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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
7/25

第七頁 【有耶無耶 ①】

 うや-むや【有耶無耶】

①はっきりしないさま。曖昧なさま。


――――――――――――――――――――――――――――――――





――おはようございます。八月一日のニュースをお伝えします。


――はじめに、今日未明に【拾参区】で男性の遺体で発見されたニュースを御伝えします。

  遺体は損壊が激しくまだ身元が分かっていませんが、軍警は先週の金曜日に【帝都玖区(ていときゅうく)】で事件を起こし、指名手配されていた容疑者の男性の可能性が高いとしています。

  軍警の犯罪部は殺人事件として調査を始めています。



――次のニュースです。昨日【陸区(ろくく)】で発生した暴行事件について軍警は聞き込みを続けていますがまだ犯人は……



 探偵社の黒いラジオから流れるニュースを聞いていた桃矢は動きを止めた。


「これって……」


「消されたわね」

「消されたな」

「消さ――!」

 そばで同じようにラジオを聞いていた潤と創平があっさり言うのを聞いて桃矢が固まる。

「帝都の裏街(うらまち)じゃ日常茶飯事じゃない?【亡霊(レムレース)】なんてデカい組織だと特に。裏切り者への報復、暴行、拷問、処刑……」

 頼りなそうな表情に釣り合わずに楽しそうに単語を並べる潤から桃矢は少し距離をとった。

「ちょっと潤さん。あんま新人虐めないでくださいよ」

 見かねた創平が助けに入るが、当の潤はなんのこと?という風に首を傾げてみせた。

「あれ、これが私のスキンシップなんだけど」

「スキンシップって……」

「そういえば桃矢くん。この間の病院の外壁とか器物破損の事で六時に当麻先生が顔出せって言ってた」

「え、ちょっと潤さん。あれ俺じゃないよ!大地さんで――」

 抗議の声をあげたがそれを大地が遮った。

「悪い、頼むよ。俺これから別の仕事でさ。出来るだけ行けるようにするから」

「出来るだけ……」

「一応桃矢の初仕事だから。先輩の後始末をするのも新入りの役目」

「理不尽です!」

 創平の説明に抗議するが意見は通らず、

「じゃあ、俺いってくる」

 大地が慌ただしく事務所を後にした。時計を見ると八時を過ぎている。それをみて創平もあわてて支度をした。

「やっべ。俺も今日仕事だ。いってきます!」

 片付けもそこそこに創平も探偵社を出て行き、残ったのは桃矢と潤だけだった。


「いってらっしゃぁい」

 明るく手を降る潤の影で桃矢はうなだれていた。

「修平さん、早く帰って来て……」

 思わず今ココにいない男を思い出す。

「ホントにそうよねぇ、修平先輩がいないと怒ってくれる人いないからつまんない」

 潤が同意するが若干ずれている。

「つまんないっていうより、収集つかないですよ。基本フリーダムな人たちだし。……というか、修兵さんはここ数日何処に行ってるんですか」

「長期の仕事回されたみたい。なんか軍警から直接仕事依頼されちゃったらしいの」

「長期なんてのもあるんですね」

「先輩は結構多いよ。潜入とか、スパイとか……。経験あるから」

「あぁ……」

 鷹人が言っていた事を思い出す。修兵は元は軍警の【隠密部(おんみつぶ)】なんて怪しい名前の部署所属だ。

 潜入調査も仕事のうちにあっただろう。


「へぇ、探偵らしい事もしてるんですね」

「異能探偵社(・・・)だからね♪」

「……その探偵社(・・・)には買い出しとかの雑用も仕事にあるんですね」

 その言葉でジトッとした視線を送ったが潤に流される。昨日桃矢が初めて一人でまかされたのは、なぜか買い物を代理で行くというものだったからだ。

「もうホントにヤですよ。昨日の買い物の依頼。商人の人も怪しかったし、怖いし、帰り道になんか不良にまたかつあげされたんですよ!」

「桃矢くん。弱そうだからね~」

 潤の遠慮のない言葉にくらっとしながらも聞かなかった事にする。

「でもちゃんと買って来たよね」

「全力で逃げましたよ。頭真っ白でもうどうやって逃げたのかも覚えてません」

「お疲れ」

 必死の訴えも笑顔で片付けられた。


「まぁ、今みたいなドタバタは珍しいから。社長は出張、頼りの大地先輩も依頼続き。おまけに修兵先輩まで出払っちゃうもんだから」

 頼れる年長者がいない事になる。

「ここに常識があって仕切ってくれるまともな人はいないんですか……」

 桃矢にそう言われ潤はん〜っと空をみた。


「ん~……(えにし)さんぐらい」

 初めて聞く名前に首を傾げた。


「エニシさん?」


