第ニ話
「大陸酒を用意しろッ!!」
乱暴に扉を押し入った無精髭の男は、開口一番大陸酒を頼むと、傍にあった適当なテーブルに深く腰を落とし、両足を机上に放り出して腕を組んだ。
ガルフォニクは気配をそのままに、入ってきた無精髭の男にチラリと視線を動かし観察する。
”この店が誰の店”か知らずして行う横暴な態度に、どうせ都市入りして間もない新顔なんだろうな、と答えを出した。
ガルフォニクは手に持つグラスを器用に傾け、底に残る微量の液体を未練たらし口へ運ぶ。
「あんた……また来たのね、お酒を飲む前に悪いんだけど昨日のお代を払ってくれるかしら?ウチのお母さんが今居ないからって横暴な振る舞いは止してよ」
腰に手を当て精一杯胸を張り、大人を前に恐れることなく両手を広げ目の前に突き出すアズサ
それを見た男は目を丸くして、まるで面白いものでも見るように大きく笑うと、次第にその笑みは下衆みたものへと変貌していく。
「わかった、わかったよお嬢ちゃん」
観念したように片手を振りぶっきらぼうに相槌を返し、ポケットの中にあったゴミを彼女の手のひらに載せた。
「俺はお飯事なんて興味ないんでな、ガキんちょは言われた事だけやってればいいんだよ」
「何ですって……ッ!」
広げられた両手のひらに乗せられたゴミを力一杯握りしめ、ふるふると震えるアズサ
無精髭の男が少女の逆鱗に触れ、あっ、とガルフォニクから溢れた呟きは、少女の怒声によって掻き消された。
「誰がお飯事ですって!?冗談言わないでッ!!!」
アズサは怒りに肩を震わせ、手に載せられたゴミの山を目一杯に男へ投げ捨てる。
「私がどんな想いでこのお店を任されているか、知らないからそんな事を平然と言えるんだッ!!」
「おいっ!てめぇ何しやがるっ!」
薄っすらと涙を浮かべ訴える少女に激昂し、男はその足を机から降ろし立ち上がると少女を睨みつける。
「ああ知らねぇ、興味ねぇんだわそんな事、ガキなんだからしのごの言わず大人の言う事に従えば良いんだよ」
咄嗟に伸びた手に反応できず、束ねられた赤い髪は乱暴に引っ張られ、走る痛みに苦悶の表情を浮かべアズサは必死に抵抗を試みるが、大人の力の前にそれは叶わない。
「痛っ、離してよ!」
悲痛な叫びをよそに、男はゆっくりと腰を下げるとアズサの顔を自らの顔に向かせ、反抗的な視線に顔を歪める。
「黙ってれば少しは可愛げがあるってのに、口を開けりゃ舐めた事抜かしやがって、少しは女らしさってのを教えてやらねぇといけねぇな」
「やっ、止めてッ……!!」
徐々にその威勢は殺され、恐怖に慄いて言葉につまるアズサ
「しおらしくなりやがって、可愛い反応もできるじゃねぇか、えぇ?酒が出せねぇってんならその小さな身体でご奉仕でもしてもらおうか」
空いた手は、まだ幼く慎ましい双丘へと伸ばされ、少女は身を捩り抵抗するもその指はゆっくり、着実にその小さな身体へと沈んでいきーーーー