傷だらけの鴉と少年
―これは遠い昔の話。
怪我した鳥や猫が親切な人に救われる。そんな話をたまに聞く。
でも鴉は不吉で嫌われものだから助けてくれる人なんかいない。
「ああ、鳥や猫に生まれてこれたなら良かったのにな。」
大きな怪我を負った鴉は自身の死を覚悟した。
その様は酷く惨めなものだった。
息も絶え絶えで生を失いかけている鴉を一人の少年は見つけた。
少年は傷だらけ鴉を少しだけ見て立ち去ろうとしたが、なんだか急に気分が変わって鴉を拾い上げ、手当てをしだす。
鴉は驚いた。
鴉の傷を癒す少年もまた傷だらけだったのだ。
傷だらけの少年は鴉の容体が良くなったのを見るとすぐに立ち去ってしまった。
元気になった鴉は少年を探し飛び回った。
必ずこの恩を返すのだと心に誓い、捜し続ける。
ずっとずっと捜し続けた鴉はようやく少年を見つけ出すことができた。
少年は以前鴉が負っていた怪我よりも酷い傷を負っている。
鴉は少年を前に、ただただ立ち尽くした。
少年は鴉になんて目もくれず、走り出す。
次に見たときには少年はもう命を落としていた。
鴉は悲しくなった。
その時、鴉には分からなかった。
少年がなぜあんなに傷だらけなのか。
そして何を急いで走り去ってしまうのか。
鴉は祈った。
「どうか、僕にあの人に見てもらえる程の力を下さい。」
そうして鴉は大きな力を得た。
その力を使って過去へと戻り何度もループする。
もう一度少年と出会うために。
何千回ともループして、鴉はさまざまな事を知った。
そして、ようやく少年を見つけ出すことができた。
嫌われ者の少年はずっと独りで闘っていた。
鴉には理解できない大きなものと。
ただ勝利を勝ち取り、死に逝く少年はその死に際までずっと独りで泣いていた。それだけは理解できた。
鴉は凍えきったその魂を優しく包み、少年の口癖を呟いた。
「世界は広いんだ。」
「もう君を見失ったりしない。君を独りになんかしないから。どうか今は安らかに。」
鴉はそう言って微笑んだそうだ。
強い力を手に入れた鴉は少年の魂を見つけ出し、そして連れていったんだ。
少年が絵に描いていた、綺麗な世界へと。