危なくなったら図書館へ!
前回のあらすじ
自画自賛の気持ちでネット小説に投稿する一樹。
アクセス数は見込めないが一人でも多くのユーザーに読んで貰満足だった。
クラスメイトとは距離を置き小説の世界を描くことに没頭している一樹に、クラスメイトの坂下香美に侮蔑を含んだ視線を送られうろたえる一樹。
そんな彼女の視線に悲惨な中学時代の事を思い出す。
思い出したくない悲惨な過去。
今日坂下に向けられた中学時代のいじめを彷彿させる侮蔑を含んだあの目。
僕は坂下に何をしたのだ。
僕は何も悪い事をしていない。
触らぬ神に祟りなしって言うけれども、神様は触らない僕をたたるというのか?
そんなの理不尽だ。
中学の時、僕は神に触ったのかもしれない。
一人の女の子を好きになり、思いを寄せて、侮蔑な視線を向けられ、僕の心は粉々に砕けた。
それで終わりではなかった。
僕がその女の子を好きな事が学年に広まり、周りからちょっかいを受け、それはさらにエスカレートしていった。
いびられ苦しんでいる僕を、いじめる連中はにやにやと楽しそうにほくそ笑む。
いじめる連中は陰険で陰湿で、まず言葉でいびり、追いつめて、誰も見てない所で、僕は激しい暴力を受け、毎日死にたいという気持ちにさらされた。
おまけに家に帰れば、母親が連れてきたろくでもない男にいびられ、僕の心を休まる場所はなかった。
そして僕は担任の先生に思い切って相談した。
だが、担任は僕の胸ぐらを掴んで、教室から誰もいない廊下に突き飛ばされて、「お前がだらしがないからいけないんだよ。これ以上面倒毎を俺におしつけるんじゃねえ」とまるでやくざのような口調で僕にそう吐き捨てた。
その先生は普段はおっとりとして良い先生に見えたのだが、これが人間の本心なのかと僕に見方をする人間はいなくなった。
学校には行きたくないと毎日思っていた。
自転車で登校中にすれ違う車にぶつかって死んでしまえばどんなに楽な事とか考えた。
でも実際そんな事は出来なかった。
学校を休めば、母親に伝わり、連れてきた男と友に罵声を浴びさせられ、次の日には行かざるを得なくなる。
担任は見て見ぬ振り、一貫していじめなどないと言い切っていた。
そんな担任のクラスでは僕を好きなだけいじめなよって感じだ。
いじめって始まったら止まらない。
そして自殺を決意させる陰湿ないじめを僕は受けた。
僕を裏に連れて行き、素っ裸にして、僕が思いを寄せた女の子のロッカーに放り込み・・・・。
やだよ。もう思い出したくないよ。
もうあんな思いはしたくないよ。
こんな風に嫌な事を芋蔓式に思い出した原因は坂下のあの侮蔑を含めた目だ。
僕は死にたいけど、死ぬことが出来ない。
どうすれば・・・。
『図書館にいらっしゃい』
そうだ。
絶望に陥った僕はぼんやりとテレビを見ていたら、ある図書館の職員が、あるニュース番組を経由して、僕のような行き場を亡くした子供に発した言葉だった。
『学校が辛いなら。図書館にいらっしゃい。ここにはライトノベルだってあるし、マンガだってあるよ』
そして僕は図書館に行った。
僕は本を読んで一人の世界に浸ることが好きだった事を思い出した。
そして僕は何もかもを忘れて本を読みあさった。
ここはもう天国何じゃないかと思った。
でも図書館は必然的に閉館を迎え、帰った時、母親はおらず、その三日後に事故で重度の認知症を患い、僕を虐待やいじめで束縛する者はこの世からいなくなった。
それに母親が連れた男に僕に多額の保険金がかけられていた事にびっくりして、僕は即座に警察に連絡して男を逮捕につなげる事が出来たんだっけ。
僕が中学一年の時であり、丁度夏休み前だった。
それでもちろん僕は誰にも縛られる事のなくなった夏休み毎日図書館に開館から閉館まで通い詰めては本を読みあさっていた。
そしていつの間にか小説を読んで本気で小説を書きたいと思った時だった。
それから学校には行ったり行かなかったりで、やばいときは図書館に逃げ込むように僕は通った。
そして小説を読んでは書いていた。
そうだよ。もしやばくなったら、図書館に逃げ込めばいい。
そう思いながらファンタジックな音楽を聴いていると、坂下のあの侮蔑を含んだ視線が気にならなくなった。
そして激しく動揺して忘れていたが、今日は僕が掲載しているネット小説のラストを載せる日だった。
