9話 町に到着
「そういえば、いろいろ聞きたいことがあるんだが」
「なになに?」
町へ向かう道中で、ルインはリネアに様々な質問を投げかけた
背中に宿している紋章のこと、初級以外の魔法のこと、名付けた名前の由来など
リネアは全て包み隠さずに答えた、別に隠す必要はないのである
そんなやり取りをしているうちに、町についた
「そうだ、町に入る前にこれ付けておいて」
「ん?手袋?」
「うん、君の宿している紋章は『絶大なる災厄の紋章』に似ている部分が多いから、隠しておいた方がいいかもって」
「そうか」
コロッソ
ドワーフとヒューマンが中心となって暮らす町
武具の生産が盛んであり、最初の町としてここを目指し、今後の旅の準備をする旅人も多い
一先ず酒場へ向かった
酒場に入ると、旅人や町の住人で賑わっていた
ルインは酒場に入るのは初めてのため、少し緊張していた
「おいあれ、『白の大魔法師』のリネアじゃねえか?」
「マジかよ、実際にこの目で見れるとは幸運だな」
「だが、隣の男は誰だ?」
「知らねえ、リネアは旅人になってからずっと一人だったと聞くが…」
「リネアの隣に並ぶとは余程の馬鹿かあるいは…」
酒場に入ってからそんな会話が聞こえる
やはり、リネアは有名人ということか
「お前って相当有名なんだな…」
「まあね、ちょっと大きめの出来事を沢山解決したら有名になっちゃったって感じなんだよね、私にとってはそこまで大きくもなかったけど」
「そこまで大きくなかったっておい…」
「なんか親しげに話してるぞ…」
「弟子かなんかか?」
「まさか、彼女は弟子は取らない主義だったはずだぞ」
酒場ではクエストを受けることができる
「どうも〜マスター」
「おや、リネアさんじゃないですか、こんなところまでご苦労様です」
「早速だけど、フルーツジュースと届いているクエストの一覧を見せてくれるかな」
依頼の内容は素材を納品や特定の魔物を討伐とありきたりなものが多い
旅人は酒場に届くクエストをこなし、旅の資金を稼ぐのだ
「かしこまりました…ところですみませんがリネアさん、そちらの方は?」
「ん?彼のこと?彼はルイン、私のボーイフレンドで〜す♪」
「お、おい!」
「え?」
「は?」
「今なんて」
「ボーイフレンド?」
酒場にいる人全員がこちらを向いた
「ちょ、リネア」
「っていうのは冗談で、私の初めての仲間よ」
「はぁ…初めましてルインと言います、リネアとはまだ仲間になったばっかりなのですが、結構振り回されてる気がします…」
「彼、町とか初めてだから、マスターから色々教えてあげて、じゃあルイン、私は宿の確保とか、消化できるクエストとかしてくるからまた後でね」
「あ、ああ」
そう言って彼女は酒場を出て行ってしまった
「すみません、彼女って一体何者なんですか?」
「彼女は、今いる旅人で最も魔力の高いことで知られてますよ、普通は5回、エルフでも15回が限度だとされている大魔法を彼女は休みなく100回唱えることができると言われてます」
「ええ…!?」
「彼女はその力を使って様々な町の危機を救ってきました、そのことからいつしか人々は彼女が宿す紋章の輝きから『白の大魔法師』と呼ぶようになったのです」
「なるほど…」
そんな話をしていると
「なああんた、あいつとはどういう関係なんだ?」
「どこで知り合ったんだ?」
とルインの元に沢山の旅人が押し寄せた
質問が聞こえたと思ったら別な方向から質問が飛んでくる
その対応に困ったルインを見てマスターが助け舟を出した
「まあまあそれくらいにしておきましょうよ、彼はまだ彼女と会ったばかりのようですし、彼女ことも何も知らないようですよ」
その言葉を区切りに、客たちはルインから離れた
だが油断したらまた質問攻めにされるだろう
もう少し情報を集めておかなければとルインは心で思った
「そういえば、クエストってなんですか?」
「クエストとはこの街の住民が困った時に貼りに来る依頼ですよ、一覧を見てみます?」
「はい、お願いします」
するとクエストの一覧が書かれた紙を手渡された
一覧を見てみると、今あるものでルインが一人でできそうな物が何個かあった
(しかしリネアに探させる手間を考えると…)
「クエストを受けるときはどうすればいいんですか」
「私に言っていただければ、クエストを受けられますよ」
「じゃあこのトロルの素材の納品ってのをお願いします」
