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胡同からさらに奥まった路地に入ったところで、売人らしき男と出くわした。
こちらが「何を売っているか教えてもらえる?」と尋ねると、「傷持ちのねーちゃんよ、俺がさばいているのは単なる葉っぱだよ」と言われた。
「じゃあ、その葉っぱを見せてちょうだい」
「そんな義理もなけりゃ義務もねーよ」
「”蛾”って言ってわかるかしら?」
途端、男は素早く懐から拳銃を抜き払った。すかさずその手を右足で蹴り上げる。折ってやった感触があった。銃を手放した男は「ぐっ……」と濁ったうめき声を発しながら、うずくまった。
「もう一度訊くわ。”蛾”って知ってる?」
「くだらねぇ質問だ。そんなもん答えるかよ」
ひざまずいている相手の側頭部に右、左と蹴りを決めた。どっと横たわった男は、「話す。話すから、もうやめてくれ」と答えた。情けない話だ。
男は懐から白い粉が入った小さなビニールの小袋を取り出し、それを寄越してきた。
「これが”蛾”ってわけ?」
「そうだよ」
「全部出して」
「それは……」
「また蹴られたい?」
「わ、わかった。わかったよ」
渡された袋は計五つ。わたしはそれらをジャケットのサイドポケットにおさめた。
「”蛾”を売るのは割に合わないって聞いたんだけど?」
「そうでもねーさ。一度売れちまえば、結構な稼ぎになる」
「それほどまでに中毒性が高いってこと?」
「ああ。そこらのクスリなんて目じゃねーよ」
「だけど、それはもうやめにしてもらえないかしら」
「俺がやめても、誰かが売るさ」
「ふぅん」
「ねーちゃんは何者なんだ?」
「探偵よ」
「たかが探偵風情が、なんで”蛾”を追ってる?」
「成り行きよ。でも、わたしは街が平和であることを望んでる」
「そんなちんけな正義感が拠り所なら、身を引いたほうがいいぜ? ウチにだって、お抱えの殺し屋くらいいるからな」
「だったら、その殺し屋とやらを始末して見せるわ」
「本当に、どうしてそこまで強気なんだ?」
「だって実際、わたしは強いから」




