1-5 俺は『喜多川』
こうなると、次はどうするのか。誰が何を口実にしてお見舞いに行くのだろう。彼女とほぼ無関係な人間としては、蚊帳の外から高みの見物をさせてもらえているみたいに、ウキウキしてしまう。
リベンジするのか、それとも新たな布陣を敷いて臨むのか。どちらにしても、この第3陣のメンバーに見事に選ばれた貧乏くじを引き当てた奴の、苦虫を噛んだような苦悶の表情を早く拝みたい気持ちでいっぱいだった。
十中八九、罵声を浴びせられると分かっていて、それでも行かなければならない大役。自ら立候補する奴なんて、このクラスには間違いなくいない。
となれば、担任の、
『夏休みに向けての各種資料を、誰が二ノ宮に届けてくれないか?』
の声には、ある者は俯き、ある者は机にひれ伏して[拒否]のアピールをするのは、至極当然な反応だと思った。そんな様子を見回していると、あろうことか、担任と目が合ってしまった。
『うっ、やばい!』
と思ってすぐさま目線をそらした時には、すでに時遅しだった。
『おい、喜多川。お前、保健委員だったな。ちょうどいい。お前、二ノ宮の所に持ってってやってくれ。』
教室の空気が、一変した。唯一の負け組人間が決定した時というのは、こんなにも残酷なものなのか、と。
『せ、先生!』
『なんだ、喜多川?授業中じゃ一度も挙げたことのない手を、そんなにも伸ばしてどうした?』
失笑ともとれる、クスクスとした笑い声があちこちから漏れている。
『ただ、資料を渡してくればいいだけなんだから、それくらいは出来るだろう?保健委員って言ったって、普段何もしてないんだから、こういう時くらい動きなさい。』
という、担任の言葉に何一つ反論できないまま、俺の手元には前の席から順々に回されてやってきた紙束がやって来てしまった。