1-10 ち、近い!
『あははははっ、喜多川くんてば。』
口に右手を当てて、笑われてしまった。続けて、
『プリント、見せてくれない?』
と言って、左手を差し出してきた。
『あ、ああ。』
となると、近づかなければならない。部屋に踏み入る前の俺だったら、おずおずとして足踏みしていたことだろうが、彼女の笑顔が全てを吹き飛ばしたように、真っ白な頭の中に唯一、彼女の元へと歩み進める指示加えられた。
『こ、これ。』
『わざわざ、ありがとう。』
そう言ってニコニコとしながら、資料を受け取ると、それらに軽く目を通し始めた。が、すぐに、
『あ、ここに座って。』
と言って、自分がいるベッドを軽く叩いた。
『えっ!?』
それもそのはずで、彼女は自分のすぐ近くを叩いた訳で、本当にそんな所に座ったら、間違いなくタオルケット1枚を挟んでいるとはいえ、彼女と密着してしまう。
『な、なに言ってるの。』
と、視線を逸らす。と、不意に右手を勢いよく引かれ、油断していた俺は、身体をもっていかれた。
『!!』
俺の身体は彼女を覆うようにベッドに倒れ、目は彼女の表情のアップで占められていた。
『(うわっ!近い!)』
彼女も自分でやっておきながら、流石にこうまでなるとは思ってなかったのだろう、顔を少し赤らめて視線をそらした。