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2.『甘ったれの臆病者』 2-1

 午後、事務所のデスクにつき、朝刊を読んでいると、ヴーッとインターフォンが鳴った。


 久々にお客様かなと思って、訪ねてきた人物を覗き窓から確認。ドアの向こうに立っているのはユアンだった。軽薄そうな笑みを浮かべている。


「なんの用?」

「まあ、中に入れてくれよ」

「依頼?」

「ああ」


 ヤクザの下っ端でしかないユアンが携えてきた話なんて、どうせ大したものではないだろうと考えたけれど、とりあえず招き入れてやった。彼は客人用のソファにつくと、テーブルの上に両脚を放り出した。だから、その脚を両方とも、いっぺんに下から蹴飛ばしてやった。


「い、いてぇよ」

「テーブルに脚を乗せないで。っていうか、そんな偉そうにふんぞり返られる立場でもないでしょ? アンタは三下なんだから」

「顔だけは広いって評判なんだぜ?」

「それは良かったわね」


 わたしはユアンの向かいに座った。


「お茶くらい出せよ。こちとら客だぜ?」

「客だとしてもアンタは別。さっさと用件を話して」

「せっかちなこった」

「アンタに時間を割くなんてもったいない」

「つれねーなぁ」

「用件」

「へいへい。実はな、ウチの兄貴がムショから出てくるんだよ」

「兄貴?」

「若頭さ」

「何をしでかしてとっつかまってたの?」

「若頭は武闘派で鳴らしててな、昔、兵隊使って敵対組織と派手にやらかしたんだよ。その結果、しょっぴかれちまったんだ」

「それで?」

「ドンパチをやって、若頭は狙っていた相手方の幹部を見事討ち果たした。だから当然、向こうさんからすれば、若頭は目の敵ってことになる」

「止むを得ないことでしょうね」

「単刀直入に言う。若頭の警護を頼みてーんだ」

「警護って、若頭ともあろうニンゲンなら、わんさかボディガードがつくんじゃないの?」

「それだけじゃあ、心許ないって言ってる」

「誰が?」

「ボスがだよ。若頭はボスの息子なんだ」

「ああ。そういうこと」

「腕利きを一人連れてこいってボスから直々に言い付かったのさ。俺からすれば腕が立つヤツってのはおまえしかいねー。おまえ、前に夜の街で絡んできた酔っ払いのチンピラ連中を五人ほど、のしたことがあったろ?」

「そういえばあの時、アンタは見てたんだっけ」

「偶然な。いやあ、鮮やかなもんだったぜ。あっという間の早業だった。キックボクシングだったか?」

「正確にはムエタイね。でも、鉄砲相手じゃ限界があるわ」

「射線に入らなきゃいいじゃねーか」

「無茶言うわね。そもそも、ボディガードなんて探偵の仕事じゃないわよ」

「そう言わずによ」

「いくら出してくれるの?」

「一日あたり百万ウーロンだ」

「そんなに?」

「しかも、七日間だけでいい」

「どうして七日間なわけ?」

「若頭が出所するっていう情報くらい、先方も掴んでいるはずなんだ。だから、ろうってんなら、すぐに仕掛けてくる。だけど、一週間が経っても何も起きなけりゃ、向こうさんは現状、ことを荒立てるつもりはねーんだって判断できるだろ?」

「八日目に襲われないとも限らないじゃない」

「せめて期限でももうけなきゃ、おまえは請け負ってくれねーだろうと思ったんだよ。その旨は上にも通してある」

「ふぅん」

「引き受けてくれるか?」

「わたしがヤクザを憎んでいることは知ってる?」

「知ってるけど、それはひとまず置いといてって話だ」

「一つ、条件があるわ」

「なんだよ」

「子供にクスリを売るのはやめにして」

「それはボスとの交渉次第だな」

「まあ、そうでしょうね。いいわ。ボスのところに案内して。条件を飲んでもらえるようなら、仕事をするわ」

「ありがてぇ」

「というか」

「あん?」

「アンタんところの殺し屋に警護をさせればいいんじゃないの? 埠頭で会った、あの女よ。ヤヨイって名前だったかしら」

「ヤヨイはダメだ。ボス直属だからな。埠頭にだって、付き合ってくれたんじゃねーよ。俺はおまえと別れたあと、港に停めてあったトラックに乗っけて違法難民どもを所定の場所まで運んだわけだけど、やっこさんはそれに便乗して事務所まで戻る算段だったっつーだけだ。別件対応の帰りだったんだよ」

「別件対応って殺し?」

「だろうな」

「ヤヨイさんとやらとは、到底、友達になれそうもないわね」

「殺し屋ってのは孤独なもんさ」

「知ったふうな口をきくのね。三下のくせに」

「三下って呼び方はやめてくれっての」


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