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通り魔

今回の課題は初めての試みだったので、ちょっと面白かったです。キーワードは「直証」、「ケーブル」、「おっさん」の三つでした。では、お楽しみあれ。

僕はいつものように毎日の生活を過ごしていた。進学塾の宿題がちょっと切羽詰ってきたので、今日はずっと窓際の机で勉強をしていた。部屋は暑かったので、窓は開け放してあった。もちろん、網戸は張ってあったが。窓の外からは蒸し暑い、夏の夜の風が僕の顔に当たった。

窓のすぐに下に走る道路には、一人の仕事帰りのOLらしき若い女性が一人で歩いていた。僕は、その姿を見ると、ちょっと心配になった。何故なら、最近は若い女性を狙った通り魔の事件が頻発していたからだ。地元の自治体も警察も警備に力を入れているが、あまり地域の団結が強くないため、あまり効果はなかった。

女性が僕の家の前を通り、そのまま道を歩いていった。まあ、街灯も多いし、警備の人の数も思ったよりは多い。大丈夫だろうと思って、そのまま宿題を続けた。

そのとき、三軒ぐらい先の道の角まで行った女性が、突然角から現れた黒い服の男に、体当たりをされ、そのまま倒れた。窓のそばにある電線とケーブルのせいでよく見えなかったが。

えっ!? 僕は思わずそう思い、身を乗り出してみてしまった。倒れた女性のしたからは、薄い街頭の明かりでも見える、赤黒い液体がにじみ出ていた。男は、女性を見た。そのとき、遠くから誰かの声が聞こえたので、男は僕の家のほうに走り出してきた。やばい! 僕はそう思って、引き下がろうと思ったが、体が強張って動かない! まるで氷りついたように、僕の体はそのまま窓から乗り出したままだった。

男は走ってきて、僕のほうを驚いて見た。街頭の光で、その男の顔ははっきり見えた。

どこかで見たことあるような、つかみ所の無い顔であった。だが、先ほどの女性が倒れた角に人が集まってきたので、男はそのまま走り去った。

 まさか・・・こっちの顔も見られた? まさか、そんなこと・・・だが、僕ははっきりと顔を見てしまい、向こうも見られたと思っているのだ。狙われる・・・? 警察に言うか?

 しかし、つかみ所も無い顔なのに、顔を見たからといってそれが何の直証になるというのだ。

 僕はそんなことを考えながら、一人、部屋の隅で縮まっていた。


次の日、僕は学校が終わると、すぐに進学塾に向かった。昨日は散々、帰りが遅くなるから進学塾は休みたいと言っていたのだが、進学塾も高いし、犯人はいくらなんでも塾に襲いにはいかないだろうし、帰りは母が車で送り迎えしてくれるとのことだった。母は若く、そのスレンダーさには似合わない空手の達人なので、「もし犯人が来たら骨をいくつか折ってやるわよ」と言っていた。

僕は宿題を取り出した。・・・あ! 昨日のあれっきり終わってない・・・! 

細身のおっさん、花川先生が宿題をチェックしに回ってきた。

「角川! お前、なんだ、いつもは間違いはあってもちゃんとやってくるのに、今日はどうした!」

「すみません・・・」僕はそう答えるしかなかった。犯人のことを話しても、たいしたことは教えられないし、どうせ馬鹿にされるか相手にされないだけであった。

そして、進学塾は終わり、僕は塾の前まで迎えに来てくれた母の車に乗り、家に帰る。


車のヘッドライトが、住宅街の塀に光を当て、車が動くにつれて光も怪しく動いた。そして、母が車を素早く車庫の中に入れる。

「あれ? 今日は父さんは?」

と、僕は車から荷物を下ろしながら言った。

「お父さんは、今日は仕事の都合で早く帰ってこれないのよ、どうしても」

と、母は答えた。

僕は何か嫌な予感がしたが、その予感が当たらないことを願って風呂に入った。

 風呂の部屋の中は湯気で曇っており、なかなかいい音響となっていた。僕はとても気持ちよく、つい鼻歌を歌いはじめてしまった。

 そのとき、風呂場の窓をコンコンと叩く音がした。僕はビクッと息をのんで、恐る恐る、ゆっくりと顔を窓の方へと向けた。

 しかし、そこにいたのは母であった。僕は窓を少しだけ開けた。

「シュウちゃん、ちょっとママそこの隣のおばさんに晩御飯をおすそ分けしてくるから」

と言い、母は隣の家の方へと健康サンダルで走っていった。

 僕はほっとした。肩の力を抜き、首もうな垂れて、深いため息をついた。

 そのとき、また窓にコンコンと叩く音がした。まだ母が何か用事があったのかな?

