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真絵

前回のあらすじ


 坂下が一樹に対して、もっとよく知りたいと言うことでお友達になった。

 幸せな気持ちでもあり、逆に裏切られるんじゃないかと言う不安を抱きながらも、一樹の中で心境の変化が表れる。

 一つは蛇かつのごとく嫌っていた母親に対して優しくしたいと言う気持ちが芽生えた事と、もう一つが彼女を思うことで、小説を書く意欲が燃えるように沸き起こり、仕事にも熱が入るようになっていった。

 そんな一樹に坂下からの小説の感想が添えられていた。恐る恐るクリックすると?



 僕は息を飲み、昨日、ネットに新連載した小説の『メモリーブラッド』の感想箱を開く。

 案の定坂下さんからの感想だった。

 感想に目を通し、僕はこの上ない有頂天な気持ちにかられ、僕は部屋の中で思わず踊ってしまった。


 シャワーを浴びて朝食を食べて、制服に着替えて、胸に高まる気持ちを全快にして玄関の扉を開いて外に出て、太陽の光をもろに浴びて、さらにテンションは高まる。


 登校中、僕はこれ程、退屈な学校が楽しみになった事は今までなかった。

 学校に行けば坂下さんに会える。

 彼女である・・・いやお友達である坂下さんに会える。

 僕の小説を大絶賛してくれた坂下さんに。

 坂下さんの感想を読んで、お世辞でない事は内容を読んで分かる。

 そんな彼女に早く会いたい。

 その思いを込めて僕は自転車を漕いでいる。

 そしてその願いを神様は叶えてくれるのだ。

 だって僕が自転車を漕ぐ先に、自転車を止めて僕を待つ坂下さんの姿が合ったからだ。

 坂下さんが僕に気が付くと、朗らかな笑顔で手を振ってくれた。


 互いに挨拶を交わして、彼女は好奇心に満ちたキラキラな瞳で僕の小説の感想を改めて言ってくれた。


「梶原君の小説、本当に面白かったよ」


 とこうして面と向かって言われるとすさまじく照れてしまい、思わずにやつきながら俯いてしまう。

 続けて彼女は言う。


「主人公のメグが突然蘇り、彼氏であるエイちゃんに会ったら、また死んでしまったと思われるメグの夢を見ているんじゃないかと驚愕。

 それでメグは自分が死んだ事には気が付かなかったんだよね。

 それで本能的に何かが芽生えだして、エイちゃんの腕にかみついて、血を吸い尽くそうとして拒絶された。そしてエイちゃんがメグが吸血鬼と知ってもそれでも愛して、血を吸わせた所が本当にたまらない。

 それで不安でいっぱいのメグをエイちゃんが自宅に引き留める決心をするんだよね」


 坂下さんは僕の小説の内容の要点をかいつまんで熱く語りながら、僕と自転車で併走している。


「話はそれで終わったけれども、あれからどうなるの?」


 本当に好奇心に満ちた目で僕を見つめて問い求めて来たので思わず、僕は内容を言ってしまいそうになったが、「また明日続きを連載するから」


「もう続きは出来上がっているの?」


「まあ」


「じゃあ、また明日待っているね」


 にっこりと朗らかな笑顔で言う彼女の目は、勘ぐり深い僕でも、とても偽りとは思えなかった。

 そんな彼女を前にして僕は、究極の虚構の世界である小説の中の主人公のような気がして止まない。

 僕が疑うのは目の前の彼女ではなく、これが現実なのかどうかと言うところだ。


 坂下さんと一緒に登校して、学校にたどり着き、二人で駐輪場で自転車を置いて、校舎に入り、靴から上履きに履き替え、一緒に教室に入る。

 クラスメイトはそんな僕と坂下さんを見て、何を思ったのか、何やらひそひそとささやきあっているのが解る。

 何をささやき会っているのか気になったが、改めて僕と一緒に登校した坂下さんと目を合わせて、アイコンタクトで気にしなくて良いと言った感じで流していた。


 自分の席に座り、坂下さんが自分の席で鞄を置いて、僕の席に来て、たわいない会話をした。

 クラスで僕と坂下さんはそれぞれ一匹狼的存在で、どこのグループにも属さなかったが、こうして坂下さんと分かり合い、クラスで僕と坂下さんのカップルって言うか、ペアが誕生していた。