すでに出来上がっている小説を推敲してネットに載せる。
これでオーケー。
後はユーザーがどのような反応をするかは、明日になってみないと分からない。
作業が終わって、やはり坂下のあの侮蔑を含んだ瞳が、僕を呪いをかけられたかのように頭にこびりついている。
本当に僕が何をしたんだよ。
食欲も感じられなくなったが、とりあえず口に食パンを突っ込んで無理して食べた。
ちゃんと三度三度食事をとらないと明日の新聞配達にも支障が出るからな。
新しい小説の構想も出来上がっていて、それを元に今日は書く予定だったが、坂下の事が気になって、いつもの調子で書く事は出来なかった。
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朝目覚めて、僕は夢だった事にほっと安堵の吐息を漏らした。
高校でも中学の時のように同じいじめをされた夢を見てしまった。
本当に恐ろしい夢だ。
あまりにも恐ろしくて僕はおっくうになり、新聞配達のバイトを休もうとも考えたが、僕がいなかったら、社長にも僕を良くしてくれる年輩の同僚の人達に迷惑がかかるので僕は体に鞭を打つと言うよりも、心に鞭を打って、おっくうな体を動かした。
朝ご飯を食べて、仕事場まで向かった。
仕事場に到着して社長や年輩の同僚の人に挨拶をして、今朝みた嫌な夢の事を紛らわせる事が出来て、僕は心に鞭を打って来て良かったと思えた。
配達しているときは仕事に没頭していて、これが終わったら学校に行かなくてはいけないと思うと、嫌な気持ちに染まる。
もしかしたら夢で見たことが正夢となり、周りの人間が僕をいびるんじゃないかとひどく恐れた。
だったら、本当に嫌だったら、昨日も思ったが、図書館に逃げ込めばいい。
でも今日はとりあえず勇気を振り絞って、学校に行った方が良いと思って、行く事を配達をしながら決意した。
もしかしたら坂下のあの侮蔑を含んだ視線は僕の勘違いかもしれないし、ただ目があって、僕がそのように感じてしまっただけのなのかもしれないから。
とにかく今日行って、本当に周りからいびられるようなら、次の日から図書館に行き、中学時代のようにほとぼりが冷めるまで、図書館に通えばいいよ。
配達も終わり、朝学校に行くのが恐ろしく怖かったが、ここで行かなくてはダメな気がするし、ちゃんと単位も取って高校は卒業しておきたい。
それからの進路はまだ未定だが、出来れば僕はこのまま小説をいつまでも書ける環境でいたいと思っている。
思えば僕は本に救われて生きているようなものだから。
もしこの世に本がなかったら、僕の存在はなかったかもしれない。
だから僕は本を読んで救われたように、僕も本を描いて読んでくれた人を救いたいなんて大言壮語だけど、そうなったら良いなと思う日々なんだよね。
制服に着替えて、朝ご飯を食べる気さえもしないが、とにかく昨日の晩と同じく、食パンを口に突っ込んで、牛乳で流し込んで外に出て、自転車にまたがり、学校に向かった。
配達の時は雲一つない空だったのに、なぜか今は空は灰色の雲に覆われていて、何か不気味な感じがする。
天気予報では今日は雨は降らないと言っていたが、この現状の空を見上げ怪しく思ってしまう。
学校に到着して、校門の前で僕は一瞬後込みしてしまったが、通ってしまい、いつものように校舎裏に設置されている駐輪場に自転車を置いて、校舎に入り下駄箱で靴から上履きに履き替え、教室に行くと、何でもなかった。
どうやら僕は昨日の事は僕の杞憂にすぎなかったみたいだった事に安心したと思ったつかの間、席に座ると背後から、何か視線を感じる。
恐る恐るゆっくりと背後に振り向いてみると、一番後ろの席の坂下に目があって、昨日と同じような侮蔑を含んだ笑みで、僕を見つめている。
心臓が止まりそうな程、僕はひどくおののいた。
そんな目で見られているといたたまれなくなってすぐに正面を向いて、その視線を逸らした。
正面を向いても背後から視線を感じてしまう。
いや丁度僕の席の一番後ろだからたまたまそう感じているだけかもしれない。
でも今までそんな風に感じる事はなかった。
もう一度振り向いて、もしまた目があったら、勇気を持って、『何?』と声をかけようと思ったが、情けない事に今の僕にそんな勇気はないし、再び振り向く勇気さえない。
