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翌朝の外回り中。
街中でわけのわからない人物と遭遇した。「わあわあ」叫びながら、両手に持った拳銃をぶっ放す。「蛾が、金色の蛾が見えるんだよぉ!」などと喚いている。その発言から中毒者であろうことが知れた。
蛾が見えるのを心地良いと思うニンゲンもいれば、うっとうしく感じるニンゲンもいるということだ。経験則から言えば、圧倒的に後者のほうが多い。それでもヒトが”蛾”を欲するのは、この上ない快楽が得られるかもしれないと期待しているからだろう。ある意味、腐り切った話だ。
あくまでも警察官が処理すべき事象なのだけれど、のっぴきならない状況である。相手の放ったうちの一つの弾丸が、わたしの後方にいた男性の額に命中した。
やはり捨て置けない。撃って駆逐すべきシチュエーションだ。だけど、極力、銃は使いたくない。ポリシーのようなものだ。やがて男の鉄砲は弾切れを起こした。
その隙を見計らい、わたしは正面から突っ込んだ。ジャンプして顎先を右の膝で突き上げた。男は仰向けにどっと倒れ、気を失った。
近くの公衆電話からルイ刑事に連絡、手短に経緯を説明。彼は五分ほどで訪れた。
「まさか、このような事態に陥ってしまうとは……」
「わたしが耳にしないというだけであって、”蛾”はそれなりに蔓延しているようですね」
「現状、その通りだと言わざるを得ませんね。実は結構な量が流通しているのかもしれない」
「ルイ刑事はどう対処しようと?」
「とにかく情報を得て、地道に捜査を進めるしかないと考えています」
「気が遠くなる話ですね」
「それでも、やり遂げる必要があります」
「ご立派なことだと考えます」
ルイ刑事から指示を受けた救急隊員は、額を撃たれた男性をストレッチャーに乗せ、救急車で運び去った。わたしがのした中毒者も同様に搬送された。彼については病院で目を覚ますのを待つつもりだろう。その結果として、売買のルートが特定できれば万々歳といったところではないか。
「がさいれするのには限界がある。しかし、いつかはそうするしかなさそうですね。我々も気合いを入れて、ことにのぞむ必要がある」
「何かお手伝いできることがあれば、依頼をしていただいて結構です」
「そう言っていただけると心強いものです」
「やっぱり、わたしにできることなんて限られているとは思いますけれど」
「それでも、仲間が多いにこしたことはありません。先に申し上げた通り、結局のところ、根気強くやって、相手を締め潰すしかないでしょうから」
「この街から”蛾”の影すら消えてしまうことを望んでいます」
「私からすると、不思議なんですがね」
「何がですか?」
「服薬してしまったが最後、身を持ち崩すことは明らかです。なのに、人々はクスリを欲しがる。人生に絶望しているニンゲンが、それだけ多いということでしょうか」
「あるいは、そうなのかもしれません。だからこそ、絶望とは無縁の一般市民を守る必要があるんです」
「貴女の正義は見習うに値する」
「とにかく、ルイ刑事には、いい仕事をしていただけるよう期待しています」
「目下のところ、私は目の前の物事を片付けることしかできないんですがね。それでもできるだけのことはやろうと思います。まあ、頑張りますよ」




