馬が嘔吐やゲップをできない理由・身体構造・腹痛の対策
◆馬は嘔吐できない?なぜ?◆
第2話の最後のほうにて語りました、「馬は嘔吐できないしゲップすらできないので、便秘になると危険」というお話です。
Twitterのほうで掘り下げる旨の質問をいただいたため、こちらでも詳しく語っていきたいと思います。
端的に言いますと、胃の構造・機能などの問題です。
じゃあどういうことか? というと。
胃には食道から繋がる入り口「噴門」と腸へと繋がる出口の「幽門」が存在します。
馬は、この入り口となる噴門によく発達した括約筋があることと、首の角度のせいで食道が斜めになっていること。この二つが作用して逆流がほとんどできないのです。
この括約筋というのは、たとえば主に肛門の周囲に存在する機能です。肛門を開け閉めする機能ですね。
寝ているときでも肛門は無意識に閉じるようになっているように、それと同じ筋肉が胃の入り口に存在する馬は、食物を胃に入れた後に噴門を閉じて、その食物を胃に強く留めようとする機能として働きます。
なので、吐かせようとする場合、かなり無理矢理することになります。馬がもっと小さくて子供サイズで、片手で持って首を真っ直ぐに伸ばして背中をドスドスすればワンチャン吐けるかな……? レベルの難しさです。
◆馬の身体構造◆
馬の特徴はいろいろありますが、ひとつおもしろい特徴があります。
偶蹄類の牛には胃が四つありますが、馬にはひとつしかありません。
牛はそのたくさんある胃をひとつひとつ使用し、吐き戻して咀嚼してまた胃に送る「反芻」をすることが特徴的です。
しかし馬はこれができません。
植物の消化はかなり難しいもので、牛はこれを胃を増やすことで消化しやすくしている生き物ですが、馬はこの問題を、胃を小さくして腸をめちゃくちゃ長くすることで解決しています。馬は腸がものすごく長いのです。
その代わり、「腸捻転」と呼ばれる……まああれです。内臓の腸が変な風に絡まったりしてめっちゃ腹痛になるような感じのすごい命取りのやつも起こりやすいです。そういうことにもなったりすることもあるため、なかなか一長一短ですよね。
閑話休題。
馬の胃は一時的に食物を置いておく場所であり、その大部分の消化吸収は腸で行われています。
牛は胃が進化して四つに増え。
馬は腸が進化して長くなった。
同じ人と歩んできた家畜でも、対極的な進化を遂げているあたりが少しおもしろいなと思う部分です。
これらの「馬の嘔吐できない理由」と、「腸が長い」というお話は前回写真で紹介した馬の医学書より学んだことのひとつです。
具体的には主に消化器系について載っている「馬の医学書108ページ」の部分です。
◆乗馬クラブの対策◆
これらの消化器系まわりのトラブル。
正直言うとですね、スタッフ的には真夜中でも容赦なく呼び出されて対処することになるのでなるべく防ぎたいことです。
私達は自分の睡眠時間のちゃんとした確保のためにも、馬の健康管理とトラブルの対策はしっかりしておかなければなりません! 主に自分のためにね!! さすがにしんどい!!
というわけで、私が知っている限りの疝痛(腹痛)の予防のために行なっている試みを語ります。
①穀物などの濃厚飼料(栄養価が高いもの)と、乾草は同時にあげずに、時間をめっちゃ細かく分ける。
→馬は胃がちっちゃいので、あまり一気に食べさせすぎると詰まる可能性が上がります。故に、たとえば前は濃厚飼料と乾草一緒にあげて3食だったのを、分けて6食や7食に分けるという方法ですね。
これをすることでしょっちゅう疝痛で真夜中に呼び出される原因になっていた子も、数年疝痛知らずの健康体に変化しました。泣いて喜んだ。
②運動はしっかりさせる。
→単純に腸の動きをしっかり活性化させて、排便を促すようにするだけでもかなり変わります。
私達は馬に乗って運動しているときに、馬がボロ(馬糞)をしたり、おならをしたりなどしているとすごく安心します。
逆に毎回運動中にボロをする子が運動が終わるまでしないまま終わって、その後元気がなさげだとものすごい心配します。
③寒暖差に気をつける。
→人が寒暖差で風邪をひいたりお腹を壊すように、馬も同様です。夏は扇風機をつけてあげますし、冬は馬着と呼ばれる服を着せて体が冷えすぎない・熱くなりすぎないように調整してあげます。
こんな感じでしょうか。
特に①はめちゃくちゃ効果があったので、やはりゆっくりと細々と食を進めるのが一番消化に負担をかけない方法なんだろうと思います。
もっといろいろと馬の身体構造についてはありますが、その辺は四肢の機能についての紹介的な感じでのちのちに分けることにしましょう。
今回はここまでです。
次回は先に馬の歩き、走りかたなどの呼称をテーマにしていきます。
ちなみに馬の医学書とホースケアマニュアルはそれぞれ一冊で一万円近くします。やばい(やばい)