本当に何なんだよ。
僕は彼女に何かした覚えはないぞ。
本当にいらついて発狂したい気持ちでもあったが、我慢しなければならない。
徳川家康は言った、『怒りは敵と思え』と。
本当にその通りだと思って、僕にわき起こる発狂しそうな気持ちを深呼吸をしながら堪えて、必然的に時は立ちホームルームが始まる。
授業が始まり、相変わらずに背後から妙な視線を感じている。
その感じに気を取られてはダメだと言い聞かせ、その場で精神統一をする。
そうだ。そうしていれば背後からの視線に気を取られなくて済む。
しかし、精神統一をしている時に、先生に問題を当てられた。
僕は精神統一に気を取られて授業をまともに聞いておらずに、問題に答えられずに、先生は教科書を丸めて、僕の頭を軽く叩いた。
「授業中に何をぼんやりしている。こんな簡単な問題を答えられない何て恥ずかしいぞ」
と注意されて、クラスメイト達はどっと笑い出す。
もはや精神統一どころではなかった。頭の中が真っ白で、思考が停止して、情けなくも、その場で泣きたい気持ちでもあった。
中学時代の僕がいじめられた真っ直中の戦中に放り込まれたような感じで、気持ち悪く、発狂してパニック状態に陥りそうになった。
一時間目が終わり、僕は先生に廊下に呼び出されて心配された。
「どうしたんだ梶原、昨日に続いて、気分でも悪いのか?」
「いえ、何でもありません」
「そうか、まあ無理するなよ」
僕の肩をポンと叩いて、先生が僕の事を心配してくれた事にちょっぴり嬉しかったりもする。
昨日は特別扱いはしないと言っていたが、こうして心配してくれてちょっぴり心強かったりする。
僕はいつも一匹狼的な立場だが、こうして僕の事を見てくれる人はいるのだと少し安心した。
教室に戻り、さりげなく、僕の後ろの席で妙な視線を送っている坂下に目を向けると、目が合い、また侮蔑の含んだ笑みを浮かべて僕を見た。
その時、僕の心に燃えるような怒りがわき起こりそうになり、そんな坂下に対して殺意さえ覚えてしまう。
僕が本当に何をしたって言うんだ。
どうして僕がそんな目で見られなくてはいけないのだ。
とりあえず冷静になり、何事もなかったかのように、席に着き、それでも背後からの妙な視線を感じて、本当に気分が悪かった。
冷静になれ、冷静になれ、と自分に言い聞かせて、僕は机に伏せて、目を閉じて怒りを抑えていた。
これから二時間目、三時間目、四時間目と授業は続く事を思うと僕はそれまで耐えられるか不安になり、どうして僕がこんな理不尽な目に遭わなくてはいけないのか、坂下が許せなくなり、僕は自棄になり、背後の席にいる坂下を見た。
だが目が合ったのは一番後ろの坂下ではなく、坂下の席を挟んで、僕の真後ろの女子生徒の大河原と目が合ってしまった。
僕と目があった大河原さんは僕を恐ろしいものを見ているような感じでおののき、「何」と泣きそうな声で僕に言う。
自棄になった僕は坂下にその威圧的な視線を向けてやろうと思ったが、その僕の後ろの席の気の弱い大河原さんに偶然目が合ってしまったみたいだ。
「ごめん。そんなつもりじゃないだ」
大河原さんは泣いてしまった。
その姿を見たクラスの番長の稲垣さんが、大河原さんの所に駆け寄り、
「どうした真弓」
「梶原君に怖い目で見られた」
すると稲垣さんから威圧的な視線を向けられ、それに続くようにクラスの大半の生徒達が僕を威圧的な視線を向けてきた。
「べ、別に、ぼ、僕はそういうつもりじゃないんだ」
と狼狽え、稲垣さんは、
「じゃあ、どういうつもりなのよ」
どういうつもりと聞かれて僕は言葉に迷う。
自棄になって坂下さんにガン飛ばそう何て、いったら、色々な誤解を生むし、坂下さんが僕の事を変な目で見ているから、ムカついた何て言っても、おかしいし、頭がパニックに陥り、とにかく僕は、
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」
と連呼していつの間にか僕は涙を流していた。
その後、大河原さんは優しい人で、「もういいよ」と許してくれて、女番長の稲垣さんも「真弓が良いなら、それで良いよ」と許してくれた。
クラスメイトは優しい人ばかりかもしれないが、どうして僕が悪者扱いされなくてはいけないのか?腑に落ちず、やるせない気持ちでおかしくなりそうだった。