23.『得体の知れない虎』 23-1
午前中の外回りを終え、好物の麻婆豆腐を食べてから事務所に戻った。デスクにつき、まだ目を通していなかった朝刊を読み始める。ラテ欄を見て、今日は好みの番組がやっていないことを知ってから、一面に移る。なんでも路地裏で複数の死体見つかったとのこと。仏さんらの素性は記されていない。あまり興味はそそられない。それでも、ヤクザ同士の抗争の結果なのかもしれないと予測するくらいはした。
ひょっとして、また『四星』の幹部が狙われたのだろうか。だとしたら手を下した者は、高確率で『虎』の誰かということになる。
わたしは『虎』の連中は物騒だと思う。何せラオファという腕利きの殺し屋を雇い、『四星』に揺さぶりをかけているわけだから。
ふと、『虎』のボスはどんなニンゲンなのだろうと思いを巡らした。立場に見合うだけの力の持ち主なのだろうか。きっとそうなのだろう。彼らが一枚岩なのかどうか、そのあたりの情報はまるで得ていないけれど、とにかくトップに君臨しているわけだ。それなりの人物であり、それなりの器を有していると考えられる。
子供に麻薬を売るなということについては、『四星』のボスと認識を共有した。いっぽうで『虎』とはまだ話をつけることができていない。だから、いつかは会う必要があると考えている。どうやって面会するか、その手段は現状、思い浮かばない。あまり無茶をすべきではないと思う。『虎』という組織の得体が知れない以上、踏み込みすぎるのは危険だ。何かの拍子に彼らの怒りを買って、追い回されるのは勘弁願いたいのである。
街の安寧をはかるにあたり、『四星』も含めたヤクザ連中は、本当に邪魔でしかない。だからこそ、わたしは彼らのことを心から嫌う。
いつか、『四星』と『虎』とが、ぶつかり合う日は来るのだろうか。街が派手なドンパチに見舞われることになるのだろうか。仮に抗争が始まったところで、わたしには一切関係がない。マオさんがいたとしたら、彼だって「ほうっておきなさい」と、あっさりバッサリ切って捨てるだろう。
ヤクザなんて、みんな死んでしまえばいいのにと改めて考える。どうして彼らみたいなめんどくさい輩がいるのだろう。暴力団という危なっかしい組織が幅をきかせているのだろう。
本当に迷惑な連中だと思う。




