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いつの間にか、付き合っている事になった二人

前回のあらすじ。


 坂下さんは絵を描く事が趣味で、彼女は僕が小説をネットでアップしているのと同じように、絵をネットでアップしていたみたいだ。

 早速帰ってパソコンでその絵を見て、僕は絵の中に引き込まれるような錯覚が起きるほどの感銘を受けた。

 その中に僕の小説のワンシーンを思わせる描写があり、彼女は僕の小説をこれほどまでの影響を受けていた事に驚きを隠せなかった。

 翌日彼女に僕の小説の表紙を描いてくれないかと頼んだが、彼女は描くことに強制されると、描けなくなり、その気持ちは大いに分かり、反省させられる。

 そんな坂下さんと、自転車で坂下さんを載せて、登校し、今日もお互いの事をどのように知り合って、その距離を縮めていくのだろうと、胸がときめいた。



 自転車で二人乗りで登校して、校舎の手前あたりで、坂下さんを降ろして、校舎に二人で入った。

 自転車で二人乗りをしているところを教師に見つかったら、どやされるからな。


 改めてこうして坂下さんと歩いていると、周りの生徒は僕達がつき合っているかのような視線を送られたが、別に気にすることはない。

 それにこの学校でカップルで登校してくる生徒は結構いる。

 今日のような僕達見たいに、自転車で二人乗りしてくる生徒もいるし、中には校則違反にも関わらず、原付で二人乗りしてくる生徒もいるからな。

 

 まあ、まだ僕達は友達だが、何かそう思うと空しくなる。

 でも事実、僕達はまだ友達同士だ。

 まだ知り合って一周間ぐらいしかたっていない。


 教室に二人で入ると、クラスの女番長的な稲垣さんが僕たちのところに寄ってきて、「おはよう」と穏やかな笑顔で挨拶をしてきて、僕は戸惑ってしまい、つい坂下さんの方に目を向けてしまう。

 坂下さんはそんな稲垣さんに威圧的な視線を向け、何か緊迫な空気が漂いそうで、僕は怖かった。

 

 でも稲垣さんはにっこりと笑って、


「そんな怖い顔しなくても良いじゃない」


「おはよう」と坂下さんは社交辞令的な素っ気ない態度で挨拶を交わして、何事もなかったように自分の席に座る。


「素直じゃないな」


 とやれやれと言った感じで、稲垣さんが呟いたのを僕は聞いた。

 そして改めて僕に目を向けて「おはよう梶原君」とさわやかな挨拶をされて、僕はちょっと嬉しくなって、とりあえず「おはよう」と挨拶をしておいた。

 

 僕は授業中、稲垣さんの事を考えてしまった。

 稲垣さんはクラスの女番長的な存在で、クラスを穏やかに取り仕切る存在だ。

 背は小さいが胸がやたらデカく、軽くFは越えているんじゃないかな?まあそれは良いとして髪はショートヘアーで円らな瞳がチャーミングに見える。

 授業中、窓際の席にいる彼女の方と見ると、何か後ろから、何か嫌な物を感じた。

 何だと思って恐る恐る後ろを振り返ると、坂下さんが僕に威圧的な視線を向けていた。

 その目を見た瞬間僕は心が凍り付くような感覚に陥る。

 なぜ僕は坂下さんにそんな目で見られなくてはいけないのだ。

 授業中、その事でいっぱいになり、しばらくしてから僕は分かった。

 

 もしかして稲垣さんを見ていたのを見られたんじゃないかって・・・。


 お昼休みになると、坂下さんが僕の腕を強くつかんで、いつも僕たちが食事をする校舎裏まで連れて行かれた。

 坂下さんの僕の腕を掴む手が痛い。


「何稲垣の事をデレデレと嫌らしい目で見ているのよ」


 僕に威圧的な視線を向けて言う。

 僕の予想は当たっていたみたいだ。


「別にデレデレしていないよ。ただ・・・」


 僕は彼女の目を反らして、言葉に迷った。


「ただ?」


 そして僕は彼女の目を見て、


「ただ、あんな風に挨拶されて、嬉しかった」


 そう。僕は女の子にこうして朗らかな笑顔をくれたのは坂下さんが初めてで、その次が稲垣さんだ。

 

