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『フェイ・クリニック』を訪れた。
「リンシ君とやらは面白いガキだったか?」
「はい。とっても可愛らしくてカッコいい男の子でした」
「そうか。しかし、殺人を犯したニンゲンが、この先、生きていくのは大変であるはずだ」
「彼なら、茨の道であろうと、裸足で駆け抜けると思います」
「それほどまでに強い男だったか」
「ええ」
「いい勉強になったというわけだ」
「気持ちのいい男性も、世の中にはまだまだいるみたいですね」
「英雄かくありきだ」
「そうですね」
「そもそも、女の尊厳を蔑ろにする男どもに価値はないんだよ」
「それは以前、マオさんもおっしゃられていたように記憶しています」
「アイツは極度のフェミニストだからな」
「それを聞いて安心しました」
「何故だ?」
「フェミニストだったのではなく、フェミニストなんでしょう? それって現在進行形じゃありませんか」
「実際、そのつもりで言ったんだよ」
「そうあってください」
「おまえは本当に生意気な女になった。そして大人になった」
「でしたら」
「ああ。もう子供扱いするのはやめてやろう」
「嬉しいです」
「正当な評価だよ」
「ところでフェイ先生」
「なんだ?」
「わたしは立派にマオさんの仕事を引き継ぐことができているでしょうか」
「それはわからんが、おまえの悪い噂は聞いたことがない」
「これからも頑張っていく所存です」
「あんまり気張りすぎんようにな。それにしても」
「なんですか?」
「仕方のないこととはいえ、イイ女を二人も残していったマオのヤツは罪深いな」
「ホント、そうですよね」
突然、フェイ先生がわたしのブラウスの襟元を掴んで、顔をぐいっと近付けてきた。舌が絡むようなキスをされた。
「はっはっは。無垢極まりないおまえの唇を奪ってやったぞ」
「女性が相手なら、ノーカウントです」
わたしがニコッと微笑んで見せると、フェイ先生はなんとも言えない笑みを浮かべた。
「やっこさんに心から想われているおまえのことが、正直、少し羨ましい」
「そうなんですか?」
「嘘など言わんさ」
「可愛らしい感情だと思います」
「本当に生意気な女だ」
わたしが「でしょう?」と答えると、フェイ先生は朗らかに笑った。それから煙草をくわえ、その切っ先に火を灯し、煙を細く吐き出した。
「マオが姿を現したなら、私に知らせろ。この街を出たわけだ。どうあれそれなりに様変わりして戻ってくることだろうからな。ヤツがどう変化したのか、拝んでみたい」
「現状、連絡の取りようもないんですけれどね」
「それでも簡単に死ぬつもりはないはずだ。いつか帰ってくる。私はそう確信している」
「その台詞、信じることにします」
わたしは微笑しながら立ち上がり、『フェイ・クリニック』をあとにしたのだった。




