら僕に声を掛ける。
「そうかな……そういうギール君も、スキルの制御に慣れてきたんじゃない? 前より走る時の顔が辛そうじゃないよ?」
「そうだな……まだちょっとだけスキルを使ってる感覚があるけど、確かに制御の事を考えなくても普通に走れてるかも」
ギール君は無意識に使用しているスキルを抑える様にしてから走る時に辛そうにしていたのだけど、日を追うごとに走る時の表情から苦しさが抜けている。毎日僕をほとんど並走しているのでスキルを使っている訳ではなさそうなので、本当にスキルの制御が身についているのだろう。僕から見ても分かるくらいの成長ぶりからして、やはりギール君はスキルの才能がずば抜けている。
「しっかし……いくらスキルの制御が上手くいっても、まだまだ訓練長には届く気がしねぇな。あれでスキルを一切使ってねぇって言うんだから、どんだけ化け物だって話だよ……」
「えっ……ガイダールさんって、走り込みでスキル使ってないの!?」
「走り込みどころか、訓練中はスキルを一切使ってないんだと」
「う、嘘……」
ギール君から唐突に語られる事実に、僕は久方ぶりに驚きの声を上げる。今まで訓練の中で驚く事は幾度となくあったけど、おそらく今までで一番の衝撃だった。ガイダールさんがこれまで見せてきた人間離れした身体能力が、まさかスキルに一切頼らない持ち前の身体能力だったなんて。一体どれだけの鍛錬と才能があれば、それだけの境地へと成れるのだろうか。
「訓練長曰く、経験の密度が違うんだと。特に冒険者時代の経験が多い分、兵団じゃいくら鍛錬を積んだとしても足りないくらいだってさ」
「そっか……そうなんだ……」
元冒険者らしいガイダールさんの言葉だ。確かに兵団では基地内で確実に実力を磨く事が出来るけど、それだけだと成長に限界があるのかもしれない。一方で冒険者は魔物等の危険が伴う外界での活動が主だから、常に休みなく実戦を強いられる事になる。たった一日外界に出ただけの僕でさえも、ほんの少しの油断で危うく命を落とす事になっていたかもしれないから、毎日の様に外界へ出る冒険者は危険と共に経験も多く得られているのだろう。そう思うと兵団での訓練はガイダールさんにとって、スキルを使うまでもないほど緩いと思うのも無理はない。
「そろそろ時間だ、今日は戦闘訓練場に行くぞ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
僕達が話している内に休憩時間が終わったらしく、屋内からガイダールさんが出て来て僕達を呼び出した。走り込みで消耗した体力が回復した僕達は、元気よく返事をして奥へと消えていくガイダールさんを駆け足で追いかけていった。
◇◇◇◇◇◇
ガイダールさんが先導して戦闘訓練場へと来ると、様々な装置が所狭しと置かれた中に見慣れない人影が見えた。何やら作業しているみたいで、腰を曲げて周りの装置をいじっている。
「ブライアリ、準備出来てるか?」
ガイダールさんが一歩前に出て、装置を挟んで人影に声を掛ける。
「あっ、ガイダールさん。えぇ、万事出来てますよ」
ブライアリと呼ばれた人が作業の手を止めて、身体を起こしてガイダールさんに返事する。ここにいるから兵団の人だと思うのだけど、身体が細くて見るからに華奢な印象がする。カール君が長身なので細身に見えてしまう事もあるけど、この人はそれほど高身長でもないのに細身なので余計に華奢に見える。
「おや、新しい子が入ったんですか?」
ブライアリさんが僕の方を見て、何やら意味深な視線を送る。
「いや、こいつは業務体験で訓練に参加しているだけだ。というか、お前は一度見た事あるはずだろ?」
「えっ……僕がこの子を?」
「えっ……?」
ガイダールさんの発言に、僕もブライアリさんも身に覚えがなかった。ブライアリさんが慌ただしい動きで装置の合間を縫ってこちらに迫って来る。一瞬の出来事に僕は驚いて軽く身を引いてしまうが、そんな事をお構いなしにブライアリさんが僕を目と鼻の先で観察する。
「……あぁ、この前の神成式ですね。確かにあの時はガイダールさんがいなかったので、僕が代わりに見たんでしたね」
