3-3
翌日の日曜日。
問題のアパートを訪れた。事件の当事者らに関する客観的な情報が欲しいと考えたからだ。被害者の少年宅は五階の角部屋。加害者の夫が住まっていたのがその隣室。
そこで、角部屋から数えて三つ目の住戸から当たることに決め、インターフォンを鳴らした。すると、覗き窓から視線が寄越された。
「どちら様ですか?」
「探偵です」
「探偵さん……?」
「お隣のご主人と、角部屋に住んでいた、ジョ・ハオユウ君のことについて、少しお話を伺いたいのですけれど」
「お一人ですか?」
「はい」
警戒心が解けたようで、ドアが開けてもらうことができた。現れたのは三十過ぎであろう女性だった。やはり目を大きくして見せる。わたしの左の頬の縫い傷を見て驚かないニンゲンなんていない。
玄関口にて、早速、思うところををぶつけることにする。
「お隣さんとジョさん一家の間に、何かトラブルのようなものはありませんでしたか?」
「聞いたことがありません。とても親しそうでした」
「それこそ、家族ぐるみの付き合いだった?」
「だと思います。そんなふうに見えました。だからこそ、ビックリしているんです。まさかカクさんのご主人が、ジョさんのお子さんを殺すなんて……」
「お隣のご夫婦の姓はカクさんというんですね?」
「そうです。あの……」
「なんですか?」
「昨日、警察のかたにお答えしたことと、同じことをお話ししました。もう提供できる情報はありません」
「そうでしょうね。ただ、事件について違った見方をするかもしれないと考えて、警察はわたしに依頼を寄越したんです」
「依頼、ですか?」
「そうです。依頼です」
「疑問があります」
「どうぞ」
「そもそも、探偵さんは事件について、何故、お調べなんですか? 違った見方も何も、カクさんが殺したとわかっている以上、もう調査する必要はないと思うんですけれど」
「動機が不明なんです」
「カクさんは黙秘されているということですか?」
「いえ。まだ取り調べすらしていないんですよ」
「どうしてですか?」
「わたしと警察との間に、ちょっとした契約のようなものがありまして」
「よくわかりません」
「まあ、色々とあるということです」
「聞き込みをして、動機を見付けられるんですか?」
「見付からないかもしれませんけれど、見付けたいとは思っています」
「もし見付からなければ?」
「その時はその時です。あっ、最後に一つだけよろしいですか?」
「なんでしょう?」
「カクさんの家に、お子さんは?」
「いらっしゃいました」
「過去形なんですか?」
「はい。二年ほど前に病気で亡くされて……」
「おいくつだったんですか?」
「四歳だったそうです」
「ちなみに、お名前は?」
「ハオユウ君です」
「えっ。今、なんておっしゃいました?」
「ですから、ハオユウ君です」
「この度、亡くなった少年と同じ名前だったと?」
「はい」
「なるほど。そういうことですか。となると、ああ、きっとそういうことなのね……」
「何かわかったんですか?」
「わかった気がします」
「そうなんですか?」
「ええ。直接、確かめてみます。話していただいて、ありがとうございました」




