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竜殺しは静かに暮らしたい  作者: アールグレイ
一章 愚者の遺産 編
13/13

13.スティーク

 剣呑な空気を僅かに放ちながらカリスを時折見やるリディアがいるために、食事時は竜殺しと騎士たちとで隔たりのある結果となった。

 食事も終わり、弛緩した空気も漂うが、騎士たちは特にリディアの様子が気になるようでどこか落ち着かない。その様子にライルはため息をついた。


「それじゃあそろそろ、これからの事とか色々確認しよう」


 彼がそう声をかけ、皆が焚き火の周りに集まる。既に日は沈み始めており、周囲は薄暗い。


「ライル殿、その前に先刻の異形についての話をしたい」


 視線をカリスに向けながらリディアが声を上げた。


「カリス=スティーク殿、国民位階第四位のティアネリア家として命ずる。先刻の異形からは貴女の魔力が視えた。この事について納得できる説明してもらおう。幸い、私についてきた騎士の中に真眼持ちがいる。どんな発言であろうと公的なものとして扱うことができる」


 スカーレットとカリス以外の皆が驚いてリディアとカリスを交互に見た。彼女が貴族位の力を行使したのもあるが、先程の異形にカリスが関係しているかもしれないという発言が寝耳に水だったからだ。

 騎士たちもカリスはともかく、リディアが貴族としての立場を利用するのを見たのは初めてであり、困惑を隠せない。

 真眼持ちだと言われた騎士は、何がなんだかわからないといった様子ではありつつも、国家公認である証の真眼のメダルを懐から取り出した。


 国民位階とはサネガスト王国民に割り振られた位階の事だ。

 第六位が王、第五位が王族となっており第三位までは貴族である。第二位と第一位は平民であるが、通常国民として扱われるのは第二位までであり、第一位に属するのは犯罪者や難民などで国からの扱いは非常に悪い。

 リディアはその貴族としての特権を発動した。

 犯罪などが疑われる場において、貴族位を持つ者は強制的に証言を行わせる事ができる。その発言は強力な証拠としてこの国では用いられるのだ。

 しかし、これでは貴族により嘘の証言者を用意される事もある。そのため、必ず真眼持ちの者がその真偽を判断することになっている。

 真眼はさまざまなものを見通す事ができるが、その反面どんな些細な嘘も決してつくことができない。嘘をつくと身を焼くような痛みに苛まれ、意識を保つことさえ困難となるのだ。真眼を持つかかどうかはこれを利用して判断が行われている。

 これにより貴族特権の暴走を防いでいる。


「はぁ。結論から言うとぉ、アレを作ったのは私ではないわぁ」


 カリスが大きくため息をつきながら、そう言った。リディアはちらりと視線を真眼持ちの騎士に向けるが、騎士は首を振る。

 発言に嘘はない。


「しかし、貴女と同じ魔力で満たされていたのはどういうことなのだろうか」


 リディアは視線鋭いままカリスに尋ねた。

 カリスは幾らかの逡巡を見せ、スカーレットに視線を向ける。


「心当たり、あるんでしょう?話しちゃえば?」


 スカーレットにそう促され、カリスは決意を固めた。


「そうねぇ、貴女なら知っているでしょぉ?スティーク家が没落した理由を」


「スティーク家?やはり、カリス殿はあのスティーク家の……」


「そうよぉ。私が貴族が嫌いなのもそれが関係あるけどぉ、今はそれはいいわねぇ」


「非道なる魔法実験により処罰されたというスティーク家、その子女だったとは」


「でもぉ、真実は違うわぁ。なにから話そうかしらねぇ……」


 カリスはそう言うとどう話そうかと思案するように、少しずつ語り始めた。



☆☆☆☆☆



 スティーク家は国民位階第三位の下級貴族であった。貴族ではあるがそれほど裕福というわけではない。

 というのも、前当主が優秀な魔法使いであり、その武勲を讃えられ位階の上昇を果たしたいわば成り上がりの貴族だ。

 国民位階第三位とは、第二位の国民が功績を立てたりする事で成り上がるか、あるいは第四位のものが功績の不足で落とされるかのどちらかで生まれる階級だ。最も入れ替わりの激しい位階であり、それ故に平民の誰もがそこへ上がることを夢見ている。

