無名アーティスト梶原一樹の生活
新学期が始まって早一ヶ月、僕は普通に退屈な高校生活を送っている。
ここは新潟県のとある海に隣接した高校である。
高校に入ってからも僕は友達は一人もおらず、作るつもりなどなかった。
授業が終わり、僕は校舎裏の自転車置き場に行き、自転車にまたがり、帰宅途中の母親が入院している病院に寄る。
病院の中に入ると、受付の看護婦さん達は、僕を見ると「今日もお母さんのお見舞い?」とさわやかな笑顔で迎え、僕も「はい。そうです」とさわやかな笑顔で対応する。
本当は母親の顔など見たくもなかった。
僕は母子家庭で育ち、そんな母親に育てられたが、母親は自分の事ばかりで、僕の事は気にかけずに、粗末な食事しか与えられなかった。
生計を立てるためにいかがわしいキャバクラの仕事をするのは仕方がないと、そこまでは許せたが、母親は一見すると年は取っているもののかなりチャーミングな容姿で色んな男を魅了して、お金を貢がせたり、貢いだりと、ひどい時は、男にたぶらかされて、僕に多額の保険をかけて殺そうとした時も合った。
それで僕は死ぬ事にひどくおそれて、三日不在になったあげくにその男は他の容疑で逮捕された。
その他にも色々な僕の命を脅かされるひどいことが合ったが、でも僕はこうして生きている。
重度の認知症を煩った母親の所へ行き、とりあえずいつものように世間の事を気にしながら、笑顔を振りまいて世話をした。
周りの看護婦さん達や他の入院患者はそんな僕を見て偉いと思っているのだろう。
そう思われて僕は良い気はしないが、世間に変な目で見られて、この病院に母親が入られなくなるのは困るから、僕は良い子を演じている。
この村はあまり人がいないので悪い噂が立つと光よりも早く、世間に知られて、迫害される事もあるからな。
とにかく僕は生きる為に幾らでも良い子を演じてやると思っている。
母親の見舞いと、その他の入院の手続きも終わって、外に出て家に戻る。
その途中に格安のスーパーに立ち寄り、今夜の晩ご飯と次の日の朝食とお昼ご飯の買い出しに寄る。
買う物はいつもほぼ決まっている、ひと玉二十円のそばを一つに百円の一リットルの野菜ジュース一つ、一リットル百円の牛乳、七十円の六等分された一斤の食パン、合計三百十円で一日の食費が賄える。
買い物は済んで、そのまま真っ直ぐに帰路を走り、向かっていく。
家は月一万円の貸家で、八丈一間のお風呂もキッチンもついてネットもつながっている。
早速帰って、スマホで僕がネットに掲載した小説のアクセス回数を見てみる。
今日は五十人ぐらいの人がアクセスしていた事に僕はそれでも満足だ。
きっと僕の小説を見ている人は他のネットに掲載している人と比べて少ないのだろう。
でも僕は一人でも見てくれる人が入れば大いに結構。
僕はいつも学校が終わり、母親が入院する病院に立ち寄り、買い物して帰って、スマホで僕が掲載した小説のアクセス回数を見て、そして自身の小説の続きをパソコンで書く。
僕は空想することが大好きなのだ。
誰にも邪魔されないで、オンボロCDラジカセでファンタジックな曲を流しながら、物語を書いている。
これが僕の唯一の生き甲斐だと思っている。
昔から人となじめずに本ばかりを読んでいた。
でも中学時代は本当に思い返せば、大げさな事を言うかもしれないけれども、僕にとって戦争のような感じだ。
いじめ、母親からの虐待、母親の男に多額の保険金をかけられ自殺に追いつめられそうになった事。
でも今はこうして自由に思うがままに小説を描き、さらに、小説の合間に母親が連れてきた男性が持ってきたアコースティックギターで一人で弾き語りをして、気分を高揚させている。
高校に入ってからは、中学時代の辛い経験が役に立ち、いじめにも誰とも関わりを持たないようにするスキルを身につけていて、それが役に立った。
僕は一人でいる方が一番良い。
出来れば、僕は一人で考える小説家になりたい。
でも世の中は甘くないが、これからの高校生活はどうやら、いじめも母親の虐待もないし、僕が望んでいる一人の世界を満喫できるんだ。
そう思うと何かワクワクしてくる。
夜ご飯は適当にさっき買ってきた一玉二十円の生そばをお湯で湯がいて、どんぶりの中にめんつゆを薄めたつゆを作り、その中にお湯で湯がいた生そばを入れてかけそばの出来上がり。
夜はいつもかけそばに牛乳に野菜ジュースで栄養のバランスを取っている。
夜ご飯が終わり、ちょっと気分転換に夜空を見上げて、星を眺めながら僕が作った歌を歌う。
そうしていると創作意欲がわいてくる。
そしてパソコンに向かい小説を描き続け、できあがった小説をだいたい五千字くらいを一話として、二日に一回午前零時になったら掲載させる。
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そして朝も早い、中学時代からやっている新聞配達のバイトだ。
やり始める時は、こんな辛い仕事なんてやりたくないと心底思ってたが、今ではこの仕事は僕の創作意欲を高める職業であり、生活費にもなってまさに一石二鳥、いや一石三鳥か。
配達のルートは決まっていて、自転車で毎日一人で新聞を配達する。
お金も貰えて良い運動にもなるし、あまり人とも接する事がないので、僕には打ってつけの仕事だと今では思っている。
