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その道では老舗と言っていい組織、『四星』の事務所は市街地にある。五階まであるコンクリート製の大きな建物だけれど、ねずみ色の壁にはそれなりに年季が入っているせいか、背の低い商店が立ち並ぶ中にあっても、それほど違和感はない。
エレベーターで最上階に上がった。通路を進んだ先の右手にあるドアの前に、男が二人、門番のように立っていた。
ユアンが「用心棒をお連れしました」と二人の男に対して告げた。まだ請け負ったわけではなく、だから用心棒でもないのだけれどと思う。
黒スーツの男らが揃ってじろりと視線を向けてきた。内、一人が「銃を持っているなら置いていけ」と言った。仕方がないので懐からオートマティックを抜き、それを手渡した。
男がピカピカに磨き上げられた大きな木製の戸をノックする。中から「入れ」という太い声。両開きのドアを男らがそれぞれ片方ずつ開けてくれた。ユアンに続いて入室する。
豪奢な部屋だ。きめの細かいシャンデリアに虎の皮の敷物。部屋の隅には値が張りそうな陶器やガラス製の壺が置かれていて、壁には大きな絵画が飾られている。
マホガニーの机の向こうで、男が黒い革張りの回転椅子に座っている。青地に白いストライプの入った背広姿。巨漢だ。顔が大きい。眉は太い。頭はすっかり禿げ上がっている。得も言われぬ迫力がある。ボスなのだろう。彼は葉巻を口にすると、煙を盛大に吐き出した。それから口元を緩めて見せた。
「おやおや。美しいお嬢さんが来たもんだ。ユアン、そちらさんがそうなのか?」
「はい。いっとうの腕利きです」
「つくづく綺麗な金髪だな。お嬢さん、名前は?」
「メイヤ・ガブリエルソン」
「頬の傷はどうしたんだ?」
「答える義務はないでしょう?」
「お、おい、メイヤ。口の聞き方に気をつけてくれよ」
「黙っていなさい、ユアン。率直に言うわ。親分さん、子供にクスリを売るのをやめてくれない?」
「ガキ相手でも、いいシノギになる」
「でも、売らないで。約束してくれないようだったら、仕事は受けないわ」
「腕利きといっても、実際、役に立つのかね」
「試してみる?」
「ほほぅ。大した自信だ。ユアン」
「は、はいっ」
「ペイジに地下で準備をさせろ」
「ペ、ペイジの兄貴を!? いくらなんでも、それは……」
「強いヤツしか要らん。わかるだろう、ユアン」
横からユアンが見上げてくる。不安げな表情。
「いいわよ。どこにでも連れていって」
ボスが「がっはっは」と大きく笑った。「お嬢さんがゆるしを乞う様を見るのも一興だ。泣きっ面では済まないかもしれんが」と言ったのだった。