「そうだよ……全く、興味がない情報はちゃんと管理してない奴だな……」
「えっ……神成式?」
二人の話の流れが全く読めず、僕は二人の顔を交互に見比べる。
「……あぁ、コニーは憶えてないのか。こいつはこの兵団基地で経理を担当しているブライアリだ。たまに俺が手を離せない時、俺の代わりに神成式に出て有望な人材を判断してもらってる」
「えっ……そ、それじゃこの人が……」
「えぇ、僕がガイダールさんに代わって、兵団代表として君の神成式に出席したんだよ」
神成式で将来有望なギフトを授かった成人を兵団に引き抜くために、ガイダールさんが自ら神成式に出席している話は以前に聞いた事がある。僕の時はガイダールさんが出席出来なかったので、代わりに別の人が来ていたとも聞いていたけど、まさかここでその人物と会う事になるとは。
「業務体験で来ているという事は、今の所兵団に入る気はそれほどないのかな? 確か君のギフトは……正直兵団で活躍出来るものではなかったと記憶しているけど」
「そ、そうですよね……そうじゃなかったら、神成式の時にブライアリさんから声が掛かっていたはずですから……」
ブライアリさんから率直な感想を述べられ、僕は改めて自分のギフトがいかに活用の難しいものなのかを認識する。自分のギフトの話は神成式があった日の頃に散々したせいか、少し懐かしく感じてしまう。あの頃はギフトの話が出るだけで気持ちが沈んでいたが、確かな目標を持っている今はそれほど重く捉える事もなくなった。
「全く……前にも言ったが、コニーのギフトは兵団でも使えると言っただろうが。戦略的撤退や戦線離脱の能力があると考えれば、決して意味のないギフトとは言えないだろ?」
ガイダールさんは相変わらず僕のギフトを買ってくれている。しかもただ買っているだけでなく、ちゃんと理に適った使い方も考えている所から、ガイダールさんの見る目の確かさが窺える。
「それについては前にも散々話しましたよ……。確かに逃走スキルは運用次第で役に立ちますが、敗走した兵士がその後兵団でどう扱われるか想像出来ない訳でもないでしょう? それに戦闘より逃走が得意な兵士なんて、周りの兵士からどう思われるかも……」
対するブライアリさんの方も、ギフトの使い道を肯定した上で別の角度からの意見を通してくる。ガイダールさんの代わりと務めるだけあって、ブライアリさんなりの考えがあって僕が兵団に向いてないと判断している事が分かる。そしてその理由がまた、ガイダールさんとは違った方向で僕の事を考えてくれている。
「それは訓練で戦闘技術を習得すれば問題ないだろう? 兵団としての志は持ちつつも、いざという時にギフトが役に立つのなら、それでもいいんじゃないか?」
「それでは結局ギフト自体が大して活かせないじゃないですか……。それでは戦闘職のギフトを持った兵士の方が圧倒的に有用ですし、それこそ逃走の技術を鍛錬で補えばいいだけですから……」
「いや、それだと逃走が上手く出来ないと……」
「ですから、前提として戦闘が出来ないと……」
横で待機している僕達を置いて、二人がさらに討論を白熱させる。互いの主張する事は理解出来るし、正直ここまで僕の事について話すとは思わなかった。
「あ、あの……」
僕が少し遠慮がちに手を挙げて話に割って入ると、二人は討論を止めて僕へと視線を向ける。
「僕が兵団に向いているかどうかは分からないですけど、今は何をしに此処に来たのか知りたいんですけど……」
あまりに収集が着かなそうな討論だったので、僕はひとまず別の用事へと誘導する事にした。僕としても自分が兵団に入れるかは気になる所だったけど、それは此処で話す事ではないと思った。
「……そうだな、ひとまずやる事やらないとな」
「……ですね、始めましょうか」
二人は一度顔を見合わせると、このままではいけないと思って討論を中断して本題へと戻ってくれた。
「前にここでステータス鑑定をやっただろ? 今回はそれに近い感じで、魔力に関する鑑定をする」
「魔力の鑑定……ですか?」