「かしこまりました」
「それで、納品するところは…」
「納品系の物は依頼主に直接渡すことになっています、このクエストの場合だと…西の武器店の主人が依頼主ですね」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ」
そう言ってルインは酒場を出た
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宿の確保を行い、リネアはクエストをこなす準備をしていた
準備と言っても余計な荷物を下ろすだけだが
「こんなものかな」
準備を済ませ、町の外へ出る
彼女は主に討伐系のクエストをこなして資金を稼いでいる
今回こなすクエストは
ブレードパンサーの討伐である
ブレードパンサーは非常に危険で、敵と見なしたもの全てを粉々になるまで切り裂くという
そんな魔物が付近で目撃され、怪我人も出ていて、これ以上の被害を防ぐために討伐してほしいとのこと
町から出て、探知魔法を唱えようとしたが
その必要はなかった
運良く、ブレードパンサーが目の前に出てきたのだ
「さあて、クエスト開始♪」
ブレードパンサーは一瞬で距離を詰め、切りかかる
それをリネアはわかっていたかのように防御魔法を展開する
「『大地の塁壁』!」
土属性の上級魔法
詠唱者の前に土の壁を築く
リトルデーモンは小柄で、それほど攻撃力も高くないので
無詠唱でできる『氷結の障壁』で防げたが
ブレードパンサーは大型で攻撃力も高いため、『氷結の障壁』だと攻撃が貫通してしまうのだ
攻撃を防がれたブレードパンサーは回り込み攻撃をしようとするが
「『暴風と大聖剣』!」
風、光の複合属性の大魔法
対象とした範囲に竜巻を起こし、上空から魔力で出来た巨大な剣を突き落とす
剣で与えたダメージは吸収され、詠唱者の傷を癒やす
リネアの放った大魔法によって
再び攻撃をすることもなく倒されるのだった
「さあて、次ね次」
リネアは複数のクエストを一気にこなし、一括報告するタイプの旅人である
彼女の狩りはまだ始まったばかりなのである
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「あれが大魔法か…すごいな…」
ルインは町中からでも見える巨大な剣をみて関心していた
「こんにちは〜」
「いらっしゃ〜い、なんの御用で?」
ルインが今いるのはマスターに教えてもらった武器店
要件はもちろんクエストの報告だ
「クエストの報告に来たのですが」
「トロルの素材のことかい?いや〜助かるよ、ここのところ素材不足でさあ、武器の制作が進まなかったんだよ」
「それで、素材はどこに置いておけば」
「ん?あああそこの回収用の魔法陣に放り投げてくれればいいよ」
ルインは魔法陣にトロルの素材を置いた
すると素材が、店の奥側にあるもう一つの魔法陣に転送された
転送された素材が、依頼の物かをちゃんと確認する店主
「うん、ちゃんと揃ってる…ってあんたこんな貴重な素材どこで!?」
「ん?あ、それは」
それは、ルインが何となく掘った鉱石だった
森で暮らしている頃に、小さな洞穴で見つけた物である
間違いでトロルの素材と共に、魔法陣の中に入れてしまっていた
「クエストには関係ない物だが、これは間違いなくレイライン鉱石だぞ…!」
「そんなにすごいものなんですか?」
「凄いなんてものじゃない、これで作る武器は最高峰の強さを誇る」
「そんなになんですか…」
店主はその鉱石に見とれ、考えた
「お前さん、これを俺に預ける気はないか?俺の技術の全てを使ってあんたの為に武器を作ってやるよ」
「ほんとうですか!?」
今ルインが使っている双剣は、石を切断魔法で器用に切り取ったものである
その武器はすでにぼろぼろであり、乗り換えようと考えていた
「いや、でもお金が…」
「金なんざいらねえ、一生に1度お目にかかるかどうかという鉱石をこの目で見れたんだ、料金はそれで十分だよ」
「は、はあ…しゃ、じゃあお願いします」
「よしきた!一つ質問だが、あんたの使っている武器はなんだ?」
「双剣です」
「よし、何日かかかるが完成したら酒場のマスターに伝えておくよ」
「わかりました、よろしくお願いします」
「期待してな、最高の武器を作ってやるから」
ルインはワクワクする気持ちを抑えながら、店を後にするのだった