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馬の歩法・1日の移動時間・距離

 ◆馬の歩法◆


 今回は馬の歩法についての話です。


 ・常歩(なみあし)


 馬が普通に歩いているだけの状態です。

 しかし、同じ「ただの歩き」でも、だらだらと歩いているのと、キリキリとした動きで歩いているのとでは大きな違いがあります。


 もちろん、なるべくキリキリとした元気のよい大きな動きをした歩きをすることが推奨されます。


 運動前の準備運動のようなものを兼ねているため、体を大きく動かして全身の筋肉をほぐすように歩いていなければ、それ以降の動きが固いものとなってしまう場合があります。


 ただ歩いているだけは簡単ですが、これを美しく魅せようとすると馬の気が抜けやすい歩法なので実は一番難しいかもしれません。


 馬の足の動きは三本の(あし)が常に地面に接していて、一本ずつ順番に動いて前へ出す四節の動きとなっています。


 擬音で表すと、トコトコ、トコトコと歩いている四拍子の歩法です。


 この常歩でゆったりと歩いている状態は、だいたい分速「110メートル」程度と言われています。


 しかし、体の大きさや性格にも左右されるため、あくまでこれは「だいたいこれくらい」の単位だということをお忘れなく。


 以下に足の動きとその順番を表す図を「let's enjoy riding」の35ページから、馬の動きをより分かりやすい写真で表した図を「horse care manual」の22〜23ページから引用させていただきます。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



 ・速歩(はやあし)または静座速歩(せいざはやあし)


 馬の小走りの状態を表します。細かい反動が騎乗者の尻に伝わるため、反動の上手い「受け流し」かた、「抜き」かたを知らないと、ボンボンとお尻が跳ねてしまうことに定評があります。


 この速歩をなんの苦もないように、鞍にお尻を密着させた状態で走っているように「見せかける」ことができればもう上級者と言っても差し支えないでしょう。


 次の項の速歩歩法との区別として、これを正速歩(せいはやあし)、正反撞(はんどう)と呼びます。


 レッスンで言うときは大体、次の項のやつと区別して正反撞(はんどう)してくださーい! となるので覚えておくとお得。


 ただ、公式の方では正反撞(はんどう)表記が正しい感じになっていますが、多分耳で聞いて覚えているだけの多くの人はこれを正反動だと思っていると思いますw


 閑話休題。


 この歩法は順番に斜めの対となった2節の足が動き、擬音で表すとトットッ、トットッ、と進む「二拍子」の歩法です。

 常に斜め向かいの二本の足が動き続けるため、これを「斜体歩(しゃたいほ)」と言います。


 人間も基本的には足を動かして歩いているとき、腕を振っていると、前に出ている足と前に出ている腕は斜め向かいのものになりますよね?馬もそれは同様です。


 ですが、ごく稀に「側対歩(そくたいほ)」と言って、右手と右足が同時に前に出ている状態の馬がいたりします。


 ある程度のスピードと疲労の度合いから考えると、この歩法が馬の体力的に最も経済的な走りかたと言えるでしょう。


 分速220メートル程度の歩法で、これよりも早くすることも遅くすることも可能です。


 以下に足の動きとその順番を表す図を「let's enjoy riding」の36ページから、馬の動きをより分かりやすい写真で表した図を「horse care manual」の22〜23ページから引用させていただきます。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



 ・軽速歩(けいはやあし)


 馬の動き自体は速歩とまっっっったく変わりません。

 じゃあなにが違うの? 乗っている人間の動きが変わります。


 速歩はトットッと進む歩法であり、その分その「トットッ」と同じタイミングで馬の背にお尻が突き上げられます。


 初心者さんでも、慣れている人でも、だいたいみんな正反撞はきっっっっついです。めっちゃ疲れます。涼しい顔して乗ってる人でも、普通に反動受け流すために繊細な動きをして、気を使い、全身を使い……としているので疲労度はかなり高いのです。


 馬もそれは一緒です。上手く受け流せるベテランさんなら馬に負担をかけることなく座ったままでいられますが、初心者さんではどうしても背中をドスドス押し込む形になってしまうので、人馬双方ともにクソほど疲れます。


 あと、綺麗な姿勢でこの正反撞を続けるにはしっかりと体幹と腹筋を鍛えていることが必須です。まあこれをやっていれば嫌でも鍛えられますが……。


 さて、これをある程度解決するのが軽速歩です。

 馬の突き上げる動きに合わせて、人間が(あぶみ)をぐっと支えにして、立ったり座ったりする動きをするのです。


 馬の反動に合わせていっちにー、いっちにーと立ってー、座ってー、立ってー、座ってーを繰り返します。


 これをすることでお互いに疲労を無駄に蓄積せずに長時間走り続けることができるようになるのです。


 ただし、動いている中での動きなので、バランスがよくないといけませんし、ただ闇雲に立とうとするだけでは振動で後ろにすぐペタンとお尻をついてしまうことになります。


 正しい姿勢で立つ術を身につければ、ずっと立っていることもできます。これに近いものが競馬のモンキー乗りってやつですね。あれはまた種類が違いますが、馬に負担をかけない手法という意味では似ています。


 また、立って座る動きには実はタイミングが右回りと左回りで違うのですが、それは実際にやらないと説明しづらいので置いときます。書く際にそこまで描写する必要はありませんからね。


 ちなみにモンキー乗りに一番近いのは、障害飛越競技で障害を飛越するときの「ツーポイント」と呼ばれる姿勢ですが、それはまた今度。


 以下に人の動きを表す図を「let's enjoy riding」の33ページから引用しております。


挿絵(By みてみん)


