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わたしは現場付近に立ち入るニンゲンがいないよう人払いをした。すると、やがて黒いスーツにブルーのネクタイを締めたルイ・キューン刑事がパトカーから現れた。
ルイ刑事は落ちているマンホールに目をやりつつ、こちらに近付いてきた。屈み込み、穴ぼこの中を覗き込む。
「地下で爆発が起きた。だからマンホールが突き上げられる格好で宙に舞った。当たり前のことではありますけれど、そういうことみたいですね」
わたしもマンホールでふさがっていた穴に顔を近付ける。
「火薬の匂いがぷんぷんしますね」
「一般的なマンホールは四、五十キロ程度あります。それを吹き飛ばすくらいですから、相当な爆発であったものと考えられます」
「以前、三名が爆弾で命を奪われましたよね?」
「それらの事件と何か因果関係があると睨んでいらっしゃる?」
「ええ。犯人は同一人物では? この街で爆弾事件はあまり聞きませんから」
「ちょっと入ってみましょうか」
「地下におりるというんですか?」
「ええ。調べてみようと思います」
「ルイ刑事は度胸がありますね」
「一応、刑事ですからね」
「お付き合いさせていただいても?」
「かまいませんよ。どれだけ言い聞かせても、それを素直に受け容れる人物ではない。貴女がそういうヒトであることは知っていますから」
ルイ刑事がはしごを使って先に下り、わたしはそのあとに続いた。下水道だ。腐った水の匂いが漂っている。
ルイ刑事は「あまり長居をしたくない場所ですね」と言い、「まったくです」とわたしは述べた。
「以前、メイヤさんは爆弾魔と遭遇し、その男は無差別殺人が目的だ、みたいなことをミン刑事に伝えたそうですね」
「刑事課でその旨をシェアしたと?」
「それはまあ、当然のことです」
「犯人の動機は、言わば同族嫌悪です。自分と同じ形をしているニンゲンがゆるせないと宣っていました」
「もしその人物が犯人とした場合、ヒトがいないこの下水道にどうして爆弾を仕掛けたのかということになるわけですが」
その時、どーんという爆発音が響き渡った。
わたしとルイ刑事は顔を見合わせてから、爆音がした方へと向かった。




