7.『孤独を好む爆弾魔』 7-1
午前中、公園でビラをまいていた。タイトルは「青少年を麻薬から守ろう!」というものだ。えーんえーんと泣いている男の子をイラストにした手書きの力作である。それをコピーしたものをあたりかまわず大人に配っている。善悪の分別のつかない子供が被害に遭うことはどうしたってゆるせない。
けれど、受け取った大人達は、軽く目を通した上で揃ってビラを捨てる。「むぅ」と、わたしは口を尖らせる。この街は他人について無関心すぎる。少数でもいいから、考えに同調してくれるニンゲンがいたっていいだろうに。
まだまだ大量にあるビラを抱えたまま、自販機で缶コーヒーを買って、園内のベンチに腰掛けた。ハトの糞をよけて座らなければならない。公園の清掃もくまなくやってもらいたいものである。
この街、『開花路』の大人は本当に意識が低いと思う。街の将来については子供らの双肩にかかっているのだから、彼らが道を踏み外さないよう地域社会で面倒を見てやる必要があるのに。幸せな生活を次世代に引き継ぐのも当たり前のことであるはずだ。だからわたしは、ささやかながらも啓蒙活動をしているわけで。そのことについて人々の共感を得たいわけで。
なんて嘆いたところで始まらない。わたしができることには限界があるけれど、その範囲内で街の未来を説くより他ない。
缶コーヒーを飲み干した。最初から最後まで、あまり美味しくなかった。根城で淹れるインスタントのものの方がよっぽど味わい深い。
またビラを配ろうと思う。捨て去るニンゲンばかりであろうと、いつか誰かの目には留まるはずだとを信じて。
と、その時、「助けてくれぇっ!」という、男性の叫びが耳に届いた。わたしはビラをベンチに置き、声のしたほうへと駆け出した。相変わらず興味本位だ。良くない傾向だとわかっていても、どうしても関わろうとしてしまう。
男は公園の中ほどの通路に立っていた。彼から十メートルほど離れた位置で、わたしは足を止めた。
「どうしたの?」
「た、助けてくれ。とにかく助けてくれ」
「だから、どうしたの?」
男がねずみ色の作業着の上着のチャックを勢い良く開けた。腹に巻き付けられているのは紛れもなくプラスティック爆弾だ。
即座にわたしは大声を上げて「逃げてくださいっ!」と近くにいるニンゲンに警告を発した。「なんだなんだ?」といった感じで、市民の動きは鈍い。そこでわたしは懐から銃を取り出し、男と向き合ったまま、空に向かって一発放った。ようやくのっぴきならない状況だと悟ってもらえたらしい。人々は慌てたように逃げ始めた。
「ねぇ、どういうこと?」
「見ての通りだよぉっ!」
「爆弾、はずせないの?」
「は、はずせないんだ、どうやったって」
爆弾は鎖でぐちゃぐちゃに巻かれている。はずせないということは、背中のところに南京錠か何かを取り付けられているからだろう。
「も、もう時間がないんだ」
「時限式ってこと?」
「あ、ああ。あの野郎、騙しやがった」
「騙されたの?」
「ここに来れば、時限装置を解除してくれるって言ったんだ」
「申し訳ないけれど、そんなの嘘に決まってるじゃない」
「ど、どうしてだ? どうしてそう言えるんだ?」
「わざわざここで解除する理由がないからよ。貴方の腹に爆弾を巻き付けた人物は、はなから貴方を使って公園にいるヒトを爆発に巻き込んで殺そうとしたとしか考えられない」
「そ、そんな……」
爆弾ははずしようがない。もう時間がないとも言っている。だから質問の方向性も変えざるを得ない。
男にとっては残酷なことでしかないのだけれど、わたしは五メートルほど退いた。「誰にやられたの?」と訊くと、「し、知り合いだ」という返答があった。
「その知り合いの住所と名前は?」
「そ、それは」
次の瞬間、爆弾が炸裂した。男の肉片が飛び散ったのが見えたのと同時に、わたしは爆風で後方に吹き飛ばされた。思わず「わっ!」と声が出た。十五、六メートルは宙を舞っただろうか。背中から地面に落ちた。「いたたたた」と漏らしながら、体を起こす。白い煙が漂っていて、濃密な火薬の匂いが鼻に届いた。
パトカーでの警ら中に、偶然、爆音を聞いたのだろう。わんわんと鳴るサイレンが近付いてきた。あっという間のことではあったが、事実は伝えようと思う。