ガイダールさんに言われて、僕はあの大きな鑑定魔石の事を思い出す。あの時に鑑定したステータスを基に、僕達はこれまで様々な訓練を積んできたんだ。
「それほど難しい事はしないよ。というか、ここの施設じゃ詳しい鑑定が出来ないからね。魔力総量や魔力集点の状態を確認する程度だよ」
「そうなんですか……」
魔力総量と魔力集点の鑑定となると、本当に基本的な設備しかないのだろう。どちらも鑑定能力が低くても分かるほど、魔力に関する基本情報でしかない。
「……何だ、魔力鑑定の事は分かるのか?」
「えっ……? あっ、はい……ある程度は分かります」
僕が魔力鑑定に関して特に深く突っ込まなかった事が意外だったのか、ガイダールさんが少し驚いた表情で聞いてきた。そうか、普通は魔力に関する知識はないものなのか。
「魔力総量は文字通り魔力をどれだけ保持出来るかの上限で、魔力集点は身体中にある魔力を発生させる器官ですよね? 魔力集点そのものは身体の至る所にありますけど、特に活性化した場所から魔力が出ているんです……って?」
僕が魔力の事を理解している事を分かってもらうために説明をしていると、いつの間にかガイダールさんどころか他の皆も僕の事を呆けた表情でこちらを見て来る。
「え、えっと……何か間違ってました?」
「い、いや……特に間違ってはないよ? 間違ってはないけど……よく知ってるね?」
唯一意識が正常だったブライアリさんが、不安に駆られた僕の疑問に答えてくれる。
「は、はい……妹が魔術を使える関係で、色々と知ったんですけど……」
「い、妹!? コニーに!?」
「お前、妹いたのか!?」
「魔術が使えるって、成人してないのにですか!?」
「魔術、使える子、いるの!?」
「えっ、うわっ、ちょっと!?」
僕の一言に皆が一斉に僕に飛び掛かる。あまりの食い付きぶりに僕は思わず一歩下がってしまう。
「あ、あの……えっと……」
「妹が魔術を、ねぇ……それは初耳だなぁ」
「い、いや……その……」
僕が助けを求めて背後に立つガイダールさんに振り返るが、ガイダールさんもこの話題に興味津々といった様子で僕の肩に腕を回してくる。前からも後ろからも迫られ、完全に挟まれて動けなくなってしまった。こうなってしまっては黙して通す事は出来ないと思った僕は、一旦息を整えて心を落ち着かせる。
「えっと……妹は生まれつき魔力総量が多かったみたいで、小さい頃からいつの間にか無意識に魔術を扱える様になっていたんです。妹が三歳の頃、お母さんが熱を出して寝込んでいた時に、僕と妹が小さいながら一生懸命看病した時にその事を知りました。妹が桶に入った水を取って来ようとして、重い桶が持てずに桶に入った水だけを手づかみで持ってきた時は、僕だけでなく熱で動けなかったはずのお母さんも飛び上がって驚いていました。それでお母さんが元気になった後、親が妹の事をどうするか色々話し合っていました。話し合いの結果、もし妹が望むのなら魔術を学ぶ機会を作ろうという事になったんです。その後は家族全員が安全のために魔力や魔術に関して一緒に勉強して、妹はその勉強を通じて魔術の事をもっと勉強したいと言う様になったので、大都市にある魔術学院に入学させる事になったんです」
僕が長々と話し続けていると、次第に周りの反応が薄くなっている気がした。流石に話が長すぎたかと思って皆の顔を見ると、先ほどよりも皆の表情が驚きで満ちていた。
「だ、大都市の魔術学院……って、普通にすごい事じゃん!?」
「大都市の魔術学院というと、まさかマグナリアですか!?」
「まじか!? 魔術が使えない俺でも知ってる有名な場所だろ!?」
「大都市の、魔術学院、行けるなんて、すごいよ!」
「え、えっと……その、うん……」
さっきまででもかなり迫って来ていたのに、もはや互いを押し退けようとするくらいの勢いで迫って来る。特に魔術師として一番興味を持っているだろうミナちゃんの勢いが尋常じゃなく、今までにないくらいに輝かしい表情をしながら、何処から出しているのか分からないくらい凄まじい力で僕に掴みかかっている。
「マグナリアか……ここからだと遠いが、妹一人で通ってるのか?」