 本来ならば数代で終わるようなものであったが、現当主が実力を示しているため今後とも第三位国民としての地位は安泰であると思われた。

 このまま実績を残し続ければ第四位国民として取り立てられることも可能であろうと目されていた。

 しかし、そんな成り上がりの貴族は大抵は上位の貴族たちに疎まれてしまうものだ。彼らも例外ではなかった。


 スティーク家の離れにある実験室で男が一人頭を抱えていた。


「くそ!これも失敗か」


 スティーク家現当主、サイラス=ラギア=スティークは机に己の拳を叩きつけた。

 彼の背後では粘液にまとわりつかれた魔獣がピクリとも動かず横たわっている。言うまでもなくその魔獣は死んでいた。

 彼は新たな魔法兵器の開発を行っていた。

 魔力を供給する事でその力を発揮し、取り込んだ力を行使できる存在。

 遠い国で実際に作られたという噂を聞き、集められるだけ情報を集め、その断片的な情報からある程度までは形作ることができた。

 だが、安定しない。

 魔力の供給源として魔獣を選択したのは正解だった。自分や人間を選択していたらと思うと彼は顔を青ざめさせる。

 魔力の量や質が問題なのかとも考え種類を変えたりあの手この手色々試してはみたが、そのことごとくが失敗に終わっていた。

 全ては家族のため。

 このまま鉱石を重ね第四位まで至ることができたならは、生活は安定しうるだろう。先日生まれた娘のためにも、どうにか良い暮らしができるようになりたい。

 彼はその一心で国へと捧げる新たな力の研究を行っていた。

 しかし、一部の第四位貴族や、ほかの第三位の者には快く映らなかった。彼らは地位向上を目指すサイラスを蹴落とそうとある企てを実行へと移した───



「国王陛下!それは誤解です!決してそのようなことは!」


 サイラスは窮地に立たされていた。

 彼の視線の先には玉座に座る男がいる。老いは感じさせるが、それでも消えぬ威圧感と覇気のある鋭い目つきでサイラスを見つめるのはベイラル=ギレム=サネガストだ。サネガスト国その人である。

 周囲を上級下級様々な貴族と近衛騎士たちに囲まれたサイラスは、自身の嫌疑に対する弁明を行なっていた。

 曰く、「スティーク家当主たるサイラス=ラギア=スティークは、生物の命を糧に邪悪を生み出す非道なる実験を行ない国家転覆を目論んでいる」というものだ。

 ほかの者に成果を奪われまいと秘密にしてやっていたことが完全に仇となり、これが嘘であると証明してくれる存在はいない。


「ふむ?誤解というのならば貴様の家から出た大量の魔物の死骸はなんであろうか?」


 いやらしい笑みを浮かべた第四位の某が、サイラスにそう尋ねた。


「それは!先程も述べたように魔力を糧に動く魔法生物を……」


「魔力を糧に!生命の根源たる魂の力を糧になどと!そのような邪悪な、ましてや生き物などおぞましいものを生み出そうとしたというのか!」


 サイラスの言葉を遮るように貴族は大きな声を上げた。


「しかもそれは貴様の言うことなどまるで聞かなかったようではないか?」


「そ、それは……」


 彼の言葉通り、生まれた魔法生物は制御などまるでできない暴れる力の塊であった。核となった魔獣の力を魔力を吸い尽くし、そして魔力を使い切ると力を失う。


「そしてそれを世に放ち、貴様は王国を滅ぼそうとしたわけだな?貴様は国王陛下にこう述べるのだ。陛下!我が国の新たな戦力を完成させました!魔法使いたちをこれを使わせてください!とな」