「そう」


 瞳を閉じて、何とか丸く収まった感じがして僕がほっとしているつかの間に、彼女はナイフのような鋭い視線を向けて来てこう言った。


「私達つき合っているよね」


「うん。友達として」


「友達?」


 目を細め、不服そうに言う。

 ここで僕が坂下さんに友達として肯定したら、何かとんでもない事をされそうで怖くなり、言葉を失った。


「とにかく、梶原君に私の夢を語ったのは梶原君が初めてなんだから」


 視線を泳がせながら、恥ずかしそうに言う。


「夢って絵を描く事?」


「そうよ。とにかく私以外の女の子に変な気を起こしたらただじゃ置かないからね」


 彼女は威圧的な視線を向けながら、僕に怒気を込めて訴える。


「分かったよ」


 瞳を閉じて、軽く息を吸って、彼女の怒りは治まった。


 そんな彼女を見て、今度こそ安心して良いと思った直後、僕はつい言ってしまった。


「坂下さんって結構嫉妬深いんだね」


 って。

 その瞬間彼女は怒りを露わにして、僕の頬を思い切り叩いた。

 どうやら僕達はいつの間にか、つき合っている事になってしまった。

 それを知った僕は本当に嬉しいが、頬がすさまじく痛い。


 お昼休みが終わって、今日は午後の授業はなく、ホームルームが終わり、僕と坂下さんはいつものように一緒に帰る事になった。

 ちなみにホームルームの時間、他の女の子の事を見ないように、気を張っていた。でも時々、クラスの女番長の稲垣さんの視線を感じて、つい見てしまいそうになったが、見ないように頑張った。


 坂下さんは先ほどの怒りとは打って変わって、すごい機嫌が良い感じだった。


「梶原君、さっきはお昼食べられなかったでしょ」


「うん」と頷いて、『坂下さんが急に怒り出して』って言ったら、また彼女は機嫌を損ねて怒り出すかもしれないので、何とか言わないように堪えた。


「今日さあ、実を言うと梶原君の為にお弁当を作って来たのよ」


「本当に」


 僕の気持ちは空をも飛んでいける程の高揚に染まった。




 とりあえず、僕達は自転車で二人乗りして、ブランコで海が見渡せる公園で坂下さんのお弁当を食べる事になった。


 公園のブランコは丁度二つあり、僕達はブランコに乗る。


「はい。梶原君」


 プラスチックの藍色のかなり大きめのお弁当箱を僕に差し出し、僕は「ありがとう」と言って受け取って、結構重さ的にボリュームがありそうだ。

 とにかく胸が躍る気持ちでお弁当箱の蓋を開けると、白いご飯におかずにはピーマンの肉詰めに、卵焼きにウインナーが添えられていた。

 とてもおいしそうだったが、正直僕はピーマンが少し苦手だった。


「梶原君、ピーマン苦手だったかな?」


 ちょっぴり残念そうな顔をしている坂下さん。


「いやいやそんな事はないよ」


「やっぱり苦手だったんだね」


 見破られてしまった。

 彼女にはどうやら嘘はつけない。

 彼女はちょっぴり残念そうに俯き、僕と彼女との間に緊迫した空気が漂っていた。

 そこで僕は考えてしまう。

 食べさせるお弁当に普通ピーマンなんて入れてくるか?