「は、はい……妹は特待生で生活保護を受けられますが、流石に家族全員が大都市で生活するのは厳しかったので」
一方のガイダールさんは驚きはしたものの、何処か異様なほど冷静になっていた。何かマグナリアに対して思う所があるのだろうか。確かにマグナリアといえば、魔術学院の中でも最高峰と言われるマグナリア魔術学院が有名な大都市なので、ガイダールさんほど腕の立つ元冒険者なら一度は関わりがあったのかもしれない。
「と、特待生って……ただでさえ入学が難しい魔術学院に、特待生として入ってるだなんてすごいですよ!」
「特待生、妹って、そんなにすごいの!?」
「う、うん……僕も妹とは手紙でやり取りしてるだけで実際に行った事はないから、向こうでどうなってるか詳しくは知らないけど……」
カール君とミナちゃんが特待生という言葉に反応してより詰め寄って来る。本当は初めから特待生じゃなかったけど、ここで詳しい事情を話すのは良くないと思って適当にはぐらかした。
「君達、それにガイダールさんも……妹さんの話はそれくらいでいいでしょう? このままだと魔力鑑定が終わりませんよ?」
「あっ……そ、そうですね……」
ここで蚊帳の外だったブライアリさんから助け船が出されたので、僕はようやく解放されるとホッとする。他の皆はまだ話が聞きたいらしく少し不機嫌そうにしたけど、ブライアリさんの言う事も最もだったので渋々魔力鑑定をする事になった。
◇◇◇◇◇◇
「では、魔力鑑定を始めますよ」
ブライアリさんの指揮の下、ようやく魔力鑑定が始まった。僕達の前にはスキル鑑定の時に使われた鑑定魔石より一回り小さい魔石があり、どうやらこの魔石を使って魔力鑑定をする様だ。
「今回は初めて参加するコニー君がいるので、改めて手順を説明しますよ。まずこちらの魔石には魔力が大量に蓄えられていて、触れると微かに身体中を魔力が流れる様に設定されています」
ブライアリさんが説明しながら、横にある魔石にポンと手を置いた。するとブライアリさんの身体がほのかに光を放ち始める。
「そして魔力を身体にある程度流すと、身体の何処かに魔力が集中する場所が出来ます。この魔力が集中した場所が、活性化した魔力集点のある場所となります。そしてさらに魔力集点に集まる魔力量から、おおよその魔力総量が測定出来ます」
続けて説明するブライアリさんの身体に流れる魔力が、少しずつ一定の箇所へと集中していく。そうしてブライアリさんの頭と両手の三カ所に、強い魔力の光が収束していった。これがブライアリさんの魔力集点という事になるのか。
「僕は魔術師という訳じゃないけど、様々な訓練や経験を経てこれだけ魔力集点が覚醒していて、一応簡単な魔術なら扱えるよ。魔力集点は生まれつき活性化しているものから、覚醒して新たに活性化した魔力集点が発現する事もあるから、こうして定期的に鑑定しているんだよ」
ブライアリさんは説明を終えると、魔石から手を離して一息つく。身体に流れていた魔力も次第に外へと流れていき、瞬く間に身体から魔力の光が消えていった。
「じゃあ、最初は誰からやろうか?」
「それじゃ、まずは俺からだな!」
ブライアリさんが声を掛けると、意気揚々とダルタルマ君が前へと足を踏み出した。こういう時に真っ先にダルタルマ君が出るのは、最早僕達の中で決まった流れになっている。そしてダルタルマ君は誰が了承するまでもなく、魔石へと思い切り手を突き出した。
「……うん、ダルタルマ君は前の時と変わらずだね」
「……まぁ、魔術は何もしてなかったからな!」
ダルタルマ君が魔石に触れてしばらくすると、身体に流れる魔力が首のあたりに集中し、ぼんやりと光を放っていた。光の加減がブライアリさんの時と比べて弱く見えるのは、ダルタルマ君の魔力総量がそれだけ低いという事なのだろう。ダルタルマ君は一見相変わらずの調子に見えたけど、鑑定結果に割とがっかりした様で少しだけ声が低くなっていた。
「それじゃ、次は誰にする?」
「では、次は俺がやりましょう」
続いて鑑定に名乗りを上げたのはカール君だった。気持ち足取りが重いダルタルマ君と入れ替わり、カール君が魔石に手を触れる。