 彼はしたり顔でそう言った。


「そんな!あれは未完成で!」


「そうするとどうなる事だろう?我が国の魔法使いたちは魂の力を奪われて息絶え、そして解き放たれた暴れ狂う怪物が国を壊すのだ」


 周囲を取り囲む人々は口々に何かを言い合い、非難するような視線をサイラスへと向けている。

 ひときわ声の大きい貴族とそれに同調するように声を上げる者たちに釣られ、サイラスの味方などそこにはいなかった。


「それに私は彼が持ち込んだ魔獣はなんでも無許可のものであると聞きましたぞ」


 サイラスを糾弾していた貴族の取り巻きがそんな声を上げる。

 サイラスはそれに反論できずに黙ってしまった。たしかに秘密にするために無許可で自身の邸宅へと魔獣を持ち込んでいた。それは否定できない。

 ますます彼の立場は悪くなる。

 何人かが嘲笑をサイラスに向けていた。全ては彼らの思惑通りだ。


「もうよい」


 ざわめく王城議会室が一瞬で静寂に包まれる。これまで黙ったままであった国王が口を開いたのだ。

 鋭い視線が再びサイラスを射抜く。

 サイラスはこのまま射殺されるのではないかとさえ思うほどに緊張に支配された。

 国王が再び口を開く。


「サイラス=ラギア=スティークよ。余は貴様の父に助けられた。彼奴の忠誠は素晴らしいものであり、故に貴様にも期待しておったのだ」


 彼の声は重々しく響き、誰もが固唾飲んで次の言葉を待つ。


「余は貴様に国家転覆の意思などないと信じよう。だが、功を焦りすぎたな。貴様のやることは一歩間違えればこの国へ大きな爪痕を残すこととなったであろう。ましてや無許可の魔獣持ち込みなど断じてあってはならん」


 険しい顔でサイラスを見据える。


「サイラス=ラギア=スティークに告げる。これより貴様は第一位国民となりこの国のために奉仕せよ。その家族は第二位までの降格で許すとしよう」


 ざわりと周囲がざわめいた。

 国家転覆を企んだ者に対する処置としては寛大すぎると憤慨する者達がいるが、王はそれを無視した。

 第一位国民であるなら、相応の働きをすることでやがては第二位、そしてまた第三位へと登りつめることも可能である。それでもなくともサイラスは魔法の優れた才能を持つ。

 彼を貶めようと考えていた者たちは、思案する。第一位国民など消えても気にするものはいないだろうと。



☆☆☆☆☆



「第一位に落とされた後もぉ、色んな嫌がらせがあったわぁ」


 カリスが吐き捨てるようにそういった。その瞳にはわずかに憎しみの炎が見える。


「そのせいかしらぁ、父は次第におかしくなっていったわねぇ。どれだけ努力しても報われない。功績は全て奪われて、ついに復讐のためにあの人はついに禁忌に手を出したわぁ」


「その話が今回となんの関係が?」


 リディアがわずかに焦れたように言う。カリスはそれを鼻で笑った。


「大有りよぉ?焦らないことねぇ」


 クスリと笑みを浮かべ、リディアを嘲笑う。リディアはそれには腹を立てず、視線で続きを促した。


「はぁ、まあいいわぁ。その禁忌、それが今回のことに関係あるはずよぉ」


「その禁忌ってなんだ」


 ライルが尋ねる。


「人の複製ねぇ。魔法の力を使って本人と全く同じ複製を作るのよぉ」


「なっ!?それは、まさか!?」


 その言葉にリディアば絶句する。他の者達もあり得ないといった表情を浮かべていた。

 遠い魔法大国においてもたらされたその技術は、犯罪性の高さなどから完全なる禁忌として知れ渡っている。そもそも作成自体にも危険が伴い、作成者の命さえも危うい。

 サイラス=スティークは、その禁忌を犯したという。


「あの人は死んだわぁ。でも私は確かに見たわぁ。私と同じ顔をした少女を。あの人はアレを使っているのでしょうねぇ。当時研究してたっていう魔法生物がさっきのものだと思うわぁ」


 カリスがそう言った。

 誰もが驚愕の表情を浮かべている。


「その、魔法生物とやらには、核が必要なはずだが……?それに魔力も……」


「そのあたりはよく知らないわぁ。私は研究してたわけではないしぃ」


 先刻の異形が持っていた核は、確かに核と言えるものであったが、リディアのいう核とはサイラスの用いていた魔獣のことを示す。

 だが、彼女はここで気づいた。

 魔獣ではなく、高位の魔法使いの体を核として用いているのだとしたら。あるいはそれが完成形であるのだとしたら


「な、なんというものを……」


 リディアは言葉が出ないほどの驚愕を浮かべる。それは話を聞いていた誰もが同じだ。

 事の首謀者が消えているが、それが問題ではない。アレが他にも複数産み出されているとしたら脅威だ。その根は立たなければならない。

 あるいはこの騒動の発端である飛竜らしきものさえもその兵器の成れの果ての恐れもある。これは由々しき事態だ。


「確かこの山に父の秘密研究室があったはずよぉ」


 カリスが言ったその言葉で今後の方針は固まったのだった。

そういえば前回は活動報告忘れてましたね。

というか予約投稿にすると活動報告あげるの忘れます。活動報告に予約投稿ってないんですかね。

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