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シャッターをそっとノックした。それでも反応がないので、乱暴に殴り続けた。そのうち、犯人とおぼしき男の声が耳に届いた。
「あんまりガンガン叩くなよ。やかましいから」
「わたしの声は聞こえるようね」
「ああ。聞こえてるよ。もう少し大きな声でしゃべってもらえると助かるけどな」
「了解。さて、話をお聞かせ願えるかしら?」
「アンタは誰なんだ?
「探偵をやっているの」
「探偵だあ? そんなヤツがなんの用だよ」
「警察からネゴシエートするよう仰せ付かったのよ」
「ネゴシエート? そんなもんで俺が投降すると思うのか?」
「一千万ウーロンは警察が用意したハッチバックにのせられているわ」
「そうしてもらわないと困るんだよ」
「といっても、逃げたところで、警察は貴方のことを執拗に追うでしょうけれど」
「覚悟してるさ。なあ、アンタ」
「何かしら?」
「鍵をしていない。アンタがシャッターを開けろ」
「時に無謀は悲劇をもたらすわよ?」
「いいから開けろ」
言われた通り、わたしはシャッターをガラッと上に開けた。すると、男がカウンターの前に座り込み、泣きじゃくる女性の首に腕を巻き付けた状態で、彼女のこめかみに銃口を突き付けている様子が見えた。咄嗟にこちらも銃を構える。
「撃ちたくても撃てねーだろ。この状況じゃあよぅ」
確かにそうだ。撃てば人質に当たってしまうかもしれない。
男はわたしに大きく後方に退くよう命じると、人質女性の首に腕を回したまま、彼女を引き摺るようにして建物から出てきた。
ハッチバックの助手席に女性を押し込む男。続いてパンパンと発砲。警察官はパトカーの分厚いドアに身を隠す。
その隙に男は運転席へと乗り込み、そして車を走らせ一目散に向こうへと消えた。
近寄ってきたルイ刑事が、「金を奪われ、人質の女性も連れていかれてしまった。最悪ですね。ああ、だからと言って、貴女を責めるつもりはありません」と発言した。彼は「手の打ちようはなかったわけですから」と続けた。
「しかし、どこかで女性は解放されるのではないでしょうか? 人質をとったままだと、動きが制限されてしまうでしょうし」
「同感です。その際には」
「射殺するのもやぶさかではないと?」
「そんな指示は出しませんがね」
「わたしは法廷で裁かれることを望みます」
「私だってそうですよ」