「……少し魔力総量が上がった、かな?」
「どうでしょう……この光り具合ではよく分かりませんね」
カール君が魔石に触れると、今度は身体に流れる魔力が右手へと集まっていく。二人して光る右手を凝視したけど、やがて諦めた様に合わせてため息をついた。
「それじゃ、次は……」
「私が、やる!」
ブライアリさんが次の人に声を掛けようとすると、待ちきれない様子でミナちゃんが興奮気味に前へ出る。僕が妹の話をしてからミナちゃんはずっとこんな調子だ。ミナちゃんがカール君に態度だけで代わる様に促し、大きく息を吐きながら魔石に手を合わせた。
「……これはすごい、前回はなかった頭の魔力集点が覚醒している!」
「……やった、これで私、魔術師だ!」
ミナちゃんの身体に流れる魔力は両手と両肩へと集まっていき、さらには頭へと集まっていった。つまりミナちゃんの魔力集点は五カ所と、この中でも一番多い事になる。魔力の光はブライアリさんの時よりは少し弱いけど、魔力集点の活性数は一人前の魔術師として名乗れる数だ。
「どう、コニー、私すごい!?」
ミナちゃんが自慢げな顔で僕の方へ振り向き、魔力集点をこれでもかと見せびらかす。
「そ、そうだね……」
僕はミナちゃんの熱量について行けず、反応が若干曖昧になってしまう。本当は妹が魔力鑑定をした時にもっとすごい光景を見たんだけど、この様子だと妹の魔力集点については触れない方が良さそうだ。
「後はギール君とコニー君だけど、どっちからやる?」
「……俺がやる」
ギール君には珍しく、あまり気分が良くなさそうに魔石の前へと歩いて行く。しかし魔石の前に立つギール君は、顔を伏せたまま魔石に触れようとしなかった。
「まぁ、ギールは一番緊張するよな!」
「前回鑑定した時は、この中で一番魔力がなかったですからね……」
「えっ、そうなの!?」
ダルタルマ君とカール君の発言に、僕は反射的に驚いてしまう。しかし思い返すと、ギール君は魔術の習得に苦戦していた様な気がする。ギフトで魔術系スキルを授かったはずなのに、一番魔力がないのはギール君にとって辛い事だったのだろう。そんな事を考えていたせいか、魔石の前に立つギール君の背中が少し小さく感じてしまう。
「……よしっ!」
ようやく覚悟を決めたギール君が魔石へと手を伸ばす。その様子はまるで僕が鑑定魔石を触れるのを躊躇っていた時と同じ気がして、僕は思わずギール君の事を心の中で応援する。
「……これは、まさかギール君もとはね」
「……?」
ブライアリさんがギール君の魔力集点を見て、何処か感心した様に頷いた。目を閉じて魔石に触れていたギール君が気になって目を開けると、ギール君の身体に流れる魔力は胸の中心と右手へと集まっていた。
「これ……この右手って……」
「そうだよ、右手の魔力集点は今回始めて見つかったから、ギール君は覚醒したんだよ」
「……ま、マジかよ……」
ブライアリさんに言われて、ギール君は喜びに身体を震わせていた。もしかしたらこの前攻撃魔術を習得したのをきっかけに、魔術師としての才能に目覚めたのかもしれない。
「よっしゃ、これで魔術師としても成長出来たぞ!」
ギール君は興奮のあまり飛び上がって喜びを全身で表現する。余程今回の成長がギール君にとって嬉しいものだった事が目に見えて分かる。
「それじゃ、最後にコニー君だね」
「は、はいっ!」
ブライアリさんに呼ばれて、僕は魔石の前へと踏み出す。妹の事もあってか、皆がいつも以上に期待の眼差しでこちらに注目している。一般人が魔力鑑定をするにはお金が掛かるので、家族でも妹しか魔力鑑定はしなかったので、僕自身がどれだけ魔力の才能があるかは分からない。結果が分からないだけに、皆の期待を裏切る事になるかもしれないと思うと余計に緊張してしまう。しかしここで躊躇っても仕方ないと思い、僕は意を決して魔石に手を差し出した。
「……これは、また不思議な結果だね」
「……えっ?」