 僕と坂下さんと話し合っているとき、周りのクラスメイトの会話から、「あの二人つき合っているの?」とか、ささやきあっていて、正直そうやって気にされると、あまり良い気分にならないが、こうして坂下さんと語り合っていて気にすることはなかった。

 多分僕が一人でいて、それで気にされたら、きっと何を思っていたのだろうと勘ぐり眠れない夜を過ごしていたかもしれない。

 でもこうして誰かと一人でも心通わせる友達がいる事で、そのような気持ちには陥らず、僕は安心する。

 僕は坂下さんが必要だと思っている。

 僕も坂下さんと同じように、坂下さんの事を知りたい。

 だからこうして今、ホームルームが始まるまで僕と坂下さんは互いに語り合い、互いの事を知り合っている。


 授業の時も、何か僕の席の一番後ろにいる坂下さんを思う事で何か心が強くなり、授業中先生に問題を当てられても答えられる。

 でも間違える時もあるが、それ程気にする事はなかった。以前だったら、問題を当てられて間違えたら、かなりへこんでいたっけ。

 今まで小説を読み、小説を書いてきたが、小説の世界で一人佇むような物語は今まで見たこともないし書いたこともない。

 でも現実の世界では僕は一人だった。それでも小説の物語の中身は一人では決して生きていけない事を示唆してきた。

 

 お昼休みになり、僕と坂下さんは誰も立ち入らない僕のとっておきの場所でお昼を共に過ごした。


「梶原君、いつもそんな粗末な物を食べているけど、本当に大丈夫なの?」


「粗末な物とは失礼な。この食パン二枚で挟んだハムと野菜はとても栄養があって、それに勉強にも仕事にも小説にも、エネルギーとなるからね」


「そういえば、梶原君って、何の仕事をしているの?」


「新聞配達かな」


「すごいね。新聞配達の仕事って朝早いんでしょ。大丈夫なの?」


「まあ、生活のために仕方がないよ。それに僕は一人で暮らしているから」


「仕事も勉学も小説もこなして、梶原君本当にすごいね」


 朗らかな笑顔で僕を誉めるから、照れてしまう。


「あはは、顔が真っ赤だよ梶原君、梶原君って何かあるとすぐに顔に出るんだね」


 僕はちょっぴりご機嫌ななめ的な態度をとり、軽く咳払いをする。


「もう。そうやってすぐ怒るところもかわいい」


 何て笑う彼女を見て、ちょっとふてくされたが、こうして彼女の笑顔が側にあると僕の幸せを象徴しているかのように、心が穏やかな色に染まる。


 食事も食べ終わり、僕と坂下さんは今朝話した音楽の話題で、僕が尾○豊やBOO○Yを聴いていることを話したら、彼女はそのアーティストを知らなかった。

 彼女もそれらのアーティストの事を知りたいと言っていたので、今こうして、僕はスマホにイヤホン差し込んで、その音源で、二つのイヤホンを一つずつ、それぞれ僕と坂下さんの片方の耳に入れ聞いていた。

 彼女が僕が聞いているアーティストの音源を聞いて何を思っているのか?ただ黙って聴いて、鮮やかな青い空を見つめていた。

 その姿は何か可憐で僕の心を鷲掴みされているかのように奪われた感じだ。

 そしてただ黙って二人で聞いて、午後の授業が始まるチャイムが鳴り、僕と坂下さんは慌てて、教室へと共に戻っていった。


 学校が終わって、僕と坂下さんは一緒に帰る事に。

 この坂下さんとの一緒にいる時間が僕の幸せな時間である。


「ところでさっき聞いた尾○豊とBOO○Yはどうだった」


 質問をするだけでどきどきしてしまう。


「尾○豊って人はすごく情熱的に歌っていて、心に正直ぐっときたかな。

 それとBOO○Yは何かかっこいい歌い方をするなあって思った」


「でしょう」


 僕が気に入っているアーティストを共感できて僕は素直に嬉しい。


「でも、私はどちらかというと、結構ミーハーで日本のアイドルグループ方が私にはしっくりくるかも」


「そう」


 なぜかがっかりとしてしまう。


「そんな顔をしないでよ。人の好みは千差万別だよ。梶原君が好きな物が百パーセント私が気に入るとは限らないでしょ。

 私が聞いているAKB○8とか梶原君は好きになれる」


 僕は黙ってしまう。

 正直僕は最近のアーティストにはあまり興味がないからだ。


「ほら、梶原君だって私の好きな歌とか聞いたってわからないじゃん」


「でも分かるようにしたい」


「どうして?」


 どうしてって聞かれると僕は言葉に迷って返答が出来なくなる。


「無理に私が好きな物を好きにならなくて良いと思うよ」


「でも坂下さんは僕の小説を好きになってくれた」


 すると彼女は朗らかに笑って「それは私が本当に梶原君の小説が好きだからだよ。ただそれだけのこと」

 

