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ことは一定の解決を見た。その旨をミン刑事に伝えるために、警察署を訪れた。もうすっかり夜だというのに、相変わらず、一階はしょうもない事案を訴えているであろう人々で賑やかだ。
わたしは列の後ろに並び、順番が来たところで、カウンターの向こうにて事件の受け付けに追われている女性警察官に「ミン刑事を呼んでいただけますか?」と伝え、「メイヤが来たと言えばわかります」と続けた。
女性警察官は「は、はい。わかりました」と少々戸惑ったように述べるなり、内線電話を繋いだようだった。すると、まもなくして、木製の螺旋階段をおりて、ミン刑事がやってきた。
「そういえば、おまえには刑事課の直通電番を教えていなかったな」
「はい。いつか尋ねようと思っていたのですけれど、なんだかんだで聞きそびれてしまっていました」
「何せ直通だ。あんまりヒトにはさらしたくない」
「わたしが相手でも、ですか?」
「おまえは別だ。あとで教えてやる」
「マオさんには知らせていたんですか?」
「知らせたような、知らさなかったような」
「はぐらかさないでください」
「そのへんはどうだっていいだろうが」
「うーん、まあ、そっか。そうですね」
しょうもない案件なら自分でとっとと片付けろと言いたいところだけれど、警察を頼ってくる輩は、やはりことのほか多いようだ。客はなかなかいなくならない。むしろ、職員相手にしつこく粘っているようにすら見受けられる。なんというか、まったく情けない話だ。
「で、犯人は? 目星はついたのか?」
「目星というか、見付けましたよ。被害者の隣人である女性が、あっけなく白状してくれました」
「犯人は出頭してくるのか? あるいは、逃げるつもりなんじゃないのか?」
「それはないと思います。あまりに潔かったですから」
「いずれ捕まることは覚悟してたってことか」
「そんなふうに言っていました」
「わかった。部下を急行させよう」
「そうすべきだと思います」
「にしても、犯人はどうして被害者を殺したんだ?」
「その点についてお話しするとなると、時間を要します」
「おしゃべりは面倒だってのか?」
「尋問すればすぐに吐きますよ。一から十まで話すはずです」
「わかった。おまえにゃ、もう何も訊いたりしねーよ」
「そうしてください」
「にしても、太っちょで不細工な女のどこに、親分は魅力を感じたんだろうな」
「その点についても、話し出すと長くなります。っていうか、ミン刑事はやっぱり、太っちょだとか不細工だとかおっしゃられるんですね」
「ああ。わりぃわりぃ。そういった表現は、おまえにとってはタブーだったな」
「次に同様のことをおっしゃられたら、わたしは本気で怒りますよ?」
「それは勘弁願いたい」
「猛省してください」
「そうさせてもらう。で、肝心の報酬についてなんだが」
「例によって、わたしは大したことはしていませんよ?」
「言ったろう? おまえへの支払いは、経費で落とせるようにしてもらったって」
「遠慮なく受け取れと?」
「ああ。もらっとけ」
ミン刑事が茶封筒を手渡してきた。わたしは中身を確認することもなく、ジャケットの内ポケットにそれをおさめた。
「ミン刑事、話は変わるんですけれど」
「なんだ?」
「マオさんがわたしに残してくれた資産って、結構な額なんです。その理由について、何か心当たりはありませんか?」
「ないこともない」
「そうなんですか?」
「ああ。だが、その話をし出すと、それこそそれなりに時間がかかる」
「でも、いつか話してくださいますか?」
「おまえが知りたいってんなら、どこかのタイミングで話してやるさ」
「約束ですよ?」
「知ったところで、おまえは何も得をしないように思うがな」
「でも、わたしはマオさんのすべてを――」
「把握しておきたいんだろう?」
「はい」
「マオは幸せ者だな。おまえみたいな女に想ってもらっているんだから」
「その通りです」
「自画自賛か?」
「ええ。そうですよ」




