英雄の剣は空から落ちてくる2
「あれって、流れ星?」
空に向かって手を伸ばす少年が、隣にいる少女に問いかける。
「こんな昼間から流れ星が見れるわけ……ない……んだから」
少年が指を指す方に目を向けると、流れ星らしき何かが落ちてくるのが見えた。しかも、複数。
「え?ウソ!?ソラ。あれ、こっちに向かって落ちてきてない?」
「やっぱり、ナツミもそう思うよな」
ソラと呼ばれた少年は、流れ星が自分達の方に向かって、落ちてきてるんじゃね?と半信半疑だった、ナツミに言われて初めてあれが本当に、こっちに向かって落ちてきてると自覚した。
「ヤバくね?」
「ヤバイどころか、落ちたら大災害よ」
「こういう時、どうしたら良いと思う?ナツミ?」
「取り敢えず、村の皆に知らせないと」
慌てて村の方に走って行く、短髪で黒髪の少年と茶髪でポニーテールの少女の姿があった。
自分達の村に向かうこと五分、村の入り口には大人達が集まっていた。
「あっ、父さん」
「よ!、ソラ」
「よ!、っじゃないよ父さん、アレ、アレがこっちに!?」
「ソラ、父さん分かってるから、早く母さんの所に行くんだ。分かったね?」
父さんは、これから起こることを知っていて、もう二度と会えないかもしれないと、そんな表情でソラの目を見て言った。
「ソラ、母さんの事頼んだぞ」
「母さんの事は、俺が守るから安心してくれ」
「母さんだけじゃないだろ?ナツミちゃんも守ってやれよ」
「わ……分かってるよ」
父さんは何にも分かってないよ。ナツミはね、この年でもう魔法が使えて、しかも、一人で小型の魔物なら倒せるぐらい強いんだよ。
俺よりも強いナツミを守れって、何言ってるの?逆に俺と母さんを守って欲しいくらいだよ。
「行こう。ナツミ」
「うん」
「父さん。無事に帰って来いよ」
「心配するなソラ。絶対に帰ってくるから」
俺はナツミの手を引いて、母さんの所に向かった。
俺とナツミの姿が見えなくなると、父さんは村の皆に話しかけた。
「なぁお前ら、ぶっちゃけアレどうするよ」
「どうするってお前なぁ。ちゃんと考えとけよ」
「俺考えるの苦手だし、そう言うのは得意なヤツがやれば良いと思うし」
「開き直るなよ。お前それでも妻子持ちかよ」
空から降ってくるアレをどうするかで、村の人達と話し合ってると、村長が魔法を使って壁を作ればどうにかなるんじゃないかと言ってきた。
「それだ!」
「さすが村長。頼りになる」
「それで、何処に壁を作ればいいんだ?」
「それなら、私に任せてください」
眼鏡をかけた一人の青年は、アレが何処に落ちるのか、地面に計算式を書いて計算し始めた。
「分かりました。アレは……村外れの畑に落ちます」
「村外れの畑って、それお前んとこの」
「そんな、俺が……俺が丹精込めて育てた野菜達がーー!!」
「こんな時はアレだ……ドンマイ」
父さんが、両手を地面について涙を流している一人の男性に、親指を立てて励ましの言葉をかけた。
「ドンマイじゃねーよ。どうしてくれんだよーホントに」
「そんなに落ち込むなって、世の中にはこんな言葉があるくらいだからさ」
「こんな時に、どんな言葉があるって言うんだよ」
「なんくるないさー。だ!!」
父さんは、ドヤ顔しながらそんな事を言いはなった。
ちなみに、『なんくるないさー』は南の島の方言だったりする。
「ごめん、聞いた俺がバカだった。それで誰が魔法で壁を作るんだ?」
「「「あっ!?」」」
忘れてたと言わんばかりの声量で、村の男達が叫んだ。
「それで誰が作るんだ?」
「え?誰が作るって……そう言えば、誰が魔法で壁を作るんだ?」
「おいおい何言ってんだ?うちの村で魔法が使えるって言ったら、あのお嬢ちゃんしかいねぇーだろ」
「「「そうだったー!!」」」
この村で魔法が使える人物が、ナツミただ一人だけだったことを思い出した。
「おい、早く誰かナツミを呼んでこい」
「お前が行けよ」
「いやいや、てめぇが行けよ」
「なんで俺が……」
「何を言い争っているの?」
「何をって、誰がナツミちゃんを呼びに行くかって……え?ナツミちゃん!?」
村の男達がナツミの方に振り返った。
男達に視線を向けられたナツミは、小首を傾げて「何?」と言うような目で回りを見た。