身体に魔力が流れる慣れない感覚を味わいながら、どんな結果になるかと身体を強張らせていると、ブライアリさんから意味深な発言が聞こえた。僕ははっとして魔力集点が出ている場所を確認したけど、どこにも見当たらなかった。まさか魔力集点がないのかと一瞬で絶望しそうになって皆の方へと振り返ると、全員の視線が若干低く感じた。何事かと足元に目をやると、僕の両足がぼんやりと魔力で輝いていた。
「足だけに魔力集点が現れるなんて、僕も今まで見た事ないよ」
「そ、そうなんですか……?」
「そうだね……魔力集点は魔力が生み出される場所だから、手や頭といった意識が集中しやすい場所が活性化しやすいんだけど、君の場合は足へ意識を向けるのが得意なのかもね」
「そ、そう……ですか」
ブライアリさんの解説を受けて、僕は何処か納得してしまった。つまり僕は足を使うのが得意で、魔力集点もそれに伴って足に集中してしまったのだろう。一体僕はどれだけ逃げスキルに特化しているのだろうか。
「よし、これで全員の魔力鑑定が終わったね。魔術師じゃなくても魔術が使えるに越した事はないから、これから暇があれば魔術に関してもしっかり習得に励んでね」
「「「「「はいっ!」」」」」
ブライアリさんの締めの言葉を最後に、魔力鑑定は終了となった。
「……あの、所でガイダールさんの魔力はどれだけあるんですか?」
ふと鑑定を始めてからずっと端っこで黙ってこちらの様子を見守っていたガイダールさんが目に入り、僕はつい気になってブライアリさんに尋ねる。
「あっ……ガイダールさんの魔力ね……」
こちらの会話が聞こえたらしく、ガイダールさんが不機嫌そうな顔で睨んでくる。どうやらあまり触れられたくない話題らしく、ブライアリさんも威圧されて若干口ごもる。
「……実はガイダールさんには、魔力集点が一切ないんだ。一応魔術に関する勉強や訓練はしたらしいけど、全く成果が出たためしがないんだって」
「そ、そうなんですか……?」
ブライアリさんがガイダールさんに気を遣ってか、僕の方に顔を寄せて小声で耳打ちする。まさかあれだけ強さに満ち溢れたガイダールさんに、そんな弱みがあるなんて思わなかった。
「まぁ、ガイダールさんもそれなりに苦労はあるって事だよ」
「そ、そうですね……」
ブライアリさんの一言に、僕は確かにその通りだと思った。確かにガイダールさんは並外れた強さを持っているけど、完璧な人間という訳ではないんだ。そう思うとガイダールさんにも、僕達の様に苦労や悩みの絶えない時期があったのだと考えが巡って、訳も分からず楽しくなってしまう。
「そうだ、そういえばコニーの妹は魔力鑑定したんだよな?」
僕が妄想に耽っていると、ギール君が背後から突っかかって来る。ギール君の言葉が耳に入った他の皆も、気になって一斉に集まって来る。
「あ、あの……えっと……」
また皆に囲まれて、僕はつい先ほどの事を思い返す。もしこのまま正直に妹の魔力鑑定の話をしたら、また物凄い勢いで詰め寄られてしまいそうだ。
「別に隠す様な事じゃないだろ!?」
「俺も気になりますね、一体どれだけの才能なのか……」
「私も、聞きたい、私とどっちがすごい!?」
他の皆もすでに急速に迫って来ていて、もう僕が黙っている事が許されない状況になっていた。ここまで来たらもう言っても言わなくても変わらないと思った僕は、観念して妹の事を話す事にした。
「えっと……確か学院への手続きのために魔力鑑定した時は、魔力集点が七カ所くらい活性化してたと思う。その場にいた皆が驚き過ぎて、何処が活性化していたかまでは憶えてないけど……」
僕が言い終える前に、騒がしいくらいに迫って来ていた皆が一瞬にして静寂とした。どうしたのかと僕が聞くよりも先に、皆が堰を切った様に怒涛の質問攻めを始めるのだった。あまりの騒がしさにガイダールさんが皆を止めに入った頃には、日が地平線の奥で紅く染まっていた。
〇おまけ「魔術都市マグナリア」
魔術学院の中でも大陸最高峰のマグナリア魔術学院を持ち、はるか昔から魔術の研鑽を行ってきた大陸一の魔術都市。
魔術の歴史、技術共に大陸一を誇り、魔術の最先端を走り続けていると言われている。都市全体が魔術の研究成果にあふれており、魔術が日常と共にある世界有数の魔術都市。




