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16.『ギャッハッハッ! ウハハハハッ!』 16-1

 午後、テレビを見ていた。ワイドショーである。トップニュースは「ヨウ議員の闇献金疑惑を深まる」というものだった。不正を働く政治家の給料を税金でまかなっているとなると、怒りをあらわにする市民だって出てくるだろう。だから、この件はまだまだつつかれるに違いない。けれど、納税者とはいえ、わたしにとってはどうでもいいニュースだ。そう考えて、テレビを切った。


 革張りの黒い回転椅子から立ち上がり、背をしならせ、うんと伸びをする。相変わらず、今日も客は訪れない。ひまだ。よってジムにでも行こうかと考える。


 インターフォンがヴーッと鳴ったのは、その時だった。


 覗き窓から外を確認。黒服をまとい、黒いサングラスをかけた男が二人、立っていた。どこぞの要人のボディーガードでも担っているのだろう。


 開口一番、わたしは「ヤクザに用はないわよ」と言った。「ヤクザではない。某政治家の護衛を担当している」と返答があった。


「政治家先生にも用事はないわ」

「おまえはなんでもやる探偵じゃないのか?」

「なんでもはやらないわよ。というか、初対面のニンゲンをおまえ呼ばわりするやからはお断り」

「わ、わかった。言い直そう。貴女に依頼したいことがある。どうか話を聞いてはもらえないだろうか?」

「極端にしたに出たら出たで、底の浅さが窺い知れるだけよ?」

「それでも話を聞いて欲しいんだ。頼む……」

「二人して襲って来るようなら容赦しないから。殴った挙句に蹴飛ばしてやるわ」

「襲うだなんて、そんな真似はしない」

「あら、そ」


 本当に依頼のようだと踏み、わたしはグラサン男二人を中へと招き入れた。客人用のソファにつくよう促す。


 三人は優に座れるのだけれど、彼らの体躯がことのほか立派なせいか、緑色のソファがひどく狭く見える。


 悪い連中ではなさそうだと思い、コーヒーを振る舞った。「これは、申し訳ない」と言って、男が頭を下げる。もう一人の男は黙ってカップに口を付けた。無礼なヤツだなと思う。辞儀を寄越した男がスピーカーなのだろう。


「それで、なんの用かしら」

「ヨウという政治家をご存じだろうか」

「ヨウさんなんてそう珍しい姓でもないでしょ」

「なら、今、闇献金疑惑に見舞われている議員だと言えばわかるだろうか」

「わかるわ。さっきまで、ちょうどワイドショーを見ていたから」

「ヨウ議員は闇献金、すなわち賄賂など受け取ってはいない」

「賄賂の送り手とされている人物は?」

「とあるヤクザだ。すなわち、ヨウ議員は揺さぶりをかけられている」

「それだけじゃあ、良くわからないわね」

「暴力団対策法というものをご存じだろうか。略して暴対法というんだが」

「知らない。政治の世界に興味はないから」

「とにかくそういうものがあって、その旗手を勤めているのがヨウ議員だ。そしてそれは今国会で成立する見通しだ」

「そこに何か問題が?」

「現実的に考えて、大きなヤクザをおびやかせるような内容ではない。だが、小さな組織はそれなりにあおりを食うはずだ。警察官を増員し、草の根作戦を敷こうというわけだからな」

「いい法律じゃない」

「そうなんだが、そのせいで、ヨウ議員はヤクザ連中に的にかけられているということだ。議員はこの街、『カイホー』を暴対法のモデルケースにすると公言している」

「なるほど。この界隈の小物のヤクザ連中は賄賂を渡したっていうことをねつ造して、ヨウ議員に辞職を迫るべく圧力をかけているわけね?」

「そう言っている」

「賄賂を渡した立場にあるニンゲンも罰せられるというのに、大きく出たものね」

「恐らくその組織もあってないような架空のものなんだろう。ヨウ議員をおとしめるためだけに設けられたのではないかと考えている」

「まあ、実際、そうなんでしょう。それで、いったい、なんなわけ? 賄賂をうたっているヤクザを潰せと言うの? だとすると、探偵という仕事を広義に捉え過ぎていると言わざるを得ないんだけれど」

「いや、そうではない」

「というと?」

「議員の娘がさらわれたんだ」

「さらわれた?」

「ああ」

「なんとかして今国会での暴対法とやらの成立を阻止しようというわけ?」

「そうなんだろうが、法案の審議はすでに終わっている。通過を止めることなど、もはや誰にもできやしない」

「徒労に終わるのを知りながら、実力行使に出たわけね」

「我々は議員の娘は、ここ『開花路』にいるものだと推測している」

「その法とやらが、まずこの街に適用されるとなると、自然とそうなるわね」

「ほうぼうに手を尽くしている。だが、まるで見当たらない」

「そこでわたしにお呼びがかかったというわけ?」

「ここらのニンゲンは口を揃えて言う。メイヤ・ガブリエルソンならこの街のすべてを知り尽くしている、と」

「そうでもないと思うんだけれど。にしても、貴方達は礼儀をわきまえていないようね」

「どういうことだ?」

「依頼をしたいニンゲンがいるなら、その本人がここに来なさい。代行ごときと話をつけるつもりはないわよ」

「……わかった。議員は表の車にいる。出向いていただこう」

「そうしなさい」


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