それに社長に僕は気に入られているし、高校卒業するまでは続けられそうだ。
配達も終わり、職場の同僚に『お疲れ様』と挨拶して家に帰る。
そこの同僚とは僕よりも年輩の人ばかりで、ちゃんと仕事をこなしていれば、みんな良くしてくれる。
家に戻ったのは午前七時を回り、朝食を取って、シャワーを浴びて制服に着替えて、鞄に時間割通りの教科書を積めて、学校に出かける。
自転車を漕ぎながら学校へと向かい、初夏の暖かい日よりに、心地よい風に包まれて僕は今日も良い小説が書けそうだと、テンションが上がる。
学校に到着して、校舎裏にある自転車置き場に自転車をおいて、校舎に入り下駄箱で靴から上履きに履き替え、教室に向かう。
教室に入ると、クラスメイトはそれぞれのグループにより固まって、色々と語り合っていた。
僕はクラスでは一人で、どこのグループにも属さない、言わば一匹狼みたいな感じだ。
クラスメイトに挨拶をする必要もなく、みんなもそんな僕に眼中などない様子だ。
僕は席に座ると、すぐに図書館で借りてきた小説を広げて、読みふける。
こうして居れば、僕に話しかける人もいない。
話しかけられて、妙な縁が出来て、面倒な事になるのはゴメンだ。
そうなると、小説を書く事に支障が出るし、いじめられる原因にもつながる。
現実は本当にクソだ。
僕は中学の時に散々な目にあって痛いほど自覚している。
でも小説の世界は本当に僕の心を潤してくれる。
僕は恋愛小説、ファンタジー小説何かを主に読みあさり、文章の一文字一文字を吟味して頭の中で思いにふける事が好きだ。
小説の中の人物は本当に純真無垢で、本当に愛おしくなってくる。
それに比べて現実の世界は、さっきも言ったけど、本当にクソで欺瞞に満ちている。
だから僕はきっとこの先も物語でしか生きていけないのかもしれない。
僕はそれで良いと思っている。
ホームルームが始まり、僕はとりあえず読んでいた小説を閉じて机にしまって、クラス委員長が朝の挨拶の号令をして、まあこれは僕に限らずにみんなも同じだと思うが、帳尻を合わせて、立ち上がり、挨拶をして軽くお辞儀をして、着席する。
授業も退屈だが、とりあえず教科書を開き、ちゃんと受けている。
僕の成績は学年的には中の上と言ったところで、ちょっと良いと言った感じで、絶望的な成績ではない。
それなりに授業を受け、たまに先生に当てられたりするが、答えられない問題は今のところはない。
午前中の授業が終わり、僕は持参してきた弁当とスマホを手に取り、誰も来ない僕の特等席の校舎裏の、石段に座って、スマホで僕が掲載した小説のアクセス回数を見て、今日もそれなりの数は合ったが、いつも思っているように僕は一人でも僕の小説を読んでくれる人がいれば結構だと思っている。
お昼の弁当はサンドイッチだ。食パン二枚にハムとレタスを挟んで、それをお昼に食す。値段的には百円にも五十円にも満たない安上がりな昼ご飯だ。
僕はお昼はスマホに入れてある音楽を聴く事が日課になってしまっている。
僕が主に聴く音楽はビジュアル系の原点とも言われているBoo○yや伝説的なアーティストである尾○豊や、僕がまだ生まれる前に活躍していたアーティストばかりだ。
まあこれは僕の母親の男がたまたま聴いていて、僕も良いと思って聴いているのだ。
何か彼らの音楽を聴いていると、何か共感できる何かを感じる。
小説を読むのも好きだが、同時に音楽を聴くことも大好きだ。
小説家になるのも夢だが、こうしてBoowyや尾崎豊のようなアーティストになりたいと言う夢も密かに抱いては一人の時に歌を作ったりしている。
まあでも僕の歌は誰も聴いてくれる人はいないが、いつかネットに掲載して僕の歌に共感してくれる人がいたら良いななんて密かに思っている。
お昼休みが終わり、教室に戻り、授業が始まるまで僕は本を広げて自分の世界に浸っていた。
午後の授業も同じように、とりあえずその教科の教科書を開いて、先生の話はちゃんと聞いている。
まあ僕はこう見えても、真面目な生徒と言うことで通っている。
周りの生徒は僕の事を根暗とか色々と陰で言われているかもしれないが、それはそれで良い。
それにこの学校にもやっぱりいじめは合った。
いじめのターゲットにされるのは、たいていだらしなく世間知らずな人間が的になりやすい。
でも僕は違う。
普通にみんなとは距離をとり、ちゃんとしっかりとしていればそんな事にはならない。
僕が中学の時にいじめられた原因は・・・思い出して自分の傷をえぐるのは気持ちが良くないので、もう考えないようにしないと。
それにそんな事を根に持っていても良い事もないし、良い小説も良い歌も作ることが出来ないから忘れてしまえば良いのだ。
授業が終わって帰りのホームルームも終わり、僕はいつものように自転車で帰宅しながら、母親が入院する病院に寄って、母親の様子や看病や入院手続きを終えて病院を後にして、スーパーに寄って次の日の食料の買い出しをする。
そして家に到着したら、スマホで自分のネットに掲載した小説のアクセス回数を見て、今日もまあまあな数に、小説を書く意欲を促進させて、パソコンに向かって小説を描く。
今日もなんだかんだ行って平和な一日を過ごしたと思う。
これが僕、無名アーティスト梶原一樹十五歳の生活である。