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パトロールをすると言ったとはいえ、探偵一人がまかなえる範囲には限りがある。それでも歩き回るしかない。何かの拍子に発見できると信じて探し続けるしかない。
胡同から、さらに路地へと折れた。人っ子一人いない。愛想のない背の低いアパートが左右にずらっと建ち並んでいる。
それは突如として起きた。五十メートルほど先にある右手のアパートの三階からヒトが飛び降りたのだ。最初は自殺か何かかと思った。だけど、その人物はすたっと着地するなり、こちらに背を向け、悠然と歩き始めた。
今回、この街で起きた連続強姦事件は計四件。いずれも玄関は施錠され、チェーンロックまでかかっていた。だから犯人はベランダから飛び降りるか、排水パイプを伝って下におりたものだと考えられる。ということは……。
そこまで思考したところで、わたしは懐から抜いた銃を両手で持ちながら、駆け出した。黄色いシャツ。茶色いズボン。金髪。広い背中。そんな男に向かって銃を向けつつ、「待ちなさい!」と叫んだ。
男はゆっくりと身を翻した。クルーカットをはじめ、ミン刑事から受け取った写真の特徴と一致する。なんの感情も見て取れない無表情。虚ろな目を見ると、背中に冷たいものが滑り落ちた。
わたしが「貴方がエバンスね?」と問うても、男は肯定も否定もしない。そのうち出てきたのは、「八つ裂きにしろ。男も女も子供も……」という暗い声だった。
その言葉を受けて、予感が確信に変わった。
「やっぱり貴方がエバンスなのね?」
「八つ裂きにしろ。男も女も子供も……」
「それしか言えないの?」
「女は犯せ!」
腰の後ろから取り出したゴツいナイフを片手に、エバンスが突っ込んできた。殺るべきかどうか逡巡したのち、まずは動きを止めようと考えた。太ももを撃った。命中。それでも彼は突っ込んでくる。打たれ強い。それとも何かドラッグでもキメていて痛覚を麻痺させているのだろうか。
接近戦。
迷うことなくまっすぐにナイフを突き出してくるあたりに狂気を感じた。その一撃を横にかわし、右の膝蹴り。分厚いタイヤを蹴ったような感触。思わず舌打ち。肉弾戦での駆逐は難しいかもしれない。素早く後方にぴょんぴょんと飛び退く。距離を取る。尚も襲い掛かってこようとする。今度は連続して下半身に弾丸を浴びせた。やっと止まった。力が抜けたように崩れ落ちた。膝立ちになる。それでも言う。「八つ裂きにしろ。男も女も子供も……」と。
「もう敵なんていない。いないのよ」
「俺は作戦を遂行する」
「だから、その作戦はもう終わったの」
「俺はヒトを殺すためだけに生まれたんだ」
「そんなことないわ。祝福されて生まれてきたはずよ」
わたしが表情を緩めて見せると、脱力したように、エバンスは肩を落とした。
「わかった。もういい。俺を殺せ。殺してくれ……」
「殺されたところで天国に行けると思う?」
「俺の行く先は地獄だ。それくらい、わかっている」
率直にそう言われてしまうと、なんとも言えない気持ちになる。
「犯す時にも殺す時にもためらいが生じた……」
「それがまともなニンゲンの神経よ」
「だけど、作戦だったんだ……」
「それはもうわかったわよ。ここでじっとしていなさい。警察と救急車を呼んでくるから。死んだら承知しないわよ。いいわね?」
「……ああ。わかった。こんな俺でも、罪は償いたい」
「ねぇ、エディ・エバンス」
「……なんだ?」
「貴方も一人のニンゲンよ。それを忘れないで」
そんな言葉を向けてやると、エバンスの左の目尻から、つぅと涙が伝ったのだった。




