名探偵は嘘は吐かない
『名探偵』と聞くと、漫画やアニメに出てくる、怪事件を鮮やかに解決する英雄を連想する人が多いだろう。
しかしそもそも探偵とは、依頼を受けて対象の行動や秘密を探ることであり、その対象は必ずしも事件でなくてもいいのだ。
僕の場合のそれは、同じ学校の生徒だった。
そう、僕は『名探偵』なのだ。
きっかけは、友人の恋だった。
彼の想い人の心中を探って欲しいというのが最初の依頼だ。
姉2人に囲まれて育った僕は、女子とのコミュニケーションに長けていた。
友人への聞き込みに始まり、放課後には追跡、最終的には本人に気持ちを確かめ、我が友人は敢えなく失恋した。
落胆しながらも友人は言った。
お前、才能あるよ。
どうやら僕はストーキングのセンスも持ち合わせていたらしい。
これは一儲け出来るのでは。
これが始まりだった。
そして今、僕は依頼を受けて、学年一の美少女を合法的にストーキングしている。
彼女が校内でも有名なヤンキーと付き合っているという噂が流れ、過保護な友人たちが僕に調査を頼んだのだ。
彼女は黒髪の似合う聡明な少女で、何を隠そう僕のタイプど真ん中だ。
確かに例のヤンキーと言葉を交わすことはあるが、ちょっとした連絡以上の会話はしていなかった。(僕はいつの間にか読唇術も習得していた。)
しかし昼食代3日分の仕事なのでここで終わるわけにはいかない。
放課後、彼女が一人になったところで声をかけた。
あの、これ落としませんでしたか?
女物のハンカチを差し出す。
いえ、違います。
当たり前だ。これは姉から拝借したものだから。
そうでしたか。実は僕、友人宅からの帰りでこの辺りの土地鑑が無くて。交番があれば教えて頂きたいのですが。
嘘に嘘を重ねる。こうして人は後戻り出来なくなるのだろうと思った。
彼女は交番まで案内してくれた。
道中は勿論僕が車道側を歩き、段差があれば声をかけた。紳士の基本だ。
無事ハンカチを交番に預け(姉貴ごめん。)僕が去ろうとしたところで、彼女から声をかけられた。
連絡先交換しませんか。
作戦成功。
言い忘れていたが、僕はかなりのイケメンだ。
先程の振舞いに加えてこの美貌。ここで声をかけないなんて女じゃない。
喜んで。
僕は笑顔で答えた。
かくして僕と彼女は付き合うことになった。
ここで終わりに出来れば良かったのだが、彼女の友人たちに調査結果を報告する義務がある。
集まった彼女たちに、僕は胸を張ってこう言った。
付き合ってなかったよ、あいつとは。
なろラジ大賞用の最後の投稿です。
計7作品の投稿を通して、どうやら私は、一人称が『僕』の男の子を書くのが好きらしいということが判明しました。
入選なんて夢のまた夢ですが、縁あって私の作品を読んでくださった方に楽しんで頂けていれば、これ以上嬉しいことはありません。