 ・駈歩(かけあし)


 普通に走っている状態です。

 小説の擬音でよくあるパカランッパカランッパカラッ、パカラッみたいなのはだいたいこれです。


 そう、この駈歩は三拍子を刻む歩法だからこんな擬音が多いんですね。


 乗っている感覚としては、大きな揺り籠が振れているような乗り心地でしょうか。


 速歩より一度の反動が大きいですが、細かく振動が来るわけではなく、そのままパカラーン、パカラーンのタイミングで前後に揺さぶられていく程度なので、こちらのほうが受け流しやすいことは確かです。


 なお、これは競馬の歩法とは違うので注意。


 この駈歩では、馬が時計回りに走っているか、反時計回りで走っているかで足の動きが変化します。


 馬が時計回り……つまり右回りで走っているときのことを「右手前(みきてまえ)」の駈歩と呼び、反時計回り……左回りで走っているときのことを「左手前(ひだりてまえ)」の駈歩と呼びます。


 単純に右手前、左手前と略して呼ばれることが多いです。


 さらに、右回りなのに左手前の駈歩を出させる方法や、左回りなのに右手前を出させる方法など、いろいろありますが……。


 それは「馬がいかに人の指示を聞くか、自然な状態でない難しい動きでもさせることができるか」を魅せる、馬術競技特有のものです。


 ファンタジーで馬を扱う場合にはまったく必要のないテクニックですが、念のために記載。


 さて、速歩が最も経済的に走り続けられる歩法だとしたら、駈歩はそれなりにスピードが出ますが、疲労度もかなり大きい部類の歩法となります。

 分速340メートル程度で、早くすることも遅くすることも可能です。


 駈歩で走り続けられるのはだいたい多くても30〜40分程度なので、あまり無理をせずに少し駆けて途中で速歩や常歩を挟んでちょこちょこ休憩しながらでないと、馬にとってはかなり厳しいものがあります。


 以下に足の動きとその順番を表す図を「let's enjoy riding」の37ページから、馬の動きをより分かりやすい写真で表した図を「horse care manual」の22〜23ページから引用させていただきます。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 ・襲歩(しゅうほ)

 競馬で見るのがこれです。英語でギャロップ。とても聞いたことがありますね? 実はこれがギャロップなんです。


 駈歩は三拍子ですが、襲歩は一周回って常歩と同じ四拍子に戻ってきます。

 要するに、駈歩がパカラッ、パカラッなら襲歩はダダダダッ、ダダダダッです。


 駈歩よりも空中に全部の肢が浮いている時間が長く、その跳躍距離はかなりのものです。


 速度は最も早く分速1000メートルにもなりますが、最も疲労度が高いので、野生でこれを使うときは肉食動物に襲われて全力で逃げるときくらいでしょう。


 そう、乗馬と競馬の違いで語ったように、このように「危機」と似たシチュエーションを用意することで「競馬」は「競馬」たりえるのです。


 襲歩の持久力に関しては、競馬を見ていれば分かりますが数分です。ファンタジーでの移動には全く適していません。精々リアルと同じように競馬を楽しむ貴族などが存在しなければ、ほとんど登場機会のない歩法でしょう。


 以下に馬の動きをより分かりやすい写真で表した図を「horse care manual」の22〜23ページから引用させていただきます。


挿絵(By みてみん)


 足の出す順番は残念ながら襲歩に関しては載っていませんでした。



 ◆1日の移動時間・距離◆


 以上のことから分かる馬の1日に移動できる距離と、その歩法の持続できる時間を記載します。


 ・常歩


 分速

 110メートル程度。


 時速

 5〜6キロメートル程度。


 持久力

 食事や水分さえ摂っていれば何日も継続して歩き続けることは可能。


 1日の移動距離

 50〜60キロメートル程度。


 ・速歩


 分速

 220メートル程度。


 時速

 12〜15キロメートル程度。


 持久力

 速歩の継続はだいたいできて1時間程度か。休憩を入れなければ馬の体力が持たない。


 1日の移動距離

 1日に数回繰り返して速歩をするとしても、休憩必須なので30〜45キロメートル程度か。


 ・駈歩


 分速

 340メートル程度。


 時速

 20〜30キロメートル程度。


 持久力

 おおよそ30分程度。


 1日の移動距離

 多くても30キロメートル程度か。


 ・襲歩


 分速

 1000メートル程度。


 時速

 60〜70キロメートル程度。


 持久力

 多くて5分程度。


 1日の移動距離

 4〜5キロメートル程度。


 以上のように、近い距離を急いで走る必要がある場合は、より速く移動できる歩法が重要になりますが、旅をする場合などは常に歩き続けているほうが1日の移動距離はぐんと伸びます。


 また、食事休憩や水分補給、荷物の有無や道の険しさなどにも馬の歩様(ほよう)やスピードは左右されるので、ファンタジー世界においては特別すごい動物というわけではいかなくなります。


 なにやらTwitterで移動距離云々で燃え上がっていましたが、人それぞれ世界観や国の配置などは変わりますし、その世界観で整合性が取れていればなんでもいいんじゃないかなあと思っております。


 ただ、こうしてデータを出すことによって参考になる人が一人でもいらっしゃったら嬉しいなとは感じます。


 今回はここまで。


 次回は「そもそも馬は人を乗せるのに適しているの?」という身体構造の話をまた少しさせていただきます。

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