「そうなの?」


「梶原君はどうして小説を書いているの?」


 その質問に僕は答えられなかった。いや答えたくなかった。

 だから黙っていた。

 現実はクソだから、せめて僕が書く小説はすばらしい世界に染めてやろうと言うのが僕の書く意欲の根元だ。

 いやそれだけじゃないと思うが、あまり良いものじゃないから坂下さんには本心は言えない。

 

 僕は坂下さんにその質問にしつこく求めてくる事を僕は恐れたが、彼女は僕の意をくんだのか、何もいわずに、自転車で走る僕の隣で自転車で併走しながら、前を向き黙っていた。


 今日は病院に寄るまで時間があったので、少し遠回りをして寄り道をした。

 帰宅途中にとある坂道を降りて、丁度そこから降りたところに、アガパンサスとアジサイが咲き誇っていた。


「梶原君アジサイが咲いているね。・・・と、この花何て言うんだろう」


「それはアガパンサスだよ。今頃の梅雨に咲く花だよ」


「梶原君って良く知っているだね。お花好きなの?」


 その質問に僕は恥ずかしく思ってしまう。

 僕は花が好きだ。でも男の僕が花が好きなんて言ったら、何か女々しい感じがして黙って「別に」と言っておいた。


「好きなんだね」


 朗らかな笑顔で僕の双眸を見つめて、僕の本心を見抜く坂下さん。

 僕はこの上なく恥ずかしくなってしまい、気持ちがしどろもどろとなった。


「何恥ずかしがっているの?お花が好きなのがそんなに恥ずかしい事なの?」


 笑いながら彼女は言う。続けて、


「本当に梶原君ってかわいいね」


「もう」


 と僕はちょっぴりご立腹。


 すると彼女は表情をほころばせ、僕に言う。


「梶原君の事がまた一つ知ることが出来て、私は嬉しいと思うんだけどな」


 心臓が飛び出しそうな程、激しく高鳴ってきた。


「お花の好きな人は心が綺麗何だって」


「そうなの?」

 それは初耳だ。


「そうだよ」


 そういって彼女は直立に咲いている初めてその名を知ったアガパンサスの花をじっと見つめる。

 その可憐に咲くアガパンサスの花にうっとりとして見て髪をかき揚げる仕草はとても可憐で、一つの絵になりそうだ。

 そして彼女はそのアガパンサスの花をスマホの写メで取った。


「梶原君に教わったアガパンサス。これはいい絵になりそうだね」


「絵って、坂下さん絵を描くの?」


 すると今度は彼女が視線を斜めにして恥ずかしそうにして「ちょっとね」


「今度坂下さんの絵を見せてよ」


「エー恥ずかしくて見せられないよ」


「って言うかどんな絵を描くの?」


「秘密」


 舌を出す坂下さん。


「見せてよ。坂下さんだって、僕の小説を見たんでしょ」


「梶原君は小説が書くことが上手だけど、私の絵はあまりうまくないし」


 どうやら自分の絵に坂下さんは自信がないみたいだ。

 でも僕は是非とも坂下さんの絵をみたいと思う。

 だから、


「僕も坂下さんと同じように坂下さんの事を知りたい。だから見せてよ」


「うーん。一応梶原君みたいに、ネットに掲載しているけれども、Twitterでいいねくれる人はあまりいないし」


「あまりいないって事は、それでもいいねしてくれる人は入るんでしょ」


「うん。まあ」


「どこのサイトなの?」


「笑わないって約束してくれたら、見せてあげる」


「笑うわけないじゃん」


「じゃあ、ネットで『真絵』って検索してみて」


 早速スマホで検索しようとすると、彼女は顔を真っ赤にしながら、


「見るなら、家に帰って見て」


「どうして?」


「良いから。そうして」


 ちょっぴり恥ずかしそうな感じで僕に訴えかける。


 これで一つの楽しみがまた一つ増えた。


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