 もしかして僕に嫌がらせをしているんじゃないかと、僕は勘ぐってしまう。

 でも彼女のしょんぼりした顔を見ると、僕まで悲しくなり、正直いたたまれない感じだ。

 だから僕は箸を取り、ピーマンの肉詰めを摘んで思い切って口に入れ食べた。

 するとなぜか彼女はそんな僕を真剣な眼差しで見つめてくる。

 そして、


「おいしい」


 と思わず口にしてしまい、それは僕の嘘偽りのない言葉だった。


 坂下さんはそんな僕を見て、幸せそうな笑顔になる。


 どうやら坂下さんが見つめていたのは自分の作ったお弁当が僕の口に合うかどうかを伺っていたからだと気が付いた。


 そこから僕は箸が止まらなかった。

 そして食べながら思ったが、僕に嫌がらせにピーマンを入れた事を心から疑ってしまった罪悪感に僕は苛まれ、箸が止まった。

 そんな僕を見て、彼女は自分の分のお弁当を食べる手が止まり、じっと見つめる。


「どうしたの?」


 と心配そうに。


 だから僕は少しでも彼女の事を疑ってしまった事を正直に言う。


 すると彼女は幸せそうに笑って、


「ピーマンはとても栄養があるんだよ」


 そうだ彼女は僕の健康を慮ってピーマンを入れたのだ。

 だから決して嫌がらせではない。

 その他の卵焼きとウインナーも絶品だった。

 僕が完食すると、彼女は僕の目をのぞき込み、聞いてくる。


「おいしかった」


「うん」


 それは聞かれるほどの事ではないが、彼女はまた幸せそうに笑って、


「また明日も作って来て上げようか?」


 それは正直悪いと思ったが、ここで断ったら彼女の心が曇りそうで、「お願いできるかな?」と言うとまた彼女は再び幸せそうに笑う。

 そんな彼女を見て僕も幸せなんだよ。


 今日の彼女は怒ったり、笑ったりと、色々な彼女を見て、どれも幸せな一日を過ごしてしまったのだと、僕は改めて思う。

 本当に僕は恐ろしい程の幸せ者だと実感する。


 坂下さんが作ってくれたお弁当も食べ終えて、僕と坂下さんはブランコに乗って、遙か遠くの海の向こうの景色をしばらく二人で眺めていた。

 こうして彼女と一緒に入られるだけで僕は幸せだ。

 心地よい風が僕たちを包み、吸い込まれそうな空から太陽の光が燦々と輝き僕たちを暖かく照りつける。

 ふと彼女の方を見ると、うっとりとした表情で海の遙か向こうの見つめていた。

 今彼女は何を考えているのだろうと、何となく考えてしまうが、心の中身は安易に読む事が出来ない。

 そんな事を思っていると先ほど彼女が幸せそうに笑ってくれた姿が頭に思い浮かんで、きっと彼女は幸せな何かを感じて感慨にふけていると僕は感じた。

 彼女とただこうして一緒に海を眺めている僕達のしじまに、心地よい風が幸せを運んできてくれるように吹きすさび、まるで世界に僕と彼女しかいない錯覚に陥ってしまう。

 本当にそうなれば良いと僕は人知れず思い、僕は坂下さんが入れば、本当に何もいらないと本気で思っている。

 そう坂下さんが入れば僕はもっと強くなれる。

 どんな大きな夢も彼女が入れば叶えられる気がしてくる。

 そして僕はもう過去に苛む事はもうない。

 彼女と共に新しい明日を切り開くことが出来る。


 彼女とこうして居て、幸せな時間はあっと言う間に経過して、僕はそろそろ母親が入院している病院に行かなくては行けない時間になった。

 いつまでも彼女こうして幸せを感じていたいが、終わりというものは必然的にやってくる。

 

 僕はブランコから立ち上がり、「そろそろ行かなきゃ」と彼女の目を見て言う。


 すると彼女はにっこりと笑って、頷いた。

 彼女は僕の言いたくないプライベートに関する事に干渉したりしない。

 彼女は僕が喋りたくない気持ちを酌んでいるかもしれない。

 そんな彼女が心を読むような仕草に、彼女もきっと何か過去に辛いことがあったのかと、感じた。

 僕達はつき合っているが、まだお互いのプライベートに関して語り合う間柄ではない。

 彼女は言った。僕の事をもっと知りたいって。僕も同じように坂下さんの事を知りたい。

 でもそれは改めて考えると何か恐ろしい感じがする。

 

 心の中身を見られる事は、僕は素っ裸を見られるよりも、恥ずかしく嫌らしい物だと思っている。

 特に女性である坂下さんは、すごく繊細な人だから、もしその心にいたずらに触れたりしたら、彼女の繊細な心は粉々に砕けて、死を切望してしまうかもしれない。

 なぜ僕がそう思ってしまうかと言うと、僕は過去にそのようないじめも受けたことがある。

 

 面白がり、嫌らしい笑みを浮かべながら、人の心に平気で土足で上がり込み、傷ついた僕を見て面白がる奴。

 そいつ一人を止める事は出来たが、やっかいな事にそいつは仲間を増やした。

 その残酷な思いを結束させれば、思いは強まり、もやは一匹狼的な僕に太刀打ち出来なかった。

 誰も僕を助けてくれる者は居なかった。

 だから僕は図書館に行き、本の世界に逃げ込むように読みふけった。

 そして本を読んで、僕もこのような小説を描いて、誰かの心に届いたら良いなと思って、描き続け、ネットにアップして、その先には僕を幸せにしてくれる坂下さんがいたんだ。

 そう思うと僕は小説に救われたと言っても過言じゃないかもしれない。


 今こうして坂下さんが僕の近くにいて僕を幸せにしてくれる坂下さんを僕は幸せにしたいと僕は本気でそう思った。

 本気で誰かを幸せにしたいって思えたのは僕は初めてだった。

 そう思っている僕は、以前の悲観的な思いは、心にまったくと言って良い程、心には存在していなかった。


 きっと僕は坂下さんと出会ってふれ合って、人を愛するために絶対に不可欠な自分を愛する事が出来たからかもしれない。


 今こうして坂下さんと二人乗りしているだけで僕は幸せだ。


 そして自転車のない彼女を乗せて、彼女の家まで送ろうと思ったが、彼女は僕がいつも通っている母親が入院している病院にたどり着くと、「じゃあ梶原君、また明日」と言って、そそくさに帰ってしまった。

 その後ろ姿を僕はぼんやりと見つめて、僕の気持ちを酌んで気を使ってくれたことが分かった。


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