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14-4

 偶然も偶然、街中にあって、シーアンを見付けた。先に会った際に公安の男性から渡されたバストアップの写真と見比べても、間違いなく本人であると見極めることができた。


 まだこの街に留まっているのかと多少驚きつつ、彼女の潔さのようなものには最敬礼したくなった。


 シーアンは、鋭い。


 ヒトの行き交いがたえない大通りにあって、一度会っただけのわたしの姿、また気配に気付いたようだから。


 パァンっと拳銃を撃ってきた。わたしはもう屈んでいる。弾丸はこちらの頭の上を通過し、運良く、通行人にも命中しなかったようだった


 フートンへと駆け込むシーアン。すかさずあとを追う。


 シーアンは路地へと左折した。馬鹿めと思う。だって、彼女が行った先は袋小路なのだから。わたしはこの辺りの地理を知り尽くしている。


 まだまだ明るい日差しがもたらされている中、シーアンの背に銃口を向けた。


「残念ね。ここでおしまいよ」


 シーアンは拳銃を落とすなり、天を仰いだ。


「私は狼さんには会ったがない。でもわたしは、彼のしでかしたことにあてられた」

「貴女は彼のことをどんなふうに考えているのかしら」

「神様だなんて言ったら大げさかな。だけど、彼がかつてこの街で跳梁跋扈を演じたことについては、とても綺麗であるように感じられる」

「わたしはそんな彼のことを憎んでいるの」

「それはわかってる。とはいえ、自分と同属にある者を、あっけらかんと殺すってことについては、著しく魅力を感じたりはしない?」

「あるいはそう思うヒトもいるのかもしれないわね。世の中には、本当につまらないニンゲンが多いようだから。でも」

「でも?」

「わたしにだって大切にしたいヒトくらいはいるってこと。貴女の行動が間違いだとはあえて言わない。けれど、貴女の行いは極めて気に食わないわ」

「だったら、銃なんていう無愛想な武器はおさめて、とっとと突っ掛かってきなさいよ。けれどね、小娘さん。言っておくけど、やるわよ? 私はそれなりに」


 うちなる声。


 やめておきなさいと心の中のマオさんが言う。危険を伴うからやめなさいと注意されたような気もした。さらに負け戦は良くないよとささやいてきたようにも思えた。


 それでもわたしは銃を捨てて突っ掛かる。


 背を向けたままでいるシーアンの後頭部にパンチを浴びせようとする。後ろに目でも付いているのだろうか、鮮やかかつ、ひらりとかわされた。


 右腕を取られ、一本背負いを食らった。素早く跳ね起きて、にぃっと笑いながら相手に改めて目をやる。わたしはやはり根本的にサディスティックなのだろう。


「来なさい」


 そう言って、シーアンはにわかに腰を下げた。左手を前にして右手を引いた静謐な構え。恐らく合気のたぐいだろう。攻撃一辺倒のわたしからすれば、少し分が悪い相手だ。


 それでも真っ向勝負。


 左右のパンチを両腕の壁で防がれた。ならばと思って右のローキック。まるで手応えがない、受け流された。右のミドルキックを連射。脚を脇に抱えられた。ちょっとマズい。何かしらの反撃を受けそうだったので、咄嗟に脚を引いた。


「そんなんじゃあ、狼にもマオさんにも追い付けないわよ?」

「だから、アンタがマオさんだなんて呼ばないで!」


 声を大にしながら、軽い左のローから、右のハイをぶん回した。わたしは「にひっ」と笑う。ノーモーションからのハイキックをかわしてくれるやからなんてそうはいない。


 相手に反撃するいとまも与えないまま、わたしはボディブローとローキックを連発する。


 わたしにはいっとう優れた体力がある。手数なら誰にも負けやしない。十分間くらいならインターバルなしで戦える。


 やがてシーアンが小さく万歳をした。


「もういいわ。今回は退しりぞくことにする」

「蹴り足を掴まれたら一発だと思うけれど」

「その蹴り足が取れそうもない。本当にやるわね。貴女ほど格闘が達者なニンゲンを、わたしは他に知らない」

「じゃあ、大人しくお縄についてもらえる?」

「だから、それは御免よ。私はまだ、目的を果たすことができていないから」


 シーアンは背後にある金網のフェンスのてっぺんに両手をやると、一気にぐっいっと体を持ち上げて、向こう側の地に降り立った。


 彼女はフェンスの向こうで、微笑んで見せた。


「また会えるといいわね、探偵さん」

「ええ。次に会うようなことがあったら、必ず仕留めてやるから」

「その意気よ」


 シーアンはゆっくりと歩いて、向こうに姿を消した。


 危ない女だ。だからこそ、わたしはやっぱり、にやりと笑うのだった。


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