忘れ物
忘れ物をしたようだ
だが、どこで忘れたのか思い出せない
駅のホーム?
職場の机?
トイレか、それとも飲み屋か
どこに忘れたのかすら忘れた
とても大事なものだったはずだ
どうでもいいはずが、ない
いや、本当はそれすらも忘れた
自分の影に問いかけるが
背中をふりむくと影はない
自分じゃ影に問いかけられない
顔だけ向けても、影は見えない
忘れ物をしたようだ
何を忘れたのだろう
それすらも忘れた
自分の靴に問いかける
でもこれは、何十年も前に履いたのとは違う、何回も、何回も、履き替えた新しいモノだ、もう最初からあるモノはどこにもない
これが忘れ物?
いや、これはなくしたものか
忘れ物は……まだ、なくしては……
忘れ物……
………
何を、忘れたのだろう
それすらも忘れてしまった
ただ見つけたくて
せめて、何を忘れたのかだけでも思い出したくて
さがして、さがして
でも見つからなくて
余計なものばかり見つかって
寂しい夜
駅のホームでコートのポッケに両手をつっこみ、その体勢で電車が来るのを待つ
一向に見つからない
何を忘れたのだろう
忘れ物をしたのだ
でも何を忘れた
忘れ物をしたのだ
忘れてしまった
何を忘れた?
何を……
(了)