僕は振り向いて窓の方を向き、飛び上がった。湯船の湯が沢山飛び散った。僕の背筋は凍りつき、筋肉も強張った。窓には、両手を押し付け、大きな目で睨んでいる、昨日の男の顔があった。

幸い、窓はとても人が一人通れるようなスペースはなかったので、男は通れずにいた。男は苛立ち、窓から立ち去った。

僕は、これは滅茶苦茶やばいことになっているぞと思い、急いで風呂を出て、服も着ずに急いで二階の部屋に駆け上がり、部屋のドアを閉めて、鍵も閉めて、机をドアの前に置き、部屋の隅においてあった野球バットを持ち、戦闘態勢に入った。しかし、いくらなんでも全裸で殺人犯と戦いたくはなかったので、一応動きやすいデニムのシャツとジーンズに着替えた。

そのとき、下の階から、窓の割れる音がした。

窓が割れた後、何か重量のある物を殴るような音がした。そして、何かが倒れた。まさか・・・母さん!? そんなに強いのか、犯人は!?

そして、静寂。何も聞こえない。男は、忍び足で歩いているのだろう。

しかし、その時、誰かが階段を少しずつ上がってくる音が聞こえた。

ギシッ、ギシッ、ギシッ。

古い階段の板が、誰かの体重の重みできしんでいた。

僕の筋肉はどんどん強張る。

足音が止む。どうやら、この部屋のドアの前で止んだ様だ。

この部屋のドアの下から漏れる電灯の光で気付いたのか。しまった! 

そして、また少しの間があいた。

僕は全身で集中していた。手に持った金属バットには、汗がつき始めた。心臓はバクバクと、止むことなく大きく鼓動をしていた。

いきなり、ドアは安い鉄製の机ごと吹き飛ばされ、僕はよけられずに机の下敷きとなった。手足は机に封じられ、顔だけが出ていた。しまった! もう、これまでか・・・!

そう思ったら、ドアの向こうの暗闇からは、拳を握り、構えていた母が現れた。

「あら、シュウちゃん!」

母は僕に駆け寄り、机をどかした。

「あれ!? 母さん、何で!? 僕はてっきり通り魔が来たのかと・・・」

 母は、口に手をあて、笑った。

「それがね、ちょっとシュウちゃん見てみて!」

 母に連れられて僕は下の階に行った。すると、割れた台所の間のそばでのびているのは、あの男では無いか!

「母さん・・・これ・・・」

「実はね、ガラスが割れる音が聞こえたから、ママ急いで帰ってきたのよ。そうしたら、台所でこの男がきょろきょろしていて、いかにも怪しそうだったから、一撃でのしちゃったのよ」

僕は今度は別の理由で背筋が凍るような思いになったが、とにかくこの騒動に意外な、よい結末がついたのはよかった。

その後帰ってきた父は、今回の一番精神的にダメージを負った人かもしれない。家に帰ってくると、周りにはパトカーだらけ。僕の言っていたことと照合し、母がいたのも知っていて、犯人に家族がやられてしまったのではないかと思い、犯人が連行されて家を出てくる前に気を失い、倒れてしまった。そして、近所の病院まで運ばれた。

地元に警察の調べによると、男の名前は石垣啓二。大学生で、二十二歳。聴取によると、男はストレス発散のために、気がついたらこんなことをしてしまっていたらしい。男は、今まで怪我を負わせ、死なせてまでしまった人たちの遺族を回って、深く謝罪した後、裁判にかけられるらしい。最も、母が負わせてしまった全治二ヶ月の、あばら骨の粉砕骨折や手足の複雑骨折の所為で後二ヶ月は動けないが。

ちなみに母は、近所の自治会から絶賛され、警察からも表彰され、母は得意気に、その表彰状は食卓の横に額縁に入れて飾ってある。

以前から母のことが実はちょっと気になっていたという、既婚者である進学塾の花川先生は、今回のことを機に、惚れ込んで、近所の人と一緒に母のファンの会を始めてしまった。花川先生の奥さんもファンの会に入っているので複雑だが。ちなみに名誉ある会員第一号は父である。

僕は僕で、母の果てしない強さに一種の恐怖と、そして安心感を抱くだけであった。

そして、また僕の毎日に戻る。

まあ、ホラーとしてはちょっと疑問のような気もします。小説を書き始めて第9作で、あまり言い出来ではないです。書いてて楽しかったんですけどね。注意点、駄目出し、アドバイスなどあったら何でもお願いします。気軽にコメント入れてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 部屋の窓から犯人が飛び込んで来てもう少しでやられる瞬間にお母さんの蹴りで吹き飛んだ机とドアが犯人にぶち当たる、とかの方が緊張感もあり、カタルシスもあったと思います。
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