__なんだ。まだいるんだ。


 ちょっと安心する。


「どんな人なんです?」

「探偵社で一番先輩で一番強い人」

「探偵社で、一番、強い……」

 その言葉で若干戸惑う。この間、いったんではあるが垣間みた大地の戦闘能力はかなり高い。

 それよりも上……。想像したくない。

 そう考えた桃矢は、窓際の空席に目を留めた。書類が散乱し、鴉を鳥かごに飼っているあの机だ。

「もしかして、その机の人ですか」

 考えてみれば、ここに来て一週間以上たとうとしているがこの机の主とはまだ一度もあった事が無い。


「そうそう。縁さんも長期の仕事だったけど、今日そろそろ帰ってくるはず……」

「呼んだかい?」

 聞き慣れない声に振り向くと入り口に一人の女性がたっていた。その人物を見た潤が嬉しそうに手を振った。

「あぁ、縁さん。おかえりなさい」


――縁って、この人が。


「ただいま」

 そういって笑うのは肩程までの黒髪に深い赤色の瞳の女性だった。

 黒を基調にしたシンプルなフレアワンピースにタイツ、白い肌に赤い口紅が生える美人だ。この女性が探偵社で一番強い、といわれてもどうもすぐに納得はできない。

「ったく、面倒だったよ。地下街の闘技場同士の小競り合いなんて。大地の知り合いじゃなきゃ蹴ってやったのに」

「社長が決めたんですから文句言わないで下さい」

 背後から現れた男がふてくされる。年齢は桃矢と同じか少し上程。あまり特徴のない顔立ちで、茶髪に黒の和服を着込んでいた。

 事務所の来客用ソファに倒れ込むように座った縁は、潤が差し出した水を一気飲みすると大きく息を吐き出した。そこで初めて桃矢の存在に気づいたようで、ジッと視線を向けて来た。

「あ、えっと……」

「冬月桃矢。年齢18歳。両親なし。チンピラに絡まれてたところを鷹人さんが助けた事でうちで働く事になったみたいだね」

 桃矢が言おうとした言葉をそっくりそのまま攫われた。

 ぽかんとする桃矢に向かって、意味深な笑みをみせる男は手を差し出す。

赤嶺徹(あかみねとおる)。驚くのもわかるけどとりあえず君の事を見張ってたわけじゃないから。一応」

 再び驚く桃矢を見て彼女が助け舟を出した。

「徹の能力は【以心伝心(いしんでんしん)】。相手の心を読む異能だからね」

「ちょっと変な印象植え付けないでくださいよ」

 抗議するが徹の言葉など気にせず女性も手を差し出した。


縁牡丹(えにしぼたん)。なんか困った事あったら遠慮なくいいな?わかった?」

 本当にここの探偵社は、身元も知れない人間でもなんの警戒心ももたないのか。と、とまどった桃矢だったが牡丹が手を差し出しているのに気づいてあわてて同じように手を差し出した。

「は、はい。よろしくお願いします」

 はきはきした牡丹の物言いに飲まれそうになりながらも会釈する。

 挨拶がすんだ牡丹は、一瞬考えた後でガシッと桃矢の肩をつかんだ。唐突な事で反射で逃げようとしたが、がっちりつかまれて逃げれそうにない。

 牡丹はそんな桃矢の不安など気にもとめないかのような満面の笑みを見せた。

「さってと。桃矢だっけ?」

「は、はい……」

「今日暇?」

「え?」


                          ■□



「は〜、わっすれもの〜」

 唄いながら事務所に戻って来た紅魅(こうみ)が見たのは、珈琲を飲んでる潤と来客用ソファーで寝転がっている徹だった。


「あれ、二人だけ? 牡丹さん戻ってくる日よね?」

「あの新人とデート」

「買い物か……。徹は行かなかったの?」

「駄目。あの人は苦手。俺が読んでるって分かってる上で突っ込んでくるから」

「なるほどね」

「ところで、今皆ではらってるの?」

 潤は壁の個別の予定表を指差した。その小さな黒板には、社員の名前とその日の仕事内容が簡潔に書かれている。ちなみに今日は任務終わりなので牡丹も徹も非番で、潤と紅魅は探偵社で待機組だ。

「ふぅん……」

 しばらく黒板を眺めた後でふと徹は顔を上げる。

「そういえば待機のくせにここにいない人がいるけど……」

「え?」


「あのバカヒトは?」

【資料06】


   ■縁 牡丹/エニシ ボタン  【女/29】


 異能探偵社に所属する異能者。

 強気で容赦ない。はきはきした姉御肌でちょっとS。

 華奢な体格に似合わない怪力。格闘術よりも直線的な力技が多い。




   ■赤嶺 徹/アカミネ トオル  【男/20】


 異能探偵社に所属する異能者。

 茶髪に赤目で、長身の男性。人を食ったような掴めない性格。からかい癖もあるが基本面倒見はいい。

 牡丹にいろいろ使われてる苦労人。


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