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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
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第四頁 【嚆矢濫觴 ①】

 こうし-らんしょう【嚆矢濫觴】

①物事のはじまり・起こり。


―――――――――――――――――――――――――――――――――






「朝……」


 ここ数日間では信じられない程清々しい目覚めに桃矢は感激しながら目をさました。

 場所は昨日から働く事になった異能探偵社の入っている建物の一室で今日から桃矢の部屋だ。社員は(訳ありで)家賃タダの少しボロくて狭い部屋だが、今の桃矢には楽園にも見える。

 なにしろ屋敷をでて以来ずっと路上生活だったのだ。

「チンピラは絡んでくるし、怖いおじさんたちはいるし……」

 そんなことを思い出しながらも服を着替える。

 気を聞かせてくれた大地が新しいシャツと服をくれたのだ。

 感謝の言葉を唱えながら着替えて、昨日の鷹人の言葉を思い出した。


――とりあえず、社長が帰ってくるまでは使用期間ってことで皆の助手になってもらうから。そこんとこ宜しくね。


「助手って何するんだろ」

 昨日の不穏な仕事内容を聞いてからはあまり想像したくないが。

 とにかく、服も来て部屋を出ると一つ上の階の事務所に足を運んだ。少し迷いながらも昨日案内された部屋の前にたどり着く。

 凝った深緑色の文字で印字された”異能探偵社”の文字――


「今日から俺の仕事場……」


「昨日色々怖い事言ってたけど、ちょっと脅されただけだ。うん。大丈夫。東郷さんとか普通の人だったし」

 そう自分の良い聞かせ深呼吸してから勢いよく扉を開けた。



                          ■□



「おはようございま――――


 そういった桃矢の顔面に爪を立てた手が迫っていた。


「おおうぅっ!!!」

 驚きとも悲鳴ともつかない声を出しながら必死で避ける。

 その避けた桃矢の横をかすめた手は、通常手が当たっただけでは聞こえるはずの無い鋭い音と破壊音をたてて扉に文字通り突き刺さった。

「あれ、案外すばしっこいのねぇ。結構本気だったんだよ?」

「な、な、な。なんですか!」

 驚いてとそこにいたのは濃紺のショートボブの小柄な女性だった。

 大人しそうな雰囲気と今の行動のギャップにしばし口をぱくぱくさせていたがそんな女性の頭を長身の男性が軽く叩いた。


「やめろ、能登。しょっぱな新人狩るな」

「だって、前の子みたく私へのプレゼントなんでしょ?」

「なにがプレゼントだ。とにかく黙れ」

 すり寄ってくる彼女を追い払う。

「悪いな、新人が来たら毎回あんな感じなんだ」

「い、いえ。問題ないです」

 心臓はまだばくばく言ってるし、精神的には明らかに問題有りだがいまそれを追求する元気は無い。

「大地から聞いた。昨日から入ったんだってな」

 手を差し出したのはスラッとした長身の男性だった。きちんと整えられた黒髪に端麗な顔立ちなのだが、深緑色の鷹のように鋭い目が桃矢に威圧感を与えていた。

「あ、はい。えっと……」

「園村だ。園村(そのむら)修兵(しゅうへい)

「冬月桃矢です!」

 修兵は、よろしくな。というように肩を叩いた。目つきは悪いが性格が悪い人間ではないようだ。そのまま探偵社に並ぶ机の一つに案内された。どうやら社員一人に一つの机が与えられるらしく、どの机も所有者の趣味や仕事の書類で溢れていて、一つの机などには鳥かごに(からす)が飼われていた。

「桃矢の席はここ。俺は隣だから、わかんない事あったら言えよ」

「はい」

 無愛想に見えても世話焼きのようだ。


「僕の……席」

 その単語がなんだかくすぐったい。が、桃矢の真後ろの席にさっき攻撃してきた女性が座ったので若干身体が固まる。

「さっきはごめんね。悪気は無いの」

「い、いえ。よろしくお願いします」

 おそるおそるというていで挨拶を交わしたが、彼女は面白そうなものを見るような笑みをみせただけだった。その様子を桃矢の向かいの机に座っていた青年がニヤッと笑いかけてきた。昨日エレベーター前で男を投げ飛ばしていた青年だ。天真爛漫な笑顔で桃矢に握手の手を差し出した。見るからにスポーツ系男子という言葉がふさわしく、紺色の蛮カラを着ていた。

「俺は篝火創平!よろしくたのむっすよ新人くん」

「ふ、冬月桃矢です」

「よろしく。あ、創平とか呼んでいいから。俺も桃矢って呼ぶし。年齢は?」

「十八歳です」

「あ、じゃあ俺の一歳下か。俺、十九。あ、でも年齢とか気にしないでいいっすから」

 早口にまくしたてられて目を白黒させながらも頷く。

「いやぁ、今まで俺が一番年下だったからさ。徹とか一歳差でたいしてかわんないくせに」

「後輩が出来て嬉しいんだ。好きに喋らせとけ」

 なにか書類に目を通しながら修兵が口を挟んだ。

「あんたが狗木が勧誘した新人君?」

 不意に耳元から聞こえて来た女の声に桃矢は飛び上がった。振り返ると赤い和装に身を包んだ茶髪の女性が立っていた。はっきりした目元の美人だ。

 まるで気配を感じさせずに現れた彼女を呆気にとられて見ているとその様子が面白かったのか女性はケラケラ笑った。

「あぁ、紅魅さん。おかえんなさいっ」

「ただいま、創平。 桃矢って言ったっけ?あたしは暮葉紅魅(くれはこうみ)。まぁ、死なないように気をつけてねぇ」

 不安しか残らない言葉にも、もはや苦笑しか出来ない。

「挨拶終わったなら、さっそく仕事だ」

 書類を整理し終えた修兵が言った。

「当麻先生の依頼だ。紅魅(こうみ)、桃矢と創平と一緒に――」

「あたしパス。今日は天気悪いから」

「お前……」

 瞬間断った紅魅にイラッとしながら諦めたようにため息をつく。

「え、しょっぱなからいいんですか。俺、難しい事……」

「仕事っつっても、いつもの喧嘩仲裁だ。比較的簡単だし、お前らだけでも平気だろ」

「喧嘩仲裁?」

 説明不足に多少不安を覚えつつも頷く。

「詳しい事は俺が説明してやるよ」

 嬉しそうに創平が言う。


「ついでに行方不明のバカヒトも探してこい」

 そういえば桃矢をひきずりこんだ張本人の姿が無い。


「わかりました」


「いってらっしゃい。気をつけてね~」

 紅魅の明るい笑顔で二人に手を振った。

 その言葉になんだか背中がむずむずしたが戸惑いながらも「いってきます」と手を振りかえす。






 こうして、桃矢の初仕事が始まった。

【資料03】


   ■園村 修兵/ソノムラ シュウヘイ 【男/26】


 異能探偵社に所属する異能者。

 長身。深緑色の目に黒髪。整った顔立ちだが目つきが悪い。

 熱血漢でかなり短気。いつもイライラしているか怒っている事が多い一方で、世話好きの面も。

 高い対人格闘術を持ち、銃器の扱いにも長けている。自分の異能が嫌い。




   ■篝火 創平/カガリビ ソウヘイ 【男/19】


 異能探偵社に所属する異能者。探偵社の下っ端。

 短髪で活発なスポーツ系男子。基本誰とでも仲良くなれる好奇心旺盛の青年。

 テンションが常に高め。馬鹿。


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